進む「採用活動のオンライン化」。SmartHRのオペレーション構築ノウハウに迫る

株式会社SmartHR

取締役COO 倉橋 隆文(くらはし・たかふみ)

プロフィール
株式会社SmartHR

執行役員・VPヒューマンリソース(人事責任者) 薮田 孝仁(やぶた・たかひと)

プロフィール
株式会社タレンティオ

代表取締役CEO 佐野 一機(さの・かずき)

プロフィール

新型コロナウイルスの影響で、急速な「リモートワーク化」「オンライン化」を余儀なくされる会社が増えています。採用活動に関しても例外ではありません。この環境下でどのようにオンライン化を進めていくのか、まだまだ有意義な情報は少ないと言えるでしょう。

今回はすでに採用活動全般をオンラインで行っている、株式会社SmartHR取締役COOの倉橋隆文氏と執行役員・VPヒューマンリソース(人事責任者)の薮田孝仁氏にオンラインインタビューを実施。リモート採用におけるオペレーションや、コミュニケーションの取り方について伺いました。インタビュアーは株式会社タレンティオ代表取締役CEO佐野一機氏が務めます。

データをしっかり取ることが重要。SmartHR流オンライン採用のオペレーションとは

 

佐野氏:ここ数ヶ月は、新型コロナウイルスの影響により、様々な制約が生まれています。採用活動にも影響があると思いますが、まず、母集団の総数に変化はありましたか?

薮田氏:3月以降も総数は変わっていません。

佐野氏:引き続き堅調ということですね。内訳はどのようになっていますか?

薮田氏:エージェントが7~8割を占めています。それ以外は、自主応募、ダイレクトソーシング、リファラルが2~3割です。一方で、実際の入社比率はエージェント経由が3〜4割、コーポレートページ応募が1~2割、リファラルが2~3割です。

佐野氏:御社は積極的にクラウド型のSaaSを利用されていますが、面談もオンライン化することにより、採用活動のすべてがオンライン化されたと思います。オンライン化によるメリット・デメリットはありますか?

薮田氏:メリットは、面接日時の調整がしやすい、会議室の予約をしなくていい、などですね。フローが一段階なくなるだけでも、ずいぶんストレスが減っています。あとは採用候補者の移動時間もなくなりますね。全体として書類選考から面接までのリードタイムが短くなっています

倉橋氏:日中も面接が組みやすいですよね。オフラインだとほぼ夜か朝の実施なので、面接官は助かっていると思います。

佐野氏:では、デメリットはいかがですか?

薮田氏:回線がつながらないなど、技術的なトラブルが起こり得ますね。それと、採用候補者の見極め、選考が難しい。それにより、面接の回数が増えてしまうこともあります。言葉で表すのは難しいのですが、やっぱりオフラインで会うのとオンラインで会うのは違うんですよね。

倉橋氏:話の内容で判断するしかなくなるので、情報量が少ないんです。言葉以外の表情や身ぶり手ぶりから伝わってくる印象が、オンラインだと多少薄まってしまう。それにより判断がしにくくなっていると思います。私は最終面接官なので判断を遅らせるわけにいきませんが、最終面接でなければ、「もう一人面接しておこうかな」と考えるのもわかる気がします。面接官が自分の判断に自信を持ちづらくなるのでしょう。

 

佐野氏:非言語コミュニケーションに頼れない、ということですね。オンライン採用のオペレーションを整える上では、どのような点に注意すればよろしいでしょうか?

薮田氏:事前準備と練習を重ねることです。我々もやっている中で気付きました。電話番号を面接前に絶対に聞くとか、面接時に回線がつながらなかったときのオペレーションルールを決めておくとか。事前準備や練習によって防げるトラブルも多いと思います。

参考:オンライン(Web)面談・面接時の準備ハウツー

佐野氏:オペレーションのガイドラインづくりということですね。事前の練習である程度組んでいくこともできるし、しっかり準備しておけば不測の事態にも対応できると。ツールはどのように選んでいますか?

薮田氏:今弊社が使っているのは、母集団形成がダイレクトソーシングサービス(※1)。採用管理はTalentio(※2)、社内コミュニケーションはSlack。採用人員や採用数値の管理はスプレッドシートで、面談はGoogle Meet。リファレンスチェックにback check(※3)。入社手続きはもちろんSmartHRを利用しています。

(※1)人材紹介エージェントを介さず、企業が採用候補者に直接アプローチできるサービス。doda ダイレクトもダイレクト・ソーシングサービスのひとつ。
(※2)複数のチャネルからの応募や採用プロセスの管理を一元化し、タレントプールの構築まで行える採用管理システム。株式会社タレンティオが提供。Freeプランあり。
(※3)採用候補者のリファレンスを関係者から取得するサービス。株式会社 ROXXが提供。Freeプランあり。

薮田氏:重視したのは、オンライン・オフラインにかかわらず、データがしっかりと取れることです。選考通過率やリードタイムが代表的ですね。それから、人事・採用担当者と面接官の両方が使いやすいことも重要だと言えます。

佐野氏:すべての採用活動をオンラインに切り替えるにあたって、それらのオペレーションは変わりましたか?

倉橋氏:実は変わっていません。弊社は元々全部クラウドで管理していたので、変えずに済みました。クラウドで引き継ぎ事項を見て、面接して、評価を載せる、という流れです。本当に、採用候補者と会う部分がオフラインからオンラインに変わっただけですね。昔いた職場では逆で、主な管理方法は紙でした。面接前に人事部が書類を届けてくれて。面接後には感想を書いて提出して…これだとリモート化は難しかったでしょうね。

佐野氏:面談の記録や評価について、なかなか入力が徹底されないという相談をいただくことがあるのですが、御社でスムーズに入力してもらうための仕組み・仕掛けがあれば伺いたいです。

薮田氏:これという仕掛けはないのですが、弊社の採用担当者がよく言っているのは、「みんなが採用にすごく協力的」であること。加えて、情報を残すことに普段から慣れている会社なんです。その2点があったおかげで、特に仕掛けを打たなくても積極的に書き残してくれています。会社の文化で補填(ほてん)できている部分ですね。

オンライン面接で、マッチングの精度を高めるには

佐野氏:採用候補者に対して、どういった体験をつくりたいと思っていますか?仮にご縁がなかったとしても、人に薦めたくなるような会社になるかどうか、採用の場というのは重要な分かれ目になります。

倉橋氏:面接はお互いにマッチしているかどうかを確かめる場であり、一方的に評価をする場ではないと意識しています。採用候補者の方も、面接官を見て会社を判断している。そのことを忘れないように心掛けています。

具体的な取り組みとしては、リモートになる前からやっていることですが、必ず逆質問の時間を設けています。面接では採用する側がたくさん質問しがちですが、極力同じくらいの時間を、採用候補者からの質問に充てているんです。リモートに切り替わってから新たに工夫したのは、質問をする際に難易度の順番を変えたこと。冒頭で、迷わず答えやすい事実質問をするんです。

佐野氏:冒頭に事実質問をされるようになった意図は、どういったものでしょうか?

倉橋氏:採用候補者もオンライン面接に慣れておらず緊張しているだろうし、移動がなく自宅の中で急に面接が始まるわけですから、徐々にスイッチを入れる作業ができないんですよね。そのためのウオーミングアップという位置付けです。

佐野氏:コミュニケーションがしやすい環境をつくるのは重要ですね。薮田さんは、コミュニケーションにおいて留意しているポイントはありますか?

薮田氏:最初に時間配分をご本人に伝えています。まず今日の場の目的と全体の流れを説明する。理由は、面接なのか、カジュアル面談なのか、といった認識を合わせるためです。

(SmartHR社提供)

佐野氏:期待値の摺り合わせを丁寧にしているんですね。

薮田氏:全体として約30分お話を伺う場を設け、残り約10分で質疑応答の場を用意します。「面接の時間は、大体40分くらい。長くて約1時間ですがご予定は大丈夫ですか」と最初に言っておきます。

佐野氏:図を見ると、予備の時間を長めに取っていますね。

薮田氏:一つの質問に対して、回答が長い人もいますよね。そういう人のためであったり、アトラクトにのせた方がよいと判断した場合は、予備の時間をアトラクトに持っていったりもできる。こういったコントロールがしやすいので、予備の時間をある程度確保することは必要だと考えています。

そしてもう一つ。やりとりがスムーズに進み、30分くらいで面接が終わるケースがありますよね。必ずしもその採用候補者が駄目だというわけではありませんが、自分以外の人にも見てもらいたいケースもあります。そういった場合、30分で面接が終わったことで不安を与えてしまわないように、メインパートは30~40分とあらかじめ言っておくんです。

倉橋氏:それはいいですね。採用でも不採用でも、30分で面接が終わることはあります。でも、採用候補者としては「30分で終わるなんて、印象が良くなかったのかな」と不安になりそうですからね。

佐野氏:面接後の検討はどのように行っていますか?

薮田氏:人事・採用担当者はファシリテート役となることが主で、現場の面接官が検討しています。人事・採用担当者がジャッジに入ることはありません。摺り合わせについてですが、今社内で流行っているのは「せーので3択の指を出す」というものです。すなわち、「採用したい」「不採用」「迷っている」の3択ですね。

 

倉橋氏:これはリモートに切り替わってからも、変わらずやっていますね。理由は、自分の意見と違うことを言われたら、相手に合わせたくなるから。相手が上司ならなおさらですね。他者のバイアスを受ける前に、自分の所信表明をしておくということです。

(タレンティオ社作成)

そもそも対面の面接だって、わからないことはある

佐野氏:フルリモートでのオンボーディング(入社後定着)についても伺いたいです。

薮田氏:入社前からSlackのチャンネルに入っていただき、そこで社内がどんな雰囲気で話しているかを知ってもらいます。入社手続きの説明などもSlack上ですね。人事・採用担当者も「1対n」で対応できるため、効率が良い。

佐野氏:入社後に面談はしていますか?

薮田氏:はい。入社後3カ月の間、配属部署では、各チームの上長が隔週で1on1をしています。それ以外に1カ月時点でオンボードに関わっている人事担当者。2カ月時点は社長の宮田、3カ月時点が私です。

私のタイミングでは、仕事のモチベーションを聞くのが半分。残りの半分は、3ヵ月で見えたSmartHRの良さや課題をヒアリングしますね。うまく会社に馴染めているのか、パフォーマンスを出せているのかについて、配属部署以外の人とも話せる機会を設けるようにしています。

佐野氏:採用活動をオンライン化することについて、ここまでさまざまなお話を伺ってきました。「実際に会わないと人柄が判断できない」と考えている方もいらっしゃると思いますが、オンラインで採用活動をやられて、どのように感じますか。

薮田氏:「会わないと人柄がわからない」とは言い切れません。もしかしたらオンラインの方がわかることも多いかもしれませんし、その答えはこれから出てくると思っています。あと、対面で面接してもわからないこともありますから(笑)。

倉橋氏:全国的に見て採用に二の足を踏んでいる企業さんは多い。一方で、転職を考える人は増えています。つまり、今の採用市場は買い手市場です。

佐野氏:有効求人倍率、1.39倍(※)まで下がっていますしね。

(※)厚生労働省が4月28日に発表した、2020年3月の有効求人倍率(季節調整値)

倉橋氏:だったら今採用活動に力を入れた方が、いい人にも出会いやすいと、マクロで見て感じております。

佐野氏:最後に、これからの採用活動はどうなっていくと予想されますか?

薮田氏:オンラインにはオンラインの、オフラインにはオフラインの良さがあると思っています。たとえば「カジュアル面談はオンラインでやりましょう」「選考に入ったら、1回は直接会いましょう」のように、オンオフ組み合わせることもできますよね。

またリモート採用では、選考中オフィスに一度も来られない方もいます。採用候補者からすれば、一度もオフィスを見ずに入社を決めるのはなかなかハードルが高いですよね。1回は会社を見る機会を作るなど、採用候補者の体験として良いものにする工夫をしていきたいと思います。

佐野氏:ぼくとしても、これをきっかけにオンラインとオフラインの良いところが融合され、よりよい採用活動に変化していくと思っています。本日はありがとうございました。

 

構成・文/野村 英之、編集/檜垣 優香(プレスラボ)・d‘s JOURNAL編集部