採用力を高める“管理職”の役割─組織づくりと採用担当育成の実践論

New!

合同会社DMM.com

DMMヘルスケア本部 人事部長

野津 誠

プロフィール

リコージャパン株式会社

人事・コーポレート本部 人事センター 人事部 採用グループリーダー

山田 聡人

プロフィール

TIS株式会社

人事本部 人材戦略部 HRBP室 室長

藤澤 孝多

プロフィール

パーソルキャリア株式会社

doda事業本部 doda営業企画本部 エンタープライズ支援統括部 エグゼクティブマネジャー

山口 義之

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • 個人の「転職意向」と「行動」の乖離が広がり、採用市場の構造は変化。採用担当者の判断力、実行力はさらに重要に
  • HRBP連携・採用基準統一・権限移譲など、戦略をやり切るための「採用組織の設計」が成果を左右
  • 採用成功の裏側は「人と情報」をどのように動かすか。その役割が管理職に求められる

採用市場の競争が激しさを増す昨今、「戦略を描くだけでは成果が出ない」という課題に多くの企業が直面しています。「戦略はあるものの現場が動かない」、「採用担当者が育たない」、「経営と採用担当の温度差が埋まらない」などという課題は、業種や企業規模を問わず共通して見られるものです。

今回のパネルディスカッションでは3社の採用責任者が登壇。採用戦略を実行し切るための組織づくりや管理職の役割、人材育成、各社が直面した課題や打開に向けた取り組みなどについて、お話を伺いました。

転職意向と行動の乖離が示す「採用市場の構造変化」

パーソルキャリア株式会社 山口 義之氏:日本国内の転職希望者は1,100万人と、右肩上がりの増加傾向にある一方で、実際の転職者数は年間300万~350万人と横ばいで推移しており、「転職意向」と「実際の転職行動」の間には、大きな乖離が存在しています。

企業側では、コロナ禍以降に採用需要が急増したものの、現在は落ち着きを見せつつあります。ただし、採用意欲自体は依然として高く、単なる人員補充から、経営課題を解決する「即戦力となる人材の採用」へと軸足がシフトし、少数精鋭で成果を出す採用へとかじを切っています。

また、賃上げや金利上昇、AI活用といった外部環境変化のスピードに対する採用担当者の判断力、実行力も今後はさらに重要になると考えられます。

各社の事業および採用の“現在地”

──DMM、リコージャパン、TISの3社の皆さまにお話を伺っていきます。まずは各社の事業および採用の現在地についてお聞かせください。

合同会社DMM.com 野津 誠氏(以下、DMM 野津氏):DMMの従業員数は現在5,300名ほどで、事業数は60以上あります。

ヘルスケア事業は立ち上げから丸4年で売上300億円規模へと成長し、2030年までに2,000億円超えを目標にしています。従業員はフルタイムで約400名、非常勤を含むと約700名(医療従事者含む)が従事しており、事業規模拡大に伴って、採用数も急激に増加している状況です。DMMは近年、エンタメ系事業としてのブランディングを強化しているため、ヘルスケア事業は聞きなじみがないかもしれませんが、投資事業として会社が注力している分野です。

私自身の経験をお話ししますと、前職は人材紹介エージェントに在籍していました。4年前にDMMに入社し、現在はヘルスケア事業部の人事部長を務めています。採用については一定の知見はあったものの、未経験から人事を始めたということになります。

リコージャパン株式会社 山田 聡人氏(以下、リコージャパン 山田氏):私は株式会社リコーに入社後、人事部に配属となりました。今はリコージャパンという国内営業を担う会社に出向しており、採用を担当しています。

当社の従業員は約1万7,000名。北海道から沖縄まで全ての都道府県に支社を持ち、本部も加えるとおよそ100の事業部があります。年間の採用数は約500名で、キャリア採用が150~200名、新卒が300名という内訳です。キャリア採用の職種は営業系が多く、2025年度は175名中、100名以上が営業職でした。

私は本社採用部門に所属し、会社全体の採用進捗をコントロールしつつ、全社の採用計画を達成するという役割を担っています。

本社採用担当は全部で13名おり、うち5名はキャリア採用担当として、主に外部とのやりとりを担います。それとは別に、事業部ごとに業務兼任の採用担当者がおり、彼らには部門との折衝を任せています。

キャリア採用を本格的に始めたのは2021年のこと。当時は年間100名の採用を目標に掲げていましたが、結果は30名の採用にとどまりました。その後はパーソルキャリア様のおかげもあり、厳しい市況の中でもなんとか採用計画を達成できるようになりました。

TIS株式会社 藤澤 孝多氏(以下、TIS 藤澤氏):TIS株式会社はSIerをメイン事業としている会社で、従業員数はグループで22,000人、売上 は5,000億円強という規模です。元々は金融機関向けのシステムを作っていましたが、昨今は自社で培ってきたナレッジを用いて独自のITサービスを作り、事業展開しています。

私の人事キャリアは約6年、2022年からは事業部側で人材戦略を推進する機能作りや、キャリア採用を担当しています。本社人事とHRBPがそれぞれにミッションを掲げつつ、うまく連動しながら欲しい人材を採用する仕組みづくりに取り組んでいます。

昨年度の採用目標は200名で、今年度の目標は約170名。社内の労働市場を見てみると、採用要望人数は減少しているものの、求める質は上がっており、いかに欲しい人材をピンポイントで採用するかということに注力しています。

採用戦略の高度化と、実行フェーズにおける課題

──ここ1、2年で、特に力を入れておられる採用戦略や軸としている取り組みを教えてください。

リコージャパン 山田氏:従業員1万7,000名の年齢分布を見てみると、50代・60代の人数が圧倒的に多いという状況です。このまま従業員の高齢化が進むと、10年後には1万人規模に縮小することとなり、人口ピラミッド上の課題が深刻化していくことは目に見えています。

当社は、北海道から沖縄まで全国すべての都道府県に支社を設置しております。従業員数が減少する中、この拠点網を維持するためには人材配置の最適化が不可欠です。

その対策として、戦力数の維持を前提とせず、より市場が大きい都市部への重点配置を進める戦略設計をしています。一方で、地方の事業所からも人材不足の声が強く、会社の方針と現場のニーズとのバランスをどのように取って いくかも今後の課題です。

──人材の減少という課題に対峙しながらも、生産性を高めて売上を上げていくということで、営業戦略と採用戦略が密接に結びついているということですね。

リコージャパン 山田氏:会社の方針を実現しようとすると、採用のハードルは高くならざるを得ないでしょう。特に都市部では、採用市場の競争も激しくなります。現状では、職種別賃金体系を取り入れていないため、条件がネックで競合他社に人材が流れてしまうというジレンマもあります。

──100の事業があるリコー様では、各事業部の思惑や考えがあり、本社で一括コントロールすることは困難だったのではないでしょうか。

リコージャパン 山田氏:冒頭で「30人しか採用できなかった」と申し上げた通り、各部門で人材を見極める観点に大きなばらつきがあり、このままでは採用がまったくかなわない、という危機感を持つこともありました。

そこで各事業所が積極的に採用活動を推進するよう、100名採用に対して200枠を配分し、100名が決まった時点でクローズするという方法に変え、事業部間の採用競争を促す取り組みを行っています。また、採用基準の統一化を目指し、すべての2次面接に本社採用担当が同席するということも実施しました。

──ありがとうございます。次に、TIS株式会社様の採用戦略についてもお伺いします。

TIS 藤澤氏:採用戦略については、依然として多くの課題を残しているのが実情です。事業部制をとっていることもあり、「全社としての採用戦略」が十分ではないと感じています。

人的資本経営の観点で考えると、採用のみならず、内部労働市場の育成、グループ内フォーメーションの見直し、M&Aなど、さまざまな人材調達方法があるでしょう。

人員を増やすのか減らすのかという判断を含め、包括的な採用計画を立てるために、どのようなパラメーターをどう設定するのかという「道しるべ」が必要だと思うのですが、現時点ではまだ整理できておらず、今まさに取り組みを進めているところです。

一方で、HRBPがうまく機能している事業部では、人員採用がうまくいっているケースもあります。HRBPと現場の事業部長らが密接にコミュニケーションを取りながら、「事業戦略においてどんなポジションが必要か」というところから逆算することで、必要な人材を採用し、配置することができているようです。

──HRBPが組織事情を勘案しながら、必要とする人員要件を整理、分割しているということですね。HRBP内の役割はどのように分担されていますか。

TIS 藤澤氏:当社において、採用を担う人の役割は3つに分けられます。1つ目は、本社HRBP室に所属する「全社人事機能」を果たす人。2つ目はHRBP室に所属しながら「担当事業部」が割り振られたメンバー。そして3つ目が、事業部門側にいる「オペレーション」を担うメンバーです。

全社の施策を考える人が、「事業部A」のHRBPを兼務するという仕組みのため、事業部門の課題や、作るべき共通機能をリアルに捉えて、スピード感を持って全社人事のオペレーションに組み込むことができていると言えます。

──HRBPが事業目線で採用活動をすることにより、過去の採用活動との変化はありましたか。

TIS 藤澤氏:かつては、当社のブランド力では年収1,000万円を超える人材を採用することは困難だったのですが、最近では、高年収帯人材の方に入社いただけるようになってきました。

HRBPが転職市場にマッチした要件に整理して求人票に落とし込むとともに、エージェントの方々と連携しながら、自社事業の魅力を転職潜在層に伝えてきた取り組みがあります。

また、コンサルや事業企画など、報酬レンジが既存のテーブルに当てはまらない人材を採用するために、年俸制などの新制度を作ったりしたことも、HRBPという機能があったからこそできたのだと思います。

──ありがとうございます。では続いて、DMM様のケースをお伺いしたいと思います。

DMM 野津氏:当社の人事戦略を振り返ると、1~2年目は戦略もなにもなく、必要な時に採用するという感じでした。「変化に打たれ強く、好奇心旺盛で何にでもチャレンジできる人」、「オファー後1カ月で入社できる人」というような条件で採用活動を進めていました。

3年目から、「汎用的に対応できる人材」から、「EC事業の配送領域で一定規模を担える人材」など、より具体的な要件を定義した採用にシフトしました。また、人材紹介エージェントの活用も拡大しました。ヘルスケアに強いエージェントはどこかと検討しましたが、ピンポイントではなかなか難しく、継続的に伴走いただいていたパーソルキャリア様に本格的に依頼したのもこの時期です。

4年目に当たる2025年は、自社でのスカウトを積極的に試しました。しかし、世の中で「スカウト」が一般的になり、以前ほどのプレミア感が薄れた影響からか、返信率が伸び悩みました。また、転職希望者が当社のヘルスケア事業の情報を十分に得られず、事業解像度や志望度が上がらないまま最終面接に進み、採用まで至らないというケースもありました。

その突破口として、やはり「人材紹介エージェントに頼る」ことが良かったと思います。当社のヘルスケア本部が転職希望者からどう見えているのか、言いづらいことも教えてほしいとお願いし、生の声を聞かせていただいています。

例えば「DMMに“ヘルスケア”のイメージがない」「むしろ相反する印象がある」といった声もあり、気づきを得ることもあれば、誤解が生じていると感じることもありました。

転職希望者に正しい情報を提供するために、選考過程では人事によるフォロー面談を実施しています。転職希望者の当社に対する解像度や意向を整え、その上で最終面接に臨んでもらうことにより、合格率や受諾率を上げていきたい考えです。

DMMは「なんとなく面白そう」というイメージがあって応募してくださる方が多いのですが、その印象とヘルスケア事業のイメージが合致しないというところが課題です。これを打開するため、本社と連携し、ヘルスケア特集の記事を組んでもらうというような仕掛け作りなど、日々試行錯誤を続けています。

3社の管理職が考える「採用組織の運営」と「求められる育成視点」

──管理職として採用部門の組織運営や人材育成に関わる中で、重視していることやHRBPとしての取り組みを教えてください。

TIS 藤澤氏:HRBP室には15名ぐらいメンバーが所属し、各事業部にHRBPを増やしていくという状況です。

HRBPにおけるキャリア採用の仕事は、社内外の関係者と積極的にコミュニケーションを取り、事業部門をリードして採用成功を導く必要があります。そのためには、事業内容や所属社員、会社の制度などをよく理解していなければなりません。その上で、事業の魅力をどう発信するかを考えなければならないということで、個人的には「キャリア採用=HRBPの登竜門」として捉えています。

現場の多様な意見に継続的に向き合い、丁寧に対応することが、組織内の信頼醸成につながります。最終的にはHRBPが事業部門の人材配置、育成、事業部の計画を達成するための戦略策定や実行を支え、事業部長のパートナーとして成長し、活躍してくれることを期待しています。

──では続いてDMM様のお話もお伺いしたいと思います。

DMM 野津氏:HRBPとして、ヘルスケア本部の各事業部と連携して採用活動を行っています。当初は「DMMオンラインクリニック」がメイン事業だったのですが、直近1年で事業が5つに増え、カウンターパートの事業部長が5人になりました。

当初は私が事業部長とのコミュニケーションを取っていましたが、今ではメンバーが募集ポジションの要件確認や転職希望者面談のフィードバックなどを事業部長と直接やりとりをし、関係値を築いてくれているので、メンバーに任せられるようになりました。

──メンバーの方のバックグラウンドについてお聞かせください。

DMM 野津氏:人事職未経験のメンバーもいますし、前職で人事を長く経験していた人もいます。最近は別の事業部で人事担当をしている人が、兼務という形でヘルスケア本部を手伝ってくれるようにもなりました。

事業部単位で採用をすることもありますが、本社では適宜、新規の採用活動を行っているので、ヘルスケア事業部に合いそうな人がいたら私に声をかけてくれるというケースもあります。

──ありがとうございます。では続いてリコージャパン様にお伺いします。育成をする上で心掛けていることなども教えてください。

リコージャパン 山田氏:育成の大前提として、全国にいる採用担当者と頻度高くコミュニケーションを取ることが大切だと考えています。パーソルキャリア様に依頼して勉強会を定期的に開いたり、メルマガを送ったり、Teamsで連絡をしたりするなどし、忙しい業務の合間にも採用活動を継続してもらうようにリマインドしています。

また、メンバーの成長のためにも、権限移譲を前提に、なるべくメンバーに業務を任せることを重視しています。

一時期、「転職希望者対応は自分でやった方が適切だ」などと、勘違いをしている時期があったのですが、ある日、営業部から来ていたトップセールスの方に、「自分のやるべき仕事に集中したほうが良い」というアドバイスを受け、それが大きな気づきとなって、メンバーに任せる方針にシフトしました。

若いメンバーに仕事を任せてみると、自分でやるより良かったということも多く、自分も学んでいると実感しています。

──最後に、採用の見通しや留意したいこと、今後チャレンジしたいことなどについてお聞かせください。

DMM 野津氏:新年度にかけて、ビジネス側80枠、医療従事者120名の採用依頼が来ている状況です(取材当時)。例年、依頼があった人数の1.5倍の採用を目指しています。

留意したいこととしては、採用チームに100%任せ、自分はあまり出しゃばらない。これを意識していきたいと思っています。

リコージャパン 山田氏:現在、当社のキャリア採用は約85%がエージェント経由、その大半をパーソルキャリア様からご紹介いただいています。

パーソルキャリア様とは引き続き良いお付き合いを続けつつも、今後は採用チャネルの多様化、エージェント依存体質からの脱却を目指したいと思っています。具体的には、リファラル・アルムナイ採用に力を注ぎ、全社的に採用チャネルを増やすことに注力していく予定です。

TIS 藤澤氏:私自身は2026度より異動が決定していますので、リーダーの茶屋からお話させていただきます。

TIS 茶屋 友見氏:事業部から上がってくる新規採用依頼の75%はエンジニア職なのですが、今年度を振り返ってみると、エンジニア採用は芳しくありませんでした。当社もエージェント様からの採用が70%ぐらいと比率が高く、顕在層の転職希望者にアプローチすると、競合他社に負けてしまいがちという課題があります。

今後は潜在層の転職希望者にもアプローチすべく、自社Webサイトから直接応募をいただけるような情報発信の工夫やリファラル採用に注力したいと考えています。また、2026年7月にはインテックとの統合を控えていますので、あるべき姿を再定義しながら、顕在層に加え、潜在層マーケットでも戦えるようにチャレンジしていきたいと考えています。

セミナー後記

パネルディスカッション後の交流会では、参加者より以下のような声が聞かれました。

・「採用は単なる人員補充ではなく、組織の将来像や生産性向上を見据えた戦略的な取り組みであることを改めて認識した」

・「業種業態、規模が違っても、各社とも採用に関しては悩みを抱え、試行錯誤されていることがわかった」

・「採用活動において、より多くの打ち手や可能性があると感じられた」

即戦力となる人材の採用難易度が高まる中、採用要件の高度化とともに、現場との連携強化や意思決定プロセスの最適化が不可欠です。採用力の差が企業成長を左右する時代において、HRBP機能の最大化や、エージェント活用、リファラルなどの採用チャネル多様化など、各社の事業戦略に応じた採用活動の工夫が求められます。

フレームワーク・スキルマップ付き リーダー育成の基本ノウハウ

資料をダウンロード