「人材こそが組織を変える」転職のプロが読み解く。withコロナ時代におけるハイクラス人材の可能性
新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、各業界が大きな転換点を迎えています。転職市場にも大きな影響を与えることは必至でしょう。ただ、そのような状況下でも転職市場で成長を期待させる企業があるのをご存じでしょうか。それが、株式会社コトラです。2002年の創業以来、専門性の高いハイクラスに特化した人材紹介サービス事業を展開する同社は、業界内でも非常に高い評価を受けている企業の一つです。大きな特徴は、専門性に対する深い理解とリスペクト。所属するコンサルタントが各業界に精通し、高い専門性を持っているからこそ、多様化する企業と人材のニーズに正確に応えられています。
今回は株式会社コトラの代表取締役社長 大西利佳子氏(以下、大西氏)と、パーソルキャリア株式会社のタレントソーシング事業部長 加々美祐介氏(以下、加々美氏)のお二人に、近年のハイクラス転職市場の動きとwithコロナ時代におけるハイクラス人材の可能性についてお話を伺いました。
プロフェッショナルが加わることで組織は大きく変化する
加々美氏:大西さんにぜひとも最初に伺いたかったのが、新型コロナウイルスによるハイクラス人材への影響です。直近のハイクラス人材の動きはいかがでしょうか?
大西氏:基本的な企業のスタンスとしては、①新型コロナウイルスに関係なく積極的に採用を続ける、②いい人材さえいれば採用する、③今は採用をしない。この3パターンに分かれています。特に、積極的に採用を続ける企業には、デジタルに絡んだハイクラス求人が非常に多いのが特徴です。
加々美氏:やはりそうですよね。現在、私もプロダクト開発に携わっているのですが、デジタル人材の重要性はつくづく感じています。これからの時代に組織が成長していくためには、もはやデジタルは切っても切れません。
大西氏:デジタル領域の求人自体が増えてきたのは2015〜2016年ごろです。「IT」と「デジタル」という2つの言葉が、明確に分かれつつあったのがちょうどその時期でした。今では、組織や事業の形に影響を与えるITを指して、デジタルという言葉を使っている企業が多いと思います。
加々美氏:当時こそデジタル領域の採用に不慣れな企業が多かったですが、今は自社なりにデジタルの必要性を定義し、採用にも慣れてきた企業が増えてきた印象があります。それに、もはやITをメイン事業としている企業だけがデジタル領域に力を入れる時代ではありません。「データアナリスト」や「データサイエンティスト」などのポジションは、業界に関係なく求められています。
大西氏:そういった意味で、ハイクラス人材の重要性はますます高まってきていると感じています。そもそもハイクラスとは、高い専門性を持ったプロフェッショナルのことです。この専門性に磨きがかかっていけばいくほど、お客さまに提供する付加価値は高くなっていき、ひいてはそれが企業の収益力につながっていきます。
加々美氏:大西さんがコトラを起業したきっかけも、「プロフェッショナル」の存在が大きく関係しているんですよね?
大西氏:そうなんです。新卒で日本長期信用銀行に就職したのですが、当時の長銀は長信銀という役割を終えて変わらなければいけないのに変われない、という大きな課題に直面していました。そして最終的には変化することができず、破綻を迎えることになります。その際に株主が変わり、新たな人材が入ってきました。もともといた人材と新たな人材が融合して、今までなかなか変われなかった会社がガラッと変わりましたね。新たな人材が入ることで組織ってここまで変われるのか、というこの強烈な体験がコトラの起業につながっています。
加々美氏:現在も「変わらなきゃいけない」と危機感を抱いている企業はとても多い気がします。だからこそ転職もオープンになっていき、ハイクラス人材の転職も一般化しました。
大西氏:すべての出発点は、企業自身の発展したい想いにあります。それを実現するための選択肢として、M&Aや社内での人材育成があり、その一つとしてハイクラス人材の採用もある。何より大切なのは、リーダーが企業や事業をどのように変えていきたいのか、そして顧客に対してどのような価値を提供したいかです。
私は、「リーダーとしての役割は『中庸』の世界に集約される」と思っています。チームで何かを実現する際、リーダーが現実を知り過ぎているとコンパクトにまとまってしまう。一方で、現実を知らな過ぎると実現できないような指示が下りてきてしまう。そのどちらかで悩んでいる組織は多いのではないでしょうか。このバランスがとても難しいところだと思います。
組織を大きく変革するには、上層部から変えていく
加々美氏:ただでさえ企業に大きな変化が迫られている中で、さらにこれからは新型コロナウイルスと付き合っていかなければなりません。今後のハイクラス人材領域の見通しをどのように考えていますか。
大西氏:まず、転職市場全体では明らかに変化が起こるでしょう。2008年のリーマンショックの際は、それまでと比べて市場が大きく縮小しました。そこから現在まで、転職市場は順調に成長してきたわけですが、今回の新型コロナウイルスの影響で再び市場は縮小せざるを得ません。
加々美氏:リーマンショックの影響が落ち着いたタイミングからは、構造的な人手不足により未経験者を歓迎する求人が大きく伸びました。これからはその育成費用を企業が賄えるかどうか。先行きは不透明です。
大西氏:未経験者の求人は、特に減少すると思います。一方で、ハイクラスの領域は今後もニーズは変わらないと見ています。リーマンショックの際もこの部分に大きな変化はありませんでした。むしろ、より市場が大きくなる可能性の方が高い。企業が大きく変わらなければならない局面で、変化のさせ方を理解しているハイクラス人材の求人が増えることは十分考えられます。
加々美氏:私も同意です。コロナによって大きな打撃を受けている産業や企業の中には、採用自体を減らす所もあるでしょう。その一方で、今が変化のチャンスとばかりに、ハイクラスをはじめとした中途採用を増やす所もあるはずです。プロフェッショナルに対するニーズはより高まっていく時代になると思います。組織はピラミッド構造が前提になっていますから、事業や組織を大きく変えたいと思ったら、上層部から変革し、そして採用していくべきです。その数はピラミッドの頂点に近ければ近いほど少なくなるので、たとえ外部環境が変化しようとも、さほど影響は受けないと思います。
実務能力と抽象化能力がともに高いレベルで備わっている人材が求められている
大西氏:その通りです。ただ、1つ補足させていただくと、縦に機能しているハイクラスの他に、横に機能しているハイクラスも存在しています。当社ではそちらの求人を扱うことの方が多いかもしれません。そもそも仕事というものは、責任と権限がペアになっています。さらに言えば、それが組織の中で縦に機能しているのか、横に機能しているのかといった違いもあります。たとえば、営業部の部長は、営業部としての責任と権限を持っているので、縦に機能していると言えます。
それとは別に、部門横断型プロジェクトのような場合、トップはそのプロジェクト自体だけでなく、他の部署に対しても責任と権限を持っています。こちらは一般的な事業部長のように職位としてというより、機能としての責任と権限です。これは横に機能していると言えますが、ここでは単に「部長をやっていた」といった経験だけでなく、プロフェッショナルとしての高い専門性が求められます。
加々美氏:そういった意味では、プロジェクトマネージャーという役割に対する需要が増えてきていますよね。
大西氏:おそらく物事が大規模化、複雑化しているからこそ求められているのでしょうね。関係者が大量かつ複雑、それでいて扱う業務が専門に特化している。その人たちをまとめるというのは、かなり高度な能力が必要になると思います。
加々美氏:特に、ハイクラス人材には具体と抽象を行ったり来たりできる能力が求められるのではないかと思っています。採用の面接官を担当していたとき、「あなたの成果の要因は何ですか?分解すると何が因子になっていますか?」とよく聞いていたのですが、ここで知りたいのは表面的な実績や経験ではなく、本質的に何を学んだか、なのです。具体的に何をやったから成功したという話も大事ですが、もっと概念的な因子にまで分解して、本質的な成果の因子を理解していなければ、別のシチュエーションになったときに成功を再現することができません。
大西氏:実務能力ばかり高いと多様な状況に対応できず、抽象化能力ばかり高いと現場の状況に応じた適切なマネジメントができない。ですからハイクラスで活躍するには、この両方の能力がバランス良く取れていることが必要だと思います。
加々美氏:デジタル領域なんてまさにそうですよね。これからはさらにリスクマネジメントやコンプライアンス、セキュリティー関連の人材ニーズなども高まっていくと思います。このような領域のプロジェクトのトップは、実務能力と抽象化能力が共に高いレベルで備わっていなければ、プロジェクトを成功に向けてリードすることなんてできないでしょう。
社員と企業が同じビジョンを共有し、価値観が合致する企業は伸び続ける
大西氏:ただし、最終的に、人材は適材適所だと思っています。ある組織で活躍しなかった人は、他の組織でも活躍できないわけではありません。もちろんスキルも大事ですが、それと同じぐらい人材と企業のビジョンがフィットしているかを見極めなければいけません。
加々美氏:その点で、御社ではどのような取り組みをされているのでしょうか?
大西氏:「コトラ25」という価値観診断のアセスメントツールを提供しています。新たな人材が企業に入ったときに、お互いに話が合わない原因は、起点となる価値観が違っているからなのです。そこで、コトラ25を求職者と企業に受けていただいて、お互いの価値観の優先順位を認識してもらっています。
加々美氏:確かに、求職者と企業が同じビジョンを共有できるか、価値観がマッチするかはとても重要です。弊社では大切にするバリューとして、「外向き」「自分ゴト化」「成長マインド」を掲げていて、その根底にあるのは、自分の能力は努力や経験次第で伸ばすことができるという「グロースマインドセット」の考え方です。社内で議論を重ねた結果、言語化するまでに2年ほどかかりました。
大西氏:企業側はとても丁寧に自社の価値観を言語化しているんですよね。ただ、中途で転職してくる方は、意外とスルーしてしまうことが多い。
加々美氏:企業側もせっかく言語化した価値観を評価制度、もっと言えば、採用基準や実際の面接での具体的なアセスメントに活かせていないことも多い。このマッチングが大事なのに、もったいないですよね。成長し続ける企業と、成長が止まる企業、減退していく企業。これらの何が違うのかを見ていくと、やはりそこで活躍している人の資質と、その人を活かす組織の器があるかどうかに尽きます。カルチャーや就業環境が企業の目指す方向と合致していて、かつそれが活躍する人材の資質と合致している企業は伸び続ける。逆に、どこかで歯車が狂っている企業は、どんどん成長速度が落ちていってしまいます。
取材後記
「リーダーとしての役割は『中庸』の世界に集約される」と大西さんが語っていたのが印象的でした。画期的なサービスや商品が誕生すると、リーダーの突き抜けた考えばかりが注目されがちですが、そこには理想と現実のギリギリを見極めた高いバランス感覚も大きく関係しているはずです。
リーダーが高い専門性を持っているからこそ、現場の限界と可能性を踏まえた判断ができるのでしょう。ハイクラス人材をいかに活かすか、今後の組織の発展において、とても大切なポイントになりそうです。
取材・文/橋本歩 EJS、編集/d’s JOURNAL編集部