急な欠員が発生したらどうすればいい?失敗しないための対応手順を解説

パーソルキャリア株式会社

大竹博文(おおたけ・ひろふみ)

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  • 欠員発生時にまず、現場の人員配置や業務分担を見直す
  • 外部採用を進める際は第一に採用スケジュールの擦り合わせを行う
  • 採用手法は、目的の優先度に応じて検討する

人事・採用担当者として、困るケースが多いのは欠員などが発生した際の「突発的な人員不足への対応」ではないでしょうか。いざ、採用活動を始めるとなったときも、自社が中途採用に不慣れだったり、人事・採用担当者としての採用の経験が少なかったりするケースでは、「何から手を付ければいいかわからない」といった状況になりがちです。

とは言え、人材の流動化が進む現在にあっては、欠員などで突発的な人員不足に陥ることを根本的になくすことは不可能に近いと言えます。欠員対応に直面したとき、人事・採用担当者はどんなアクションを取り、どのような採用手法を検討すべきなのでしょうか。現役の採用コンサルタントであり、企業の人事・採用担当者としての経験も持つパーソルキャリアの大竹氏に聞きました。

欠員は現場の人員配置や業務分担を見直すチャンス!?

——大竹さんは企業での採用担当としての経験をお持ちですが、急な欠員で困ったケースはありましたか?

大竹氏:重要なプロジェクトを担っていた人材の転職や本人も予期していない家庭の事情など、急な退職が発生する場面に何度か遭遇したことがあります。各事業部門の現場では少なからず混乱が起きますし、「早く何とかしてくれ」と人事にプレッシャーがかかる場面も経験しています。

とは言え、全ての退職を前もって把握するのは現実的に不可能です。コロナ禍を脱してからは転職市場がさらに活性化し、人材の流動化が高まっているという側面もあるので、人事・採用担当者は常日頃から、突発的な中途採用ニーズに対応できる準備を整えておくべきでしょう。

——実際に欠員が発生した際は、まず何から手を付けるべきですか?

大竹氏:事業部門から一報が入り、「Aさん」の退職が明らかになったとします。この時点でまずやるべきなのは、Aさんが現場でどんな役割を担い、どのようなタスクを持っていたのかを棚卸しすることです。

業務内容を見直せば、欠員補充の必要がないことが明らかになるかもしれません。もし、人員が足らず外部採用する場合になったとしても、Aさんとまったく同じ役割を担う必要がなければ採用難易度を下げられる可能性もあります。

よくありがちなのは、欠員が出ることがわかった時点ですぐに退職者と同じ経験・スキルを持つ人材を採用しようとしてしまうケースです。欠員発生は残念なことではある一方、同時に現場の人員配置や業務分担を見直すチャンスでもあるのです。業務の目的や必要なタスクの整理ができれば、社内の配置転換によって対応することや、派遣社員やアルバイトを雇用するなど、別の手段によってリカバリーの手を打つこともできます。

——退職者が担っていた役割や業務を棚卸しする際に気をつけるべきポイントは?

大竹氏:人事・採用担当者は現場の責任者とやりとりをする機会が多いと思いますが、責任者といっても、部下一人ひとりの業務を事細かに把握できていないケースもあるでしょう。

その場合は退職者と同じ部署にいるリーダークラスもしくは、年次の近い従業員などからもヒアリングし、退職者が担っていた役割や業務内容を各論で、できる限り具体的に聞くべきです。たとえば営業職であれば、担当企業の属性(業種やエリア)や、新規・既存の割合などを確認することで、採用すべき人材を明確にすることが可能になります。

これらは後述する、採用活動を始めた際にも役立つもので、退職者の役割や業務内容を理解できていないままだと、現場からは「とにかく良い人を早く採用してほしい」という漠然とした要望が寄せられ、採用要件に合う人材がおらず、採用ができないといった事態に陥ることになります。

採用活動の入り口は「スケジュール把握」と「予算確保」

 

——配置転換などの社内調整では対応できず、いよいよ中途採用に動くことになった場合は、どのような手順で準備を進めるべきでしょうか。

大竹氏:第一にやるべきなのは、現場と採用スケジュールの擦り合わせを行い、逆算して動くことです。たとえば、退職が発生した場合は以下を考慮しながら、採用までのスケジュールについて、擦り合わせを進めるべきです。

・前任の退職日はいつか
・前任の最終出勤日はいつか ※後任への引き継ぎ有無の確認
・後任はいつまでに入社していただく必要があるか ※入社手続きや、現職の退職交渉にかかる期間を考慮
・後任を採用するまでのスケジュール ※募集~選考期間を考慮
・採用チャネルの選定

中途採用で正社員を採用する場合は、早くても募集から合否通知まで1カ月程度はかかってしまうことが多いです。採用までにかかる期間を現場に理解してもらいつつ、何を最優先事項で進めるかを現場と一緒に検討していくことが大事です。

また、突発的な中途採用となるので、採用予算を把握し、確保することも重要です。使用できる採用予算はどれくらいか、もし予算がなければ承認フローがどうなっているのかを事前に把握しておく必要があります。採用予算の年間計画を立てる際、1人の退職者も出ない想定で予算組みをする企業は少ないと思いますが、状況によっては予算の捻出が厳しいかもしれません。場合によっては他の予算を振り向けるなどの対応も必要です。

——予算を確保することと同時に、経営層とのコミュニケーションで注意するべき点はありますか?

大竹氏:採用活動を進める上で課題になっていることがあれば、率直に共有して対策してもらうべきでしょう。人事・採用担当者だけで解決できることには限りがあるので、経営層を巻き込んで対策を練っていくことも重要です。人事制度や給与テーブルの見直しなどは中長期的な視点で変革する必要がありますが、それらを実現するためにも常日頃からコミュニケーションを取っていくことが重要です。

採用手法を選ぶ際のポイントとは

——次に、採用手法をどう検討すべきか教えてください。

大竹氏:まず一つは、何を重視して採用を行うのか整理することですね。採用までのスピードを重視するのか、なるべくコストがかからない方法を重視するのか、工数をかけずに進めることを重視するのかといった優先度を決めることです。

スピードが最優先であれば、自身が手を動かしスカウトメールを配信できるダイレクト・ソーシングサービスを活用する手もあります。また、工数をなるべく低減したい場合は、求人票作成や人材のスクリーニング、面接の日程調整などを代行してくれる人材紹介サービスを検討するのが良いでしょう。

また、採用コストを低減したい場合、求人広告であれば掲載単価が決まっているため、多くの人数を採用すればするほどコストが下がります。

そのため、何を優先すべきかを考慮しながら手法を検討していくべきです。業界や職種によっても効果的な訴求方法は変わるので、人材サービス会社へどのような手法が有効なのか、ゼロから相談してみてもいいかもしれませんね。

——実際に中途採用を進めていく中で、陥りがちな落とし穴はありますか?

大竹氏:やはり、現場がどんな人を求めているのか、またどんな人を採用すべきか、この採用候補者像の設計がずれていると、どんな採用手法でも採用は難しいでしょう。

これを防ぐためには、できる限り現場と人材サービスの担当者を接続すべきだと思っています。現場には転職市場の市況感を理解してもらうべきですし、人材サービスの担当者には現場を見た上での本質的な採用候補者像の設計を手伝ってもらうべきです。人事・採用担当者から現場へ「この経験・スキルを持つ人材の採用は難しい」と告げるのに気が引ける場合も、人材サービスの担当者からデータや事例を基に伝えてもらうことで、納得感を持ち現実的な解決策を検討することができるはずです。

——それでもなかなか採用できない場合は…?

大竹氏:現状の転職市場は全体的に有効求人倍率が高く、転職希望者数よりも求人企業数が圧倒的に多い状況なので、なかなか応募を集められないこともあると思います。そんな場合には、募集条件を見直す、採用候補者像を再定義する、自社の魅力を的確に発信するなどリカバリー策を検討する必要があるでしょう。

たとえば採用したい人物像が明確でも、その採用候補者の希望収入が自社の給与テーブルに合致していないこともあるでしょう。年収700万円希望の人を年収500万円で採用するのは、よほどのことがない限り難しい。自社の条件を変えるか、現条件に合わせて採用候補者像を考え直すかを検討すべきです。

それでもなかなか応募が集まらない場合は、求人票や求人広告の記載内容がわかりにくい、魅力を感じない内容になっていることも考えられます。採用候補者がどんな情報を求めているか、どうすれば魅力を感じるか、志向に合わせて、自社の強みや魅力を的確に訴求していくことが重要です。自社の強みを整理するために、活躍している自社社員や、直近で入社した社員へ意思決定理由をヒアリングすることで、客観的な視点で強みを棚卸しすることができます。

常日頃から離職防止の対策を真剣に考えていく

——ここまで欠員対応の実践的なノウハウをお聞きしました。上記を踏まえて、人事・採用担当者が常日頃から意識しておくべきことを改めてお聞かせください。

大竹氏:欠員が発生してしまってからの対応をお話ししましたが、「どうすれば防げる離職を減らせるのか」を普段から考えておくことは、欠員対応以上に大切なことだと考えています。

一口に退職といっても、キャリア実現などを目指す退職もあれば、「この会社には残れない」という思いで従業員が離れてしまう退職もあります。後者はもしかしたら防げたかもしれない離職です。人事・採用担当者は、経営や現場の責任者とともに、その対策を真剣に考えていくべきでしょう。

私が人事として働いていた企業でも、離職率の高まりが問題となっていました。そこで退職理由を詳しくヒアリングしていったところ、「仕事内容と給与が見合っていない」と感じている従業員が多いことがわかったのです。そのため、新たに採用する人の給与設定を考える前に、既存従業員の給与テーブルを見直すことから動きました。

繰り返しになりますが、現在の転職市場は圧倒的に転職希望者が優位な状況であり、企業は数ある候補の中から選ばれる立場です。その現状認識の下で自社の改善ポイントを冷静に分析し、着実に手を打っていかなければなりません。

そうした意味では、欠員対応は自社の人員配置や、部署に必要なスキルを再確認する絶好の機会だと言えるのではないでしょうか。

取材後記

市場は圧倒的に転職希望者優位とはいえ、1人の個人にとって、転職が人生を左右する大きな決断であることに変わりはありません。大竹さんは「1人の転職希望者が複数の人材サービスに登録して転職活動をするのが当たり前になっている」とも話していました。期限の迫る欠員対応でなかなか応募が集まらないとき、人事・採用担当者としてはつい採用チャネルの見直しに心が傾いてしまいがち。表面的な打ち出しではなく、背景にある自社の体制や環境を見直していく。欠員対応はそのアクションの入り口になり得るのだと感じました。

企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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