転職希望者の約8割が見ている!転職先候補から外されない採用サイトの作り方

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転職希望者は1人当たり平均27社に応募。企業を比較検討する際には、採用サイトが重要な情報取得手段となっている
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採用サイトの必須情報は「会社」「仕事」「働く環境・風土」「採用・選考」。転職希望者の幅広いニーズに応えるため、情報量をなるべく増やす
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採用サイト制作の鍵は「チームづくり」と「情報収集」。制作前にリアルな採用課題を共有する
転職市場での競争が激しさを増す中、大手企業では予算を投じて採用サイトを刷新し、転職希望者に対する情報発信を強化する動きが見られます。一方、中堅・中小企業では採用サイトがあっても情報が不足していたり、そもそも採用サイト自体をつくっていなかったりするケースが珍しくありません。
採用広報や採用戦略全般の支援に携わるパーソルキャリアの長谷川氏は「中堅・中小企業こそ、採用フロー全体を支えるインフラとして採用サイトを整備すべきだ」と話します。なぜ採用サイトが重要なのか。転職希望者は採用サイトにどんな情報を求めているのか。良い採用サイト制作のポイントはどこにあるのか。実践的なノウハウを聞きました。
採用サイトは採用フロー全体を支える「プラットフォーム」
——近年、大手企業では自前の採用サイトを設けることが当たり前になってきました。なぜ採用サイトが重要なのでしょうか。
長谷川氏:理由は明確で、転職希望者が情報収集のために訪れるからです。
当社の調べでは、転職希望者は1人当たり平均27社に応募して転職先を決めています。その際の比較手段として、転職希望者のうち7〜8割が企業の採用サイトから情報を得ていることもわかっています。
気になった企業を調べるのは当然の行動ですよね。情報を検索したときに、採用サイトの情報が少なかったり、そもそも採用サイトがなかったりすると、転職希望者はがっかりするでしょう。採用サイト次第で「転職先の候補から外されてしまう」可能性が多いにあるのです。
その半面、採用サイトの情報が整っているだけで信用度が増すこともあります。中堅・中小企業では、他社と差別化するための要素の一つになるのではないでしょうか。
採用活動のフローは「認知・集客」「興味・関心」「理解・共感」「不安払拭」と進み、最後に「意思決定」があります。採用サイトは、これら全てのプロセスで必要な情報を載せるためのプラットフォームだと言えます。
——採用サイトを作る目的はサイトからの母集団形成だけではないのですね。
長谷川氏:はい。「採用サイトによって直接応募を増やしたい」と考えている企業は多いと思います。たしかに、情報を充実させることでこれまで決意できなかった人が応募してくれる可能性はあるでしょう。ただ、採用サイト経由から短期的に目に見える形で応募数が大幅に増えることは考えにくいです。
私たちがお客さまへ採用サイト制作を提案する際にも、この点を強調して伝えています。制作予算を確保するための社内稟議で「母集団形成」や「認知度向上」だけを目的にしてしまうと、数値による短期的な成果を求められ、制作が頓挫してしまうこともあるからです。
採用サイトは集客ツールでも認知施策でもありません。この大前提を認識しておくことが大切です。
採用サイトに載せるべき「必須項目」と「+α」
——転職希望者から好感を持たれる採用サイトとは、どのようなものでしょうか?
長谷川氏:転職希望者は情報収集を目的としているため、「情報量が多い(コンテンツが充実している)」「見やすい」「操作性が良い」サイトであることが大切です。PCだけでなく、スマートフォンで見る人も増えているので、スマートフォンで見やすいサイトにすることも重要になってきます。

——具体的には、どのような情報を載せるべきでしょうか。
長谷川氏:以下の4つのカテゴリーは必須項目と言えるでしょう。
①会社について:トップメッセージやビジョン、事業紹介、会社概要など
②仕事について:部門紹介や仕事紹介、社員インタビューなど
③働く環境や風土について:研修/教育制度、評価制度/キャリアパス、福利厚生など
④採用・選考について:募集要項や求める人物像、FAQなど
上記に加え、角度を変えて企画することで盛り込める情報はたくさんあります。
「データで見る○○」「昇給・昇格の詳細」「各職級の最高年収」「オフィスツアー」など、より具体的な情報を載せることで転職希望者のニーズに応えていくことが大切です。仕事内容や働く環境・風土については、社員同士の対談記事で掘り下げるのもいいですね。
——情報量が多過ぎることはデメリットになりませんか?
長谷川氏:採用サイトは「認知・集客」「興味・関心」「理解・共感」「不安払拭」「意思決定」の各フェーズで、たくさんの人に閲覧されます。転職は人によって活動の背景が異なる上、フェーズによって求める情報も変わってくるものです。特別な狙いがない限りは、特定の対象者に届くような情報を出すよりも、対象を幅広く想定し、なるべく多くの情報を発信していくべきだと考えます。もちろん同時に、情報が煩雑にならないよう導線整理も必要です。
採用サイトによって、既存採用手法の効果を最大化できる
——実際に採用サイトを制作する際の流れも教えてください。まずはどこから手を付けるべきでしょうか。
長谷川氏:最初にやるべきなのは「制作チームづくり」です。採用サイトを立ち上げる際には、人事・採用担当者とクリエイティブ担当者だけで進めるのではなく、事業部門などの現場メンバーを巻き込むことが大切です。そうすることによってサイトに掲載する情報が具体的になり、採用活動に対しての現場の意識向上にもつながります。
次に必要なのは「情報収集」。転職希望者が欲している情報を検討する際には、たとえば、3年以内程度の直近で入社した社員にアンケートを取り、「転職活動時に求めていた情報」「入社の決め手になったこと」「入社後にギャップを感じたこと」などを聞くのが効果的です。こうした情報を基に、どんなコンテンツを載せていくかを企画します。

そして実際の制作プロセスへ。この先は外部のプロに任せてもいいと思いますが、前提となる情報を社内で丁寧に聞き取り、採用活動における課題感なども外注先に共有することが大切です。そうすることで外注側は、「面接での辞退者が多い」という悩みに対して、面接辞退を減らすためのコンテンツを設けるなど、課題解決に向けたサイト設計ができるようになります。
——充実した採用サイトを持つことで、採用活動にはどのような変化が起きるのでしょうか。
長谷川氏:前述のように、よほど知名度の高い企業でなければ、採用サイト自体が集客ツールとしての効果をすぐに発揮することはないでしょう。転職希望者に自社を知ってもらうためには、何らかの認知施策が必要です。求人広告や人材紹介サービス、ダイレクト・ソーシングなど、従来の採用手法がその役割を果たしています。
採用サイトを充実させることは、これらの採用手法の効果を最大化することにつながるというのが、質問の答えでしょうか。求人広告で企業を認知し、応募を迷っている人が、採用サイトを見ることで企業理解を深めて求人広告から応募する。人材紹介サービスのキャリアアドバイザーから紹介された企業へ、エージェント経由で応募する。応募後に、採用サイトで働くイメージを具体化させることで、次の選考フェーズへと進んでいく。他社の選考でも採用決定に至っている人が、自社を選んでくれる。こうした、採用活動全体への波及効果が期待できるわけです。
だからこそ、採用サイトには幅広い情報を載せていくべきだと思います。採用活動全体にもたらす影響に鑑み、採用活動のインフラとして準備していただきたいですね。「他社と比べて突出した要素がない」と悩む中堅・中小企業でも、採用サイトの情報量やコンテンツ内容を深めていくことで、採用競合と戦えるようになるはずです。
取材後記
採用サイトの重要性はよく理解できたものの、サイト制作に振り向けられるリソースやコストには限界がある…。そう感じた人事・採用担当者も多いかもしれません。長谷川さんは「最初から完璧な採用サイトを目指す必要はない」「“採用サイトがない0”の状態と、“採用サイトがある1”の状態だけでも違いは大きい」と話していました。まずはインタビューの中で紹介された4つの基本カテゴリーを押さえ、社内の協力者を増やしながら少しずつ情報を充実させていく。そんな長期的なスタンスで採用サイトを育てていくことも重要なのではないでしょうか。
企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介
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