キープレイヤーズ CEO 高野氏が考える、ITエンジニアの採用における基本行動
ITエンジニアを採用する難しさを感じている人事・採用担当者の方は多いと思います。dodaが発表している転職求人倍率レポートを見ると、2017年2月時点でITエンジニアの求人倍率は7.13倍となっており、中途採用競争が激化しているからです。
もっとも、採用が難しいからこそ特別なことをするのではなく、基本に立ち返ってみることが大切だと思います。当たり前のことをしっかりやることが採用成功に結びつく――。そんな基本行動の大切さを、IT業界向けの人材紹介や採用のコンサルティングを得意とする株式会社キープレイヤーズの人材エージェント高野氏は強調します。
まずは「採用競合」を知る
高野氏:ITエンジニアの採用に限ったことではないかもしれませんが、採用を行う際はまず採用上の競合を知ることが大切です。多くの場合、自社と同規模で同様の事業を行う会社が採用競合になると思います。そうした会社が実際に出している求人広告を確認するのは非常に有効な手段。「自社の立ち位置」も明確になると思います。
求人広告を見てみると、「採用競合の企業は、こんなに高い年収帯の設定になっている」「未経験に近い人材の採用に積極的だ」などの感想が出てくることもあるでしょう。あるいは「自社のことを、こんなに魅力的に伝えている!」と感じるかもしれません。参考にすべき点があれば、ぜひ自社の求人広告にも取り入れてみてください。
採用競合の情報は、求人サイトに掲載されている求人広告を見て自分で探すこともできますし、人材エージェントに尋ねてみるのもいいでしょう。人材エージェントは豊富な情報を持っていますので、こういう時にこそ積極的に相談するのがいいと思います。このほか、最近は求人票を採点してくれる「Findy Score(ファインディ スコア)」というサービスもあります。活用してみるのも、一つの手段だと思います。
改めて求めている人材を見直す
高野氏:ITエンジニアと一口に言っても、アプリ開発エンジニア、システム開発エンジニア、インフラエンジニア、データベースエンジニアetc…と、非常に幅広い職種の人材がいるのはご存知の通りです。競合他社の情報を集めることで、求められている人材の「スキルの平均値」や「待遇の基準値」も見えてくるでしょう。
もし自社の求人募集の内容が、そこから大きくはずれていたら、どこかに問題があると考えられます。新規事業を始めるなど特別な事情がある場合は別ですが、同規模で同事業を行っている会社と比較した時に、採用したい人材に求めることが大きく異なるというのはちょっと考えにくい。
もちろん、考え方や志向性の面で求める要件が違うのは当然です。しかし、経験やスキルはそれほど変わらないのではないでしょうか。もしかしたら転職希望者に求め過ぎている面があるかもしれません。そうしたことを一度見直してから採用基準を明確にすることが大事だと思います。必要に応じて、採用ポジションのITエンジニアの声を聞くなどして、必須条件や歓迎条件を練り直します。
競合と比較して自社の強みを前面に押し出す
高野氏:先ほど、採用上の競合を知ることで自社の立ち位置が見えてくるとお伝えしました。その中で、自社の強みも見えてくると思います。「他社と比べて、残業が少ないことがわかった」「ウチは海外にいけるチャンスもある」「Go言語などの新技術を取り入れることに積極的だ」などですね。
ちなみに「裁量権が大きいこと」や「仕事で成果を出したらポジションや給与にしっかり反映すること」が、強みだと感じた場合は工夫が必要です。なぜなら、採用競合がそれらを打ち出していなくても、成長企業の多くが打ち出しているため差別化に繋がりづらいからです。
そのため、「転職後半年でリモートワークを完全に認めた事例がある」、「社長が株式の譲渡やストックオプションを半年以内に渡したこともある」、「入社後、8カ月で給与が3割上がった社員がいる」といった具体的な内容で強調し、転職希望者に伝えていただければと思います。
また転職希望者に情報を提示する場合は、ストーリーを組み立てることを意識してください。自社の強みと、ITエンジニアが求めるものを合致させるのです。具体的には、「あなたは十分な経験を積み、今は現場のリーダー的な役割を果たしていますね。でも、そろそろ本当のリーダーにステップアップしたいとお考えではないですか。当社なら今すぐその希望が叶います。なぜなら、事業が成長しており、ポジションが多くできている状況だからです。当社ならすぐにステップアップできますし、さらに事業を牽引していくという役割も担えます」などとします。
もし、現状であまり突出したものを提示できない場合は、自社の理念や目指していることを伝えます。「私たちはこうした未来を作り上げたい。そのために力を貸してくれませんか」とするなどです。こうしてストーリー仕立てにするとITエンジニア自身が自分の中で「転職する理由」が生まれ、転職に踏み切りやすくなると思います。
社長やCTO、経営層も採用に巻き込む
高野氏:採用は人事だけで行うには限界があります。採用を「全社の取り組み」とするために、経営層の協力は非常に重要なポイントとなるでしょう。また社員の紹介があった場合はもちろん、採用と広報はワンセットですので、広報のためにブログを更新したということについてもインセンティブが発生するような仕組みにしておけば、人事は仕事を進めやすくなると思います。
面接に対する取り組みとして、「土日の面接の対応」や「ビデオまたはチャット面談」「出張面接」などを行う企業が増えています。加えて、リモートワーク・副業OKという企業も出てきました。こうしたことは、人事だけの判断ではできないでしょう。経営判断が関わってきますので、必然的に経営層を巻き込むことが必要になるはずです。また、社長やCTOは会社の顔ですので、カリスマ性や優れた技術を持つ場合は、全面に出てきてもらうのもいいと思います。
まとめ
採用競合を知ることなどは、採用活動を行う際に必ずすべきことと言えるでしょう。しかし、実行している人事担当は意外なほど少ないと高野氏は指摘します。
逆に言えば、基本的なことを行えば、採用の成功が近くなるということです。基本的なことは地味で、手間のかかることも少なくありません。広報まで手が回らないというのは本音のところでしょう。だからこそ、採用を「全社事」とすることも求められます。ぜひ経営層の協力を得られるよう、関係を構築していただければと思います。