【ハイクラス人材150人の採用成功事例】SOMPOホールディングスはなぜ採用権限を現場へ委譲したのか
近年では既存事業への依存から脱却し、新たな領域へチャレンジする企業が増えています。社内にはない知見や経験を取り入れるためには即戦力となるハイクラス人材の採用が欠かせませんが、既存事業の強いイメージが採用活動のネックとなってしまうこともあります。
「損害保険事業」のイメージが根強いSOMPOホールディングスもそうした課題を抱える1社でした。いかにして最新の自社を知ってもらい、入社意欲を高めてもらうか。この課題を乗り越えるため、同社では採用権限を人事から各部門へ大胆に委譲し、採用決定時に提示する報酬(オファー額)の意思決定を柔軟にできる体制を整備。結果として3年間で150人のハイクラス人材を採用することに成功しました。
異業種出身のハイクラス人材が続々と集まる秘訣はどこにあるのでしょうか。同社人事部の鈴木氏、西原氏両名にお話を伺いました。
新事業領域を推進するため、3年間で約150人のハイクラス採用を実施
——SOMPOホールディングスがハイクラス人材の採用を強化している背景についてお聞かせください。
西原氏:当社は祖業である保険事業を基盤として、現在は介護・シニア事業やデジタル事業へと多角化を進めています。パーパスとして「安心・安全・健康のテーマパーク」を掲げており、これを実現することで社会へ価値提供したいと考えています。ただ、グループ内では介護・シニア事業やデジタル事業の知見を持つ人材が限られているのも事実でした。そのため外部から積極的に迎え入れ、多様な人材が活躍する組織へと変化してきています。
鈴木氏:グループ会社はそれぞれで採用活動を行っていますが、ホールディングス側はもともと新規採用をしておらず、約500人規模の組織は全てグループ企業出身者で構成されていました。しかしここ3年間でハイクラス人材のキャリア採用を強化し、現在では500人のうち約150人が外部出身者となっています。
——3年間で150人というと、かなり大きな採用規模ですね。
西原氏:はい。とは言え、採用活動が苦労なく進んでいるわけでは決してありません。当社は長年の歴史からどうしても「損保・保険」のみのイメージが強く、伝統的で堅い金融・保険事業の大企業だと思われがちです。私自身もキャリア採用で入社しており、選考に進むまでは同様の印象を持っていました。もちろん損保・保険はこれからも重要であり、私たちの大切な事業ですが、祖業だけに縛られることなく、新たな領域へと積極的に進出している当社の最新の姿を伝えていくため、パーパス経営の取り組みや、当社が「キャリア自律型」と呼んでいるジョブ型人事制度の取り組みなどをPRしているところです。
鈴木氏:デジタル領域は採用市場でも特に人材獲得競争は激化しています。他社と常に比較される中で、いかに当社を選んでもらうかも大きな課題です。
採用権限を大胆に委譲。ジョブ型制度の下で各部門が採用にコミット
——採用上の競合が多い中で、どのような工夫を?
西原氏:当社では、人事ではなく、人材を必要としている各部門が主体となる採用活動を行っています。当社の場合、人事はあくまでもオペレーション支援などを通じて採用活動をサポートする立場。人材を紹介してくれる外部エージェントとのミーティングでも主体となるのは各部門です。人事が窓口となって採用活動をするよりも関係者の数は増えますし、時間も手間もかかるやり方ですが、こうすることでエージェントが本来知りたい情報を各部門から直接聞いてもらうことができ、より確度の高い採用候補者を紹介してもらえるよう連携を強化しています。私たちの事業の最新状況を採用候補者へ伝える意味でも有効に機能しています。
——面接などの選考フローも各部門側が主体となるのでしょうか?
鈴木氏:はい。採用の意思決定も含めて主体は各部門です。1次面接は各部門で行い、人事部は最終面接の段階で部門長とともに加わります。最初から人事部だけで面接を進めていると、現場が本来求めていたはずの人材を見落としてしまうこともある。また、各部門で求められる専門性やプロフェッショナリズムはそれぞれに異なるため、カルチャーフィットも含めて直接判断してもらう必要があると考えています。そのため、採用活動全般において、かなり大胆に各部門へ権限委譲していますね。
——ただ、現場にも主業務がある中で、採用活動に力を割いてもらうのは簡単ではないように思います。
西原氏:どの部門も採用には非常に協力的です。人事任せにしようとする部門はありません。その要因として、当社のキャリア自律型(ジョブ型)人事制度があると考えています。メンバーシップ型人事制度の場合は、人事異動などのローテーションによって人員を配置しやすいメリットがある一方、ミスマッチが発生した場合の採用責任がどこにあるのかあいまいになる可能性があるように思います。しかし、あらかじめ事業戦略に基づいて必要なポジションを定め、そこに対して人を採用する場合は責任が明確なので、各部門側も高い意識を持つことになります。
鈴木氏:エンジニアチームなどは自分たちで新しい採用手段を常に開拓していますね。もはや採用については人事以上に詳しい状態になっているかもしれません。ダイレクトリクルーティングを含めて、さまざまな採用手法を実践してくれています。
ジョブ型でも報酬は固定しない。市場価値や担うミッションに応じて柔軟にオファー額を調整
——最近のハイクラス人材の採用実績を教えていただきたいです。
鈴木氏:たとえば、広報領域では「Webサイト企画運営担当者」を採用しました。電力会社で広報やマーケティング分野でキャリアを積んできた30代後半の方です。求めるポジションに当てはまるスキルを持ち、前職での有事対応などの幅広い経験を重ねてきていることが採用の決め手でした。ゆくゆくは広報組織内のリーダーポジションなどを担ってもらうキャリアパスもあり得ると考えています。この方の他にも、経営企画やサステナブル経営推進など、さまざまなポジションで採用が進んでいます。
——こうした人材を採用できる秘訣はどこにあるのでしょうか?
西原氏:前述した各部門との連携に加え、当社の人事制度において報酬提示の柔軟性があることがポイントだと思います。システマチックにポジションごとの報酬を定めたジョブ型制度を運用する企業もあるかと思いますが、この方法では採用候補者の市場価値を考慮しきれないケースも出てきてしまうのではないかと考えています。採用候補者には「やりたい仕事だけど、この報酬では入社できない」と思われてしまうかもしれません。こうした事態を防ぐため、当社では設定報酬にある程度の可変幅を設け、現場の裁量で提示する報酬(オファー額)を柔軟に変えることができます。
鈴木氏:採用候補者の市場価値を正しく報酬に反映するということですね。面接はもちろん、その手前のカジュアル面談の場でも現年収や希望年収について意見交換しますし、最終的なオファー額を決める際も、各部門と相談しながらスピーディーに意思決定しています。
——最終面接での「口説きのポイント」は?
西原氏:変化を続ける当社の姿を知っていただいた上で、経営トップのメッセージを伝えられることが決め手になっていると感じますね。グループCEOは「会社は『たかが会社』、一人ひとりのパーパスを実現するための舞台、道具にすぎない。ぜひ会社を使い倒してほしい」とまで明言しています。そして実際に、こうした経営の意志の下で一人ひとりの「MYパーパス」を自由に描く取り組みも進めています。こうした当社の取り組みや社員のキャリアに対する考え方を採用候補者に伝えられる意義は大きいです。
鈴木氏:伝統的な日本の大企業だと思っていたSOMPOホールディングスが、実際には革新性と柔軟性に満ちている。そんな良い意味でのギャップが決め手になっているのかもしれませんね。現場ではリアルとオンラインを柔軟に切り替えて働いていますし、服装だって意外とカジュアル。こうした強みも現場の声を通じて伝わっているのだと思います。
採用チャネルのさらなる強化に向け「アルムナイコミュニティ」も発足
——異業種出身者の採用が増えていく中では、入社後のオンボーディングも重要だと思います。
西原氏:ここはまだまだやれることが多いと感じている部分ですね。人事の次のミッションはハイクラス人材が早い段階で組織になじみ、本来のパフォーマンスを発揮できるようにすること。これまでに入社した150人の率直な思いをヒアリングし、本当に求められるオンボーディング施策を検討していきたいと思います。
——オンボーディング以外の部分で、今後の展開を検討している戦略や施策をお聞かせください。
鈴木氏:人材戦略としては、グループ全体の人材ポートフォリオに関する取り組みの強化を進めていきたいと考えています。各部門の現有戦力や、今後必要となる人材、育成体制などの情報を一元化できれば、従業員のキャリアパスの多様性をさらに高められるはず。SOMPOホールディングスを成長の舞台とし、それぞれのMYパーパスを実現できるよう環境整備を進めていきます。
西原氏:足元ではキャリア採用のさらなる高度化も進めていきたいですね。たとえば直近では元従業員が集まるアルムナイコミュニティを会社公式で発足させました。今後はグループ各社にも広げていく計画で、アルムナイ採用の大きな流れをつくっていける見込みです。会社の魅力を発信し、採用ブランドを高めていくとともに、採用チャネルもさらに増やしていきたいと考えています。
取材後記
お話を伺う中で強く印象に残ったのは、鈴木氏と西原氏が「人事は採用活動をサポートする立場である」というスタンスを貫き、実際の施策にも一切のブレがないことでした。現場発信だからこそ現場の魅力が採用候補者に伝わり、真に求める人材と出会うことができる。SOMPOホールディングスではこの考え方を実践に落とし込み、リアリティを重視した採用活動を行っています。また、報酬(オファー額)を柔軟に提示するようにしている点などもハイクラス人材の採用に向けて、非常に参考になる取り組みだと感じました。
企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/中澤真央
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