終身雇用は崩壊?実は約半数の企業が終身雇用。その是非と次の時代への打ち手とは

d's JOURNAL編集部

同じ企業で正社員を定年まで雇用し続ける「終身雇用制度」。「年功序列制度」「新卒一括採用」とともに、日本の高度経済成長を支えた制度の一つとされています。しかし近年は、「成果主義」を導入する企業の増加や、人材の流動化により、「終身雇用制度は崩壊した」と語られることが多くなりました。一方で、日本の約半分の企業が、現在も終身雇用制度を継続していることもわかっています。今回は、終身雇用とはどんな制度なのか、歴史やメリット・デメリット、崩壊したと言われる理由、終身雇用の今後について、現状と併せて解説します。

終身雇用とは?

終身雇用とは、正社員として採用した従業員を定年まで雇用し続ける制度のこと。1958年にジェームス・C・アベグレンの著書『日本の経営』の中で、日本の雇用慣行を「Lifetime commitment」と名付けたことが語源とされています。日本語訳版で「終身の関係」と訳され、そこから終身雇用という名称が広まっていきました。
終身雇用は、企業に勤めた年数(勤続年数)が長くなるにつれて賃金が上昇していく制度「年功序列」と、高校や大学を卒業した学生を企業が年に1回一括して採用する制度「新卒一括採用」とともに、日本的経営の特徴と言われています。
(参考:『年功序列とは?1分でサクッとわかる、制度の仕組みとメリット・デメリット』)

「成果主義」との関係性

「成果主義」とは従業員が達成した成果に応じて、賃金・待遇が上昇する制度のことです。終身雇用とセットで語られることが多い「年功序列」は、従業員の成果にかかわらず、勤続年数に対して賃金が上昇していくため、「成果主義」と相反する制度と言えるでしょう。よって、「終身雇用」も「成果主義」とは反対の関係にある制度として考えられることが多いようです。
(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』)

終身雇用かどうかは何で定められている?法律?それとも契約書?

「終身雇用」は法律で定められていないため、「終身雇用をしなかった」からといって法律で罰せられることはありません。
「終身雇用」なのかどうかは、一般的に企業と個人の労働契約によって決められます。労働契約は法律によって2つに定められており、一つは「期間の定めのない」雇用である「無期雇用」と、もう一つは「期間の定めがある」雇用の「有期雇用」です。終身雇用は「無期雇用」にあたります。無期雇用と有期雇用のどちらで雇うかは、企業と従業員間で決定し合意を得ることが必要です。また、「終身雇用」については法律で定義されていないとはいえ、従業員を合理的な理由なく解雇した場合は、「解雇権の濫用」に当たる恐れがあります。そのため、終身雇用かどうかにかかわらず、解雇にあたっては注意が必要です。なお、これらの労働契約について、口頭で結ぶか、書面で結ぶかは法律で定められておらず、口頭での契約も認められます。しかし、トラブルを回避するためにも書面で交わすようにしておくとよいでしょう。
(参考:『【弁護士監修・雛型付】雇用契約書を簡単作成!各項目の書き方と困ったときの対処法』)

終身雇用の歴史

現在のような終身雇用の原型が生まれたのは、大正末期から昭和初期にかけてだと言われています。それ以前は能力給、いわゆる成果主義のような制度が一般的でした。そのため高い技術を持った優秀な熟練工は、より良い待遇を求めて職場を転々とすることが多く、腕の良い熟練工が定着せず、採用・育成に大きな負荷が掛かっていました。この状況を解消するため、大企業や官営工場などは「定期昇給制度」や「退職金制度」などを導入し、長期雇用と年功序列を重視した雇用制度の基盤を築きます。

その後、雇用制度に変化が起きたのは、第2次世界大戦後の高度経済成長期です。企業は競争力強化を目的に、優秀な人材の囲い込みを行うようになりました。その囲い込みを進める仕組みとして「新卒一括採用」や「年功序列」を前提とした長期雇用が一般的になったのです。こうして、「終身雇用」は徐々に定着していきました。
(参考:『年功序列とは?1分でサクッとわかる、制度の仕組みとメリット・デメリット』)

「崩壊した」と言われる理由

2019年4月、経団連の中西宏明会長は「企業が終身雇用を続けていくのは難しい」と言及し、今後の雇用の在り方を見直す方針を示しています。また、2019年5月に、トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用の維持は難しい」と発言したことも、社会に大きなインパクトを与えました。経済界のリーダーによるこれらの発言のように、近年「終身雇用の崩壊」について語られる局面が増えています。なぜ「崩壊した」と言われるのか、その理由について解説します。

理由①:終身雇用は右肩上がりの経済状況を前提としているため

年功序列を前提にした終身雇用は、長く雇用するほど人件費が増加します。終身雇用が生まれた背景からもわかる通り、終身雇用は右肩上がりの経済状況と企業の成長を前提にした雇用制度です。しかし、バブル崩壊やリーマンショックなどの影響から、日本経済は長期間の低迷が続いています。内閣府がまとめた「日本のGDPの推移」にある「主要国の名目GDPの推移」を見ると、日本の名目GDPは低成長を続けていることが見て取れます。

「崩壊した」と言われる理由

このように経済成長が見通せず先行きが不安な状態が続けば、企業は終身雇用を継続することが難しくなると考えられるでしょう。
(内閣府:『日本のGDPの推移(主要国の名目GDP、国別シェア)』より一部抜粋)

理由②:ITの進化によって働き方が変化している

ITの進化によって、多くの企業ではデジタル化やICT化が進んでおり、生産性向上を目的とした働き方改革が推進されています。これまでのような「長く働くことで評価される」という考えではなく、「時間当たりの労働生産性」が重視されるようになり、働き方に対する価値観が変化してきていると言えるでしょう。
また、これまで人間が担ってきた事務職や生産職の一部は、この先AIやロボティクスに置き換わるとも言われており、働き手に求められるスキルは大きく変化すると考えられています。このことからも、長く働くことでスキルを蓄積させる人材育成を行っていた終身雇用の企業が、今後高い成果を出せるとは言い切れなくなっているのです。

理由③:人材獲得を目的とした「成果主義」の台頭

少子高齢化の影響により、特に若年層の人材が不足しています。その中で、若手人材の確保のために「成果主義」を導入する企業も増えているようです。年功序列を前提にした終身雇用は年齢に応じて賃金が上がるシステムであり、仕事の成果で評価されたいと考えている若い世代の価値観に合わないのでしょう。また企業側も、経営状況の変化に臨機応変に対応するため、年功ではなくスキルを持った人材を評価していきたいと考えるケースが増えています。成果主義の台頭は「終身雇用の崩壊」に大きく影響していると言えるでしょう。

終身雇用のメリット

長らく日本経済を支えてきた終身雇用にはどのようなメリットがあるのでしょうか。2つに分けて紹介します。

メリット①:企業への帰属意識が高まる

終身雇用制度では、従業員側も「定年までこの会社で働く」ことを前提としています。雇用が保証されているため、従業員は企業に対して強い信頼を感じるようになります。また、長く一緒に働く仲間に対しても、互いに愛着を持つようになるでしょう。その結果、「自分は組織の一員である」といった帰属意識が高まります。帰属意識の向上により、従業員は「会社の成長のために自分ができることは何か」と主体的に業務に取り組むようになるでしょう。

メリット②:従業員を長期的・計画的に育成できる

終身雇用は従業員を長い期間雇用するため、長期的な視点で、計画的に人材を育成できます。人材育成は企業の成長に欠かせない活動ではありますが、一方で大きなコストも発生します。せっかく育てた人材が短い期間で辞めてしまうのは損失が多く、より長く働いてもらう方がメリットとなるでしょう。求めるスキルや価値観を明確化し、それを身につけるための育成を計画的に進めることで、自社の将来を支える人材を継続的に育成できると言えます。
(参考:『離職率とは?計算方法や業種別平均離職率、離職率を下げる方法【計算用エクセル付】』)

終身雇用のデメリット

終身雇用制度にはメリットがある一方、デメリットも指摘されています。終身雇用が企業や従業員に及ぼすデメリットをご紹介します。

デメリット①:従業員が向上心を持ちにくい

終身雇用によって、従業員が「向上心を持ちにくくなる」ことがデメリットとして挙げられるでしょう。終身雇用は定年までの雇用が保証されているため、従業員が「必要以上に頑張らなくても働き続けられる」といった意識を持つかもしれません。そういった場合は向上心が持ちにくく、成長するための努力も行われない可能性があります。向上心の低下は、生産性やチームワークにも良くない影響を及ぼすでしょう。

デメリット②:多様な人材を獲得しにくい

新卒を一括で採用し定年まで雇用する終身雇用の制度では、働き方の多様性が生まれにくいというデメリットもあります。「新卒一括採用」は、人材を効率的に獲得することを目的に生まれた制度であるため、年齢や知識、スキルなど、比較的属性が近い人材を採用しがちです。そのため、人材の多様性が広がりにくくなると考えられます。

終身雇用は本当に崩壊したのか?実は日本の約半数の企業が終身雇用制

「終身雇用は崩壊した」という声が多く聞かれるようになりましたが、前述したように、まだ日本の約半数の企業が終身雇用制度を続けているという調査結果があります。厚生労働省職業安定局が発行している「我が国の構造問題・雇用慣行等について」によると、若年期に入職してそのまま同じ企業に勤め続ける人(生え抜き社員)は、2016年時点で大卒正社員の約5割という結果に。長期的には低下傾向にあるものの、この結果から終身雇用制度を続けている企業が多いことが伺えます。

●同一企業に勤め続ける人(生え抜き社員)の割合の推移

同一企業に勤め続ける人(生え抜き社員)の割合の推移

また、同じ企業で勤め続けている人を産業別で見てみると、「金融業、保険業」が約8割で最多、次いで「建設業」「卸売業、小売業」「情報通信業」が5割以上となっています。

●産業別生え抜き社員(正社員)割合の推移(大卒)

産業別生え抜き社員(正社員)割合の推移(大卒)
(厚生労働省職業安定局『我が国の構造問題・雇用慣行等について』より一部改変)

終身雇用はこの先どうなるか?

終身雇用はこの先、続いていくのか、それとも崩壊していくのでしょうか?それぞれの視点から、見解を解説します。

「続いていく」と考える人の見解

終身雇用は崩壊が進むと言われている一方で、終身雇用制度を維持する企業はなくならないだろうという見解もあります。独立行政法人労働政策研究・研修機構の『「第7回勤労生活に関する調査」結果』によると、終身雇用を支持する割合は過去最高の87.9%と9割近くに達し、1999年の72.3%に比べて15ポイント以上支持割合が上昇しています。

日本型雇用慣行の支持割合

(独立行政法人労働政策研究・研修機構『「第7回勤労生活に関する調査」結果』より一部改変」)

将来の見通しへの不安から終身雇用を支持する人が増えていることがわかります。人手不足の課題を抱えている企業においては、人材を抱え込む手段として「終身雇用制度」が有効であるため、「この先も継続していくのではないか」と考えられているようです。

「崩壊していく」と考える人の見解

一方で、「終身雇用は崩壊していく」という主張もあります。この主張に対する根拠となるのは、期間の定めがある「非正規雇用」が増加傾向にあることです。総務省統計局の「統計が語る平成のあゆみ」によると、非正規の職員・従業員は平成の30年間で「817万人」から「2,117万人」と1,300万人増加しました。この先も非正規雇用が増え続けると予想すると、終身雇用制度は実質的に「崩壊していくのではないか」と考えられます。

正規の職員・従業員、非正規の職員・従業員数及び役員を除く 雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合の推移(平成元年~平成30年)

また、デジタル化やグローバル競争の激化により、企業が生き残るためには、より高い専門性が追求されるようになりました。そのため、ICTやAIなど、特定の分野で高いスキルを持つ人材が歓迎される傾向にあります。このようなことからも、今後企業と個人の関係は、定年までの雇用を守る代わりに仕事を与えるといった「主従関係」から、スキルにひもづいて必要な人材と企業が向き合うようになる「対等な関係」へ変化していくと考えられています。
(参考:総務省統計局「統計が語る平成のあゆみ ー2. 労働 雇用の流動化、女性の活躍ー」より一部改変)

次の時代への打ち手とは

終身雇用の今後について両極の意見がある中で、企業は先を見据えた「人材獲得の対策」が必要となるでしょう。最適な人材を獲得するために、次の時代への打ち手となる対策を3つのカテゴリーに分けて解説します。

キャリアステップを重視した人材育成

自社に合った従業員を定着させるためには、従業員一人一人の能力やスキルを中長期的に向上させていくための「キャリア開発」に取り組む必要があります。終身雇用が一般的だった時代と比べて、現在はキャリアアップのための転職も珍しくありません。自社ではどのようなキャリアパスを描けるのか、また目指すキャリアに到達するためにはどのような経験を積み、スキルを身に付けるのか、道筋を提示することが大切です。従業員が将来の目標に向けて意欲的に業務に取り組めるよう、環境を整備しましょう。例として、リカレント教育や、OJTなどの社内研修を充実させるといった取り組みが有効です。
(参考:『キャリア開発が企業にとって必要な3つの理由と、その手法・取り組み事例について』『リカレント教育とはいつどんなことを学ぶもの?企業が導入するメリットと取り組み事例』『OJTとは?メリットデメリット、やり方、手順を徹底解説【受け入れシート付】』)

労働時間での評価ではない、新たな評価制度を導入する

経済のグローバル化が進む中、人事評価制度も時代に合わせた変化が求められます。従来の「どれだけ働いたのか」で評価される仕組みから、成果や目標達成、個々の強みで評価される制度に切り替えることで、仕事への意欲やモチベーションが高い人材を獲得することができるでしょう。「業務内容や成果」「スキル」「会社への貢献度」「目標達成までのプロセス」など、さまざまな角度で評価することが重要です。「MBO」「360度評価」「コンピテンシー評価」などが有効な手法と言えます。
(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』『MBO(目標管理制度)とは?目標設定・振り返り方法など成果が出る運用の秘訣を紹介』)

多様な働き方ができる職場環境を整備

これからの時代、「働きたい企業」として選ばれるためには、多様な働き方ができる環境整備が求められます。たとえば、「短時間勤務」「フレックスタイム」「テレワーク」などは、時間や場所に捉われることなく働ける制度として有効です。育児や介護などで働く時間に制限のある人材が、より働きやすくなるでしょう。また、副業や兼業を支援する制度も、柔軟な働き方を希望する人材に対して魅力的なアピールとなります。その他にも、企業を選ぶ重要なポイントである「福利厚生」の見直しも検討してみましょう。住宅補助や交通費補助といった一般的な制度だけではなく、自社オリジナルのユニークな制度を取り入れてみてはいかがでしょうか。
(参考:『【弁護士監修】短時間勤務制度を育児や介護、通院等で正しく運用するための基礎知識』『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』『「テレワーク」とは。働き方改革に向けて知っておきたいメリット・デメリットや実態』『福利厚生はコレがおすすめ~福利厚生の種類や導入方法など知っておきたい基本事項~

まとめ

「崩壊した」という表現で語られることが少なくない終身雇用ですが、その言葉とは裏腹に、終身雇用を続けている企業は多く、先行きに不安を抱える世代に支持されているという一面もあるようです。しかし、この先も少子高齢化が進み、人材不足がますます深刻な課題となる中で、これまでの終身雇用制度をそのまま維持することは難しくなっていきます。今後は、終身雇用における人材獲得のメリットを活かしつつ、今の時代に合わせた新たな打ち手を講じていくことが求められるでしょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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