【デンカのハイクラス人材採用ノウハウ】採用候補者最優先で取り組むべき「要件定義」「スピードアップ」「人材紹介サービスとの連携」

創業108年、東証プライム上場の化学メーカーとして成長を続けるデンカ株式会社。従来の強みを活かした電子・先端プロダクツ領域に加え、近年ではメディカル領域など新分野における事業も拡大しています。こうした背景からキャリア採用実績も年々増加し、2022年は20名を超えるハイクラス人材を外部から迎え入れました。
とは言え、ハイクラス人材採用に当たっては課題も少なくなかったといいます。採用候補者である専門人材は異業種の大手企業とも競合し、BtoB企業ならではの採用ブランディングの難しさにも直面。同社はこれらの壁をどのように乗り越えているのでしょうか。採用体制の刷新から始まった取り組みの詳細を聞きました。
新卒一括採用の限界を打破するハイクラス採用。BtoBメーカーの宿命が大きな壁に
——貴社では2022年以降、ハイクラス人材のキャリア採用が急拡大しています。この背景をお聞かせください。

足立氏:当社は長年にわたり新卒採用一辺倒でやってきました。しかし近年の市場変化や事業拡大によって、新卒一括採用の限界を感じるようになったのです。
現在当社が注力している事業部門としては、アセチレンブラックや機能性セラミックス・フィルム・テープなどに代表される電子・先端プロダクツ部門、そしてインフルエンザワクチンや各種ウイルス抗原診断キットなどを手がけるライフイノベーション部門があります。特に後者のライフイノベーション部門は、当社の中では比較的歴史の浅い部門ということもあって、プロパー社員の専門家は決して多くはありません。
また、これは多くの日本企業に共通していることかもしれませんが、バブル崩壊後から10年ほど、当社では新卒採用が極端に少ない時期が続きました。そのためマネジメント層などのキーポジションを担う人材が不足しています。少子化トレンドが続く現状を踏まえると、今後もキャリア採用がますます重要になっていくと考えています。
——ハイクラス人材のキャリア採用を進める上ではどんな課題がありますか?
足立氏:BtoBメーカーの宿命として、転職市場全般での知名度が低いことは大きな課題だと捉えています。ライフイノベーション部門は人々の暮らしに密接した事業ではあるものの、顧客は医療機関が中心であり、一般の方々にはあまり知られていません。
2014年からJリーグ「アルビレックス新潟」のホームスタジアムとなっているデンカビッグスワンスタジアムのネーミングライツを獲得するなど、知名度を高める取り組みも行っていますが、たとえば「電気分野の専門知識を持つ人材がほしい」と考えても、大手電機メーカーや自動車メーカーと競合するとなかなか当社を選んでもらえないのが現状です。
デンカは化学プラントや水力発電所を自社で保有しており、設計から製造まで一気通貫で行っています。クリーンエネルギーへの取り組みを企画段階から行っているなど、電気分野のエンジニアに対しても魅力的で刺激的な環境が整っていると胸を張って言えるので、採用活動ではこうした深い部分まで伝えていけるようにしたいと考えています。
「現場の思いを踏まえた要件定義」でジョブディスクリプションを具体化
——この課題に対して、どのような取り組みを進めているのでしょうか。
足立氏:まずは採用活動のための体制を大きく見直しました。従来、人財戦略部では課長クラスが採用と他業務を兼任していたのですが、2023年4月からは専任の「採用課長」を置いて採用活動に専念できるようにしています。加えて、採用候補者の母集団を拡大した際に最終面接のリソースが不足しないよう、部長である私に加えて副部長も、面接を最優先にして動く体制としました。
その上で、3つのポイントに重点を置いて採用活動を改善しました。「ジョブディスクリプションの具体化」「レスポンスと意思決定のスピードアップ」「人材紹介サービスとの関係性強化」です。

——詳しくお聞かせください。
足立氏:まずジョブディスクリプションの具体化にあたっては、採用するポジションごとに人材紹介サービス担当者とのミーティングを設け、採用予定部署の部課長クラスにも参加してもらっています。採用に向けた思いや採用候補者への期待、募集背景なども人材紹介サービス担当者に伝え、求人票に反映してもらっています。
特に重視しているのは、採用するポジションの面白みや奥深さ、3年後〜10年後までを見据えたキャリアパスなども詳しく記載していくことです。入社後に働く現場の生の声を伝え、より解像度の高い求人票に仕上げられるように心がけています。
選考スピードアップの秘訣は「雑談ベースの情報共有」
——「レスポンスと意思決定のスピードアップ」についても教えてください。
足立氏:カジュアル面談やオファー面談などの採用候補者からの要望に対応しつつ、応募から一次面接まで、そして内定を出すまでのリードタイムをできる限り短縮できるように取り組んでいます。全てがうまくいけば、応募から内定まで最短で2週間ほど。面接担当者は大変ですが、ここは絶対に手を抜かないようにしていますね。最終面接を担当する部長や副部長は、ほぼ毎日面接に動いている状況です。私の場合は、多いときで1日3件の最終面接を担当することもあります。
——多数の面接予定や採用候補者情報を共有していく際の秘訣は?

足立氏:人財戦略部内では、雑談のような形でも構わないので、とにかく早く情報を上げてもらうようにしています。わざわざ報告をするためだけに書類を作りこむ必要はありません。大切なのはポイントを押さえて素早く共有することです。新しい取り組みの提案についても、良い内容なら口頭ベースで確認し、「まずはやってみよう」の気持ちで、スピード感をもって進められるようにしています。
——もう一つのポイントである「人材紹介サービスとの関係性強化」はどのように進めているのでしょうか。
重視しているのは「厳しいことも言い合える関係性づくり」です。と言っても、当社が顧客然として偉そうに構えることはしません。私たちが人材紹介サービスにお願いしたいことを率直に伝え、情報は一切出し惜しみしない。人材紹介サービス側からは私たちが採用候補者に選ばれない理由も含めて率直にフィードバックしてもらう。このやりとりができるからこそ、一人ひとりの採用候補者の採用成功につながるのだと思っています。
そうした関係性をつくるために、定例ミーティングや人材紹介サービスの担当者向け説明会などの場を大切にするとともに、「1日に1回は何でもいいから会話する」ことを意識して接点を多く持つようにしています。
プラントエンジニア、知財担当者、経営企画など「キーポジション」を担う人材が続々入社
——実際に採用成功したハイクラス人材の事例についてもお聞きしたいです。
足立氏:採用が難航していたプラントエンジニアの職種において入社いただいた方の例をご紹介します。
プラントエンジニアとして電気系のご経験が豊富で、当社に入社いただいた後も即戦力としてご活躍いただける方だと考えておりました。併願企業もありましたが、面接を通じて当社の魅力、エンジニアリング部での働きがいをお伝えした上で当社への入社を決定していただきました。
他にもワクチン担当MRや高機能材料の国内営業、知的財産、経営企画など、さまざまなポジションで採用できています。当社の課題であったキーポジションを担える人材の確保も、ハイクラス採用への取り組みによって着実に進んでいると感じます。

——今後、キャリア採用全般に向けてはどのような展望をお持ちでしょうか。
足立氏:当社は今、“Mission 2030”として、2030年までに女性・外国籍・中途入社の管理職比率をそれぞれ50%に高めることを目標に掲げています。女性や中途入社の管理職比率は着実に高まっているのですが、外国籍の管理職比率はまだまだ低い現状にあります。事業のグローバル化のスピードを考えると、外国籍の管理職比率を高めていくことは特に強化していきたいポイントです。ハイクラス人材採用に引き続き注力しつつ、グローバル規模での人材確保に向けても取り組みを進めていきたいと考えています。
取材後記
「部長がどんなに忙しそうにしていても、面接の日程は躊躇なく差し込んでいます」。取材に同席していただいた採用担当の方々は、笑いながらそう話していました。デンカが重視する「ジョブディスクリプションの具体化」「レスポンスと意思決定のスピードアップ」「人材紹介サービス担当者との関係性強化」の3点は、いずれも採用候補者を最優先に考える採用活動から生まれたスタンスだと言えるのではないでしょうか。創業100年を超える大手化学メーカーの驚くほど柔軟な体制には、学ぶべきところがたくさんありそうです。
企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/中澤真央