採用に「ゲーム選考」導入。応募数が数千人に増加、ミスマッチも減少し3年以内の離職率5%を達成したスタートアップの取り組み

売り手市場の状況が続く、昨今の新卒採用。企業は以前にも増して、募集方法や採用手法で工夫を凝らしているが、特に中小企業やスタートアップにおいては、顕著と言えるだろう。

そんな中、他社とは一線を画す「ゲーム選考」なるユニークな採用手法をゲーム作家を交えて独自に開発。応募数の増加に加えミスマッチの減少など、さまざまな効果を出しているスタートアップがある。今回はこのユニークな選考プロセスを実施する企業の取り組みに注目した。

一人一人の“個性”を引き出す、他社とは“違う”採用とは

2016年に大阪で創業した、レクストホールディングス(本社所在地:大阪府大阪市、代表取締役:多田 茂雄)。着物、切手、食器、骨とう品などを買い取り販売するリユース業をメインに、不動産事業なども手掛け、その業容を拡大している。

事業拡大の原動力となっているのが、同社の理念である「ZERO to 浪漫」である。浪漫とは社員一人一人の夢の集合体であり、ZEROはそのまま。何もないところから社員のがんばりはもちろん、チーム一丸となり夢を実現していく。

具体的にはCVC(チャレンジベンチャーコンテスト)制度などを設けることで、誰でも新規事業のアイデアを出すことができるというものだ。かつ、優れた内容は投資も含め事業化を進める。事業拡大のめどが立つとアイデアの発案者が社長となり、新たな事業会社として独立させるという。

このような戦略で事業を進めてきた結果、先の事業をメインとしながらも、Web制作、DX関連、飲食な15ほどの事業会社が設立され、現在も年に2~3社ほど増えているそうだ。従業員も右肩上がりで増え続け、2023年4月入社予定のメンバーも加えると、700人を超える大所帯となる。

また同社は、世界初の人的資本経営に関する情報ガイドラインである「ISO30414」(*)の中小企業部門認証を取得しており、日本においてはまだ取得している企業が少ない中での1社である。それだけに人材(同社では「人財」と表現)に対してどれだけ真剣に向き合っているかが伺い知れるだろう。

そんな同社が採用で大切にしてきたのが、「他社と違うこと」「個性を大切にする」である。取材に応じてくれた人財部の担当者は、次のように話した。

「まずは母集団を増やすことを目的に、学生や採用候補者が興味を引く、他社とは違う採用手法を模索していたことが始まりです。一方で、当社はさまざまな事業を展開しているため、求める人財も多様であり、採用候補者の素や個性を引き出したいとも考えていました」(人財部担当者)

以前行っていたのは会社説明会やグループ面接。事業が多様であったが故に、時間内で詳細を説明するのが難しかったという。加えて、グループ面接では発言の乏しい候補者がいるなど、こちらも一人一人の個性や素を判断することが難しいとの課題があった。

そこで生み出されたのが、ゲーム要素を取り入れた「RPG選考」だ。これも「他社と違うことをやる」、という新しい取り組みに敏感な、役員のアイデアから生まれた。

(*)ISO30414とは…「人的資本の情報開示のためのガイドライン」のことを指し、2018年12月に国際標準化機構(ISO)によって定められている。

ゲームを通じて組織、事業、業務内容を知ってもらう

RPG選考(正式名称:「リアルRPGゲーム(体験 Zero to 浪漫)」)は2021年から始まった。その名のとおり、RPGをリアルで行うゲーム型の選考手法である。選考に参加した学生は5~6人1チームとなり、テーブルにつく。

テーブルの上には同社の理念である浪漫(夢)がいくつも書かれたシート、サイコロ、黒・青2種類のカードが置かれている。

各人がサイコロを2回振り、出た目を配布された表の縦・横の数字に当てはめて自分の浪漫を決める。例えば、出た目を既定のルールに沿って見てみると「世界を変える」といった内容が書かれている。

「正式名からもわかるように、会社の理念を体現してもらうゲームになります。参加者は夢を持って、レクストホールディングスに入社した。その夢を実現する歩みを、ゲームを通じて体験してもらうイメージです」(人財部担当者)

同社にはどのような事業部や職種があるのか。どんなスキルを身に付けることができるのか、あるいは求められているのか。入社後実際に経験することを、ゲームを通じて体験できるようになっているという。

黒のカードには事業部と職種が書かれていて、カードを引いた人は内容を読み上げることで「この事業部に配属された」と設定する。例えば、配属先は、「株式会社●●●●という不動産事業部で、業務内容は戸建住宅の買い取り・再販」、といった具合だ。

もう1枚の青色カードを引くと、こちらには浪漫を実現するために必要なスキルが書かれている。こちらも同じくカードを読み上げることで、スキルを獲得したこととする。

ゲームから一転、後半のセッションではこれまで身に付けたスキルを使って、顧客に新たな提案を行うために、参加者同士がディスカッションを行い、提案をまとめチームごとで発表する。

「事業部の垣根を超えて新たなビジネスを生み出すことは、当社の特徴でもあります。そのことを体験してもらいたいと考えています」(人財部担当者)

時間は前後半1時間ずつ、全体で2時間の構成となっている。

選考においては、カードを読み上げる声の大きさ、他の採用候補者が読み上げているときに傾聴しているか、ディスカッションでの積極性、事業やスキルの理解度などを、担当者が確認。評価シートに記入していく流れだ。

「評価で大切にしているのは“個性”です。発言が苦手な方でも傾聴が得意であれば、電話対応業務などに向いているからです。評価担当はこのような各人の特徴も自由欄に記載し、次の選考時の参考としてつなげていきます」(人財部担当者)

ちなみに同社では、新卒の場合、入社後すぐの4月の配属先は仮配属となっており、10月が本配属となる。こちらもゲームで体験してもらうという。カードはそれぞれ10枚ほど用意されており、1人が4回ずつカードを引くのだ。

そうして異動、スキルの獲得を4回行った後に夢が実現できる、自分が活躍できると思う部署への本配属となるという、かなりユニークな配属制度を実施している。

ゲーム要素を高めた「すごろくゲーム」でカルチャーを知る

RPG選考を実施すると、選考に参加した候補者からは「一方的に会社の説明を聞くよりもわかりやすいし、楽しく参加できた」といった評価の声が多数聞かれた。同時に、こうしたユニークな選考方法に興味・関心を持つ、新たな採用候補者に応募してもらえることにもつながったのだ。そうして着実に応募の母数が増えていき、母集団形成への手応えを現在は感じているという。

一方で、会社のカルチャーや福利厚生制度も伝えたい――と、社内からよりゲーム要素を高めた選考にブラッシュアップしていきたいという声が強くなり、さらなる応募者数増を目指す取り組みを実施することになった。こうして考案されたのが、すごろくゲーム選考(正式名称:「レクストすごろく(へぇそうなんだ)」)である。こちらは2022年から実施している。

すごろくゲーム選考は、RPG選考と同様、ゲームを通じて会社の概要や事業、業務などを知ってもらい、その上で採用候補者の個性を見いだしていく選考方法だ。

参加者は5~7人を1グループとしたテーブルにつく。机の上には同じくカードとサイコロが用意されている。カードは円形状に並べられており、それぞれの山をすごろくのマスと見立てる。

参加者は自分の名前を記載した紙をクリップに挟み、すごろくのコマを作成。サイコロを振り、止まった箇所のカードを引き内容を読み上げるとともに、カードに記載された指示内容に従う。カードには「青・黄・赤」の3種類をメインに、その他の解答カードなどが用意されているのだ。

青はレクストカードと呼ばれ、実在する社内の制度や福利厚生、カルチャーに関する内容が質問形式で書かれている。カードを引いた者は、自分が考えを発言するとともに、中央に重ねられたレクスト解答カードを引き、会社としての正解を知る。例えば、「成長するためには何が一番必要だと考えているか」などである。

そして、ここからがゲーム要素。カードには点数も記されていて、正解した場合には加算される。

また黄色のカードも会社のカルチャーを知ってもらうという意図は同じだが、コミュニケーション関連の内容に特化しているのが特徴である。例えば、「チームワークにおいて1番必要なものは何か、なぜそう思うのか」といった問いなどが書かれている。

ただし、コミュニケーションカードはレクストカードとは異なり、正解があるわけではない。カードを引いた本人の回答に加え、隣の参加者などにも回答してもらい、どちらの回答がユニークかをグループ内で決める。

「決め方は、多数決、ディスカッションなど、じゃんけん以外であれば何でもよし、としています。このようなチームディスカッションも、実際に働きだしてからの流れを体験してもらいたいとの意図から行っています」(人財部担当者)

さらに、「?」カードはゲーム要素を高めるという意図に加え、現実のビジネスでも起こり得る、理不尽を体験してもらう狙いがあるという。具体的にはサイコロの出目を宣言し、当たれば20点、外れた場合はチーム全員がマイナス10点、といった内容などが書かれている。

解答カードやチャレンジカードを渡す人、読み終わったカードをまとめる人、得点を集計する人など、最初の説明時に役割を決めることで、全員が参加するような工夫もされていた。

ゲーム開始から30分ほど経つと、先述したように指定された回答者以外でも、誰でも積極的に発言できる、といった新たなチャレンジカードが加わる。チャレンジカードには得点が2倍になるというカードもランダムで入っているため、ゲーム要素はさらに高まる。

ゲームの最後には点数を集計するが、ここでも逆転のチャンスがある。チャレンジカード1枚につき5点加点する、と知らされるからだ。

ゲームが終わった後は、主催側から今回のゲーム選考を取り入れた理由、ゲーム選考を通じて何を伝えたかったのか、といった趣旨が説明される。その上で最後に参加者同士のディスカッションタイムを行う。その後、会社の持つビジョンや目指したいことなどの想いを参加者に伝え、選考は終了となる。

「実際のビジネスでも理不尽なことが起きるときがあります。しかし成長するためにはチャレンジを続けること、チャレンジには終わりがないことを伝えたい。会社がまさにそのような姿勢で進んできたので、そうした想いや歩みが、カードに書かれていたカルチャーや制度設定につながっていったことを知ってもらうのが狙いです」(人財部担当者)

なぜ、カードが円形で置かれていたのか。実はここでも同様に、チャレンジには終わりがないことを参加者に知ってもらいたいとの意図が込められている、と担当者は教えてくれた。

「マジか!?」など思わず出る感嘆の声。ゲームに集中するからこそ“素”や“個性”が出る

「ゲームだと素や個性を知ることができる」――。

取材前に聞いていたが、正直、ピンとこなかった。

だが、実際にすごろくゲーム選考の様子を取材させてもらうと、腹落ちした。選考だとは理解していながらも、目の前のゲームに集中していくことで、たしかに採用候補者の素や個性が出ているのが見て取れたからだ。

例えば、赤カードで得点がマイナスになった学生は「マジか!?」と、本来の面接などでは発しないであろう言葉を使っていた。席から立ち上がり、前のめりでサイコロを振る参加者もいた。

ゲームが進むにつれ、参加者同士が名前で呼び合う姿も見られ、点数の低い人に対しては「がんばって!」と声をかける姿も見られた。そしてあちこちのテーブルで、笑いや拍手が沸き起こっていた。実際、取材当日の人物ではないが参加者からは「他の参加者とコミュニケーションを取りながら参加できて、良い機会になった」との声が聞かれることが多いそうだ。

「チャレンジする姿勢に加え、無理難題や理不尽な出来事に対して、どのような姿勢で取り組むことができるかも、評価の対象としています。具体的には素直かどうか。素直な人は入社してからの成長スピードが早いというデータと傾向があるからです」(人財部担当者)

人財は宝。だから「惜しまず投資する」という姿勢

RPG選考は現在主にインターンや研修での活用に変わっているが、これまで3,000人ほどに実施したという。すごろくゲーム選考に関しても、東京と大阪で毎月200人ほどが体験しており、こちらも累積2,000人ほどに上るという。

そして選考を通過した採用候補者のほとんどが、次のグループ面接に進むとの成果が出ているそうだ。採用数も右肩上がりで増えており、2019年には21人だったのが、2022年は116人に激増している。また直近では、こうしたゲーム選考で入社が決まった新卒採用者は約170人になるという。

それだけではない。入社承諾率も以前と比べて3倍に増加した。さらには、「個性」や「素直」といった軸を採用評価に加えたことで、総合買取事業の売上の7割近くを、入社3年以内の社員が達成するという成果も出ているという。

実はこのゲーム選考。発案は役員であったが、実際の制作はその道のプロであるゲーム作家に協力してもらっているという。さらにユニークなのは、このような選考や育成で使用するコンテンツを専門で開発する、研修開発部なる部署が整備されている点だ。

5人ほどからなる部署で、紹介したゲーム選考の他、入社後の研修で使うeラーニングなども開発。以前は外部の商材を使っていたそうだが、同社が持つDX部署などの技術も活かすことでオリジナル商材を制作。現在はアニメーションを使った、会社説明会の作成にも取り組んでいるそうだ。

カード一つを見ても伝わると思うが、決して安っぽくない。工数に関しても、先の研修開発部が5人、取材に応じてくださった担当者が所属する人財部が5人、加えてゲーム作家が約3カ月かけて制作したというから、それなりに費用が掛かっていることは明白だ。

だが、このような採用に要する予算においても、成果が見込まれるようであれば提案はほぼ通るという。

「代表の考えでもありますが、人財は宝との意識が全社を通じて浸透しています。そのため、採用費も含め育成に関する取り組みについてはかなり柔軟で、人財部の若いメンバーの意見であっても、成果が見込めれば取り入れてくれるので、非常にやりがいを持って臨めています」(人財部担当者)

いずれは紹介した採用コンテンツを、事業として外販するようなことも構想しているという。いつかレクストホールディングスの発明した選考プロセスが、多くの現場で目にする日も近いのかもしれない。

【編集後記】

ゲーム作家とともに考案したという「ゲーム選考」。採用候補者がこのゲーム選考を体験することにより、そこに表れる“素顔”や“個性”を見出そうとする取り組みだ。多様性が叫ばれる昨今、ビジネスパーソンはより個性が求められる時代。一人一人の個性がやがて企業という組織を通して、社会にソリューションやイノベーションを起こす起爆剤となるのだろう。個性の発掘は、こうした多様な選考手法の中で実現していくのかもしれない。これからもユニークな選考手法を実施する企業の取り組みを追っていきたい。

取材・文/杉山忠義、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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