人材ポートフォリオとは|作り方・運用フローや必要性をわかりやすく解説

d’s JOURNAL編集部

社内の人材がどのように構成されているかを分析し、可視化する「人材ポートフォリオ」。「社内の人材の特性やスキルを把握し、適材適所に配置したい」「人材ポートフォリオのメリットや運用方法を知りたい」という方もいるでしょう。

この記事では、人材ポートフォリオが注目されている背景や具体的な作成方法、運用フローなどを紹介します。

人材ポートフォリオとは

人材ポートフォリオとは、企業の人的資本がどのように構成されているかを可視化したもの。英語の「ポートフォリオ(Portfolio)」は本来「複数の書類をまとめて持ち運ぶケース」や「紙挟み」を意味しますが、現在は商品や作品などを一覧化したものを指す言葉として幅広く使用されるようになりました。

人材ポートフォリオ作成を作成する目的は、自社の経営戦略と照らし合わせ、人材配置を見直したり人材を育成したりすることにより、成果の最大化を図ることです。具体的には、社内の「どこに(部門・役職・ポジション)」「どのような人材が(スキル・能力・適性・キャリア志向)」「どの程度(人数)いるのか」を分析し、データ化していきます。

人材ポートフォリオが注目される背景

近年人材ポートフォリオが注目されている背景には、世界的に人的資本の情報開示が進んでいることが挙げられます。

2018年12月に国際標準化機構(ISO)によって発表された「ISO30414」で、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインが定められました。ISO30414では、「人的資本に関する状況の定性的・定量的な把握」と「企業経営の持続可能性のサポート」を主な目的に、「人材戦略を社内外に明らかにすること」を企業に対して求めています。また、アメリカでは、2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本情報の開示を義務化することを発表しました。

日本では、経済産業省が2020年9月に『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書〜人材版伊藤レポート〜』を、2022年5月に『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~』を発表。これらには「人的資本に関する情報開示の重要性」や「動的な人材ポートフォリオの必要性」などが述べられており、人材ポートフォリオを含む人的資本の情報開示が進むきっかけとなりました。

また、2023年3月期決算から「有価証券報告書」を発行している大手企業には、人的資本の開示が義務付けられます。

(参考:金融庁『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について』)

これらのことから、今後は人的資本の情報を開示していくことが世界的な基準となることが予想されるため、日本においても情報を可視化する人材ポートフォリオへの注目が高まっているのです。
(参考:『人的資本(ISO30414)とは?情報開示例を交えてわかりやすく解説』『ISO30414とは?知っておくべき基礎知識と企業が導入するメリットを解説』)

人材ポートフォリオが必要とされる理由

人材ポートフォリオが必要とされる理由としては、主に「雇用形態・働き方の多様化」「加速する環境変化への対応」「労働力不足を補う業務効率化」の3点が挙げられます。以下で詳しく見ていきましょう。

雇用形態・働き方の多様化

第一に、雇用形態や働き方が多様化していることが挙げられます。日本ではバブルの崩壊や1985年の男女雇用機会均等法の施行以降、共働き家庭が増加し、女性の社会進出が進みました。また、近年は働き方改革の推進を目的に関係法律が整備され、企業には男女問わずライフワークバランスを保てるよう、時短勤務やリモートワークなどさまざまな働き方を選択できる工夫が求められています。

各企業は、個々の雇用形態や働き方に応じたマネジメントを行って高い成果をあげ続けるとともに、人件費の効率化にも努める必要があります。そこで活用したいのが、人材ポートフォリオです。人材ポートフォリオによって自社の人材のタイプを整理しつつマネジメント方法を検討することで、全体最適(組織全体が最適化された状態)を実現できます。

加速する環境変化への対応

IT技術やビジネス環境が目まぐるしく変化する中、変化に速やかに対応するためには、限られた人的資源を効果的に組み合わせていくことがポイントとなります。変化のスピードに乗り遅れることなくビジネスを展開できるよう、社内の人材配置が一目でわかる人材ポートフォリオを作成しておくことが必要でしょう。

また、イノベーション創出の観点から、近年は人材の多様性も重視される傾向があります。人材ポートフォリオを活用して人材の偏りを解消することは、組織の対応力・適応力を高める手段にもなるでしょう。

労働力不足を補う業務効率化

労働人口の減少に伴い多くの企業が人材不足に直面している昨今、企業は労働力不足を適切な人材配置で補う必要があります。適材適所を実現させ、従業員のスキルや経験を最大限に活かすためにも、自社の人材配置をデータ化した人材ポートフォリオは有効です。

また、現状の人材ポートフォリオを分析するだけでも、人材配置の課題点や改善点をある程度把握できる可能性があります。そのため、「外部へのコンサルティング料金を捻出できない」「採用にコストを割けない」という企業でも、最適な人材配置を検討できるでしょう。

人材ポートフォリオ作成のメリット

人材ポートフォリオを作成することにより、以下の3つのメリットが期待できます。

人材ポートフォリオ作成のメリット
●最適な人材配置ができる
●社員のキャリアパスを最適化できる
●人件費の削減につながる

それぞれについて、見ていきましょう。

最適な人材配置ができる

最適な人材配置を行えることが、人材ポートフォリオ作成の大きなメリットです。人材ポートフォリオにより社員一人ひとりの強みや弱み、思い描くキャリアなどを可視化することで、能力を棚卸しでき、業務やプロジェクトの特性、方向性などに見合った人材を適切に配置することが可能になります。

また、人材ポートフォリオは採用計画や人材育成、人事評価にも活かすことが可能です。今後の事業展開や理想とする人材配置に基づいて研修を実施したり、業務にアサインさせたりすることで、人材育成を効果的に行えるでしょう。

このように人材ポートフォリオを「人材配置」や「人材育成」などに活用することにより、中長期的な企業価値の向上も期待できます。

社員のキャリアパスを最適化できる

人材ポートフォリオを作成し、社員の得手不得手やキャリア志向を把握することは、その社員に合ったキャリアパスを提供することにもつながります。

キャリア自律を支援し、研修の機会や経験を提供することにより、効果的な人材育成やエンゲージメントの向上、定着率の向上といった効果も期待できるでしょう。

人件費の削減につながる

人材配置の可視化により不要な人件費の削減ができることも、人材ポートフォリオ作成のメリットです。理想とする人材ポートフォリオと現在の人材ポートフォリオを比較することによって人員の過不足が把握できるため、採用や配置転換、教育などの方法を用いて理想の状態に近づけることができます。効果の最大化を目指しながら要員管理を行うことは、人件費の適性化にもつながるでしょう。

人材ポートフォリオ作成・運用フロー

では、実際にどのような流れで人材ポートフォリオを作成し、運用するとよいのでしょうか。自社で人材ポートフォリオを作成・運用する際の一般的な方法を紹介します。

①自社の必要人材を定義してグループ分け

まずは自社に必要な人材要件を定義し、複数のグループに分けます。その際に注意したいのが、「現在の業務」や「在籍している社員」に基づくグループ分けをしないことです。自社の経営計画を基に、「どのように事業を展開していきたいか」「そのためにはどのような業務や職種、人材が必要か」に焦点を当てて、グループを分けましょう。将来的に必要となるであろう業務や職種も定義することで、今後の採用や育成の計画も立てやすくなります。

作成するグループは、縦軸と横軸からなる4象限で表現するのが一般的です。ここでは汎用性の高い、業務の性質によって「組織/個人」「運用/創造」に分類する方法を紹介します。

それぞれに当てはめると、以下のように定義することができます。

●「組織」×「運用」=オペレーション人材:定型作業を通して収益の最大化を図る
●「組織」×「創造」=マネジメント人材:組織運営を行い、組織業績の向上を図る
●「個人」×「運用」=エキスパート人材:特定分野のスペシャリストとして組織の運営に貢献する
●「個人」×「創造」=オフィサー(クリエイティブ)人材:専門的な技術を駆使し、業績の向上に貢献する

自社の必要人材を定義してグループ分け

この他には、「総合職/専門職」「常時雇用/臨時雇用」といったように、雇用形態で分類する方法もあります。分類の方法はあくまで例ですので、自社の事業展開に必要な要素に従い、適宜アレンジしてください。

②社内の人材をグループに分類する

自社が求める人材をグループ分けしたら、実際の社員をグループに当てはめていきます。能力やスキル、性格や適性などの定性的な項目を根拠にグループ分けする際には、注意が必要です。上司の所感のみでは客観性や正確性に欠けるため、適性検査やアセスメントなどの指標から個々人の特性を分析し、分類しましょう。

適性検査では複数の測定項目が設定されているため、項目ごとの人材の偏りや過不足を把握しやすくなります。こうした客観的かつ科学的な分類は信頼性が高く、従業員の納得感も得やすいのでおすすめです。

③各グループに偏りがないかチェックする

現在在籍している社員をグループ化したら、理想とする人材ポートフォリオと現状の人材ポートフォリオとを比較し、人数や構成比に過不足がないかや課題点をチェックします。

課題点が見つけられない場合は、経営層も交えて今後の経営方針や必要な人材要件を確認し、現状との相違点を整理するようにしましょう。

④グループの偏りを改善する方法を検討する

現状の課題が把握できたら、理想とする人材ポートフォリオに近づけるための方法を検討します。具体的な方法は以下の4パターンです。

●採用:不足している人材を新たに採用(確保)する
 例)新卒採用、中途採用、パート・アルバイト採用、派遣社員の活用 など
●育成:社内の人材を育成することで、不足しているスキルや経験を補う
 例)研修、OJT、目標管理、自己啓発制度、人事評価制度 など
●配置転換:余剰しているポジションにいる人材を不足しているポジションに配置転換させる
 例)異動、転勤、出向 など
●退出・解雇:役職定年などを設定して人材循環を図り、適切な人材を抜擢する
 例)早期退職制度、役職定年制度 など

ただし、退出・解雇は従業員に過度の不安や会社への不信感を与える要因になり得ます。また解雇に関しては、日本の法律上、よほどの事情がある場合を除いては認められません。そのため、「適材適所がなされていない箇所を育成や配置転換などで調整する」ことを前提とした上で、それでもやむを得ない場合のみ、退出・解雇を検討するのが望ましいです。

人材ポートフォリオ作成の注意点

最後に、人材ポートフォリオを作成する際の注意点をご紹介します。

作成には大きな工数・時間が必要

作成にあたり、多くの工数と時間がかかることに注意が必要です。人材ポートフォリオは経営戦略や事業戦略を踏まえながらグループ分けを検討するとともに、適性データなどの結果を基に既存社員を分類する必要があります。また、効果を振り返ったり人事制度や教育制度に活かしたりすることで初めて意味を持つため、社員の理解を得たり、制度を見直したりする時間も確保しなくてはいけません。このように、大きな工数と時間が必要になることを理解しておきましょう。

事業の変化にも都度対応が必要

事業戦略は景気や市場によって変化するため、それに合わせて人材ポートフォリオも作成しなおす必要があります。変化に柔軟に対応するためにはスピード感も求められることから、スムーズに対応できるような体制の構築を検討する必要もあるでしょう。

分類したグループに優劣をつけない

分類したグループに優劣をつけないことも注意したいポイントです。評価や待遇に差があると、社員のモチベーションが下がり、パフォーマンスが低下する恐れがあります。人材ポートフォリオ作成の際は、「組織にはさまざまなタイプや素養を持った人材が在籍していること」「個々の能力を最大限に活かし合うのが重要であること」を忘れないようにしましょう。

まとめ

人材ポートフォリオを作成することで、「適切な人材配置」や「キャリアパスの最適化」「人件費の削減」といったメリットが期待できます。世界的にも人的資本経営や人的資本の情報開示が求められており、人材ポートフォリオは今後ますます重要視されるようになると考えられます。

今回紹介したフローや注意点を参考にしながら人材ポートフォリオを作成し、全体最適化につなげてみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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