求人倍率の高い施工管理職。他社との差別化を図るターゲティングと自社の魅力が伝わるアピール術

パーソルキャリア株式会社

八幡和樹(やわた ・かずき)

プロフィール
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  • 施工管理職の中でも特に「建築施工管理」の求人倍率が右肩上がり。即戦力となる経験者を求める企業が増加傾向
  • 転職希望者が知りたい「働きやすさ」のアピールに必須なのは、“なぜ”それが実現できるかという裏付けとわかりやすく伝えること
  • たとえ訴求ポイントが乏しいケースでも、自社の魅力を因数分解することで、他社にはないアピールの方向性が見つけられる

ここ数年にわたり、求人数が右肩上がりで増え続ける施工管理職。オリンピック需要以降も、後を絶たない都市開発、職種経験者の高齢化、働き方改革後の人手不足の懸念などもあり、採用競争は激化しています。

一方で、より魅力的な業務内容や職場環境を求めて転職を検討する人材も増えており、企業側としては採用に成功するチャンスも大いにあるはずです。実際に、求める人物像を明確化したうえで求人広告や求人票の内容に工夫を凝らし、応募を集めている企業も見られます。

では、他社との差別化を図るためには一体どうすればよいのでしょうか。経験者・未経験者それぞれに届く訴求ポイント、その訴求ポイントにいかにして信憑性を持たせるのか、実際に採用に成功している求人広告の例とはどのようなものなのか。パーソルキャリアで主に建設・機電領域の採用を一貫して担当してきた八幡氏に詳しく聞きました。

「即戦力が欲しい」建設施工の現場では慢性的な人手不足が続き、採用競争が活発化

――施工管理の採用について、dodaにおけるここ数年の求人数・登録者数の変化についてお聞かせください。

八幡氏:非常に求人数が増加している印象です2024年2月にdodaが発行した職種別マーケットレポートを参照すると、施工管理は全技術系職種の中でも求人数が最も多く、採用難易度も高いことがわかります。また前期(2023年8月~10月)比で見ても120%増加しており、各社の採用熱度は引き続き高い状態にあることが伺えます。

2023年8月~2024年1月にdodaに登録された求人件数と登録者数の推移

    ※2023年8月の数値を「1」とした場合の変化を表しています。
出所:職種別マーケットレポート_モノづくりエンジニア_2024年2月発行

コロナ禍前、特にオリンピック需要のころは「とにかく人が欲しい、未経験でもいい」という求人が多かったのですが、最近は未経験者募集が減少傾向にあり、即戦力中心の採用に比重が置かれている状況です。また、2024年4月からの時間外労働の厳格化に向け、残業時間を減らし休日を増やそうという企業の動向もあり、既存の人員では仕事が回らない懸念から、ますます需要が高まってきています。

――具体的にはどのような施工管理の募集が増えているのでしょうか。また、求人のトレンドはあるのでしょうか。

八幡氏:施工管理の職種にはビルやマンション、戸建住宅など、地面の上に建つものを施工する建築施工管理のほか、建物の基礎や河川・トンネル・橋などを施工する土木施工管理、工場地帯の生産設備を施工するプラント施工管理などがあり、この3つの募集が非常に増えていると感じます。

中でも、建築施工管理の募集は、木材の価格高騰により駆け込みでマンションやマイホームを建てる人が増えていることなどからニーズが高くなっています。また、最近では中古マンションの大規模修繕工事やリフォームに特化した施工管理職の需要も増加している印象があります。

――都市開発の隆盛により建築施工の需要が増えていることも、求人が増えている要因になりますか?

八幡氏:トレンドとして増えているというよりは、不動産企業など民間企業主導の都市開発は常にどこかの街で行われていますので、コンスタントに求人が出ていますね。土木施工やインフラ系の求人も、常に一定数の募集が見られます。こうした慢性的な人手不足に対し、課題となるのは先ほども話した通り「経験者を採用したい」という企業が多い点です。

施工管理の仕事は、現場での思わぬアクシデントの対応が発生したり熟練の職人とのコミュニケーションがあったりするなど、知識と経験が必要になる職種です。また、企業には必ず建築施工管理技士などの国家資格を持った人材が在籍することが必要ですので、そうした点でも経験者がより多く求められる職種ではあります。ただ、最初は補助的役割のスタートにはなりますが未経験者でも活躍できる現場ですので、そうした人材にどのようにアプローチするかについては重要なポイントとなってくるでしょう。

「働きやすさ」を訴求する際は、裏付けに基づいた客観的データを駆使する

——採用が激化している中で、転職希望者が施工管理の仕事を希望する際に重視するのはどのようなことなのでしょうか。

八幡氏:他の職種でも同じことが言えますが、基本的には「働きやすさ」を重視する傾向にあります。ここで言う働きやすさというのは、残業が少なく、休日が規定通りに取れること。それが難しければ、働きに見合った給与や待遇が得られることを指します。特に若手であればあるほど、こうした条件にシビアになっていることを忘れてはいけません。

一方、ある程度年齢を重ねて業界経験が豊富な人材からすると、「仕事のやりがい」を求めて転職するケースも増える傾向にあります。彼らは、管理職として現場を離れることより、経験を活かして現場で活躍できることを望んでいることが多いですね。施工管理は、ある程度歳を重ねていても活躍できる仕事ですので、そうした意味でのやりがいは満たせる要素があるはずです。

――特に「働きやすさ」に特化してアピールしたい場合、どのように情報を提供することが大事だと考えますか?

八幡氏:最も大切なのは、客観的データに基づいて自社の優れている点を訴求することでしょう。休日が規定通りに取れるといったメリットを訴求したい場合、たとえば「2022年11月の施工管理者の平均休日数は8日だったのに対して、当社では祝日を含め10日の休日を付与しました」といったイメージです。この企業は完全週休2日であることに加え祝日も休むことができる、具体的なデータもある、となれば転職希望者も納得できるはずです。

給与に関しても、該当する施工管理職の平均年収のデータを踏まえ、自社の平均年収を明記し、待遇の良さをアピールするのも良いでしょう。最近では職種ごとの平均年収がわかる資料を提供してくれる人材関連の企業も増えているため、活用することをお勧めします。

――残業時間の少なさを訴求したい場合は、どのようにアピールすると有効でしょうか。

八幡氏:やはり「なぜ少ないか」といった裏付けが必要でしょうね。残業時間が少ない理由としてよく挙げられる例を見てみましょう。

・施工管理職社員専用のソフトウェアが導入されたタブレットを1人1台支給しているため、工事記録の入力を事務所ではなく現場でそのまま済ませることができる
・現場作業の効率化を図るため事務作業担当者が別に在籍しているので、分業体制がしっかりなされており、施工管理職社員の雑務が少ない
・現場で一から部材を組み立てるのではなく、工場で枠組みをつくってから現場で作業に入るといった特殊工法を取り入れているため、余分な労働が発生しない
・建物の規格が明確に決まっているため、施工現場で問題やイレギュラーが発生しにくい

このように裏付けが記載されていると、転職希望者も安心感を持って応募することができることがわかると思います。

自分のした仕事が何年経っても街に残り続ける。施工管理のやりがいを未経験者にこそアピールする

——「やりがい」の面では、どのようなアピール方法がありますか?

八幡氏:ベテラン勢はもちろん、未経験の方に訴求していきたいのが「やりがい」面だと思います。地域に根付いたランドマークや住宅地は、何年経っても、自分が年を取ったとしても残り続けます。当然地図にも残るでしょう。それを、自分の仕事なのだと誰かに誇れることは、施工管理の仕事ならではの「やりがい」につながるはずです。

また、国家資格を取得することでスキル・経験に自信を持つことができ、将来にわたって活躍できる点も魅力の一つです。こうした点をいかにアピールできるかが鍵になってくるでしょう。

――そのほか、主に未経験者に対して訴求しておきたい点はありますか。

八幡氏:やりがいを理解してもらっても、「では実際に施工管理の仕事って具体的に何をするの?」「現場で作業着を着て部材を組み立てるの?」といった疑問を持つ転職希望者も少なくありません。そうした方に対しては、テキストだけの求人広告だけでなく、採用動画やさまざまな角度からの画像を見ていただくことも理解の促進につながると思います。

施工管理の仕事は現場には行きますが、あくまで管理者であり実際の作業には携わらないということが意外と伝わっておらず、ハードワークや重いものを持ったり運んだりする仕事と誤解されているケースもあります。

施工する対象物や規模、工事の進め方などによっても業務の特徴は変わるため、わかりやすく丁寧に伝えることが応募獲得につながります。

自社の魅力を徹底的に洗い出すことで、他にはないアピールの方向性が見つかることも

――ここまでのお話を踏まえ、具体的な施工管理職の求人広告の取り組み例を紹介していただけますか。

八幡氏:私や制作メンバーが担当させていただいた事例を紹介しますね。リフォーム工事を専門に行っているA社では、まさに先ほどお話しした「働きやすさ」にフォーカスすることで多くの方から応募いただくことができました。

月給や休日に関して具体的な数字を提示して安心感を担保したうえで、「アプリを使って出先でも作業が可能なため、帰社後に書類対応に追われることがない」「近隣へのあいさつや予算管理・図面作成などは専任の担当者が行っている」「小規模なリフォームは営業担当者が施工管理を行うこともあり、負担過多にならない」など丁寧に記載し、情報の信頼性を高めることができました。

また、社員数10人未満のB社では、具体的な数字を提示したアピールが難しかったのですが、新社長が就任したタイミングでの募集ということもあり、その社長と一緒に働く魅力を伝え、共感していただける方に応募していただこうと考えました。新社長の顔写真を大きく載せ、目立つフォントで「年収がアップする仕組みをつくろう!」「ITを活用しよう!」と強調し、制度改革に具体的に着手していることをアピールすることで、同社の未来に期待感を得ていただくことを狙いました。

一方で、同じく事業規模が決して大きくないC社では特殊な例かもしれませんが、「人前に出たくないし、本当は施工管理もやりたくなかった」とう個性的な社長をあえて前面に打ち出しました。こうした社長の性格とリンクさせ「恥ずかしがり屋でも大丈夫。」というキャッチコピーを付け、「この社長の下でなら頑張れるかもしれない」と未経験者の心理的ハードルをぐっと下げることで、「まずは話を聞いてみよう」という転職希望者の応募の獲得を目指しました。

このように自社の魅力を洗い出したうえで、最大限にアピールできる方法を考えていくことが重要でしょう。

――最後に、施工管理職の採用フローに関して気を付けておくべきポイントを教えてください。

八幡氏:転職希望者は忙しい中、貴重な時間を使って転職活動を行っていることを忘れてはいけません。選考フローにおいてはできる限り面接回数を減らす、可能な限りオンライン面接や面談を実施するなどの配慮が重要です。面接の回数が減らせないのであれば、2回の面接を1日で実施する段取りをすることなども採用成功に近づくポイントとなるでしょう。

この職種では経験者募集の求人が多く、彼らは引く手あまたです。企業側が転職希望者を一方的に見極めするようでは、決して選ばれることはないでしょう。また、未経験者の募集においても採用競合となる企業の業種や業態、職種はさまざまです。場合によっては志望動機を問わないカジュアル面談を実施したり、選考途中や選考合格後に実際に働く職場の同僚や中途入社をした社員との面談を設定したりするなど、転職希望者に寄り添う姿勢を心掛けたいですね。

取材後記

働きやすさを重視する施工管理職の経験者や若手転職希望者に対しては、印象で語るのではなく、なぜ自社では他と違った働き方ができるのかについて、事実(ファクト)を持って伝えることが最重要項目となることを八幡さんからのお話を聞いて強く感じました。

自社ならではの魅力を最大限に洗い出したうえで、求人票や求人広告の表現や情報の伝え方に工夫を凝らしつつ、選考においても根拠のある実績や自社が将来目指している姿・今後の事業の展望を丁寧に伝えることが有効な手立てとなりそうです。

取材の最後に、「魅力がうまく伝えきれていないケースでは、面接官自身が感じている仕事の面白さをぜひ自分の言葉で語っていただきたい」と八幡さんがおっしゃっていたのがとても印象的でした。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/波多野友子

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