GX(グリーントランスフォーメーション)とは|基礎知識や企業事例を解説

d’s JOURNAL編集部

脱炭素社会の実現に向けた取り組みを通じ、経済社会システム全体を変革する「GX(グリーントランスフォーメーション)」。

「GXとは何か」「実際にどのような取り組みが行われているのか」などを知りたい経営者や人事担当者もいるでしょう。

この記事では、GXの定義や注目されている背景、企業に求められる取り組みなどを解説します。GXに取り組んでいる企業の事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを通じた、経済社会システム全体の変革です。

英語では、「Green Transformation」と表記します。経営産業省がGXを提唱したことから、この言葉が使われるようになりました。経済産業省では、GXを以下のように定義しています。

GXの定義

2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた、経済社会システム全体の変革がGXです。

(参考:経済産業省『GXリーグ基本構想』)

単に脱炭素社会の実現を目指すのではなく、「産業競争力の向上」やひいては「経済社会システム全体の変革」をも図っていくことがGXであると言えるでしょう。

GXが注目されている背景

近年、GXへの関心が高まっています。GXが注目されている背景としては、以下の3つがあります。

・地球温暖化による気候変動
・カーボンニュートラル宣言
・ESG投資の市場拡大

地球温暖化による気候変動

まず挙げられるのが、「地球温暖化による気候変動」という世界規模の問題です。地球温暖化が進んだことにより、近年では豪雨災害や干ばつ、竜巻、異常乾燥が原因の大規模な山火事といった異常気象・自然災害が世界中で頻発。

こうした状況は、「食料が不足する」「住居に安心して住めなくなる」というように、人々の生活に直結する問題です。また、「製品を生み出すのに必要な資源が枯渇する」「物流が途絶され、原材料や製品を運べなくなる」など、経済活動に甚大な影響をもたらす恐れのある問題でもあります。

異常気象や自然災害が頻発する状況が続けば、いずれ世界経済全体が停滞していくでしょう。そのため、経済社会の発展と地球環境保全を両立させるべく、GXの推進が世界中で急務となっているのです。

カーボンニュートラル宣言

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。2020年10月26日、菅内閣総理大臣は第203回国会における所信表明演説にて、カーボンニュートラルの実現に向けた宣言をしました。

この宣言は、「カーボンニュートラル宣言」と呼ばれています。宣言の中では、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すこと」が示されました。

このことが多くのメディアで連日取り上げられた結果、カーボンニュートラル宣言との関連性が高いGXが注目されるようになったのです。

(参考:環境省 脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは』)
(参考:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説』)

ESG投資の市場拡大

ESG投資とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つの観点(ESG)から企業を評価し、投資先を決める投資方法のこと。

世界持続的投資連合(GSIA)によると、世界主要5市場におけるESG投資の運用額は2018年~2020年の過去2年間で15%増加し、2020年初頭には35.3兆米ドルに達しました。また、ESG投資の運用額は運用資産総額の35.9%を占めており、2018年の33.4%から2.5%上昇しています。

今後もESG投資の市場拡大の動きが続くと見込まれているため、ESGを軽視した企業活動を行えば、いずれは株価の維持や資金調達が困難になる可能性があります。そのため、ESGとも関連が深いGXへの関心が高まっているのです。

(参考:GSIA『GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020』p5)
(参考:『【5分でわかる】ESG・ESG投資とは?-選ばれる企業になるために必要な経営戦略-』)

国内でのGXに対する取り組み

国内でのGXの取り組みとして押さえておきたいのが、「GX実行会議の設置」と「GXリーグ本格稼働に向けた動き」です。それぞれについて、見ていきましょう。

GX実行会議を設置

GX実行会議とは、GXの実行に必要な施策を検討することを目的とした会議のこと。2022年7月に岸田内閣総理大臣によって設置されました。内閣総理大臣や関係省庁の大臣、有識者などで構成されるGX会議は、約1カ月に1回のペースで開催されています。

2022年12月に開催された第5回の会議では、今後10年を見据えたロードマップとして、「GX実現に向けた基本方針」が示されました。

同基本方針に基づき、今後は「徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換)」「再生可能エネルギーの主力電源化」などの取り組みが推進されていく見込みです。

(参考:内閣官房『GX実行会議』『GX実行会議の開催について 令和4年7月7日内閣総理大臣決裁』『GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~』)

GXリーグが2023年4月以降に本格稼働予定

GXリーグとは、GXヘの挑戦を行い、現在および未来社会における持続的な成長実現を目指す企業が同様の取り組みを行う企業群を官公庁や学術機関と共に協働する場のこと。

GXリーグは、GXに挑戦する企業が排出量削減に貢献しつつ、外部から正しく評価され成長できる社会(経済と環境および社会の好循環)を実現することを目指しています。

経済産業省は2022年2月1日に、「GXリーグ基本構想」を発表。同基本構想では、「GXリーグの取り組みを通じて目指す世界」や「GXリーグ参画企業の考え方」「GXリーグの取組・プロジェクト」「GXリーグ参画企業に対するインセンティブ・支援」「GXリーグの設立準備にむけた進め方」が示されました。

2022年12月31日までに、合計658社がGXリーグ基本構想に賛同。2023年4月以降の本格稼働に向け、準備が進められる予定です。

(参考:経済産業省『GXリーグ基本構想』)
(参考:GXリーグ設立準備公式WEBサイト
(参考:GXリーク設立準備公式WEBサイト『ABOUT GX LEAGUE』)

企業に求められるGXへの取り組み

GXリーグに参画する企業には、「自らの排出削減の取り組み」「サプライチェーンでの炭素中立に向けた取り組み」「製品・サービスを通じた市場での取り組み」が求められます。

経済産業省が発表した「GXリーグ基本構想」を基に、それぞれの取り組みについて見ていきましょう。

自らの排出削減の取り組み

企業には、自社が排出する温室効果ガスの排出量削減に向け、自ら目標設定し、その実現に向けた挑戦を行い、取り組み内容を公表することが求められます。

具体的な取り組み

取り組み内容 補足
①:2050CN(2050年カーボンニュートラル)に賛同し、これと整合的と考える2030年の排出量削減目標を掲げ、その目標達成に向けたトランジション戦略を描く。 ●目標設定範囲は直接及び間接排出を対象。
●2030年までの中間地点での目標設定も行う。
②:目標に対する進行度合いを毎年公表し、実現に向けた努力を行う。 ●自らが設定した削減目標に達しない場合は、直接排出(国内分)に関して、Jクレジット等のカーボン・クレジットや企業間での自主的な超過削減分の取引を実施したかも公表する。
③:わが国(日本)がNDCで表明した貢献目標(2030年46%削減)より野心的な排出量削減目標に引き上げる。 ●自主的目標に基づく超過削減分の創出については、低い目標設定や事業縮小による創出を防ぐ観点から、直接排出について上記の野心的な基準を設けることも検討。

(参考:経済産業省『GXリーグ基本構想』)
※①と②の取り組みは必須項目、③の取り組みは任意項目

②の補足にある「カーボン・クレジット」とは、温室効果ガスの排出削減量を企業間で売買できるようにする仕組みのこと。代表的なものとして、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する「J-クレジット制度」があります。

③にある「NDC」とは、気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」において、5年ごとの提出・更新が各国に義務付けられている「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution)」のことです。

(参考:J-クレジット制度
(参考:外務省『気候変動 日本の排出削減目標』)

サプライチェーンでの炭素中立に向けた取り組み

自社のサプライチェーンにも働きかけを能動的に行い、サプライチェーンにおけるカーボンニュートラルの実現を図っていくことも、企業には求められます。

具体的な取り組み

①:サプライチェーン上流の事業者に対して、2050CN(2050年カーボンニュートラル)に向けた排出量削減の取組支援を行う。
②:サプライチェーン下流の需要家・生活者に対しても、自らの製品・サービスへのCFP(カーボンフットプリント)表示等の取組を通じて、能動的な付加価値の提供・意識醸成を行う。

③:サプライチェーン排出についても、国としての2050CNと整合的と考える2030年の削減目標を掲げ、その目標達成に向けたトランジション戦略を描く。

(参考:経済産業省『GXリーグ基本構想』)
※①と②の取り組みは必須項目、③の取り組みは任意項目

なお、②にある「CFP(カーボンフットプリント)」とは、商品・サービスの「原材料調達」から「廃棄・リサイクル」までの過程で排出される温室効果ガスの排出量をCO2排出量に換算し、商品・サービスに表示する仕組みのことです。

(参考:経済産業省『カーボンフットプリント(CFP)の概要』)

製品・サービスを通じた市場での取り組み

環境に配慮した製品・サービスが多くの消費者に選択され、環境負荷による社会的なコスト(外部不経済)が市場経済の中で評価されるようにする「市場のグリーン化」をけん引していくことも、企業には求められます。

(参考:環境省『市場の更なるグリーン化に向けて<主な論点の整理>』)

具体的な取り組み

①:生活者、教育機関、NGO等の市民社会と気候変動の取り組みに対する対話を行い、ここでの気づきを、自らの経営に生かす。
②:自ら革新的なイノベーション創出に取り組み、またイノベーションに取り組むプレイヤーと協働して、新たな製品・サービスを通じた削減貢献を行う。また、クレジット等によるカーボン・オフセット製品の市場投入により、グリーン市場の拡大を図る。

③:自らのグリーン製品の調達・購入により、需要を創出し、消費市場のグリーン化を図る。

(参考:経済産業省『GXリーグ基本構想』)
※①と②の取り組みは必須項目、③の取り組みは任意項目

企業がGXに取り組むメリット

企業がGXに取り組む主なメリットとしては、「エネルギー使用コストの削減」と「ブランディングによる社会的評価の向上」が挙げられます。

エネルギー使用コストの削減

GXに取り組む際は、温室効果ガスの削減に向け、自社の生産活動における「エネルギーの削減」や「再生可能エネルギーの活用」などが行われます。つまり、GXは地球環境に貢献する活動であると同時に、省エネやエコにつながる取り組みでもあるのです。

自社で使用するエネルギー量を抑えたり、太陽光発電・風力発電などを活用したりすることにより、必然的にエネルギー使用コストを削減できます。エネルギーコストの削減分を既存事業の拡販や新事業の開発に充てれば、企業の成長にもつながっていくでしょう。

ブランディングによる社会的評価の向上

GXに取り組む「環境問題への関心が高い企業」だと社外に示すことにより、取引先や消費者などからの信頼が増し、自社のブランディングにつながります。

ブランディングにより自社の社会的価値が向上することで、「取引先が増える」「投資家から資金を集めやすくなる」「自社の商品・サービスを利用する人が増える」といった効果が期待できます。

また、「環境問題への関心が高い企業」は就活中の学生や転職希望者から人気となる傾向があるため、自社への就職希望者が増え、人材を獲得しやすくなるでしょう。

GXを推進する際に活用できる補助金

GXを推進する際に活用できる補助金としては、「ものづくり補助金(グリーン枠)」や「事業再構築補助金(グリーン成長枠)」などがあります。

「ものづくり補助金(グリーン枠)」は、温室効果ガスの排出削減に資する取り組みに応じる企業を支援するための補助金です。革新的な製品・サービス開発または炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による、生産性向上に必要な設備・システム投資などが支援対象となります。

「事業再構築補助金(グリーン成長枠)」は、研究開発・技術開発または人材育成を行いながら、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題解決に資する取り組みを行う中小企業などの事業再構築を支援することを目的とした補助金です。

2023年1月現在の補助金額は、中小企業等の場合には「100万円~1億円」、中堅企業等の場合には「100万円~1.5億円」となっています。

(参考:ものづくり補助金総合サイト
(参考:中小企業庁 事業再構築補助金

企業のGXへの取り組み事例

GXに初めて取り組む際、目標設定や活動の方向性などは、すでに実践している企業の例を参考にしてみるのも一つの方法です。

ここでは、すでに取り組みを行っている企業の事例を紹介します。

東京電力ホールディングス株式会社 ~日本のカーボンニュートラルに貢献~

東京電力ホールディングスは、様々な分野のお客さまに応じたカーボンニュートラルにいたるシナリオ・戦略を描き、新たな価値提供と併せて提案、お客さまとともに実現していくことで、日本のカーボンニュートラルに貢献しています。

一例として、タクシーアプリ「GO(ゴー)」などモビリティDXを推進する株式会社Mobility Technologiesが行う「タクシー産業GXプロジェクト」において、EVタクシーが導入される営業所のカーボンニュートラル化等の実現に向け、パートナー企業として参画しています。

その他、具体的なGX施策として、電化の推進、CO2ゼロメニューの充実、蓄電池ビジネス事業化・サービス提供、EV・充電ネットワーク普及拡大、国内洋上風力の開発・導入などを行っています。注力している採用職種は、再エネルギー事業推進や発電所開発、EV推進などです。

株式会社東光高岳 ~地産地消エネルギーシステムやグリーン水素製造システムの導入などでGXを推進~

大規模な太陽光発電設備や蓄電池を利活用したエネルギーマネジメントシステム、グリーン水素を製造するP2Gにマネジメントシステムの導入・見える化、省エネシステムの納入などを行い、GXを推進。

注力している採用職種は、プロジェクトマネージャー、GXソリューション事業担当者、施工管理技士です。

まとめ

GXリーグに参画する企業には、「自らの排出削減の取り組み」「サプライチェーンでのカーボンニュートラルの取り組み」「製品・サービスを通じた市場での取り組み」が求められます。

GXに取り組むことで、「エネルギー使用コストの削減」や「ブランディングによる社会的評価の向上」というメリットが期待できるでしょう。企業としてGXを推進していく際には、各種補助金の活用をおすすめします。

GXに取り組んでいる企業の事例を参考に、自社でどのようにGXを進めていくかを検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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