Z世代はじめ若手人材が注目する働く環境と活躍の舞台、スタートアップ企業。人材戦略と組織開発目線からその魅力に迫る。

株式会社ペライチ

執行役員 コーポレート責任者 
伊藤 杏美(いとう・あずみ)

プロフィール
株式会社スタイルポート

代表取締役 
間所 暁彦(まどころ・あきひこ)

プロフィール
株式会社ハウテレビジョン

取締役COO ・ Liiga株式会社代表取締役
池内 淳志(いけうち・あつし)

プロフィール
株式会社ハウテレビジョン

HRTA/HRBP, Manager of Talent Strategy
橘 菫(たちばな・すみれ)

プロフィール
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  • 【ペライチ】心理的安全性の確保など、社員の満足度を高めることが、会社の成長につながる一番の近道
  • 【スタイルポート】「この人達と働きたい!」、将来の社員候補に商品企画会議を開き参加してもらい、入社への意向を高めてもらう
  • 【ハウテレビジョン】自身の経験を「ストーリーを俯瞰(ふかん)しながら語れる人」が事業成長を後押ししてくれる

急速な成長を遂げたスタートアップ企業の背景には、必ずと言っていいほど、活躍人材が在籍している。成長の一途をたどる企業はどのような戦略を立て、どう人材を募り、社員に何を求めているのか。また、事業拡大とともに、人材戦略、特にZ世代を中心とした若手人材をどう受け入れ、育成してきたのだろうか。

今回の特集では、急成長中であり、若手人材も注目しているスタートアップ企業3社にインタビューし、企業成長につながる人事戦略のヒントを探った。3社に共通する部分や異なる部分を掘り起こしながら、ぜひ一読してほしい。

Case01:株式会社ペライチ

最初の事例は、株式会社ペライチ(東京都台東区/代表取締役:安井一浩)。執行役員でコーポレート責任者の、伊藤杏美氏にお話を伺った。

【01】ペライチの事業内容と担うミッションとは

――まず、ペライチの事業内容とミッションについて教えてください。

伊藤 杏美氏(以下、伊藤氏):ペライチは2014年に創業した企業で、主力事業は会社名と同じ『ペライチ』というサービスです。『ペライチ』は簡単にホームページの立ち上げができるツールで、ホームページ上の決済、予約、顧客管理など、ビジネスに必要な各種機能も自社内で開発し、お客さまに提供しています。

「Technology for Everyone(テクノロジーを、すべての人が使える世界に)」をビジョンに掲げ、世の中に対して果たしたい想いのある人が、ITリテラシーレベルにかかわらず、テクノロジーの恩恵を享受してその想いを実現する――。そんな世界を目指しています。

私たちのお客さまの多くは、中小企業、個人事業主の方です。そんな皆さまが新規事業、起業、副業を望んだときに、「ペライチのアカウントに登録すれば何でもできる」という世界を作り、お客さまのビジネスを成功に導くことが使命です。

事業開始時に必要なホームページ制作はもちろん、検索表示順位の上げ方、開封率の高いメールマガジンのコツなど、個別具体的な課題に対するセミナーなども提供し、ホームページ立ち上げ後のサポートまで行えるのが当社の強みです。

――コロナ禍の4年間でビジネス環境が変わった企業は多いと思いますが、御社はいかがでしたか。

伊藤氏:コロナ禍では、多くのビジネスがリアルの場で行えなくなりました。自社の商品をネット上で売るために、あらゆる業種・業態がインターネットに参入するきっかけになり、当社事業においては追い風となりました。

会員数は50万人を突破し、その後も順調に増加しています。継続的な成長を見ると、このビジネスモデルはうまく機能しているのだろうと考えます。世の中にある中小企業の数を考えると、まだまだ伸びしろがあると思いますし、国外にも大きなポテンシャルがあります。


【02】ペライチが展開する人材戦略の要

――企業の成長に伴い、多様なスキルや経験を持った人材を多く集めて組織作りをする必要があると思います。御社の人材戦略について教えてください。

伊藤氏:当社は大きな会社ではないため、同じ研修に全員が参加するというよりも、自分に必要な学びは何かと考え、自律的に取捨選択していくことを会社がサポートしています。

日常的に行う1on1のコミュニケーションを通じてメンバーへの期待を伝え、「そこに到達するには、あなたが自律的に成長する必要がある」というメッセージも発信しています。

例えば、「あんなチャレンジをしたい」「こんなことをしたい」という社員のやる気、好奇心に対し、研修・カンファレンス参加費、書籍購入費、資格受験料などの各種費用補助や、社内英会話教室を開講するなど、さまざまな形で成長したい人を全力で応援しています。

――昨今、「自律型組織」というキーワードが聞かれるようになりました。御社では社員一人ひとりが目標やビジョンを持ち、行動するという文化でしょうか。

伊藤氏:そうですね。この業界は変化が激しいので、目指す「山」を設定したとしても、その「山」が急に変わる可能性もあります。場合によっては頑張って登った「山」を下りて、「川下り」のようなことをしなければならない時もあります。状況が変わった場合には、その変化を冷静に見極めて、軌道修正しながら前進できなければなりません。

人事としては、先々を見据えて社員をモチベート(動機付け)するというよりも、もう少し近くに高めの目標を掲げてアプローチを手伝うような役割を担います。

例えば、社員が掲げた目標の進捗(しんちょく)状況を確認し、現時点で何が足りないのか、強みをより活かすにはどうしたらいいのかなど、経営陣全員がそれぞれのメンバーと1on1でコミュニケーションを取り、成長を支援する、という感じです。

――評価制度はどのように運用していますか。

伊藤氏:目標に対する評価は「成果評価」「能力評価」の2軸があります。

「成果評価」については、「マスト(最低限やるべきこと)」「チャレンジ(目指したい目標)」の2つの視点で確認し、最終的な評価を決めています。

当社では、最低限やるべきことにコミットすれば、去年の収入ベースの給与は保証されます。心理的安全性の観点からも、「やるべきことをきちんとやっていれば給与は保証する。安心してチャレンジしてほしい」という、経営陣からのメッセージです。

――給与面でも「安心してほしい」というメッセージを発信しているのですね。

伊藤氏:当社が提供するサービスは、中小企業や個人事業主のお客さまにとってインフラのようなものです。一定のレベル感でサービスを提供し続けるためには、社員にも高いレベルで、長く働いてもらう必要があります。

生活の基盤となる「給与」を保証することは、社員の心や生活、将来を守ると同時に、サービスの安定・成長につながると考えています。

――「マスト」と「チャレンジ」の人事評価制度は、何かを参考にされたのですか。

伊藤氏:成果評価を「マスト」と「チャレンジ」に切り分けたのは、2022年の10月。どうやったらチャレンジや試行錯誤を増やせるかの議論の中で、生まれてきた施策です。特にこれというベンチマークはないのですが、関連する企業の事例や書籍、資料は余さず目を通しました。

――導入後、社員の成長の度合い、モチベーションに変化はありましたか。

伊藤氏:一朝一夕に浸透するものではないので、「ガラッと変わりました」とは言いにくいのですが、全社集会で「挑戦しよう」という役員からメッセージが発せられたり、社員からは1on1面談で「どうすれば次のグレードに上がれますか?」という質問が増えてきたりしました。

変化の激しい業界ですので、半年前に立てた目標が機能していない、ということはよくあることです。「当初こういう目標を立てていたが、状況がこのように変わっているから、こういう方向性で目標を見直したい」というように、メンバーの方から提案してくれることも多くなりました。

――新たな評価方法は2022年にスタートしたということですが、ほかにも人事制度の変更点はありますか。

伊藤氏:会社の規模拡大に合わせて、グレードの構成を変更しました。

企業規模が小さいころはグレードを7段階に分けていたのですが、規模が拡大するにつれ、「ミドル層で停滞してしまう」という事象が起こっていました。社員が常に成長を感じられるように、中間層のグレードを広げ、7段階から13段階に増やしたのです。

13段階のグレードについては、現時点の組織規模にはまだまだフィットしない部分もありますが、3~4年後を見越したときに、これがフィットする会社に成長していなければならない、というメッセージでもあります。

人事制度の変化に伴い、報酬レンジ、昇給テーブルも見直しました。会社の成長に合わせ、ビジョン・ミッション・バリューや行動指針も刷新しました。

会社としてより成長したいと思っており、2024年5月にはベトナムに開発拠点となる現地法人を設立しました。現在は60人強の企業規模ですが、将来的にはグループ全体の社員数が100人、200人と増えたりするようなビジョンも描いています。

【03】「50人の壁」「ミドル層の充足」「心理的安全性」など今後の取り組みとは

――成長を続けている御社の今後の展望についてお聞かせください。

伊藤氏:売上を伸ばし、社員にしっかり還元し続けるために、一丸となって会社を大きくしていくことを目指しています。

ペライチは日本国内向けのサービスですが、国外に広げるための取り組みも見据えています。2023年末にはM&Aでノーコードのアプリ制作ツール事業を買収しました。既存事業の成長に加え、定期的に「ジャンプアップ」するような成長も取り入れることは、経営陣の責任だと思います。

――組織を大きくすることで、新たな課題が生じることはありますか。

伊藤氏:リモートメインのためか、国内のあらゆる場所から社員が集っています。物理的な距離を感じさせないようなコミュニケーション施策が、ますます重要になってきました。

組織規模拡大時に直面する課題に、「50人の壁」という言葉がありますが、当社では「ミドル層の不足」が課題です。これまでは経営陣が直接マネジメントできていたのですが、規模拡大とともに、それが難しくなってきました。

そこで、社員をしかるべき役職にアサインし、マネジメント経験を積み重ねてもらうことに取り組んでいます。

当社はエンジニアが多く所属する会社のため、マネジメントよりもエキスパートであることを望む人も多くいます。そういう社員には、希望に沿ったキャリアパスを用意し、エキスパート希望の後輩教育や技術レベルを引き上げていく役割があることを伝えています。

――御社において、中間層は「内部で育てる」「外部から採用する」という観点では、どちらがフィットしていると思いますか。

伊藤氏:これまでは外部から採用するケースが多かったのですが、内部の社員が成長して、リーダー的な役割を任せられるようになってきました。こういった社員に昇格してもらい、マネージャーを増やしていきたいと考えています。

――最後の質問になりますが、伊藤さん自身が着目している人事領域のキーワードや提言したいことはありますか。

伊藤氏:個人的な話になりますが、現在私は小学2年生の子どもを育児中です。若手社員と話していると、結婚や出産、キャリア形成に自信を持てない人もいます。そういう人たちに対してロールモデルとなれるよう、育児もキャリアもどちらも楽しめるということを見せていければと思います。

もう一つ私が着目しているのは、「心理的安全性」というキーワードです。昨今よく聞かれるキーワードですが、心理的安全性は「目的」ではなく「手段」であることを伝えています。そのゴールはお客さまに最高のサービスを届けて、より良い世の中にしていくこと。

チーム一丸となってその目的にたどり着くために、なくてはならないのが「心理的安全性」です。作り手が幸せでなければ、いいサービスは生み出せない。「私たちのビジョン実現の起点はあなた方の幸せにある」ということも、社員に伝えていることです。

エンゲージメントの高い社員からいいサービスが生まれ、お客さまに喜んでいただき、それがまた社員の喜びにつながるというサイクルを作り続けていきたいものです。

だからこそ社員がプロダクト開発に集中できるよう、「どうしたら社員の満足度を高められるか」と、常に考えて続けていきたいですね。

Case02:株式会社スタイルポート

2つめの事例は、株式会社スタイルポート(東京都渋谷区)。代表取締役の間所 暁彦氏に話しを伺った。

【01】スタイルポートの事業内容とミッションとは

――スタイルポートの事業内容とミッション・ビジョンについて教えてください。

間所 暁彦氏(以下、間所氏):2017年に誕生したスタイルポートは、建築・不動産マーケットにおけるITソリューションの開発および提供をしている企業です。

「空間の選択に伴う後悔をゼロにする」というミッションの下、3Dを活用したコミュニケーション・プラットフォームを自社開発しています。2019年4月には、いつでも・どこにいても・誰とでも空間イメージの共有を可能にすることができるプラットフォーム、『ROOV(ルーブ)』をリリースしました。

開発のきっかけは、日本特有の不動産流通課題です。以前マンション開発の会社で働いていた時に、お客さまに対して図面の説明をすることに難しさを感じていました。「空間を認識すること」は意外と難しいことなのです。

この課題を解消するために、会社側は高いコストをかけてモデルルームを建設するのですが、実際に見られる間取りのタイプは限られていますし、販売後にはモデルルームは不要となり、取り壊すことになります。

その点を3Dで解決できないか、というのが開発のきっかけとなりました。

『ROOV』では、リンクをクリックするとPCやスマホ、タブレットでマンションの3Dデータを閲覧できます。

マンションを販売する側は『ROOV』を活用することで、物件の詳細を説明しやすくなりますし、物件を購入するお客さまは、3Dデータ内で部屋の中を歩き回ったり、クローゼットを開けてみたり、家事の動線をチェックしたり、窓からの眺望を確認したりすることができます。

また、部屋の採寸もできるので、家具選びにも活用していただけます。

――『ROOV』は自社開発ですか?

間所氏:はい、自社開発です。例えばUnreal Engineなどといったゲーム用エンジン、映像制作用のエンジンを「間借り」するようなサービスもあるのですが、往々にして重く、スマホ閲覧ができません。そこで、コア技術を自社で開発し、その課題を解決しました。

室内の間取りだけでなく、外観、周辺環境、中古での販売価格、頭金といった情報を追加した『ROOV compass(ルーブ コンパス)』というサービスも作りました。また、データベースマーケティングにも活路を見いだしています。

【02】フルリモートの運用、フェアな評価制度――。スタイルポートの人材戦略とは

――スタイルポートは今まさに成長の最中にあると思いますが、現在の人材戦略で重視しているポイントについてお聞かせください。

間所氏:当社は、自社開発したプロダクトによって事業を成長させており、それを生み出しているのはエンジニアの技術力です。とは言え、良いプロダクトを作ったからといって、自動的に売れるわけではありません。BtoB市場には強力なセールス力が必須です。

そのためプロダクトとセールスの両輪を回せるような人事戦略が重要です。

――強いプロダクトと強いセールスを実現する人材を自社に集めてくるために、実践されていることを教えてください。

間所氏:社員全員がフルに実力を発揮できる環境を整えており、極めて低い離職率を誇っています。

その一つの要因として、リモートワークを徹底し、うまく運用できている点にあると思います。

創業当初の主要メンバーは札幌、東京、名古屋とバラバラの場所にいて、最初からフルリモートでした。その後ジョインする人たちのためにも、リモートワークにおけるオペレーションの方法を整えてきました。

コロナが落ち着き、リモートワークを中止した大手企業も多くあるようですが、その点で折り合いがつかなくなった活躍人材が当社に来てくれるようにアプローチしています。

――確かに、出社回帰の企業は増えています。

間所氏:大手IT企業と同じ土俵で人材の獲得競争をしても、規模的には負けてしまいます。優秀な人をどう狙いに行くか。優秀な人に当社を選んでもらえるためにどうしたらよいかと、常に考えています。

当社には素晴らしいエンジニアチームがあるので、「この人達と働きたい」「仲間に入りたい」と思ってもらえるような内容を面接に取り入れています。ほかにも「ワークサンプル」のような形で商品企画会議を開き、参加してもらうこともあります。

当社に入社してくれる人たちに話を聞くと、もろもろの条件に加え、「この人たちと働きたい」という想いを持って入社する人も少なくありません。

――社員も採用活動に参加しているのですね。

間所氏:採用は最優先事項ということで、採用活動にしっかり時間を割き、全員が参加しています。私たちはこれを「スクラム採用」と呼んでいます。

面接官との相性が合わなかったり、質問する内容が異なったりすると、欲しい人材を見逃してしまうことがあります。面接が属人化しないよう、求人中のポジションに必要なスキルや能力を定義し、その能力を見るために適した質問を事前に用意しておくといった工夫もしています。

――社員の仕事のモチベーションを維持するために、会社としてどのようなことを実施していますか。

間所氏:フェアな評価制度が重要だと考えています。今の規模だからできることかもしれませんが、社員評価の最終調整は、経営陣が担っています。管理職による1次評価、2次評価の後、最後には経営陣も評価します。

また、コミュニケーションも重要です。社員とのコミュニケーションには、「Slack」というツールを使っています。

その際、個人間のDM(ダイレクトメッセージ)を使わず、ちょっとしたことでも皆が見ている公開のチャネルでコミュニケーションを取るようにしています。このように、リモートで仕事しているからこそ、こまめに情報共有ができるという面もあります。

現在の評価方法が可能なのは、各自の業務量や成果をほぼ把握できているから。規模が大きくなった時には、別のやり方を考える必要があるでしょう。

【03】将来の展望、「スケールメリットを求める人材とビジネスの領域を拡大していく」

――これから求める人材、活躍できるような人物像とは。

間所氏:「1人で起業して十分やっていけるけど、大きな規模のビジネスがしたい」というように、スケール感を求めている人が当社に合うと思います。

当社は今、成長の最中にありポストは細分化されていません。こちらから仕事を「与える」のではなく、半ば事業家として必要業務を自分で巻きとって自走できるオーナーシップを重要視しています。

――最後に、未来の話を伺います。スタイルポートの将来的なビジョンについてお聞かせください。

間所氏:将来的には、3つの軸に従って事業を展開していきたいと考えています。

一つは、今行っているコミュニケーション・プラットフォーム事業の範囲を伸張させること。3Dを使って空間を理解するという以前の段階にある、「物件を企画する」「その物件に投資するかどうか決める」といった領域でも、活路を見いだしていきたいと考えています。

また、住宅を購入した人に私たちの作ったVRデータをシェアすることで、リフォーム・リセールなどに役立てることができれば、とも思います。

二つ目は、新築マンション業界以外に、ビジネスの領域を広げていくこと。そして三つ目は、日本からアジアへと、国外にも提供エリアを広げていくことです。

グローバルで展開している同様のサービスを常に比較しているのですが、当社のサービスは海外のサービスに劣っていません。やり方によっては、世界中で活用してもらえるサービスになるのではないかと、海外展開を目指していきたいと考えています。

Case03:株式会社ハウテレビジョン

続いて、株式会社ハウテレビジョン(東京都港区/代表取締役社長:音成 洋介)の事例をご紹介する。話を伺ったのは、取締役COOの池内 淳志氏と、採用活動に携わる橘 菫氏だ。

【01】ハウテレビジョンの事業内容と担うミッションとは

――ハウテレビジョンの事業内容とミッションについて教えてください。

池内 淳志氏(以下、池内氏):ハウテレビジョンの設立は2010年で、プラットフォーム運営事業を展開しており、「全人類の能力を全面開花させ、世界を変える」をコーポレートミッションとしています。

大学生向けキャリアプラットフォーム『外資就活ドットコム』、若手社会人向けプラットフォームの『Liiga(リーガ)』、新型質問箱サービスの『mond(モンド)』などを運営しています。

現時点では、グループ全体の社員数は80人弱。私が入社した5年ほど前は30人弱でしたので、5年で2倍強の人員規模になっており、着実に成長を遂げています。

また、グループ経営にも注力しており、それに向けて今年初めての子会社化やグループインなどを実現させています。今後、より多くのグループ会社をつくり、各組織・部門のトップを生み出していくことを計画しています。

――さまざまなキャリアプラットフォームがありますが、御社が参入した意図や、他社との差別化ポイントは。

池内氏:世にある多くのキャリアプラットフォームは、企業側の採用決定をどう助けていくか、ということに軸が置かれています。一方、当社のプラットフォームは企業側ではなく、求職者目線の「ユーザーファースト」が特徴です。「ユーザーの就職活動をどう最適化していくか」ということが重要であり、企業様はステークホルダーとして存在する、という考え方です。

「ユーザーにとって本当に付加価値のあるプラットフォームとはどのようなものか」ということを追究し続けた結果、採用をしたい企業が自然に集まるサイクルを作れたことが、私たちの強みだと思っています。

橘 菫氏(以下、橘氏):結果として、「外資就活ドットコム」は、例えば2023年卒では、東京大学の就活生の方の9割近くの使用いただくなど、成長志向の高い学生が就職活動をするときの必須プラットフォームとしての地位を確立しています。そうした学生にリーチしたい企業の方にも高く評価をいただいています。

【02】「事業目線」を持っている人が活躍する環境

――ハウテレビジョンで働く社員には、どんな能力が求められていますか。

池内氏:採用の際には、「何をやってきたか」というよりも「物事をどう捉え、向き合ってきたか」を重視しています。

社会の変化は早く、そのスピードは加速していくでしょう。ですから「急速な変化に柔軟に適応できるかどうか」に加え、「自らが変化を起こすことができるかどうか」「変化の中心にいられるか」ということも重視しています。

求められるスキルレベルにはトレンドがありますが、トレンドは移り変わっていきます。例えばエンジニア職で見ると、「この技術を使って仕事がしたい」という人ではなく、日々変化する世の中の技術を常日頃からキャッチアップできる方とご一緒できるよう採用を進めています。

過去の一時期と比べると世の中のニーズが細分化し、その分だけサービスが切り分けられ、事業が多様化しています。「営業力さえあればいい」「マーケティング力さえあればいい」というのではなく、得てきた情報をどうプロダクトや事業に転換できるかが大事です。

だからこそ「事業目線を持てるかどうか」「会社目線で語れるかどうか」を重視し、今はできていなくても、そのポテンシャルがあるかどうかを重視しているというわけです。

――キャリアプラットフォームを運営している御社では、どのように優秀な人材を見極めているのでしょうか。

池内氏:新卒採用においては、「学生時代にこんなことを頑張りました」と必死に語る学生を多く見受けます。当社では、頑張った内容よりも、「なぜ、その物事に取り組もうと思ったか。その過程でどんな変化や苦労があったか。どうアクションを取ったか」など、背景にある物語を聞くようにしています。

最近では「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を必死で作る、という傾向がより顕著になっているように感じています。ですが、新卒の皆さんはそれぞれ「ガクチカ」をちゃんと持っているんです。でも、よくよく話を聞いていると、それが目的化している風潮が見られ、付加価値とは言えなくなっているケースもあります。

中途採用でも同様に、前職での実績そのものよりも、その実績の背景にあるものについて、深く掘り下げています。その過程において、自分で考え続けているか自己客観視できているかどうかが一つの見極めのポイントです。

ですから「その取り組みが成功して、いかに売り上げたか」よりも、どのように取り組んでいったのかという物語(ストーリー)を俯瞰(ふかん)しながら語れる人が望ましいというわけです。

――ハウテレビジョンでは、社員にどんな活躍を望んでいますか。

池内氏:事業の未来を見据えながら、事業家の目線を持つことです。そこでは、「与えられた役割を実行すること」よりも、「事業を作り出す側になること」が求められます。

中途、新卒にかかわらず、将来的に責任ある役割を任せる前提で採用しているため、特定の領域で責任者の経験を若いうちからしてもらいます。責任あるポジションに就けば、自分に不足していることに気付けますし、学ぶきっかけにもなるのです。

――将来、経営に携わる可能性のある人材をどのように育てているのでしょうか。

池内氏:極論ではありますが、人は「育つ」ものであり「育てる」ことはできないと考えています。社員が育つ環境をいかに準備できるかが、マネジメントに課された役割だと思っています。

「このステージを卒業したから、次はこのステージへ」というステップの踏み方が一般的だと思いますが、当社の場合には「今のステージを卒業する前に、次のステージに行ってみよう」ということが多く、その分、フォローも手厚く行っています。

また、正しい情報がないと精度の高い意思決定ができないので、透明性の高い情報提供とコミュニケーションを大切にしています。「Slack」というコミュニケーションツールでは、オープンな情報交換を心がけており、クローズドな情報交換はしないことになっています。

「この領域はこうしたいよね」という未来についての議論も重ねています。抽象度の高い議論をしようとすればするほど、情報量が重要です。

――新入社員の研修については、どのように行われていますか。

橘氏:採用の段階で自ら成長していくことができるかを見極めているので、研修設計は難しくありません。研修で育てているのはなく、元々成長する素地のある人が、もっと早く走っていけるような環境を作っています。

新卒採用の社員の多くは、大手企業に入社する道を断って当社に来てくれています。研修の設計では、「色々な選択肢があった中でハウテレビジョンに来てよかった」と思える体験や、「同期とこの研修を一緒に受けた」という体験の設計を大切にしています。

【03】ハウテレビジョンの見据える未来、「物事を変える側に立つ人の集団になっていたい」

――ハウテレビジョンの今後の展望についてお聞かせください。

池内氏:現在はハウテレビジョンでは、『外資就活ドットコム』が売上をけん引しています。

一方で、今後は「全人類の能力を全面開花し、世界を変える」というコーポレートミッション実現に向けて事業を多角化していくことを見据えています。

その一環として、M&Aも実施しており、新たな事業が主力になる可能性もあります。5年、10年たったときには『外資就活ドットコム』が数ある主力事業の一つ、という状態になっているかもしれません。

――今後、ハウテレビジョンは、どんな組織を作っていきたいと思いますか。

池内氏:いまは先行きが不透明で予測しづらい「VUCA」と呼ばれる時代になっています。

そのため世の中が発展していくにつれ、「なぜ、こうなっているのか」という疑問を持つことなく、変化を避け、与えられた仕事をするだけ、という風潮も加速していくかもしれません。しかしそういう人が増えていくと、日本の社会・産業全体への影響も否めないでしょう。

少なくとも当社は、物事を変える側に立つ人の集団になっていたいと思うのです。人数規模が大きくなるとその価値観を一枚岩にすることが難しくなるかもしれませんが、そこはぜひチャレンジしていきたいと思います。

【取材後記】
経営環境、組織内の環境が目まぐるしく変化するスタートアップ企業。今回取材をしたペライチ、スタイルポート、ハウテレビジョンの3社のスタートアップは、組織体制や人材戦略について、その時々の最適な形を探り続けてきた。一方で、現時点の「最適」が、近い将来いずれ古くなることを確信する言葉は、どの企業からも聞かれたことだ。
経営陣や現場の社員が人事の仕事を「ひとごと」にせず、採用活動に参加することが、候補者体験の向上や、組織を強くする採用活動につながっているようだ。

[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、北川和子、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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