カンパニー制とは?事業部制との違いや事例を紹介

d’s JOURNAL編集部

カンパニー制とは、事業単位で組織をくくり、それぞれを独立した会社(カンパニー)として扱う企業形態の一つです。社内に独立したカンパニーを置き、それぞれが独自の意思決定を行って行動することから、「社内カンパニー制」と呼ばれることもあります。

この記事ではカンパニー制の具体的な仕組みについて、事業部制や持ち株会社などの類似した概念との違いから解説します。

そのうえで、導入するメリットとデメリット、カンパニー制へ移行する際の注意点もあわせて見ていきましょう。

カンパニー制とは

カンパニー制は企業の組織構造の一種です。組織構造はその企業の骨格であり、会社のあり方や事業の進め方、競争優位性、ひいては将来性などにも大きく関わる重要な項目です。

ここではまず、カンパニー制の定義や注目されている理由について解説します。また、事業部制や持ち株会社といったその他の組織構造との違いも見ていきましょう。

 

カンパニー制の定義

カンパニー制とは、社内の事業それぞれを独立した会社として扱い、組織にするという企業形態の一つです。具体的には、人材や物資、財政といったすべてを委譲し、事業ごとに独立採算の形式で動いていく方式です。

それぞれの組織は社内にありながらも独立性があり、一つの会社としての大きな権限を持つため、「社内カンパニー制」と呼ばれることもあります。日本では1994年にソニーで初めて導入された方式であり、そこからさまざまな国内企業が取り入れていった経緯があります。

カンパニー制が注目される理由

現代のビジネス環境において、カンパニー制が注目を集めている理由は、柔軟性の高い組織づくりが可能になる点にあります。カンパニー制では、それぞれの組織に社長にあたるポジションを設け、経営や人事、さらには投資にいたるまで多くの権限を与えます。

各カンパニーのトップは、現場に近い感覚を持ちながらも大きな裁量で物事を決断していけるため、スピード感と影響力の大きさを両立させた動きが可能です。こうした行動力は、激しい環境の変化や技術の進歩に対応するうえで重要な武器となります。

また、権限を大幅に委譲することで多様な競争力を開発できるようになり、組織全体として収益の強化を実現しやすい点も注目される理由です。

事業部制との違い

「事業ごとにまとまって動く」という点においては、カンパニー制も事業部制も共通しています。しかし、両者は権限の大きさにおいて異なる特徴を持っています。

事業部制では、基本的に本社が経営や人事に関する重要な意思決定を行う仕組みです。あるいは、事業部ごとに判断を任されていたとしても、本社や企業全体の承認が必要である場合も多く、意思決定のプロセスは複雑になりがちです。

一方で、カンパニー制では裁量の範囲が大きく、重要な事項に関する意思決定の権限も委譲されます。また、カンパニー制は会計上独立した組織として扱われるのも特徴です。

資本金や借入金が事業ごとに存在し、本社から資金提供を受ける場合も事業部制とは異なる扱い方をします。

持ち株会社との違い

カンパニー制と持ち株会社の違いは、一言で表現すれば「法律における本社との関係性」にあります。持ち株会社とは、自社で経済活動を行わず、投資目的でない傘下企業や事業を支配する本部を中心に据えて運営する組織形態です。

1997年に独禁法が改正されたことによって可能となった組織体制であり、独立した複数の会社によって構成され、経営上の権限や意思決定の権限も与えられるという仕組みです。持ち株会社制にすることで、企業買収や事業売却などもしやすくなり、傘下の会社への権限委譲も容易になるといった特徴があります。

持ち株会社と各子会社の関係性は、一見するとカンパニー制と共通する部分も多いと感じられるかもしれませんが、実際には法律上の扱いが異なります。持ち株会社は法的にも本社とは別法人として扱われるのに対し、カンパニー制はあくまでも同一社内として扱われるのが特徴です。

したがって、持ち株会社と子会社よりは、「法的な距離が近い」点がカンパニー制という認識もできます。そのため、将来的に持ち株会社へ移行する予定がある場合、その前段階としてカンパニー制が導入されるケースもあります。

カンパニー制の3つのメリット


カンパニー制には、通常の組織形態とは異なるメリットがあります。ここでは、主なものを3つに分けて見ていきましょう。

意思決定を迅速に行える

カンパニー制では、各カンパニーに人事権や投資権など多くの権限が委譲されるため、意思決定のスピードが飛躍的に上がる点がメリットです。市場環境が激しく変化するなかにあって、迅速な意思決定が行えることは、それだけでも大きな競争優位性を生み出します。

市場の動きをキャッチしていち早く対応することで、他社に先んじたサービス提供等が行えたり、新たなニーズを生み出す商品を生み出せたりと、柔軟な事業展開が可能です。

組織の活性化につながる

事業部門が一つのカンパニーとしてみなされることで、組織に属する従業員の結びつきはより強くなり、全体としての組織力向上が期待できる点もメリットです。

カンパニーそれぞれが独立性を持つため、事業同士で社内競争が起こり、従業員の主体性やモチベーションを自然な形で引き出せる効果があります。

(参考:『組織活性化とは?目指すべき組織の状態と実現方法、取り組み事例を紹介』)

経営人材の育成を促す

独立性を高めたカンパニーの責任者は、事実上一つの会社のトップとして行動することになります。そのため、実際の会社経営に近い経験を積ませながら、経営に携わる人材を実践的に育成できる点がメリットです。

また、事業部制を敷く場合と比較して、責任の所在が明確化しやすい点も特徴です。人事や投資の意思決定が、数字による結果として明確に反映されるため、経営に対する緊張感を持ちながら業務に当たれるようになります。

もちろん、カンパニー制の効果は、トップだけでなく管理職や各部門のリーダーにもよい影響をもたらします。1人が複数の事業を兼任したり、反対に一つの業務に複数のリーダーが就いたりする状態を防げるため、自身の役割に対する責任をより強く自覚できるようになるでしょう。

カンパニー制の3つのデメリット

カンパニー制にはさまざまなメリットがある一方、注意しなければならないデメリットもあります。ここでは、3つの視点からカンパニー制の注意点を解説します。

事業同士の相乗効果が薄れる

カンパニー制では、それぞれの事業を独立した組織として扱うことから、それまで培われていた「事業同士のシナジー効果」が薄れてしまうリスクがあります。カンパニー間での社内競争が激しくなれば、事業ごとに協力する場面が減少する可能性があり、かえって組織全体としての生産性が低下してしまうケースがある点に注意が必要です。

責任と結果の所在を明確化することによって、自部門の利益のみを優先してしまう状態を「セクショナリズム」と呼び、カンパニー制で陥りやすい弊害の一つとされています。また、カンパニーと本社の交流が希薄化しやすい点にも注意が必要です。

独立性の確保を重視するあまりに本社とのつながりが薄くなれば、全社の総合的な利益と相反するリスクが高まるなど、さまざまな弊害が予想されます。

結果至上主義に陥りやすい

独立採算によって各事業の競争意識が高まることには多くのメリットがある一方、結果のみを重視する「行き過ぎた経営」が行われてしまう危険性もはらんでいます。カンパニーのトップに明確な責任がのしかかるため、数字のみを追い求めて労務管理に影響が生まれたり、他組織との協力がしづらくなったりするリスクがあります。

また、カンパニー制は事業部制と比較して、本社からの監視体制が弱まりやすい仕組みです。本社の目が届かなくなることで、不正会計や不都合な事実の隠蔽などにつながるリスクもある点が大きな弱点といえます。

そのため、必要に応じて社外取締役や監査役を配置し、仕組みのうえからリスクを排除することも大切です。

重複部門の発生によるコスト増加

運営コストの増加もカンパニー制のデメリットの一つです。各カンパニーに人事や総務、経理などの機能を持たせると、カンパニー間で運営に関する機能が重複してしまうこととなります。

たとえば、損益計算書や貸借対照表の作成といった経理業務は、単純計算をすればカンパニーの数だけ負担が増えることとなります。その他、人事や総務といった部門もカンパニーごとに求められるため、より多くの人的リソースが必要です。

その結果、業務効率の低下や人材の重複が起こり、全体として生産性が下がってしまうリスクにつながります。経理や総務といった機能を丸ごとアウトソーシングする選択もありますが、その場合でも金銭的なコストは生じるため、メリットとのバランスを十分に考慮しなければなりません。

カンパニー制を上手に取り入れる4つのポイント

組織構造に関する施策は、企業全体を巻き込む重要なテーマであるため、あいまいな目的や狙いで実行することはできません。カンパニー制に移行するのであれば、失敗を避けるために十分な準備を行い、綿密に計画を立てて導入する必要があります。

ここでは、カンパニー制を導入するうえで、特に意識しておきたい基本のポイントを4つに分けてご紹介します。


カンパニーの独立性を維持する

カンパニー制を取り入れるのであれば、各カンパニーの独立性が保たれるように、本社との適切な関係性を維持していくことが大切です。独立性を軽視して、本社や会社役員がカンパニーの事業運営に口を出してしまうと、結局のところ事業部制と大きな違いは期待できません。

形だけカンパニー制にしても、事業部制と同様の動きをするのであれば、事務に関する業務が増大してしまう分だけ企業としては損失につながります。そのため、カンパニー制へ移行する場合には、仕組みやルールのうえから本社との距離感が保たれるように土台づくりをすることが重要です。

カンパニー制ならではのスピード感や緊張感を活かすためにも、本社や役員などのメンバー間では導入する目的をしっかりと共有しておきましょう。

カンパニー間の相乗効果を意識する

独立性を持たせるとはいっても、カンパニー同士で協働し合える仕組みづくりには重点を置くことが大切です。カンパニー同士はもとは一つの会社であり、それぞれの目的は会社全体の業績と価値向上にあります。

まずは基本的な概念を徹底し、カンパニーごとの行動理念や意思決定方針に組み込ませることが大切です。また、本社としても適切なタイミングでテコ入れを行い、カンパニー間での人材交流や意見交換の機会を用意するとよいでしょう。

こうした取り組みは、カンパニー同士のシナジー効果を高めるだけでなく、将来的な経営トップを育てるうえでも重要なポイントとなります。各カンパニーのトップに全社的な視点や感覚を養ってもらうためには、並列関係にある組織のあり方やかかわりを知ってもらうことが近道です。

人事・業績の評価基準を統一する

事業ごとに独立採算制で動くこととなるため、場合によってはカンパニー間で給与や待遇に大きな差が出てしまう可能性があります。従業員から見れば、たとえカンパニーが異なっていても当然ながら同じ会社内にある組織同士のため、待遇に差が出れば不公平感を抱く原因となるでしょう。

給与や待遇への不満は、モチベーションの低下、さらには離職にもつながる重大なリスク要因です。こうした事態を防ぐためにも、労働環境や給与体系、待遇については、本社が主体となって公平性が保たれるような仕組みを設けることが大切です。

丁寧な説明を行う

カンパニー制を導入するには、経営者の判断だけでなく従業員との意思疎通も必要です。組織構造の改革は、社内にいるすべてのメンバーを巻き込むため、焦って実行すれば混乱や不満を生み出す原因となります。

カンパニー制のメリットを活かし、本来の目的を実現させるためにも、全従業員に目的や狙いを浸透させてから取り組むのが理想です。また、新たに重要なポストを任せるメンバーには丁寧に研修を行い、しかるべき能力や知識を身につけさせる準備も必要となります。

まとめ

カンパニー制への移行は組織を活性化させ、企業としての競争優位性を高める転機になるケースがあります。

各カンパニーに大きな権限と責任を持たせることで、市場や環境の変化に素早く対応できるようになったり、次世代の経営トップを育成できたりと、さまざまなメリットが期待できる点が特徴です。

一方で、運営コストがかさみやすい点や、各カンパニーがセクショナリズムに陥りやすい点など、注意しなければならないポイントもあります。カンパニー制の特徴や実際に導入している企業の事例を踏まえて、自社に合った組織体制をじっくりと検討してみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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