“厳しさが増す”地方拠点を取り巻く採用市場。人材獲得のために対応すべきこととは

d’s JOURNAL編集部

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  • 労働人口が年々減少し、さらに地方から都市部への人口流出の影響も
  • 地方での母集団形成は、採用チャネルを組み合わせて相乗効果を生み出す
  • U/Iターン人材には、地域ならではの魅力を訴求しつつ、オンラインを最大限に活用する

地方に拠点を構える企業のなかには、求める人材がなかなか見つからず採用が難しいという悩みを持つところも多いのではないでしょうか。一方で、現状は人材不足を実感しておらず、採用活動を積極的に行っていない企業もあると思います。採用市場を見ると、労働人口が減少し、売り手市場が加速するなかで、地方から首都圏への人材流出もあり、地方企業にとってはより人材不足となることが想定されます。

この記事では、地方における採用市場の現状について、そして地方で起こりがちな採用課題と、企業が取り組むべきことについてお伝えします。

地方の採用は難易度が上がり続ける

労働人口は減少傾向で人手不足は深刻

パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計 2030」によると、2030年には、7,073万人の労働需要に対し、6429万人の労働供給しか見込めず、「644万人の人手不足」となると言われています。少子高齢化が進み労働人口が減少していく日本では、今後も労働需給のギャップは広がっていくと考えられます。

出所:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」

では、地域別の労働人口はどうなっているのでしょうか。内閣府の「マンスリー・トピックス『地域における人手不足問題』」によると、南関東と近畿、つまり都市部の労働人口は増えている一方で、2019年をピークに四国は横ばい、その他の地域の労働人口は減少しています。日本全体で労働人口が減少していますが、特に地方エリアでは今後も労働人口の減少が進んでいくことが想定されます。

出所:内閣府「マンスリー・トピックス(最近の経済指標の背景解説) No.72 2023年6月30日付『地域における人手不足問題』p.6

求人倍率は上昇傾向で採用競争は激化

転職を支援するdodaの調査によると、2019年2月から2023年11月までの業種別転職求人倍率は右肩上がりになっています。コロナ禍以降、求人倍率はさまざまな業種で上昇が続く状況。今後も労働人口の減少に伴い人手不足が進行していく中で、人材獲得の難易度は上がっていくことが想定されます。一方、小売・流通など一部の業種によっては求人倍率が1.0倍を切っており、2023年度時点では買い手市場となっている業種もあります。

大学進学率が増加し、新卒人材も採用難に?

文部科学省「学校基本調査」によると、大学への進学率は1975年から2019年にかけて男女ともに増加しています。
出所:文部科学省「【参考資料2】大学入学者選抜関連基礎資料集(その3)」

18歳人口は1992年以降、減少傾向にありますが、大学進学率は増加しています。特に高校の普通科卒業生の就職率は減少していることもあり、地域の高校などと連携しながら新卒採用を行っていた企業は人材確保がますます難しくなっていくことが想定されます。さらに大学進学とともに人材が地方から都市部に流れてしまい、そのまま都市部で就職してしまうことなどを考えると、大学卒業後の人材も、地方に拠点を持つ企業は採用しにくくなってしまっているのです。

地方で採用を成功させるためのポイントは

母集団形成

・採用チャネルを組み合わせて母集団形成を行う

地方拠点の採用では、都市部と比べて母集団形成が難しいケースが多くあります。よって地方で採用を行う場合、母集団形成の工夫をする必要があります。その地域の人がよく見ている広告に掲載するなど、そのエリアの人材へアプローチするだけでなく、U/Iターンの人材へアプローチを広げていくことも必要になってきます。

実際に求人広告や人材紹介サービスなど複数の採用手法をうまく活用して採用成功に繋がった事例もあります。

■事例|母集団が集まりにくい「地方エリア」で230人を超える採用に成功

人材の東京一極集中が続く中で、長野県に本社を構えるセイコーエプソン株式会社では母集団形成が難しくなっていました。しかし下記の工夫を行うことで、「勤務地:長野」で200人を超える採用に成功しました。

・求人広告への掲載も開始し、新たな母集団形成に加え、自社の魅力を訴求する採用ブランディングとして活用し、人材紹介サービスとの相乗効果も実現
・希望勤務地をあえて考慮せず、「世界で活躍できるブランドメーカー」でのキャリア構築を軸にメッセージを発信

▼詳しくはコチラ
dodaの人材紹介と求人広告など、複数の採用手法を活用し、母集団が集まりにくい「地方エリア」で約230名の採用に成功

・採用要件を見直す

母集団形成が難しい場合は、採用要件を見直すことで応募獲得につながるケースも。採用背景をもとに、どういったスキルや適性があれば活躍できるのかを現場の責任者と整理することで、今必要なスキルと入社後に教育を受けて習得するスキルなどを分けることができます。

たとえば「入社後に活躍できる人材」と定義することで、経験やスキルが豊富な即戦力だけでなく、ポテンシャルを持っている人材にまでアプローチを広げることが可能です。しかし、未経験の人材を採用する際は「思っていた仕事と違った」というギャップを感じさせることのないように、選考時や入社後にフォローして、ミスマッチが起きないような工夫をセットで整備することが必要になります。

■事例|未経験者を積極的に迎え入れる方針で採用

愛媛県に本社を置くなごみのくに株式会社は、慢性的な人材不足である建築業界にあり、求める人材を未経験者にも幅を広げた採用活動を展開。下記を行い、20代の人材を続々と採用しました。

・採用難易度も高い経験者採用の対象となる人材は限定的なため、未経験者を積極的に採用する方針。いずれの職種も経験を不問とし、基本的な社会人としてのコミュニケーション能力を見て合否を決定
・採用決定前に「1日体験入社」を実施。実際の業務内容や現場の雰囲気をありのままに感じてもらう機会を設けた。さらにチームで目標達成を目指す体制を構築し、未経験者を迎え入れて長期的に育成する環境を整えた

▼詳しくはコチラ
未経験者採用・定着の秘訣は、ありのままを伝えること。「1日体験入社」を実施しdoda経由で20代を続々採用

地方ならではの魅力を訴求する

地域によっては「遠距離」という物理的なハードルが発生することから、転職希望者に対して企業の魅力が伝わりにくいことが多くあります。したがって地方での採用活動においては、都市部の企業にはない、地方ならではの魅力を訴求することも大切です。

・地方エリアに在住している人材への訴求ポイント

地方エリアに住んでいる人に対しては、その人向けに届くような訴求が有効です。地方に住んでいる人は、まず自身が通える範囲で転職先を検討することが多いため、「駅名などのエリア情報」「駅からの距離」「自動車通勤を考慮したアクセス情報」などをわかりやすく明記しておくことが大切です。

また、「ワークライフバランスを大切にしたい」「子育て/介護をしながら働きたい」などの希望を持ちながら働いている人も多いので、「休みが取りやすい環境かどうか」「リモートワークの有無」「フレックス制度の有無」など、ワークライフバランスに関する訴求をすると伝わりやすくなります。

・U/Iターン人材への訴求ポイント

U/Iターン人材には、そのエリアならではのアプローチをする必要があります。U/Iターン人材は、「生まれ育った地域へ戻りたい」「生活コストを下げたい」「自然が多い環境で生活したい」「ワークライフバランスを大切にしたい」などと考え、移住してくることが多いです。

私生活も大切にしながら仕事ができること、ターミナル駅からの距離といった都市部への行きやすさなどの住環境に関する情報がポイントになるでしょう。ホームページ上にライフラインや教育環境の充実度を明記する、首都圏との生活コストの違いを記載する、また実際に暮らしている社員へのインタビューを載せるといったことで暮らしのイメージができるようになります。場合によっては、趣味に関わるようなアクティビティー情報もあるとよいです。実際に移住することを考えて、引っ越し費用の負担の有無や住宅手当、寮などの情報もあるとより安心材料となります。

実際に自社の魅力を訴求し、転職希望者が移住を決断して採用に成功した事例もあります。

■事例|オンラインの転職フェアを活用し、本社・秋田への移住を伴う採用に成功

秋田県に本社を置く東成瀬テックソリューションズ株式会社では、オンライン転職フェアを活用し、さまざまなエリアに住む転職希望者に移住の良さを訴求。入社した1人は東海エリア出身で、ウィンタースポーツが好きなため東北エリアなら趣味やプライベートも充実させられると入社を決断したそうです。

▼詳しくはコチラ
全国から参加可能な「doda転職フェア オンライン」の利点を最大限に活用し、本社・秋田への移住を伴う採用に成功

オンライン選考を導入し、選考における環境を整える

地方での採用の課題として、転職希望者の転職活動の負担が大きいことも挙げられます。地方における採用では、選考における環境を整備することも大切です。

企業の拠点がある地域以外に住んでいる転職希望者は、採用面接のたびにその企業の拠点まで行くことになると、身体的にも金銭的にも負担が増えてしまいます。また、都市部には企業が集中しているため、転職希望者は一度の訪問で複数社の面接を受けることもできますが、地方は企業数が少なかったり、企業間を移動するのに時間がかかったりするため、一度の訪問でまとめて転職活動を進めるのも難しいです。

そのため、採用に力を入れたい地方の企業は、転職希望者が選考を受けやすい環境を整えることが大切です。コロナ禍から少しずつ導入されているオンラインでの選考を積極的に取り入れる。その際、オンラインでの選考でも転職希望者に会社の魅力が伝わるよう、動画や記事などの企業紹介コンテンツを転職希望者に提供するなど、自社に対する理解を促すようなコミュニケーションを取るとよいでしょう。

企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、文/岩田悠里(プレスラボ)

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