はじめてのダイレクト・ソーシング(ソーシング編)

株式会社アイスブルー・アンド・カンパニー 代表取締役 粟井英仁
株式会社アイスブルー・アンド・カンパニー

代表取締役 粟井英仁

プロフィール

「ソーシング」とは、人材データベースやSNSなどから採用したい人材を見つけてアプローチして母集団形成することです。ソーシングを人材紹介サービスや求人媒体で行う場合は、「自社のことを知っている人」「応募意思がある人」とのコミュニケーションが前提でした。

しかしダイレクト・ソーシングの場合は、その前提がない人に直接アプローチする必要があります。ファーストコンタクトのツールである「スカウトメール」に記載すべきことを中心に、どのようなアプローチをすればよいのかを紹介します。

※この記事は、doda主催のセミナーで、アイスブルー・アンド・カンパニー 粟井英仁氏に、ご講演いただいた内容をもとに制作しています

ソーシングの概念図

メールの件名

■ NG例…
【求人紹介】/【○○職の募集】【セミナー】

■ 良い例…
【○○との面接確約(事業部長・CTO・社長・人事部長)】

■ 理想的な例…
【CTOの○○です。キャリアについて面談しませんか】/【あなたが希望している○○を提案します】/【複数求人のご提案】

ポイント解説

メールの件名は、そのメールを開いて見てもらえるかどうかを左右するポイントであり、工夫のしどころです。ダイレクト・ソーシングでは、最初のコンタクトの際に「面接確約」であることを伝えてアプローチするのが主流です。
そのため、例えば件名に【CTOとの面接確約】などと記載して、「誰と」話すかを開示するのは一つの有効な方法です。特にエンジニアやクリエイターは、人事と話すよりも実際の業務や技術のことが分かる人と話したいと思っていることが多いため、こうしたアプローチは効果的なのです。

ただ、採用候補者はまだあなたの会社のことを知らないかもしれませんし、応募意向が高くない状態である可能性は十分に考えられます。そういった方には、いきなり「面接」という言葉を持ち出すよりも「面談しませんか」「提案します」といった柔らかい言葉でアプローチするほうが、メールを開封してもらえる可能性が高まるでしょう。

自社開示と採用候補者への興味

■ NG例…
定型文の自社開示のみ。メッセージ内で、なぜその方に興味を持ったのかを伝えない

■ 良い例…
採用候補者のこれまでの経験、実績への興味を伝える

■ 理想的な例…
採用候補者ごとにカスタマイズされた自社開示をする/採用候補者への興味ポイントを3つ以内に絞る

ポイント解説

メールの本文では、最初に何を伝えるべきでしょうか。初めてコンタクトする相手ですから、どのような会社からメールを送っているのかを伝えるのが普通です。その上で、なぜ「あなたに」コンタクトを取ったのかを伝えると、読み手はメールの文面に引き込まれます。

よくあるのは、会社案内に記載されている自社の紹介文をそのまま使うケース。確かに一般的には分かりやすい紹介文かもしれませんが、それが採用候補者に響くかどうかはまた別の話です。
例えば経理の方であれば、その会社がどういった製品やサービスを提供しているかよりも、グループ会社が何社あってその連結決算に携われるのか、海外に現地法人があって国際会計基準に取り組む機会がある会社なのか、といったことに関心を持っていることが多いです。自社の紹介は採用候補者の職種などに応じてカスタマイズして、より相手に響くものにする必要があるでしょう。

採用候補者に「あなたの経歴のこの点に興味を持っている」ということを伝えることも大事です。ただ、採用候補者への関心が高いあまりに、興味ポイントを「あれもこれも」と挙げ過ぎないよう気を付けましょう。採用候補者が、自分の何が評価されているのか分からなくなってしまうためです。
例えば、「現職でマーケティングツールの法人営業をされているとのことですが、営業対象が当社製品の顧客層と近く、当社の営業職として価値発揮いただけるのではないかと考えています」といった形で、興味ポイントは3つ以内に留めると、採用候補者も、何に的を絞って自分をアピールすればよいかが分かります。

求人の提案

■ NG例…
仕事内容、応募条件の要約のみ

■ 良い例…
仕事内容、応募条件の要約と、なぜあなたなのかの理由を明記

■ 理想的な例…
仕事内容、応募条件の要約と、なぜあなたなのかの理由に加えてキャリア提案/年収や役職の具体的な提案

ポイント解説

doda ダイレクトのスカウトメールでは、求人票へのリンクは文面の最後に記載されます。そこまで読み進めてもらう前に、求人しているポジション仕事内容や応募条件など、要約を示すとよいでしょう。加えて、なぜその人に対してこの求人を送っているのか、その理由・背景を説明すると、読み手はより納得感を持ってこのスカウトを受け止めることができます。

また、例えば現職が営業職の方で、企画へのキャリアチェンジを考えていることがレジュメから読み取れる場合、「入社後のキャリア提案」までできるとより興味を喚起できます。

「今回は営業職の募集ですが、入社後、○○さんが希望されている営業企画にチャレンジする機会はあります」

といったことを記載しておくと、受け取った側は自分の希望を実現するチャンスがあることを知るのと同時に、「この会社は自分を理解してくれている」と感じて、より興味を持ってくれるはずです。(もちろん、実際にそういう機会があることが前提です)

面接者の開示

■ NG例…
面接者情報の記載なし

■ 良い例…
面接者の肩書き、名前、プロフィールの開示

■ 理想的な例…
面接官のこだわり、評価ポイントの開示/ホームページに顔写真などを掲示(応募後のやり取り後でもOK)/面接者の肩書き、名前、プロフィールの開示

ポイント解説

面接者のプロフィールを開示することは、応募意向を高めるのに有効です。ここでは、何も「華々しい経歴」が求められているわけではありません。面接者がどのようなプロジェクトに携わっているのか、普段どのような思いを持って仕事をしているのか、採用に当たってのポリシー、選考時の評価ポイントなどを記載しましょう。

メールの件名に、例えば「事業部長と面談しませんか」といったことを書いた場合は、プロフィールに「キャリア相談から始めても構いません」といったメッセージを添えておくと、読み手は親近感を抱くはずです。
また、面接者のプロフィールが詳細に分かるほど、応募を考えている採用候補者は面接者に合わせて準備し、真剣度を高めて面接に臨むようになります。ぜひ試してみてください。

求人票の質

■ NG例…
公開求人に近い印象を与える

■ 良い例…
非公開求人であることを伝える

■ 理想的な例…
面接をしながらポジションをすり合わせる/(経験に合わせて)複数求人を提示/ 処遇詳細の開示(年俸制、月給制、賞与平均)

ポイント解説

NG例に「公開求人に近い印象を与える」とありますが、実際にそれが公開求人である場合は、「なぜあなたにこの求人を提案しているのか」を強調すると、特別感を高めることができます。

給与に関して「年収:300万~1000万円」と年収幅を広く記載しているケースが多く見受けられます。この場合、例えば現在の年収が480万円の人だった場合、300万円まで落ちる可能性があることを嫌気したり、逆に上限の1000万円の額を見て「自分にはハードルが高いのでないか」と応募をためらう人もいたりします。そうした離脱を避けるためにも、「年収:400万~600万円」といった形で、年収幅を狭める工夫をすると応募率が高まるでしょう。

まとめ

ソーシングのゴールは、「会う」ことです。そして、スカウトメールでのアプローチは、テキストの内容だけが頼りです。そのため細かい表現・言い回しの違いが、スカウトメールが開封されるかどうか、応募してもらえるかどうかを大きく左右します。

注力したいポイントは、「あなただからこそ連絡した」という特別感を演出することです。そのためには、一人一人のレジュメを読み込んで、いかに個別にカスタマイズするが重要になります。
例えばエンジニアにスカウトメールを送る際に、どのようなことを書いたらエンジニアに響くか分からない場合は、現場のエンジニアにヒアリングするという手もあります。事業部を巻き込んで、より採用候補者に響く文面の作成に務めましょう。

ここで挙げたのはあくまでも例です。細かくPDCサイクルを回しながら、より採用候補者の心を捉える表現をブラッシュアップしていってください。

※粟井英仁氏による「面接・内定許諾 編」はこちら
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