管理職採用成功の秘訣は、人材紹介会社の担当者と経営陣が気軽に話せる場を用意。「人柄」を大切にするカクヤスグループの採用戦略
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業績好調の中でも変化を求めて管理職採用を強化。ボトムアップで物事を進める社風になじめるよう、「人柄重視」で求める人物像を設定
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人材紹介サービス担当者との会話量は社内関係者以上。経営陣と気軽に話せる場も用意し、求める人物像の理解を広げている
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採用はスピードを重視。応募者の本音や懸念をつかみ、戦略的に交渉する「入社承諾前面談」が人事の本当の勝負どころ
新規事業展開やマネジメント強化を目的として、役員・管理職などのエグゼクティブ人材採用を強化する企業が増えています。「なんでも酒やカクヤス」の展開で知られるカクヤスグループもそんな1社。
業績好調を背景に年間400人以上の中途採用目標を掲げ、多数の管理職採用も計画。エグゼクティブ人材を対象とした人材紹介サービスを活用し、ネット通販最大手で管理職として活躍していた人が入社するなど、着実に採用を進めています。
管理職採用をリードする小澤氏は「知名度が高く待遇の良い大企業が採用競合でも、最終的には当社を選んでもらえる」と話します。同社の採用活動の実践知を聞きました。
過去最高益をたたき出す中でも「現状に満足しない」
——現在カクヤスグループが注力している事業についてお聞かせください。
小澤氏:主力である飲食店向けの酒販事業が売上の7割近くを占めており、大手チェーンから中規模店・個人店まで、幅広い顧客層を獲得しています。近年では「なんでも酒やカクヤス」のブランドで展開する店舗営業も強化し、コロナ禍以降はECによる個人向け販売にも注力しているところです。
コロナ禍では飲食店の営業休止が相次ぎ、酒類業界は危機的な状況にありました。同業他社では人員・物流体制を縮小しているところも多く、コロナ禍明けの需要回復になかなか対応できていない状況もあるようです。当社は幸いにもコロナ禍前の2019年に上場しており、資金調達ができたおかげで人も店舗も配送車も減らさずに苦境を乗り越えることができ、コロナ禍明けも以前と変わらないオペレーションを維持しています。そのため、従来は他社に発注していた飲食店からの引き合いも増加し、2023年は過去最高益を実現しました。
——業績好調の今、管理職層の採用を強化している狙いは?
小澤氏:当社は飲食店向けの売上ではリーディングカンパニーであり、業界自体が狭いこともあって、意思決定が保守的になりがちです。
しかし当社を取り巻く市場も変化を続けています。経営陣からは「現状に満足してとどまっていてはいけない」というメッセージが出され、既存事業の発展や新規事業の展開などを見据えて、外部から最適な人材を積極的に採用していく動きになりました。
なんでも酒やの「なんでも」には、「お客さまの要望になんでも応える」という想いが込められています。そのためには、当社が蓄積してきた知見だけでなく異業種の知見も必要だと考えています。
社内関係者より多い人材紹介サービス担当者との会話。経営陣との意思疎通で「人柄」を共有
——管理職層の採用では、どのような人材を求めているのでしょうか?
小澤氏:経験・スキルよりも人柄を重視し、当社の社風に合った人を迎え入れたいと考えています。
当社では中途採用で新たに入社した人から「いい人が多いよね」と言ってもらえることが多いんです。とても抽象的ですが、どんな立場の人も上から物を言わず、自分の手を動かし、ボトムアップで物事を動かしていく社風を評価してもらえているのだと考えています。
——なぜ御社はこうした社風があるのでしょうか?
小澤氏:トップである会長の人柄による影響が大きいです。会長は創業家の3代目ですが、誰に対しても低姿勢。私自身が2年前に当社へ転職し、入社初日に会長へあいさつした際には、「当社の採用をよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げられて驚きました。
社風は当社の組織図にも表れています。一般的な企業の組織図は上に会長や社長がいますよね。しかし当社では真逆なんです。現場に近い人たちがトップにいて、それを経営層が下から支える構図になっています。管理職採用では、こうした当社ならではの考え方に共感し、自身の強みを発揮できる方と働きたいと考えています。
——求める「人柄」を共有することに難しさはありませんか?特に人材紹介サービスなど、外部パートナーに理解してもらうのは大変ではないかと感じます。
小澤氏:たしかに簡単ではないですね。人材紹介サービスの方々には頻繁に来社していただき、経営層と直接会ってコミュニケーションを取ってもらい、その上で「役員の◯◯さんと合いそうな方を探したいです」といった形で依頼しています。当社の担当になった人材紹介サービス担当者には、経営陣ほぼ全員と会っていただいているのではないでしょうか。
私からも経営陣へさまざまな発信をしており、前のめりになって採用活動に協力してもらっています。経営陣と社内ですれ違う際には立ち話で情報共有することも多いですし、直接電話をしたり、スケジュールを押さえて打ち合わせに参加してもらったりすることも頻繁にありますね。
——小澤さん自身が人材紹介サービス担当者とのやり取りで工夫していることは?
小澤氏:ほぼ毎日電話して、密に連絡を取り合っています。「社内でこんな動きがありました」「こんなニーズが発生するかもしれません」といった情報を逐一共有して、当社の最新状況を理解してもらえるようにしています。社内の関係者よりも頻繁に会話しているかもしれません。発注者やクライアントではなく、「仲間」の意識が強いですね。
人材紹介サービスの皆さんとの懇親会も行っています。当社は酒屋なので、経営陣を交えて一緒にお酒を飲みながらコミュニケーションする機会も。こうした場では可能な範囲で今後の事業戦略や構想を共有しています。そうすると「このニーズにはこんな人材が当てはまるかも」と担当者の皆さんもイメージがしやすくなる。過去には、担当者からの提案で新しいポジションをつくったこともありました。
本当の勝負は採用決定後。入社承諾前面談で本音をつかみ、入社受諾してもらうことが人事の最重要ミッション
——管理職採用の選考フローについても教えてください。
小澤氏:面接は役員や部長、該当ポジションを管掌する取締役と行い、スピード重視の選考を行います。スピード重視の体制のため、経営陣との日程調整に苦労することもありますが、1日でも早く応募者と会ってもらえるようにしていますね。
——面接で応募者の人柄を見極める秘訣を知りたいです。
小澤氏:応募者には弱みも含めてさらけ出してもらえるような面接を意識しています。そのために当社の情報をオープンにしていますし、堅苦しいやり取りはしません。カジュアル面談のような形で面接を進めるので応募者の素の人柄を知ることができるんです。面接後に応募者から「追加で話を聞きたい」「こんな人にも会ってみたい」など要望があれば、どんな形でも、なんでも対応するようにしています。
面接では見極めだけでなく、応募者の入社意向を醸成していくことも重要です。人材紹介サービス担当者からもらうアドバイスに従って、やるべきことはなんでもやります。採用決定後の入社承諾前面談も行っていますね。
——最近は他社でも、入社承諾前面談を重視するところが増えているようです。
小澤氏:入社承諾前面談は本当に大切です。選ばれる側から「選ぶ側」になったことで、初めて出てくる本音もある。「もっと給与を上げてほしい」とか、「実は家族に転職を反対されている」とか。ほとんどの応募者は複数企業で選考を受けているので、戦略的な交渉が必要になることも少なくありません。
入社を決めてもらうためのこうしたボトルネックを最終的に解決するのは、入社承諾前面談でなければ難しいとも感じます。最終面接合格を伝えてからが本当の勝負。ここで応募者の本音をつかみ、出せる条件をすべて出して入社受諾してもらうことが私の最重要ミッションだと思っています。
応募者理解のためには、選考の入り口段階からの接点を大切にしています。面接へアテンドする際や、面接が終わった後のタイミングなど、ちょっとした時間に行う雑談から情報収集することを心がけていますね。
——現場のキーパーソンや経営陣に面接を担ってもらいながら、その合間では人事としてアトラクト(自社の魅力づけ)に努めることが大切なのですね。
小澤氏:はい。当社より企業規模が大きく、知名度があり、待遇が良い企業はたくさんあると思います。それでも当社ならではの社風や考え方が応募者に伝わり、共感を得られれば、最終的には当社を選んでもらえるんです。人事はその共感の接点となる重要な存在だと認識しています。
今後もさまざまなポジションで管理職採用を拡大していく計画を立てています。ゆくゆくはヘッドハンティングのように、バイネームで最適な人材に声をかけ、招聘できるような自社採用力を身に付けたいと考えています。
取材後記
取材で強く印象に残ったのは、ためらうことや遠慮することなく経営陣へ要望したり、短い時間の雑談で応募者の本音を聞き出したりする小澤さんのコミュニケーション力でした。その背景には、アパレル販売員や営業職を経験して学んだ対人折衝のスキルがあるそうです。人事としてカクヤスグループへ入社した後も、社内でキーパーソンとなる役員と直接話し、関係性を深め、コネクションを次々に広げていったという小澤さん。「接客や営業を経験し、相手の懐に入り込めるスキルを持つ人を人事にコンバートするのも採用力強化に有効では」と話していました。
企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也
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