ケイパビリティの意味とは?コアコンピタンスとの違い、活用事例

d’s JOURNAL編集部

ケイパビリティとは、企業全体の組織能力を意味する言葉です。バリューチェーン全体における自社の強みを組織の視点で見つけ出すことで、競合他社に対する優位性を発見できます。

変化の激しいビジネスの環境にあって、自社の立ち位置を明確にしておくことが重要です。この記事では、ケイパビリティの基本的な捉え方やコアコンピタンスとの違い、活用事例などを詳しく紹介します。

ケイパビリティとは

ケイパビリティとよく似た意味を持つ言葉として、コアコンピタンスが挙げられます。それぞれの違いを押さえておくとともに、ケイパビリティの基本的な考え方を把握しておきましょう。

 

ケイパビリティの定義

ケイパビリティとは、一般的には能力や才能といった意味となりますが、ビジネスにおいては「企業全体の組織能力」「他社よりも優位な自社の強み」という意味になります。ポイントとなる部分は、あくまで組織全体の能力を指す言葉であって、個人の能力という点ではないことです。

たとえば、営業力を個人の力として捉えると、人によって能力に差があります。ケイパビリティの考え方としては、営業力は担当者一人の能力や好況・不況といった部分に左右されるものではありません。組織として所属する全員が顧客との接点を持つ仕組みがあり、それによって業績につながっていると捉えます。

ケイパビリティは大きく分けて、「オーディナリーケイパビリティ」と「ダイナミックケイパビリティ」の2種類があります。前者は経営資源を有効活用する能力を指し、後者は組織が自己変革する能力を指します。

コアコンピタンスとの違い

コアコンピタンスとは、競合他社に真似されにくい優位性を意味しており、事業プロセスの一部として捉えられるものです。技術力や商品力、ブランド力といった自社にしかない強みや特性を表す言葉だといえます。

一方で、ケイパビリティは組織全体で発揮できる総合的な能力を表しており、事業プロセス全体を指しています。競合他社が自社と同等の力を持とうとしても、組織を築くためには多くの時間やコストを必要とするため、簡単に真似られるものではありません。ケイパビリティを上手に活用することで、持続的に経営を行っていくことができ、安定性の高いマネジメントを行うことが可能です。

ケイパビリティを見つける方法

ケイパビリティは漠然と見つけようとしても、正確に見定めるのは困難だといえます。そのため、SWOT分析などのフレームワークを用いることによって、見つけていくのが一般的です。

ケイパビリティを見つける手順として、以下のものが挙げられます。

ケイパビリティを見つける3つの手順

・バリューチェーンを洗い出して強みを見つける
・強みを絞り込む
・強みを把握するのに役立つSWOT分析

それぞれの手順について、詳しく解説します。

バリューチェーンを洗い出して強みを見つける

ケイパビリティを見つけるには、バリューチェーンを洗い出して強みを探していきます。バリューチェーンとは、企業活動を機能ごとに分け、どこで価値が生まれるのかを分析するものです。

自社で行っている活動を洗い出し、分類してみましょう。それぞれ項目を並べて、競合他社と比べてどのような点が優れているのかを分析していきます。

たとえば、製造工程においてベテランの作業員が多い、販売において独自のネットワークを築いているなどの点が挙げられます。また、生産や開発などに直接携わらない部門(人事・総務・技術開発・リスク管理など)においても同様に分析を行います。

部門別の業績への貢献度や自社が外部から評価されているポイントに改めて気づくことができ、経営全体を見直すよい機会にもなるでしょう。

強みを絞り込む

バリューチェーンを洗い出し、自社の強みに気づいたら、さらに強みを絞り込んでいくことが大切です。複数の強みがある場合には、圧倒的に市場で強みを持てる部分を探し出してみましょう。

組織全体の強みを見つけるときは、主観的な判断にならないように、数値化により客観的に判断をすることが大事です。競合他社と比較したときの自社に対する評価を割り出し、そのなかで数値が高い部分が強みとなります。

市場そのものが新しい分野の場合は比較できるものがないため、100を基準値として自社がどれくらいのシェアを獲得できるのかを試算しながら判断してみましょう。

強みを把握するのに役立つSWOT分析

自社の組織が持つ強みを把握するには、SWOT分析が役立ちます。SWOT分析は内部環境の強み(Strength)・弱み(Weakness)・外部環境の機会(Opportunity)・脅威(Threat)の4つの要素を分析するための手法です。

SWOT分析においては事業活動を機能別に分析できるため、バリューチェーンで洗い出した項目をそのまま活用可能です。SWOT分析を取り入れることで、自社の強みだけでなく、弱みや将来のリスクなども把握できます。

分析を行う際に重要なポイントは、自社の現状を競合他社と比較したときの相対評価を用いる点です。自社との違いがどこにあるのかを実際に製品を使ってみたり、サービスを利用してみたりすることで把握していきましょう。

これまで強みと思っていた部分はそれほどでもなかったり、逆に弱みだと思っていた部分が競合他社以上のレベルだったりといった気づきを得られるのもめずらしくありません。また、顧客の視点を持つことにもつながるため、細かく分析していくのが重要です。

ケイパビリティの効果を高める2つの戦略

ケイパビリティの効果を高めるには、「ケイパビリティ・ベース競争戦略」と「ダイナミック・ケイパビリティ戦略」の2つを押さえておくと効果的です。それぞれの戦略について、詳しく解説します。

ケイパビリティ・ベース競争戦略

ケイパビリティ・ベース戦略とは、ケイパビリティを中心として、優位性の発揮を目指す戦略を指します。4つの基本的なルールがあるため、しっかりと押さえておくことが肝心です。

ケイパビリティ・ベース競争戦略の4つの原則

・ビジネスプロセスの重視
・主なビジネスプロセスの変換
・部門同士のインフラ整備
・トップの推進力

それぞれの点について、さらに詳しく解説します。

ビジネスプロセスの重視

ビジネスプロセスの重視とは、組織体制やプロセスの組み立てに注目することです。通常、戦略について考える際は製品や市場に注目しますが、ケイパビリティ・ベース戦略においては、価値を実現するための組織力を重視する点を忘れないでおきましょう。

主なビジネスプロセスの変換

一口にビジネスプロセスといっても、基幹となる部分からあまり重要ではないものまでさまざまあります。戦略について考えるときは、自社の基幹となるプロセスが持っている強みだけに注目してみましょう。

重要度の低いプロセスまで考えてしまうと、かぎられた経営資源を分散させることにつながり、自社の強みを有効活用できなくなる恐れがあります。すべてのビジネスプロセスを明らかにしたうえで、強みとなる部分を見出してみましょう。

部門同士のインフラ整備

ケイパビリティを最大限に活かすためには、部門間のインフラを整えることも重要です。特に縦割り型の組織である場合には、せっかく自社の強みとなる部分があっても、部門間の連携がうまくいかずに組織全体としての力を発揮できない場合があります。

単にケイパビリティを見つけ出すだけでなく、効果的に運用できるように必要なインフラに投資して、各部門の力を発揮しやすい環境を整えてみましょう。

トップの推進力

ケイパビリティは組織全体にかかわることであるため、組織戦略を担う経営層が積極的に推進していく必要があります。自社の強みを最大限に活かすには、組織全体を横断的に変えていくだけの体制を構築することが大事だからです。

ケイパビリティを見つける段階では、さまざまな部門から多くの意見を集める必要がありますが、具体的な経営戦略として実行する段階では、トップのリーダーシップが問われる部分も大きいといえます。

ダイナミック・ケイパビリティ戦略

ダイナミック・ケイパビリティ戦略とは、企業の内部だけでなく、外部のチェーン統合も含めた考え方を指します。主な特徴として、センシング(感知)・シージング(捕捉)・トランスフォーミング(変革)の3つに軸足を置き、環境の変化に応じて体制を再構築していくことを目指す点が挙げられます。

ダイナミック・ケイパビリティ戦略が注目されるのは、社会全体がデジタル化の動きによって大きく変化しており、従来の取り組みにこだわり続けていては大きな経営リスクを抱える恐れがあるからです。既存事業のプロセスを安定的に維持したまま継続していくことを目指すのではなく、社内外のリソースを含めて、柔軟かつ迅速に組織を再構築していくことが求められます。

顧客・取引先・協力会社・公的機関など、自社と関係するステークホルダーとのかかわり方も含め、時代の変化に合わせた変革を推進していくことが重要です。

ケイパビリティの活用事例

自社のケイパビリティを見つけ出し、活用していくにはすでに取り組みを行っている企業の事例を参考にしてみるのも一つの方法です。ここでは、3社の事例を紹介します。

アップル

多国籍テクノロジー企業であるアップルの事例では、販売網を強化することでケイパビリティを確立しました。家電やPCのメーカーが自社製品を販売するときは、家電量販店などの小売店に販売を任せるのが一般的だといえます。

自社で販売店を抱えると店舗運営のために大きなコストがかかり、店舗を広げるのも時間がかかってしまいます。しかし、アップルではiPhoneやiPadといった主力製品を販売するにあたって、家電量販店だけに販売を任せるのではなく、直営店を各地に展開する戦略をとりました。

コストや時間をかけてでも、自社のブランド価値やプロモーションの質を保ち、アップルが持つ革新性を顧客に伝えるのに有効な手段だったからです。また、自社で直営店を抱えることで、ダイナミック・ケイパビリティ戦略に基づいた経営資源の再配分や再構築も比較的行いやすくなりました。

自社製品が持つ革新的な機能を自社の専門スタッフが直接顧客に伝えるという、組織としての強みを発揮できています。

(参考:Apple Inc.『2022年 年次進捗報告書』

星野リゾート

国内外にリゾート事業を展開する星野リゾートでは、変化が起こることを前提としたケイパビリティを確立しています。サービス開発や変化に強いプラットフォームの採用など、試行錯誤を経てITケイパビリティの確立に道筋をつけたのが特徴です。

新型コロナウイルスの影響が大きかった2020年に売上が激減し、IT部門においてはそれまで掲げていた中長期戦略を白紙とし、迅速な変化に対応できる組織の再構築を進めていきました。コロナ前からも全業務のIT化などで一定の成果を出してきたものの、2013年のオフシェア開発の失敗によって組織としてのIT化が停滞していました。

しかし、2015年にはIT戦略を立て、ITケイパビリティを確立するに至ったといえます。具体的な取り組みとして、オンプレミスの予約システムをAWSに載せ替えてマイクロサービス化に取り組んだり、自社でエンジニアを採用したりしてゼロからパートナー選びや体制づくりを進めていきました。

現在では、「全スタッフIT人材化」を掲げており、組織全体としてITに強いことを戦略の柱としています。

(参考:日経XTECH『成長の足かせからDXの担い手へ 全社員IT人材化の道筋』

三菱商事

三菱商事と三菱UFJ銀行が出資したことで設立されたのが「丸の内キャピタル」であり、グループが持つさまざまなケイパビリティを活用することで、通常のファンドでは実現できない企業改革を行うことを強みとしています。商社である三菱商事が三菱UFJ銀行と組むことによって、他のファンドにはない業績向上の施策の実行につなげています。

三菱商事が持つ顧客基盤を活用して案件を発掘するとともに、三菱UFJ銀行が各ステークホルダーとの利害調整に力を発揮することで、競合他社が攻めづらいリスクの高い案件でも成果をあげられているといえるでしょう。グループ間での組織力を活かした事例であり、自社だけでなく系列会社なども含めて考えていくことが重要である点を学べます。

(参考:丸の内キャピタル『丸の内キャピタルの特長』

まとめ

ケイパビリティは組織能力の視点から、自社の強みを表す言葉です。事業プロセスの一部に注目するコアコンピタンスとは違い、経営戦略や事業展開そのものに深くかかわる部分です。

競合他社と比較したときに、自社が圧倒的に優位な部分がどこにあるのかを探る必要があるため、社内のさまざまな部門の意見を集めるだけでなく、SWOT分析などのフレームワークを用いて分析していきます。

自社のケイパビリティを確立することで、中長期的な視点で経営を安定的に行っていくきっかけをつかめるでしょう。

ケイパビリティを明らかにすることは、変化の激しい時代において重要な取り組みです。柔軟かつ迅速に対応できる組織運営を行っていくうえで、欠かせない考え方だという点を押さえておきましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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