アメーバ経営とは|3つの特徴とメリット・デメリットを解説

d’s JOURNAL編集部

アメーバ経営とは、会社組織を小さな集団(アメーバ)に細分化し、小集団ごとに独立採算で運営する経営手法です。京セラ名誉会長の稲盛和夫氏によって生み出されました。

経営戦略の一つとして、アメーバ経営の特徴やメリット・デメリットを知りたい経営者もいるのではないでしょうか。

この記事では、アメーバ経営の概要や特徴、メリット・デメリット、導入方法、運営する際のポイントについてご紹介します。

アメーバ経営とは

アメーバ経営とは、京セラの稲盛和夫名誉会長が自らの会社経営体験から見出した、「全員参加経営の実現」を目的とする経営手法です。アメーバ経営には、「会社経営とは一部の経営トップのみで行うものではなく、全社員が関わって行うものだ」という稲盛氏の考えが反映されています。

全社員が経営者の意識を持って収支や事業運営を考える組織をつくるために、組織を小集団(アメーバ)に分け、小集団ごとにリーダーを任命。各小集団を一つの企業と見なし、独立採算制で運営を行います。

アメーバ経営では、各小集団の成果や収支を公開し、会社の経営数字を全社員にオープンにすることで、会社が目指す目的に向かって全員で協力し合える風土を醸成します。各小集団に属している社員一人一人が、「会社のために貢献しよう」と努力することで社員の経営者意識が高まり、「全員参加経営」が実現すると考えられています。

なお、アメーバ経営を実践している京セラは、1959年の創業以来赤字を出したことがないそうです。稲盛氏が経営に携わったKDDIの前進である第二電電や、経営破綻した日本航空(JAL)の再建にも用いられ、成果をあげました。現在では医療・介護業界でも導入が進み、業種を問わず、国内外で取り入れられています。

(参考:京セラ コミュニケーションシステム株式会社『アメーバ経営とは』)

アメーバ経営の特徴

アメーバ経営の最大の特徴は、会社組織を10人未満の小集団(アメーバ)に細分化して、日々の経営を管理していくことです。主な3つの特徴について詳しく見ていきましょう。

部門別の採算制度を用いる

アメーバ経営の特徴の一つが、組織を採算管理ができる最小の単位(部門)に分け、部門別の採算制度を用いることです。組織を細分化して収支責任を明確化することで、社員一人一人が自分たちの活動成果を把握しやすくなります。

各小集団の売上や利益、経費などの収支は月が終わると直ちに集計され、全社員に共有。経営者は「どの部署が、どのくらい利益を上げているか」を、社員は「自分がどれだけ利益に貢献できたか」を一目で確認できます。

その結果、社員一人一人が利益を意識するようになり、利益を生み出す意欲と責任を感じるようになるとされています。

収支決算は時間当たり採算

アメーバ経営では、収支決算を「時間当たり採算」とすることも大きな特徴です。一般の社員でも経営に関する数値を理解しやすいように、部署ごとに「採算表」という家計簿のような帳簿を作成し、部門ごとの仕事の成果を「時間当たり付加価値」として数字で見える化します。

例えば、製造部門の採算表では、家計簿の収入に当たるのが「総生産」、支出に当たるのが「経費」、残高に当たるのが「差引収益(利益)」です。「差引収益(利益)」を、小集団の全メンバーが「働いた総時間」で割ると「時間当たり付加価値」を算出できます。

「時間当たり付加価値」は小集団ごとの利益を見える化でき、小集団の規模が違っても収益性を比較できる便利な指標です。「時間当たり付加価値」からは小集団ごとの余剰能力や経営効率も見ることができるため、小集団や個人が創意工夫を生み出すための重要な指標でもあります。

このように、「時間当り採算」の実行により、社員一人一人が「どのように行動すれば会社の売上を向上させ、自分の給料の原資となる付加価値を増やすことができるのか」を理解できるようになるとされています。

製造部門の採算表例

「総生産」-「経費」=「差引収益(利益)」
「差引収益(利益)」÷「働いた総時間」=「1時間当たりの付加価値」

リアルタイムで経営情報を共有

リアルタイムで経営情報を共有することも、アメーバ経営の特徴と言えます。アメーバ経営では、各小集団に毎日概算の収支実績が共有されるため、メンバー全員がリアルタイムで経営数値を把握できます。月の後半ともなれば、リーダーが月初に立てた予定の達成に向けて順調かどうかがわかるため、万が一順調でない場合はリーダーを中心に利益を増やす方法を考え、実行する必要があるでしょう。

利益を増やす方法は、「売上を増やす」「経費を減らす」「時間を減らす(時間当たり付加価値を上げる)」の3つが考えられます。リーダーはメンバーと共に、これらの3方向から創意工夫に励むことが求められます。

なお、アメーバ経営を導入する際には、経営情報をほぼリアルタイムで集計し、会計や経営の知識がなくてもわかるように整理してリーダーに提供する部署も必要となります。

アメーバ経営のメリット

アメーバ経営の主なメリットとして次の3つが挙げられます。

収益拡大の意識向上

アメーバ経営では、リアルタイムで収益の算出が共有されるため、社員の収支に対する意識向上が期待できます。日々の数字の可視化・共有によって、社員の経営への参加意識と収支数字への意識が高まり、目標達成につながります。

個々の社員が高い目標を達成することで、最終的には全社の目標達成や高収益化が期待できるでしょう。

事業スピードが加速する

アメーバ経営では、「経営意識を持ったリーダーへの権限委任」と「独立採算による部署運営」により、上層部への決裁過程によるタイムロスを減らすことができます。

現場では市場の変化に対して臨機応変な意思決定ができ、一人一人が当事者意識を持って行動するため、課題の早期解決にもつながります。結果的に、事業のスピードアップが期待できるでしょう。

幹部候補を育成できる

アメーバ経営は、幹部候補の育成にも良い影響を与えるとされています。アメーバ経営では各部門の経営全般を任せるリーダーを置き、一つの会社を運営するような権限を与えるため、経営計画や実績管理、メンバーの育成など日々経営者としての経験を積むことが可能です。

それにより、各小集団のリーダーは、経営者意識を持つ人材に成長し経営者候補や幹部候補の輩出が期待できます。

アメーバ経営のデメリット

企業にとってメリットが多いアメーバ経営ですが、全ての企業でうまく機能するとは限りません。導入するに当たって想定しておきたいデメリットを3つ紹介します。

部署間の関係が悪化する可能性

アメーバ経営では部門ごとの独立採算制をとるため、良い意味でも悪い意味でも組織間の競争が発生しやすい環境になります。小集団間でライバルのような関係性が強くなりすぎるとセクショナリズムを生み、部署間の連携が取りづらくなる可能性があるでしょう。

小集団間で互いに刺激し合って収益を拡大していく方向に進むのが理想的であるため、他部署への不平不満や摩擦が生じないように、経営陣は適切に利害関係を調整する必要があります。

利益追求のみが目的になる可能性

社員の経営者意識が強まる反面、利益追求のみが目的になってしまう可能性があることもデメリットに挙げられます。利益を追求すること自体は悪いことではありませんが、利益だけを追求してしまうと、「成果物の品質が低下する」「顧客の要求に応えられなくなる」などの弊害が生じるリスクがあります。結果的に、顧客満足度の低下にもつながるため、利益追求のみが目的とならないように注意しましょう。

制度導入の難易度が高い

制度導入までの難易度が高い点も、アメーバ経営のデメリットです。組織の分割や独立採算制の導入など、システム面を整えるのにはある程度の時間が必要となります。それ以上に困難とされるのが、経営陣や現場レベルでの意識改革です。従来の意識のままで導入したとしても、経営陣や現場に変化への覚悟がなければ、導入時に想定したほどの効果は期待できないでしょう。

また、運営に当たって管理工数が増えてしまうことを避けるため、リアルタイムでの情報共有システムをしっかり構築しておくことも重要です。

アメーバ経営を導入する方法

アメーバ経営を導入するプロセスとして、以下の3つの手順があります。各手順について見ていきましょう。

アメーバ経営を導入する方法

①組織を小集団(アメーバ)に細分化する

まず、組織を独立採算で運営する5~10人規模の小集団(アメーバ)に分け、各小集団を一つの会社としてみなします。その上で、小集団ごとにリーダーを選任し、経営者意識を持たせます。

②収支や成果の数字を可視化する

次に、小集団ごとに「時間当たり付加価値」を算出し、小集団単位と個人単位での収支を公開します。アメーバ経営では、収支実績を毎日公表することが重要です。日々の収支を共有することで目標予算の達成状況を逐次確認でき、業務に関する素早い意思決定につながります。また、収支や成果の可視化によって部署間や個人間の比較が可能となるため、主体的な行動も促されるでしょう。

③リーダーに権限を委任する

アメーバ経営では、適切なリーダーを選び、リーダーに権限を委任します。事業計画の作成や実績管理、経費管理など、経営のほぼ全てをリーダーに任せることで、リーダーが各小集団において責任を伴う行動や意思決定が行える体制を構築できるのです。リーダーの裁量権が広がるため、迅速さが求められる場面でも現場で判断・対応しやすくなるでしょう。

アメーバ経営を運営するポイント

アメーバ経営の運営を成功させるために押さえておきたい2つのポイントを紹介します。

フィロソフィを徹底する

アメーバ経営では各リーダーの価値観や志向によって各小集団(アメーバ)がバラバラに動き、会社が意図する目標とは異なる方向に進んでしまう可能性があります。その防止策として求められるのが「フィロソフィ」の徹底です。

アメーバ経営を生み出した稲盛氏は、ここで言うフィロソフィについて、「公平」「公正」「正義」「誠実」「忍耐」「努力」「利他」などの言葉で表される「人間として正しい判断基準」と定義しています。

企業の進む方向性を示す「企業理念」のように、行動を決定する根拠となる価値観やルール、行動規範に近い概念とも言えるでしょう。アメーバ経営を導入する企業では自社に適したフィロソフィを定義し、全社員に浸透させる必要があります。

ワークライフバランスも配慮する

組織や個人間での競争が生まれやすいアメーバ経営では、成果をあげるために「時間外労働が常態化する」「休暇を取りにくくなる」などの状態が生まれる可能性も考えられます。「組織に迷惑をかけられない」との思いから、心身に支障を来す人を出さないように、十分なケアとワークライフバランスへの配慮が求められます。

まとめ

多くの経営者から支持を集めるアメーバ経営には、「収益拡大の意識向上」「事業スピードの加速」「幹部候補の育成」などのメリットがあります。一方で、「部署間の関係が悪化」「利益追求のみが目的になる」などのデメリットが考えられる点については、理解が必要です。

今回の記事で紹介した導入方法や運営する際のポイントを参考に、自社に合った形での導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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