オンライン面接が定着してきた今だからこそ!コミュニケーションの課題を解決する「見極め」と「惹き付け」術

株式会社ビジネスリサーチラボ

代表取締役 伊達 洋駆

プロフィール

近年、採用において面接のオンライン化が定着してきています。その中で、オンライン・WEB面接のノウハウだけでなく、「候補者がどれくらい熱意を持っているのだろうか」ということや「面接官の思いが伝わっているのだろうか」など、候補者とのコミュニケーションの取り方について課題を感じる人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。

今回は、研究者としての知見を活かし、組織・人事領域においてデータ分析などのサービスを展開する株式会社ビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏に、中途採用でのオンライン・WEB面接のコミュニケーションで面接官が留意すべきポイントを伺いました。

オンライン・WEB面接では自社への志望度を高めることが課題に

コロナ禍を通して採用面接においてもオンライン化が進み、最近では「オンライン・WEB面接で成果が出ない」「熱意が伝わりにくい」などの課題に変化してきていると感じます。中途採用において、オンライン・WEB面接ではどのような課題があると感じますか?

伊達氏:面接とはそもそも、候補者に対して「見極め」と「惹き付け」を行う場であると考えています。「見極め」とは、候補者の能力や性格などの適性が自社に合っているかを評価することです。「惹き付け」は、候補者の自社への志望度を高めることを指します。

面接のオンライン化が進む中、面接で相手の良さなどを見つけるのが大変になったという声も聞きます。しかし、実は「見極め」については対面よりもオンラインは非言語情報が減ることで評価のバイアスを抑制することができ、候補者が話している内容に集中できるのです。結果、入社後のパフォーマンスの高い人材や定着率の高い人材を見極めることができます。

「見極め」については、むしろオンラインの方が向いているのですね。「惹き付け」についてはいかがでしょう。

伊達氏:「惹き付け」については、オンラインでは非言語情報が減って場の雰囲気をつかみにくいことや、視線を合わせにくいことから、候補者は「もう少し話せたのに…」と思うこともあるでしょう。また、面接官も「もっと会社のことを伝えられたのに…」と感じやすくなります。そのため、候補者も面接官も、双方が面接で能力を十分発揮できたという達成感を持ちにくくなり、候補者が自社への志望度を高めることが難しくなってしまいます。オンライン面接で課題となってくるのは「惹き付け」だと感じています。

オンライン面接

オンラインでは、候補者だけでなく面接官も能力を発揮できたという達成感を持ちにくいのですね。

伊達氏:オンラインの場合、場の雰囲気をつかみにくいため面接官も候補者にきちんと自分たちのことを伝えられた感覚を持ちにくいこともあるでしょう。しかし、オンラインではバイアスが抑えられる分、対面よりもきちんと適性の評価ができています。このことを面接官が自覚しておくことは大切です。

候補者の志望度を高める3つの解決策

「見極め」についてはオンラインの方が得意だということでしたが、面接官が気を付けるべきポイントはありますか?

伊達氏:対面で気を付けるべきことをオンラインでも実践するのがよいですね。例えば、事前に人材要件をきちんと定めることや、質問項目や評価基準を設計して面接を構造化することなどです。対面では場の雰囲気からなんとなく会話を進められますが、オンラインでは言葉によるやり取りがメインとなるため、これらを事前に行っておくことで、会話がスムーズに進み「見極め」の精度をより高めることができるでしょう。

【関連参考記事】構造化面接とは?どんな質問をすべき?半構造化面接との違いやメリット・デメリットを解説

なるほど。「惹き付け」がオンラインで課題になるとおっしゃっていた点について、解決策はありますか?

伊達氏:例えば、画面に向かって「大きくうなずきましょう」などの非言語情報を補足するようなやり方は、そこまで効果が大きくないと感じます。もちろんやらないよりもやった方がよいですが、他社が対面での面接を行っている場合には、そちらの方が優位で相づちくらいではなかなか効果は得られません。それを踏まえて3つのポイントがあると考えます。

一つは、極端かもしれませんがオンライン面接では「惹き付け」の部分は諦めて、「見極め」に集中するというやり方です。オンラインと対面を組み合わせた面接を行っている企業などでは、「見極め」はオンライン、「惹き付け」は対面などと分けてもよいと思います。次に面接を構造化することです。対面では面接を構造化し過ぎると一問一答のようになり、「惹き付け」を下げてしまいます。一方、オンラインでは構造化することで、候補者にわかりやすく質問ができますし、候補者もまとまった話をすることができます。このため、オンラインでの面接の構造化は「見極め」だけでなく「惹き付け」に対しても有効です。

オンラインの場合、質問項目と評価基準を合わせて準備しておくのは大切なのですね。

伊達氏:そうですね。オンライン会議などでも事前に資料を作成しておくとスムーズに会議が進みやすいですよね。オンラインでは非言語情報が減る分、何をどう話すかをあらかじめ検討しておく方が、候補者、面接官双方にとってコミュニケーションを取りやすくなりますし、「惹き付け」においても有効です。

オンライン面接での「惹き付け」における課題解決として、3つ目は何でしょうか?

伊達氏:同じ面接官が何度か面接する、あるいは候補者と接触することです。同じ面接官と何度かコミュニケーションを交わすことで、候補者との間に信頼関係を構築でき、面接官に対してポジティブな印象を持ちやすくなります。このため、「この企業に入りたい」という「惹き付け」につながるわけです。例えば、何度も面接を行うのが難しい場合は、面接前後の連絡などを同じ社員がしても構いません。

【オンライン面接のポイント】

・オンラインでの「見極め」と対面での「惹き付け」を組み合わせる
・面接を構造化する
・同じ面接官が候補者に何度か接触する機会を持つ

オンラインでの面接の設計について、面接官が工夫できることはありますか?

伊達氏:オンラインでは能力を発揮できたという感覚が得られにくいので、例えば、「今日の面接を採点するとしたら何点でしたか?」などの質問をして、候補者が説明できなかったと感じる部分を探り、できるだけ「自分のことを伝えられた」という達成感を得られるようにするとよいでしょう。こうした時間を面接全体の3割くらい確保しておきたいところです。

他にも、オンライン面接において面接官が気にかけておくことはありますか?

伊達氏:細かいことですが、視線ですね。PC画面に映る候補者の顔を見ようとすると、相手からは視線が外れているように見えてしまいます。少し難しいですが、話を聞くときにはPCの内蔵カメラや取り付けカメラのレンズを見るように心がけることで、候補者はしっかりと話を聞いてもらえているという安心感を得ることができます。また、PCの角度によっては面接官が下を向いているように見えることもあるので、自分が相手からどのように見えているのか確認しておくとよいでしょう。

すぐに実践できそうな対策ですね。現在は在宅で面接を行う場合もあると思いますが、オフィスではない環境でオンライン面接を行う際に面接官が留意することはありますか?

伊達氏:候補者は面接を受ける企業についての情報をできるだけ得たいという気持ちがあります。しかし、実際に入社しないとわからないことも多いので情報不足を感じがちです。このため、候補者は面接官の背後に写るほんのささいなものからも企業の社風などを推論しようとします。入社後のミスマッチを防ぐためにも、自社の雰囲気やカルチャー、働き方などに反するようなものが写っていないかどうか、一度チェックしておくとよいでしょう。写っているものを見て、候補者がどのような心理になるか、何を推論するかということを考えておく必要がありますね。

オフィス

オンラインでは面接前後の対応もより重要に

最近では、会社説明会などもオンラインで実施する企業が増えてきていますが、中途採用における会社説明会で留意することはありますか?

伊達氏:会社説明会については、言葉では伝わりにくい社風などをオンラインでどのように伝えるとより届くのかを考えることが大事になります。その解決策として、一つは社員同士で話している様子を見せることが挙げられます。例えば、年齢や役職が異なる社員同士が仲良さそうに話している場面を見せることで、「風通しの良さそうな会社だな」と推論してもらえるでしょう。もう一つは、社風を表すエピソードを豊富に用意しておき、それを候補者に話すことです。例えば、入社してすぐの社員からの提案で社内のルールが変わったなどというエピソードがあれば、社内の意見を柔軟に取り入れる社風だと伝わります。他にも、オフィスの一部や社員の服装など、社風や社員の人柄が伝わるようなものを見せるのも良さそうです。

会社説明会

会社説明会だけでなく、面接でも活用できそうですね。面接後の入社承諾者フォローも「惹き付け」が大事になってくると思いますが、オンラインでもできることはありますか?

伊達氏:入社承諾者に「自分はこの会社に合っている」と感じてもらうことができるかどうかが大事になります。一つは、入社承諾者と会社の類似点・共通点を見つけて伝えることで、「自分にはこの会社の社風が合っていそうだ」と感じてもらうことです。また、入社承諾者が持つ働く上での価値観やニーズに対して、自社ができることを伝えることも重要です。「こんな環境で働きたい」「こんな人材に成長したい」などのニーズをくみ取り、それに対してどのような環境を提供できるのか伝えることで、入社承諾者が自社へのフィット感を得ることができるでしょう。他には、自社が求める能力を入社承諾者が保持していると伝えることも有効です。自信につながり、入社に対してポジティブな印象になります。

入社承諾者のフォローについても、面接と同じ社員が対応するのが有効ですか?

伊達氏:オンラインの場合はその方がよいでしょう。人が変わるとまたゼロから信頼関係を構築しなければいけません。信頼関係がある程度構築されている社員がフォローをすることで、「自分はこの会社に合っている」「入社したい」という気持ちにより傾きます。

最後に、オンライン・WEB面接で候補者とのコミュニケーションに課題を抱えている人事・採用担当者に向けて、メッセージをお願いします。

伊達氏:実は採用において、そこまで多くの候補者を惹き付ける必要はないはずです。それよりも、自社に魅力を感じてくれる候補者を「探す」という発想が大切だと感じます。オンライン面接のメリット・デメリットを理解し、できることから工夫することで、自社に合った人材の採用につながることを期待しています。

【取材後記】

オンライン・WEB面接では候補者の志望度を高める「惹き付け」に課題がありつつも、面接官が実践できるさまざまな工夫があることがわかりました。オンラインの良さを活かし、面接だけでなく前後の工程も工夫することで、自社に合った人材の採用につながるのではないでしょうか。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、制作協力/株式会社はたらクリエイト