期待半分、不安半分。管理部門35年のベテランが挑む初めてのダイレクト・ソーシング

アセック株式会社

人事・総務部 尾添俊文

プロフィール

人事・採用担当者自身が人材データベースから候補者を直接探し、ダイレクトにアプローチするダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)。ここ数年、国内大手企業やIT・Web業界を中心に活用が進んでいますが人材紹介や求人広告に比べて新しいサービスだけに、導入に二の足を踏む採用担当者も少なくないようです。

そこで今回はdodaが提供するダイレクト・ソーシングサービス「doda ダイレクト」を導入した神奈川県相模原市に本社を置く工業用接着剤メーカー、アセック株式会社の事例を紹介します。社員数約20名の会社で人事採用業務の他、総務や経理も担当している尾添さんに導入までの経緯や採用成功に向けての取り組み、実際にダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)を活用した感想などをお聞きしました。

ウチは知名度のない会社。人材紹介以外の採用手法は難しいと思っていた

ウチは知名度のない会社。人材紹介以外の採用手法は難しいと思っていた

御社のビジネスついて教えていただけますか?

尾添氏:当社は、皆さんが普段使っているようなPCやスマートフォン、イヤフォンなどに使用されている工業用接着剤の開発・生産・販売を手がけています。一般の方には馴染みのない社名だとは思いますが、多くの有名メーカーの製品で使用されているので業界内では結構なネームバリューがあると自負しています。

今回、接着剤の開発担当者を採用されたそうですが、採用背景についてお聞かせください。また、ダイレクト・ソーシング導入以前はどのような手法で採用活動を行っていたのでしょうか?

尾添氏:今後、更に当社が飛躍するには、一つの選択枝として新規の開拓分野である半導体製造用接着剤に進出していく必要があり、開発担当を増員していかなければなりません。ウチの製品のエンドユーザーは9割が海外であり、生産は台湾の工場、販売は国内及び中国の支店も中心的な役割を果たしています。そのような状況下で、特に今後の日本本社の役割はなんといっても“サービスの肝となる開発”なんです。

当時数名の社員が接着剤の開発に携っていましたが、新卒から育てるには時間がかかりすぎるし、現状営業が持ってくる仕事の量に対して開発側の手が足りていないこともあって、10年程度の接着剤開発経験を持った即戦力を採用する必要がありました。そんな人は滅多にお目に掛かれないと分かっているんですけどね。

最初はハローワークを使って全然ダメで。その後は人材紹介サービスを利用していましたが、候補者の推薦は多くても月に数人ぐらい。その中から選ばなければいけないのでなかなか上手くいきませんでした。求人広告もやってはみたのですが全く応募がなくて…。まあ、そもそも応募要件を満たす人の数が少ないしウチは知名度もないから、求人広告を見る人にとっても「アセック? 何の会社?」ってことになりますよね。推薦の数は少ないけど結局は人材紹介しかないと思っていました。

その後、どのようなきっかけがあってダイレクト・ソーシングにチャレンジすることになったのですか?

尾添氏:さまざまな手法を試すものの、母集団形成には苦戦していたので、同時にいろいろ調べていました。そのとき、人材紹介会社から教えてもらったのが、「ダイレクト・ソーシング(候補者に直接アプローチできるサービス)」だったんです。

私自身、長年人事をやっているので、ダイレクト・ソーシングのことは何となく知ってはいました。しかし、“こちらからアプローチする”ということは、求人広告と同じでウチのことを全く知らない人に「どうも、アセックです」って言うわけでしょう? 本当に大丈夫なのかなとは思いましたよ。

とは言っても、待っているだけの人材紹介だけでは必要な人数を集められないだろうと思い始めていたので、一旦社長に相談してみました。するとダイレクト・ソーシングは海外では割と普及している採用手法だから、試しにやってみようかという話になったのです。もちろん候補者に直接メールを送ると言っても、何から手をつければいいのか全く分かりませんでしたけどね(笑)。

候補者選定は現場のエンジニア。自分はメールの文面作成や配信に力を入れた

候補者選定は現場のエンジニア。自分はメールの文面作成や配信に力を入れた

実際には何から手をつけられたのでしょうか?

尾添氏:最初は、試行錯誤の連続でしたよ。まずは「どれだけ該当者がいるのだろう?」と、データベースを探すことにしました。けれど、条件を入力してもまったく出てこない。要領も得ていないし「あれ? 何か間違えているのかな」って。どの企業さんもそうだと思うけど、どうしても良い人材を探したいわけじゃないですか。だから、「年齢」、「接着剤」、「開発」あとは「競合他社名」などを細かく入れちゃうわけですよ。

ただ、人によって登録内容はさまざまなんですよね。企業からしてみれば「そんなにすごい経験もってるの?」ということも、登録者にしてみれば「当たり前だからレジュメには入れてない」という人もいる。もったいないよね。それに気が付いてからは、どんどん可能性あるキーワードを試してみようと思ったの。例えば、「エポキシ(合成樹脂の一種)」とか、業務に関わるであろう用語を混ぜていくことで、徐々に候補者が出てくるようになりましたね。「おぉー、ずらっと出てきた!」って楽しくなりましたね。

候補者検索も、尾添さんが担当されていたんですか?

尾添氏:いえいえ。候補者の選別に関しては、開発を担当している副社長と開発部長にお願いすることにしました。中小企業はどこもそうだと思いますが、私も人事・採用をやりながら、総務や経理も携わっているので業務が追いつかない。社内で役割を分担するべきだと思ったし、細かいスキルなんかは現場でないと分からないですから。

現場って求めるレベルが高いじゃないですか。「いや、そんな優秀な人材、簡単に見つかりはしないよ」っていう。だから、実際にデータベースを見てもらって、相場観を知ってもらう意味もあったんですけどね。

では、スカウトメールの作成や送信に関しては尾添さんが担当されたのですね。特別に工夫したことはありますか?

尾添氏:文面には結構こだわりましたよ。業界内では知られているけどやっぱり小さい会社ですから。大手さんみたいに社名が知られているんだったらいいけど、ウチのことを知らない人に対して一方的にメールを送るわけですし、ちゃんと魅力を伝えなきゃいけないと。派手さはないけど、真面目にコツコツやることも大事でしょう? 私ができることを愚直にやるしかないな、って覚悟を決めたわけです。

とにかく意識したのは2つ。まずは“限定感・特別感”ですね。
例えば、メールの件名(見出し)です。きっとウチが欲しい人材って、どこの会社も欲しい優秀な人材のはずなんです。だから、きっと他社のオファーやメルマガに埋もれてしまうんだろうって。それでは困りますから。だから、「社長からの限定オファー・マネージャー候補としてお迎えします」という件名にしてみました。社長からの直接オファーなら特別感もあるし、「マネージャー候補として迎える」ことを最初から伝えることで、「おっ、どんなオファーだろう?」と興味を持ってほしいって。

見出しができたら、本番です。一人ひとりのレジュメをしっかり読んで“この人はどうして転職したいのか”ということを自分なりに想像するようにしました。例えば「大手で待遇もいいけど思うように仕事ができない環境なのかもしれない」、「管理職やってるけど本当は現場で開発がしたいんじゃないか」、「家族がいるからもう少し休める会社に行きたいんだろうな」、そんなことをレジュメから妄想して、その人の気持ちにウチだったらどう応えられるかなと、文面を作っていったんです。文章はうまくないかもしれないけど、「あなたのこと考えてるよ」という特別感が伝わるように…って。

尾添さん文面作成中

また、たくさんのメールをもらってるだろうから、あくまでもテンプレートっぽくするのはやめようと思ったんですよ。同じ人に何通も送る場合は、伝える内容も変えるようにしましたよ。1通目で会社の紹介をしたなら、2通目では待遇について紹介する…など、ウチのことを少しでも多く知ってほしいと思ったんです。

次に意識していたのは、“送るタイミング”
こうして苦労してメール文面を作ったからには、絶対読まれたいじゃないですか。だから、メールを送る日時にもこだわってみたわけです。優秀な人たちだから、きっと平日は忙しいだろう。でも、土・日なら読んでくれるんじゃないかって考えて、週末の18時頃に配信しようと決めていました。木曜日と金曜の夕方は、オファーを送る集中タイムとして予定を入れておいて、「この時間は話しかけないで!」ぐらいの気合いでね。

自分ができることを愚直にやる、それだけですよ。

苦労して掴んだ採用成功の先に、今までに感じたことのない達成感があった

苦労して掴んだ採用成功の先に、今までに感じたことのない達成感があった

運用面で様々な工夫をなさったとのことですが、結果はいかがでしたか?

尾添氏:最終的に91人の方にメールを送りましたが、複数名から反応いただき、結果、大手精密機器メーカーで10年以上接着剤開発に携っていた方の入社も決まりましたし、結果には満足しています。

今まで月数名ほどの推薦しかあがってこなかった候補者が、自分たちでデータベースの中を探したら、91人もいたわけですから驚きですよ。しかも工業用接着剤の開発者という貴重な経験を持った人たちがね。

市場になかなか現れない、貴重な91人だったわけですね。

尾添氏:だからこそ、反応があった方は、メールや電話でのフォローは欠かしませんでした。データベースの中から時間をかけて見つけてきて、苦労を重ねて作ったメールを送って、やっとのことで反応してくれた候補者ですからね。ちょっと極端ですけど私としては「面接にこぎつけるまで絶対に離すもんか!」という気持ちでした。紹介会社が候補者の意向を上げてくれる人材紹介とは違うので、この辺りも採用担当の力の入れどころだと思いますね。

ウチのように中小企業は人材を求める場合、人材紹介や求人広告であまり上手く行っていないようなら、ダイレクト・ソーシングはやってみる価値はあると思います。上手く活用できれば人材紹介よりコストもかからないから採用コストを見直したい会社にとっても有効でしょう。

もちろん、大変だなと思ったことも一度や二度じゃないんですよ。候補者の転職理由を想像しなきゃいけないし、同じ候補者に2回目のメールを送る時には文面も変えたし、文面作成で苦戦しているうちに金曜18時の送信時間は迫ってくるし、反応があった人を絶対離さないようにしないといけないし…。まあ、全部自分たちでやろうと決めたことなんだけど。やるなら「絶対に採用を成功させよう」という覚悟がいるし、社内での役割分担も必要でしょう。

ただ、今回ダイレクト・ソーシングによる採用に取り組んだことで、私自身にも社内にも貴重なノウハウが貯まったし、何と言っても自分たちで探しだした人の入社が決まった時の嬉しさと言ったらなかったですよ。

素人が書いたメールに対して「熱心なオファーありがとうござます」っていうお返事をいただけて。「反応が来た!」って小躍りしながらキーボード叩いたのなんて今回が始めてですから。正直、時間も手間もかかって大変だったけども、こんな優秀な人が、自分がアプローチしたことで入社してくれるんだって満足できたし、これまでのどんな採用活動よりも心地よい達成感がありましたよ。

【取材後記】

「最初は何をすればいいか全く分からなかった」と語っていた尾添さんですが、サービス提供会社の主催する研修やフォローサービスを活用しつつ、社内で協力体制を構築し、何よりもご自身が候補者一人ひとりと向き合い、メール作成や配信、面接誘導に関して様々な工夫を行ったことで採用成功を実現しています。今回の事例は、転職市場に出にくいニッチなスキル・経験を持った候補者を探している企業や、人事が総務・経理を兼務する少数精鋭の企業にとってダイレクト・ソーシングを上手に活用するための大きなヒントになりそうです。

(取材・文/佐藤 直己、撮影/石原 洋平、編集/齋藤 裕美子)