【弁護士監修】サクセッションプラン(後継者育成計画)とは?導入の目的・手順や企業事例をご紹介

2022.01.31

第一東京弁護士会労働法制委員会、日本CSR普及協会(雇用労働専門委員)、経営法曹会議等に所属。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・労働訴訟等の係争案件、団体交渉(組合・労働委員会)、労災(行政・被災者対応)、労務DD対応を得意とする。
経営課題を抽出し、依頼者のニーズを踏まえたベストプラクティスの提案を心掛ける。
主著に『労働行政対応の法律実務』(中央経済社 共著)、『「働き方改革実行計画」を読む』(月刊人事労務実務のQ&A 2017年7月号 日本労務研究会 共著)など。

サクセッションプラン(Succession plan)とは
タレントマネジメントや通常の人材育成との違い
サクセッションプランが注目されている理由は?
サクセッションプランの導入状況や課題について
サクセッションプランの策定・運用に向けた基本の7ステップ
誰がサクセッションプランに関わるのか?
企業の取り組み事例のご紹介

事業を継承する後継者を育成するための計画を意味する「サクセッションプラン」。これまでの人材育成・後任登用とは異なる手法として導入する企業が増えてきています。サクセッションプランを策定・運営するためには、どのような点を重視すればよいのでしょうか。今回の記事では、サクセッションプランの概要や策定・運営方法、取り組み事例などをご紹介します。

サクセッションプラン(Succession plan)とは

サクセッションプランとは、「後継者育成計画」のこと。英語の「Succession」には「継承」「相続」という意味があります。サクセッションプランでは、将来組織を牽引する幹部・経営者候補となる人材に対する、長期的な「見極め」「配置」「育成」を行います。なお、サクセッションプランを用いた育成方法は「サクセッションプランニング(Succession planning)」と呼ばれています。

サクセッションプランの目的

サクセッションプランは、適切な後継者候補を計画的に確保・育成し、企業の存続リスクを軽減しながら持続的成長を図ることを目的としています。また、サクセッションプランを活用することで、企業の業績や企業価値の向上、ステークホルダーや従業員の満足度向上にもつながるとされています。

従来の後任登用との違い

サクセッションプランと従来型の後任登用は、「選出の範囲」と「選出基準」が異なります。サクセッションプランと従来型の後任登用の違いを下の表にまとめました。

サクセッションプラン 従来の後任登用
「選出の範囲」 ●キャリアを問わず、経営理念や経営戦略に即した社員 ●直属の部下
●該当のポジションに近い年次の社員
など
「選出基準」 ●経営に関するさまざまなスキル
●今後の成長に対する期待度 など
●日々の成果

従来の後任登用と比較すると、サクセッションプランでは幅広い人材を検討範囲とし、長期に渡って経営層としてふさわしい人材を選出・育成するのが特徴です。

タレントマネジメントや通常の人材育成との違い

従来型の後任登用とは違う「新しい人材マネジメントシステム」ともいえるサクセッションプランですが、タレントマネジメントや通常の人材育成とは何が違うのでしょうか。違いについてご紹介します。

タレントマネジメントとの違い

タレントマネジメントとは、タレント(従業員)が持つ能力やスキルといった情報を重要な経営資源として捉え、採用や配置、育成に活用すること。従業員と組織のパフォーマンスの最大化を目指す人材マネジメントを意味します。タレントマネジメントとサクセッションプランは、「企業内に優秀な人材を育成・定着させるための施策」という点では共通していますが、対象の範囲が異なります。タレントマネジメントの対象者は「全従業員」や「幹部候補やプロ人材」ですが、サクセッションプランでは「幹部候補者」と「経営者候補」に絞られます。

通常の人材育成との違い

通常の人材育成とサクセッションプランでは、育成に関する「視野」や「分野」が異なります。サクセッションプランでは後継者育成を目的に、経営方針・経営戦略を踏まえた「より長期的視野に立った育成」として、各部門を経験させるジョブローテーションなどを行います。また、通常の人材育成では、ある一部門の中で専門性を高めることを目指しますが、サクセッションプランでは「全社横断的に経営層としての期待レベルに達するよう、全分野において育成していく」という違いもあります。

サクセッションプランが注目されている理由は?

サクセッションプランは、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の改定により、上場企業に対して強く要請されるようになったため、注目されています。コーポレートガバナンス・コードとは、日本企業のガバナンスの底上げを目的に、金融庁と東京証券取引所が共同で策定した文書です。2018年6月の改訂では、主要変更点の一つとして、CEOのサクセッションプランおよび選解任基準などに関する取り組みが強く要請されています。

【補充原則 4−1③】
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。

(参考:経済産業省『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)』p.34)

コーポレートガバナンス・コードでは、サクセッションプランの管理監督を担う組織として、「取締役会」は後継者計画の策定・運用に主体的に関与し、後継者育成について適切に監督を行うべきとされています。

サクセッションプランは、蓄積してきた企業価値を未来へ持続的に継続していくための「企業統治の観点」から見ても重要です。後継者不在のリスクを回避しながら、新たな経営視点によって商品・サービスの差別化を図り、企業の若返りを実現できる可能性も秘めています。

サクセッションプランの導入状況や課題について

東証一部上場企業および二部上場企業を対象とした、経済産業省の「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書」によると、「後継者計画のロードマップの立案を実施していない」と回答した企業は55%に及びました。また、「後継者候補の育成計画の策定・実施を行っていない」「後継者候補の評価、絞り込み・入れ替えを実施していない」と回答した企業は共に47%でした。これらの結果より、サクセッションプランの取り組みはさほど進んでいないことが伺えます。

次期社長・CEOの選定に向けた各取り組みの実施状況
次期社長・CEOの選定に向けた各取り組みの実施状況
(参考:経済産業省『令和元年度 産業経済研究委託事業(経済産業政策・第四次産業革命関係調査事業費)日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書』)

サクセッションプランの導入が進まない理由の一つとして、現社⻑が後継社⻑を指名するという実務慣⾏の存在が考えられます。サクセッションプランには、指名委員会に属する社外取締役などが関与することもありますが、実務慣行が存在していると、「会社や社員のことを知らない社外役員に、社長の選任などを任せられない」という抵抗感が生じることもあるようです。次期社長の「正統性」を内外に示すためにも、社外役員が関与して適正なプロセスで社長・CEOが選任されているかをチェックし、現社長の恣意的な人選でないという裏付けをすることが重要です。

サクセッションプランの策定・運用に向けた基本の7ステップ

経済産業省が発表している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」では、サクセッションプランを進める際の7つのステップが記されています。「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」をもとに、指名委員会等設置会社におけるサクセッションプランの策定・運用に向けた基本の7ステップを解説します。

サクセッションプランの策定・運用に向けた基本の7ステップ

ステップ①:【計画】後任引継ぎに向けたロードマップの作成

まず始めに、社長・CEOの就任から想定される交代時期に向けて、「いつごろ、誰が、何を、行うか」のスケジュールを検討し、ロードマップを作成します。立案時には、「現在の社長・CEO選任プロセス」や「育成プロセス」における課題を洗い出しましょう。社長・CEOを中心とした社内者が原案をつくり、社外取締役を中心に構成された指名委員会において議論の上、決定することが考えられます。

ステップ②:【要件定義】「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定

「後継者候補の選出・育成・評価」「後継者の指名」において、客観性を担保し、取締役会や指名委員会による監督を実効的なものにするためには、前提として、判断軸となる「あるべき社長・CEO像」や「客観的な評価基準」を共有しておく必要があります。

「あるべき社長・CEO像」は、社長・CEOに必要な資質・能力などで構成されます。なお、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」では、社長・CEOに求められる資質・能力の例として以下の項目を挙げています。

■社長・CEOに求められる資質・能力(例)

●困難な課題であっても果敢に取り組む強い姿勢(問題を先送りにしない姿勢)と決断力
●変化への対応力
●高潔性(インテグリティー)
●胆力:経営者としての「覚悟」。企業価値向上の実現に向け、個人的なリスクに直面しても限界を認めず、利害関係者からの批判を乗り越え果断に決断する力
●構想力:経営環境の変化と自社の進むべき方向を見極め、中長期目線に立ち、全社的な成長戦略をグローバルレベルで大きく構想する力
●実行力:構想した成長戦略を実行する力
●変革力:業界や組織の常識・過去の慣行に縛られない視座を持ち、組織全体を鼓舞しつつ、「あるべき像」の実現に向けて組織を変えていく力

ステップ③:【候補者選定】後継者候補の選出

次に、「あるべき社長・CEO像」に合う候補者を選出します。企業規模や後継者計画に取り組む期間などによって、選出する人数は異なりますが、おおむね数名〜数十名程度です。交代までに時間的余裕がある場合は数十名程度リストアップしておき、適宜選抜していくことも考えられます。

近い時期に交代が見込まれる場合は、育成時間を十分に確保できないため、副社長やCOOなどの経営に近い人材から選出するケースも想定されます。この場合でも、単一の候補者を立てるのではなく、可能な限り複数名を後継者候補として提示しましょう。

また、必ずしも内部登用にこだわる必要はありません。候補となる人材が社内にいない場合は、プロの経営者を外部採用することも検討します。

ステップ④:【育成】後継者の育成計画の策定・実施

後継者候補の選出後は、育成計画の策定・実施に移ります。選出時に後継者候補が保有している資質・スキルと、「あるべき社長・CEO像」に必要とされる資質・スキルを比較し、何が足りていないかを検討します。後継者候補が目標レベルに到達するための育成計画を策定・実施しましょう。

■企業として取り組む育成方法(例)

●全社的視点・グループ全体最適の視点でのマネジメント能力を備えさせるべく、事業部門を超えた戦略的なローテーションを行う
●タフ・アサインメントを与え、一皮むけるために修羅場を乗り越える経験をさせる
●資質・能力(ポテンシャル)を引き上げるべく、社外取締役との1対1での面談や外部専門家によるコーチングなどにより気付きを与える

この他、社内研修や外部研修を活用し、企業のトップとして必要な知識・資質を身に付けてもらうという方法も効果的です。

ステップ⑤:【見極め】後継者候補の評価、絞り込み・入れ替え

選出された候補者について「あるべき社長・CEO像」に照らして評価を行うとともに、育成計画の実施状況とその効果について、定期的にモニタリングを実施します。モニタリングを踏まえて、候補者の絞り込みや入れ替えを行い、最終的な候補者を選抜していきます。

■後継者候補の評価方法(例)

●本人との面談
●360度評価(上司、同僚や部下などへのリファレンスチェック)
●従業員の意識調査(部署ごとに集計してマネジメント課題を把握)
●心理学的手法を用いた適性テスト

なお、評価の補助や客観性の担保を目的に、外部専門家を活用している企業もあります。

ステップ⑥:【後継者決定】最終候補者に対する評価と後継者の指名

数名程度にまで絞り込まれた最終候補者を対象に、「あるべき社長・CEO像」に照らして評価を行います。評価結果を踏まえて指名委員会にて議論し、取締役会で最終的な候補者を後継者として指名します。

ステップ⑦:【後継者支援】指名後のサポート

後継者の指名から実際の交代までには、一定の移行期間を設けます。その間に、「現社長・CEOから後継者に対する業務や取引関係の引継ぎ」「社内外の関係者への後継者の周知」「ネットワークづくり」など、必要な準備を行いましょう。また、後継者指名が適切に行われたことについて、株主などのステークホルダーに説明します。

誰がサクセッションプランに関わるのか?

サクセッションプランは、本来「人事ではなく経営者が主体となって行う」ものであるため、人事の役割は限定的です。「後継者の指名」は経営者が主体となって行います。一方で、「候補者の選出」や「育成計画の企画・立案・運用」などは、人事も積極的に関与し、他部署や経営陣との議論を通して決定することが重要です。また、サクセッションプランを策定・運営していく際には、取締役会の下に任意の諮問機関として設置され、社外取締役を中心に構成された「指名委員会」との議論が求められる場合もあります。

なお、企業によっては、サクセッションプランに「次期CEO」だけでなく、中長期的なCEO候補も含まれるようなケースがあります。「次期CEO」のサクセッションプランを策定する場合は、経営企画部などのボードメンバーが中心となりがちですが、中長期的なCEOの場合は育成要素が強くなるため、人事部が中心となって動くケースも考えられます。

企業の取り組み事例のご紹介

サクセッションプランを導入している企業の取り組み事例をご紹介します。

カゴメ株式会社

カゴメ株式会社では、後継者育成として「キーポジションの選定」「人材要件やキャリアパスの明確化」などに取り組んでいます。これらのポジション・人材情報を可視化した上で、経営陣で議論・意思決定を行い、現任者と候補者のレベル向上を図っているようです。

特徴は、「後継者の選出には外部取締役の意見を重視すること」。独善に陥らないために、外部取締役の承認を得ないと候補者が決定されない仕組みになっています。また、ポジションごとに求められる理想のキャリアパスが明記されているようです。キャリアパスと個人の価値観のミスマッチが起きないように、採用の段階で方針や制度、仕組み、展望をすべて説明し、「カゴメで理想のキャリアを築ける」と確信した上で入社してもらうことを大切にしています。
(参考:『カゴメが進める「生き方改革」とは。100年企業が起こした制度改革【セミナーレポート】』『カゴメ&参天製薬。ハード・ソフト両面必要、”生き方改革”の先にタレントの自律がある』『「マネジメント慣行」日本は最下位の次。カゴメ×積水ハウスが語る、日本の人事課題の本質とは』)

ピジョン株式会社

ピジョンでは、次世代経営人材の育成にあたっては、2年間にわたって実施する次世代経営人材育成選抜研修制度を設けています。参加資格は⼀定の等級以上で45歳以下であること。またエントリーには⾃薦と他薦の2通りあり、公募は原則として6年に⼀度⾏われています。プログラムは、⼤きく4つのフェーズにより構成され、参加者はその中で教育・評価・選抜されていくことになります。プログラム参加者は、ピジョングループの永続的発展に向け、「Pigeon Wayの価値観のもと、人間力を磨き、企業価値を高め続けられる人材」として、将来の経営層を担うことを想定しています。

さらに他社の事例を参考にされたい方は、こちらの資料をご確認ください。

まとめ

「サクセッションプラン」を活用することで、企業の存続リスクを軽減しながら持続的成長を図ることができます。サクセッションプランの策定・運用には7つのステップがあり、経営者は後継者を「指名」し、人事担当者は「候補者の選出」や「育成計画の企画・立案・運用」を担います。今回の記事を参考に、自社に適したサクセッションプランに取り組んでみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)

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