ITエンジニアの処遇やキャリアパスを一変させたSES企業。経験者を中心に毎月2名以上の採用を実現!その秘密に迫る

株式会社エージェントグロー

人事部 伊藤惇(いとう・あつ)

プロフィール

かつて新3K(きつい・帰れない・給料が安い)とも言われたITエンジニア業界は、今や完全に売り手市場となり、ジョブ型雇用の浸透により待遇や労働環境も改善されつつあります。この流れに先鞭をつけ、ITエンジニアの経験者採用に成功しているのが、SES事業及びSaaS事業を手掛ける株式会社エージェントグローです。

「中小企業で働くITエンジニアの労働環境を変える」というミッションを掲げ、還元率80%を目指す同社は、多くのエンジニアに支持されて成長を続け、人材が逼迫する業界において毎月2名以上のエンジニア(経験者のみ)を採用しています。しかし、この採用実績は、同社の姿勢や待遇によるものばかりではありません。さまざまな工夫・努力で採用力を強化した同社人事部の伊藤惇氏にお話を伺いました。

案件選択と単価評価を徹底し、独自システムで管理コストも大幅削減

──現在のSES事業の事業環境や採用活動における課題についてお聞かせください。

伊藤氏:右肩上がりでIT需要が増加していることもあり、IT業界は深刻な人材不足に陥っています。エンジニアを採用することが難しくなってきており、各社苦心されている状況です。当社のようなSES企業は、所属するエンジニアが増えれば増えるほどクライアントに提供できる価値が高まり収益も上がるため、エンジニアの争奪戦のような様相を呈していますね。

 

こうした状況を反映して、SES業界にも変化の波が押し寄せました。「会社が仕事を決め、不透明なルールで評価される」のではなく、「エンジニア自身が自分の仕事を選び、お客様から頂く単価といった客観的指標で評価される」という「新SES」ともいえる企業が勢力を伸ばしてきたのです。

新SES企業——「案件選択の自由と単価による評価」を実現した企業では、ITエンジニアがこれまで不満に思っていた「自分でキャリアを選べない」「エンジニアの意向が反映されにくい」「スキルや経験に給与が見合わない」といった諸問題が改善することとなり、結果的に新SES企業の人気が徐々に高まってきました。新SES企業において数多くのITエンジニア採用に成功する事例が多々見受けられるようになったこともあり、さらに多くの「新SES」企業が生まれることとなったのです。

それに伴い新たな課題も浮き彫りになってきました。一番のネックは、案件選択と単価による評価を徹底しようとすると、膨大な工数がかかり、営業・事務などの本社コストがかさむということです。

例えば「案件選択」。エージェントグローの場合、エンジニア1人に対して平均20~30件ほどのオファーが届きますが、それらをすべてエンジニアに開示し、参画意思の有無をヒアリングすることとなります。参画意思のある案件においては、1案件ごとに面談や各種調整を行うことになりますが、最終的に契約に至るのは1つのみ。エンジニアが選択した案件が成約しなければ、再度初めからそのプロセスを行わなければなりません。

「単価評価」においてもお客様からいただいている単価をエンジニアに適正かつ迅速に開示し、それに基づいた評価、給与計算をしていくにはかなりのコストが必要です。人数が少ないうちは何とかなるかもしれませんが、従業員数に比例して手間もコストも増加します。その結果、会社の利益が圧迫され、経営状態が悪化してしまうということも起こり得るのです。

──貴社では、そのような課題をどんな形で克服しているのですか?

伊藤氏:当社では創業当初より独自のシステムを開発し、「案件選択」や「単価評価」を自動化、省力化する仕組みを構築してきました。これにより、営業・事務が担っていた管理業務が効率化され、工数も人件費も抑えることができました。今では本社スタッフ1人当たりで約80名のエンジニアをフォローできる体制となっています。現在はこのシステムを発展進化させた「Fairgrit®」を自社でも使用することで、徹底した業務効率化を更に推進。得られた利益をエンジニアの待遇に還元することで、新たな人材の獲得にもつながり、経営状態もさらに良くなる好循環を生み出しています。

──エンジニアのフォローは、どのように行っていますか?

伊藤氏:当社では経験者のエンジニア採用のみを行っているのですが、「Fairgrit®」を通じてエンジニアが必要とするタイミングで必要なフォローを行う体制、仕組みを構築しています。特段問題が発生していない状況での1on1はエンジニアの負担となりえますし、本社人員の負担やコスト増加もあるため当社では行っておりません。

その代わりにエンジニアが気軽にSOSを上げられるようにしたり、稼働状況や勤怠情報をスピーディーかつタイムリーに収集できるようにしたりすることで、必要最小限のリソースで最適なフォローアップができるようにしています。エンジニアにとっても本社メンバーにとっても負担が少ない仕組みになっているので、高い還元率を実現する一助となっているわけですね。

結果として、当社に来る方は仕事内容に見合った報酬をもらいたい、やりたい案件がしたい、残業の少ない案件がしたいなど、今まで抱えていた悩みの解消を求める方が多いです。

一人ひとりのキャリアに寄り添ったコミュニケーションが、転職希望者の心をつかむ

──貴社では、ITエンジンアを毎月2名以上採用するのに成功しています。そのポイントを教えてください。

伊藤氏:ポイントは、当社の「フェアネス方式®」、個別にカスタマイズしたスカウトメール、人材サービス会社との連携の3つです。

「フェアネス方式®」は当社が提唱している新しいワークスタイルのことであり、案件選択制度と単価評価制度からなります。案件選択制度においては、業務内容などの基本情報だけではなく単価などの通常開示されにくい情報についても100%開示。その中から、エンジニアが希望にマッチした案件を選ぶことができ、案件参画後も契約期間ごとにエンジニア自身が参画継続の可否を決められます。

単価評価制度は、クライアントからいただいた単価を基準として昇給・賞与が決まる仕組み制度のことです。昇給・賞与の基準や計算方法などは「Fairgrit®」でいつでも確認できるようになっているため、高い透明性が保たれています。

この「フェアネス方式®」に魅力を感じて、当社に来た方も多いですね。

──スカウトメールについては、どんな工夫をしているのですか?

伊藤氏:転職希望者の経歴や自己PRを徹底的に読んだ上で、メールの内容をカスタマイズして送っています。当社では当初、求人広告を使って採用しようとしていましたが、広告ではやはり知名度のある大手企業にかなわないので、ダイレクト・ソーシングサービスに切り替えることにしました。しかし、一斉送信のような形でスカウトを送ってみたら、ほとんど返信が来なかったんです。

そこで見直しを行い、一人ひとりの情報を読み込んで、まず「あなたの経歴なら30件以上のクライアントからオファーが来る」「当社で働く場合、これぐらいの収入が得られる」といった具体的な内容を伝えることにしました。さらに、なぜ当社に来てほしいのかという思いや、仕事とキャリアのイメージを的確に届けることによって、転職希望者にとって当社が特別な存在になり、興味を持ってもらえるようになりました。

データを基に採用候補者を絞り、スカウトメール返信率が向上。毎月2名以上の採用を実現

──3つ目の人材サービス会社との連携についてはいかがですか?

 

伊藤氏:最初はダイレクト・ソーシングサービスの使い方がよくわからなかったので、担当者にたくさん質問して機能を把握するとともに、担当者からいろいろアドバイスをいただきました。また、こちらからも提案をさせていただき運用方法を改善していきました。アドバイスされたことはとりあえず全部試してみて、その結果について一緒に検討しながら、どこが良かったのか悪かったのか、次にどんな手を打つのかを協議し、より効果的な運用法を追求するという作業を重ねましたね。

特に大きかったのは、スカウトを送った人たちのデータを参照し、それをうまく活用できたことです。例えば、「この年齢でこういう経歴がある人にメールを送ったらここまで閲覧してくれたので、興味を持っているんじゃないか」といったようなことが、データを詳しく分析すると見えてきます。

そういう作業を積み重ねた結果、この人にスカウトを送れば応募してくれる確率は高いとか、逆にこの人は応募してくれそうにないから送るのは止めようとかの線引きができるようになり、かなりの効率化が図れました。今ではスカウト返信率が5~6%に達しています。

──採用人数の目標値は定めていますか?

伊藤氏:今期は100名採用を目標にしていましたが、これまで毎月10名以上すでに採用できているので、目標を早々に達成できそうです。また、その10名のうち、2名以上がダイレクト・ソーシング経由で採用できているので、手応えは十分にありますね。来期は媒体も増やしつつ、年間150名の採用を目指します。

還元率80%を目指して、更なる採用拡大に挑む

──年間150名採用というのはすごい話ですね。多くのエンジニアが貴社に魅力を感じている証拠だと思いますが、実際に入社した方からは、どんな声を聞いていますか?

伊藤氏:スカウトメールが送られてきた時には半信半疑だったことが、実際に入社をして本当にその通りになって驚いたという声をよく聞きます。特に「案件選択」に対しては大きな反響がありますね。採用面談のときなどに「あなたの経歴なら案件が30件ぐらい届くはずだから、そこから好きに選んでいい」と言っても、疑いの目でしか見てくれないんです(笑)。でも、入社後に実際にたくさんの案件が届くのを目の当たりにし、「選ぶのが大変だ」という状況に直面した際にようやく「あれは本当だったんだ」と実感してもらえるようです。

また、当社は給与に関しても透明性が高いので、皆さん、「頑張れば単価が上がって収入にも反映される」と、モチベーション高く働いてくれています。

 

──さらに条件のいい職場を求めて離職したり、オファーがたくさん来るので目移りして次々に案件を乗り換えたりするような方はいませんか?

伊藤氏:短期間で案件を次々に変えてしまうと、余計な不信感を持たれてしまい逆に選べる選択肢が減ってしまう可能性があります。当社のエンジニアはそのリスクを理解している人がほとんどですね。また、一方で、案件を変えるたびに人間関係を構築しなければならず、心理的な負担も大きいため、結果として巡り会った良い案件で長期的に腰を据えて働き続ける人が多いですね。

──貴社では、還元率80%を目指しているということですが。

伊藤氏:今期は還元率が76%まで上がっており、今後4年で80%達成を目標としています。当社の掲げる「中小企業で働くITエンジニアの労働環境を変える」というミッションの実現のためには、「Fairgrit®」の活用を通じた業務効率化の徹底により、コストを抑えつつエンジニアを増やしていくことも重要なポイントです。リファラルなども活用しながら、採用を拡大していきたいと考えています。

──短期間のうちに急速に採用力を高めてこられた貴社ですが、ITエンジニアの採用に苦心する企業の皆さんに、アドバイスをお願いします。

伊藤氏:IT業界には2万社に及ぶSES企業が存在していると言われており、大企業のような知名度のない中小企業にとって、エンジニアに自社を選んでもらうというのは至難の業です。普通に求人広告を出しても応募は来ませんし、一斉配信されたスカウトメールなど見向きもされないでしょう。だからこそ、一人ひとりにラブレターを送るつもりで、なぜあなたにうちに来てもらいたいのか、そして一緒にどんな未来を創っていきたいのかといった会社の思いを伝えなければなりません。

一人ひとりカスタマイズするのは手間もかかるし大変ではありますが、転職希望者の目線に立てば、自分に特化したメールが届けば目に留まるでしょうし、期待されていると感じられれば嬉しいはずです。そのような小さな工夫が応募につながる可能性を高めるのではないでしょうか。

当社では私と兼任者の2人だけでこれらの採用活動を行っていますので、きっと皆さんにもできるはずです。「やればできる!」(笑)。ぜひチャレンジしてみてください。

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取材後記

このエンジニア不足のご時世に、中小企業が必要な人材を確保するのは容易なことではありません。しかし、エージェントグローは独自の取り組みで採用力を高め、毎月2名以上の採用に成功し、さらに今期は毎月10名以上のエンジニアを採用するまでになりました。その取り組みの一つが、案件選択制度と単価評価制度によって市場原理を処遇に反映したこと。その徹底した姿勢が悩みを抱えながら働いてきたエンジニアの心捉えました。

そして、もう一つの取り組みは、ダイレクト・ソーシングを活用し、個別に最適化したアプローチを行っていることです。転職希望者のニーズを一人ひとりしっかり捉え、個別にカスタマイズしたメッセージを送りました。その結果、返信率は大幅に向上し、採用に結び付けることができたのです。

転職希望者にとって、いかに自分ごとと思えるようなアプローチができるかが、採用活動の一つのカギになるのかもしれません。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森英信(アンジー)、撮影/中澤真央

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