ダイドードリンコの「採用ブランディング」と「定着」への施策【セミナーレポート】

ダイドードリンコ株式会社

取締役 執行役員 人事総務本部長
濱中 昭一

大学卒業後、1987年にダイドードリンコ株式会社に入社。1994年より各営業所の所長を歴任後、2001年に営業管理課長に就任。2002年に人事部が発足した際、人事課長に就任。2011年に人事総務部長、2013年に執行役員人事総務本部長を経て、2017年より現職。

数字目標を定めない、目先の数字を追求しない。10年後20年後を見据えた採用戦略
社員を定着させ、生産性を向上させるためのダイドー独自の取り組み
社員の主体性を促し、可能性を引き出す「きっかけづくり」が人事の役割

キャリア採用を始めるに当たって、「良い人材を確保できるか」「その人材が会社に定着してくれるか」という課題を挙げる企業は多いのではないでしょうか。それらの課題を解決するため、さまざまな対策を実行。採用ブランディングと人材の定着化に成功したのが、缶コーヒーでおなじみのダイドードリンコ株式会社。午後の生産性を高める「カフェインナップ」や、社内のフラットなコミュニケーションを促進するための「カジュアルワーク」など、働きやすさを追求した独自の取り組みを実施しています。

今回のセミナーには人事総務本部長の濱中昭一氏を迎え、キャリア採用の実施に至った背景や、採用を成功に導く施策の詳細、それらを成功に導くためのビジョンなどをお話しいただきました。

(本記事はdodaが主催したセミナーの内容を編集・要約した上で構成しています)

数字目標を定めない、目先の数字を追求しない。10年後20年後を見据えた採用戦略

数字目標を定めない、目先の数字を追求しない。10年後20年後を見据えた採用戦略

当社がキャリア採用に取り組んだきっかけは、2010年に実施した構造改革です。組織を大胆に変革し、人材の育成を図り、会社を発展させることを狙いとした改革でしたが、実はさまざまな問題が浮き彫りになりました。今後、攻めた事業展開を行っていくためには、これまでの企業文化の継承ではなく「創造」と「破壊」が必要となったのです。それを行うには、既存の社員だけでは限界が生じます。構造改革後に生じた人員構成のひずみもネックでした。市場変化の激しい時代で、求める人物像もどんどん変化していく。そのような背景もあり、2011年よりキャリア採用を開始することにしました。

当時、社長を交えて一年かけて議論した結果、まずはマーケティングを大きく変えよう、ということになりました。ダイドードリンコの社名の由来は「Dynamic Do Drink Company(ダイナミックに活動するドリンク仲間)」。ダイナミックに活動することを決意してつけたものです。改革当時は、「考えるよりまず行動する」「考えながら行動する」という人材は多くいましたが、行動しているだけではダイナミックに活動できているとは言えません。業績を上げるためには、ただ商品を作るだけではなくヒット商品を作らなければなりませんから。つまり、マーケティング部が“活きた行動”ができる集団に変わることで会社の成長につながると考えました。そこで、当時20名が在籍していたマーケティング部で、30名を新たに採用することにしました。一気に30名、大胆ですよね(笑)。同一部署にさまざまなキャリアやスキルを持つ社員を入社・配属することで、既存社員との早期の融合を図ったのです。中途社員を一斉に迎え入れることで新たな風を巻き起こそうとしました。事実、発売以来根強く売れている「ダイドーブレンド 世界一のバリスタ監修シリーズ」は、キャリア入社の社員がマーケティング部トップに就いてから生まれたものです。その際、譲らなかったのが、求める人物像です。せっかく中途社員を求めるわけですから、会社にない力を求めたいですよね。そこで定めたのが「必要なスキルを備え、チャレンジングで努力を惜しまない人」と「こんなチャレンジをしてきたという経験を持つ人」。協調性も大事ですが、協調性が強過ぎるとキャリア採用の意味がなくなってしまうため、「ある程度既存社員と調和しながらも、リーダーシップを発揮できる人」も加えました。

中途採用を大胆に決意した理由はもう1つあります。先ほどもお伝えした通り、当時は人員構成のひずみも問題でした。バブルがはじけた影響で新卒採用を休止していたため、次世代幹部となり得る若手人材が不足していたのです。そこで「どの年代の人材を採用するか」を決めました。人事・採用担当者は「その一瞬」だけを見ていればいいというわけではありません。会社の全体像を分析し、「10年後あるいは20年後、会社としてどうなっていたいか」を思い描くことが大切です。会社の将来を見据えて決断した30名の採用に迷いはありませんでした。

経験豊富なキャリア人材が加わり、変わっていくマーケティング部の様子を見ていた他の部署からも「キャリア採用したい」という声が上がり、協力体制や受け入れ環境が整っていきました。キャリア採用が成功していることが認識できれば、他部署も採用に積極的になります。「あと数年で部署長が定年退職になる」という組織に対して計画的に人材確保を行ってきました。CEOや役員も同様です。その成果が実り、キャリア採用の開始から5年後に連結売上高1,700億円を突破しました。キャリア採用は、すぐに結果としてあらわれるものではありません。キャリア入社の社員が事業や仕事を知るまでに時間がかかります。「この年までに、このような状態になろう」という将来を見据えた目標を立てることがカギです。

しかし、課題も生まれました。キャリア入社の社員はスキルが高く、1人で何でもできます。反面、その人の力に依存してしまい、退職したら会社が回らなくなってしまうということも想定されます。個の持つ力を、組織の力に変えなければならない。そこで彼らには、スキルの継承と若手の育成というミッションを与えました。交流会や研修などを定期的に実施して、キャリア入社の社員同士の連携も深め、彼らがイキイキと仕事ができるよう配慮しました。また、キャリア入社の社員の定着に向け、楽しく働きやすい環境整備への対策にも取り組みました。

採用に関するKPIを定めていない

実は、当社では採用に関するKPIを定めていません。目標の数字があると、それを達成しようと無理をしてしまうからです。どこかで無理や妥協をして、10年・20年後に「しまった」とならないようにしなければなりません。人事・採用担当者のミッションは会社を成長させること。「会社の成長にそぐわないと判断したら、最悪採用がゼロでもいい」という気持ちが重要です。人事組織で定めているのは「新卒は毎年15名程度採用する」だけ。毎年15名ずつ採用すれば、40年で600名になります。当社には今700名の社員が在籍していますが、適正人員数と照らし合わせるとそれを満たすために何年かかるかがポイントです。毎年15名である必要はなく、5名だけ採用する年もあれば20名を採用する年もあります。「5年スパンで、だいたい15名ずつ確保できれば、人数も年齢構成も失敗しないだろう」と考えておけば、量を必死に追い掛ける必要がない。定量よりも定性にこだわる、そんな採用を進めています。

社員を定着させ、生産性を向上させるためのダイドー独自の取り組み

社員を定着させ、生産性を向上させるためのダイドー独自の取り組み

私たちが考えているのは、「生産性向上が、つまり業績向上につながる」ということです。生産性とは、付加価値を投資資源(投入資源)で割った数。分母である投入資源(投資資源)とは、ヒト、モノ、カネにあたります。この分母を一定に保ちながら、社員の承認欲求を満たして付加価値を高めることが生産性向上につながると考えています。承認欲求を満たすこと自体にコストはさほどかかりません。分子の付加価値を高めることが人事の仕事だといえます。

生産性向上が業績向上につながる

(ダイドードリンコ株式会社 登壇資料より)

そこで、社員に楽しく効率よく働いてもらい、会社に定着してもらうように当社が取り組んだ生産性向上の対策について、1つずつご説明します。

組織風土改革=意識改革

仕事と生活を充実させることで相乗効果を生み生産性を高める「ワークライフシナジー」の施策として、まず組織の風土を改革し、社員の意識を改革することに着手しました。そのひとつが「Do meeting(オフサイトMTG)」です。業務終了後に社長と会食する機会を設け、当社の方針を社長が直接社員に伝えるようにしています。また、「家族あっての仕事」という意識から、家族報『Fanpany』も刊行しています。

DyDoチャレンジアワード(表彰制度)

年に一度実施している「DyDoチャレンジアワード」では、業績ではなくチャレンジそのものを表彰する「チャレンジ賞」と、業務を超えて自分自身がチャレンジしたいアイデアや、会社にチャレンジして欲しいアイデアを提案できる「チャレンジアイデア賞」を設けました。チャレンジアイデア賞の表彰アイデアは社員投票で決めています。また、アイデアが実現に至らなかった場合でも、その理由を必ずフィードバックして「会社はあなたのことをきちんと見ていますよ」という姿勢を示しています。人には、誰かに認めてもらいたいという「承認欲求」があります。それを満たしてあげることが大切です。実際、昨年度はチャレンジ賞が33エントリー、チャレンジアイデア賞が123エントリーもありました。

カフェインナップ(昼休憩時のうたた寝)

私たちが缶コーヒーを生業にしていることもありますが、「カフェインナップ」という対策を行っています。これは、昼休憩時にお茶やコーヒーを飲んでカフェインを摂取し、その後10分から20分ほどの仮眠(ナップ)をとってリフレッシュするというもの。カフェインの覚醒効果と仮眠によるリフレッシュ効果で眠気を抑え、午後の生産性を高める狙いがあります。リラックスできるようなオフィス環境を用意し、社員が仮眠をとりやすい環境づくりを行いました。カフェインナップ導入した結果、社員1人当たりの時間外労働時間が1日平均30分ほど減りました。たった30分ですが、月単位で考えると大きいですよね。

カフェインナップ

(ダイドードリンコ株式会社 登壇資料より)

社員の健康促進に関しては、朝食をとることと適度な飲酒の推奨、運動の習慣、社員が主体的に成長できるよう学習習慣の推奨、睡眠の習慣を啓蒙しています。社員の自己管理能力を高めるように習慣づけています。

この他、執務室内にBGMを流すことで集中して業務に取り組めるようにしたり、デスクワークで生じた肩こりや腰痛、首の痛み、睡眠不足などの不調を改善するための「森永リカバリー体操」を取り入れたりする対策も導入しました。「森永リカバリー体操」は、職場に出勤しながらも何らかの健康問題を抱えていることで業績が落ちている状態「プレゼンティーイズム」の解消を目的とし、毎日15時から15分間の実施を推奨しています。また、フラットでリラックスできるコミュニケーションを促進するため、ビジネスウェア着用ルールを撤廃する「カジュアルワーク」も取り入れました。一定のドレスコードはあるものの、カジュアルウェアのままで仕事帰りにジムに通ったり、勉強会に参加したりと非常にリラックスした状態で業務に取り組むことができます。また、組織の活性化・他部署とのコミュニケーション・心身の健康や自己スキルの向上を目的としたクラブ活動の推奨「ダイドークラブ認定制度」や、e-ラーニングや通信教育など社員の主体的な学習を支援する「学習支援制度」などの対策を用意しています。

実は、カフェインナップを実践している社員は本社で半数程度です。特に強制しているわけではありません。それでも時間外労働時間が減っているということは「午後からの生産性を上げよう」という社員の意識の変化の現れでしょう。休憩時間にするものなので、人事としては「絶対やるように!」とは言えません。執務内BGMにしても「音楽を聴いて生産性を高める人もいるだろう」くらいの気持ちでいます。こういう対策はあくまで結果論ですので、やってくれない社員がいても「失敗した」とは思わずに、いろいろとチャレンジすることが大事です。「なぜやらないのか」をしっかりヒアリングしながら、次の打ち手にトライしていくことが必要だと思っています。

社員の主体性を促し、可能性を引き出す「きっかけづくり」が人事の役割

社員の主体性を促し、可能性を引き出す「きっかけづくり」が人事の役割

最後に、われわれ人事の役割とは、社員1人当たりの生産性を向上させるための「きっかけづくり」だと考えています。そのため、当社では人事が前面に出ることはありません。重要なのは社員であり、社員の主体性です。「やらされた」ものに対してはモチベーションが上がりませんが、「やりたい」「やらせてほしい」「認めてもらいたい」という気持ちは主体性につながります。キャリア入社の社員においても、彼らが持ってきた意見はつぶさないようにしています。カフェインナップで労働時間が減ったとお話しましたが、本当にカフェインナップが理由なのかと聞かれるとそうではない。午後の生産性に対する社員の意識が変わったのだと思います。とにかく意識改革が前提にないと、たくさんの対策を並べてみてもその先に進むことはできないと痛感しています。

そうはいっても、当社の中にも「変われる人」と「変われない人」がいます。人事は変化へのきっかけ作りをする部署なので、自分たちでも対策に対して主体的に取り組めるかどうか、しっかり落とし込んだうえで進めています。人事が率先して変化に対応することで、会社全体も変わっていくと信じています。

施策を取り入れてもすぐには結果が出ないかもしれません。しかし、どうか焦らないでください。先ほどもお話したように、当社でもキャリア採用を始めて数字が結果に表れるまで、5年かかっています。人事は「5年後にこうしたい」「10年後にこうなるんだ」という将来を見据えた視点を持つことが大切です。

将来を見据えた視点

私が新入社員によく伝えているのが「あなたは何色ものブルゾン、またはフリースを着ることができますか」ということ。黒ですか?茶色ですか?真っ赤や緑などを選ぶ人はいますでしょうか?つい人は自分に似合う色、自分の好きな色ばかり着てしまいがちです。しかし、それでは自分の殻を破ること事はできません。好きな色ばかりではなく、他の色も試してほしい、他の人から「この色があなたに似合うよ」と勧められた物を着てほしい、つまり、与えられた服を着こなしてほしいと思います。可能性にチャレンジしてほしいのと同時に、自分自身のキャリアを狭めないように意識してほしいのです。人事は、社員の可能性を導いてあげる存在になるべきです。たとえば、本人がマーケティングをやりたがっても、他の可能性があるならそれを示してあげる。「▲▲という理由から、あなたは営業に向いていると思うよ」と言ってあげることで、その人の営業のポテンシャルを引き出してあげる。それをできるのが人事であり、社員のポテンシャルを引き出し、新たな可能性を見つけてあげることが役割だとも思っています。

【まとめ】

ダイドードリンコでは、ワークライフバランスの向上が社員のスキルアップにつながり、会社の生産性も向上。それがやがて「ダイドードリンコではやりたいことにチャレンジできる」という採用ブランディングとなり、優秀な人材の確保につながるという好循環が生まれています。

「キャリア入社の社員が会社のことを好きになるには、時間がかかる。会社をもっと好きになってもらうために、さまざまな対策を共に考え、新しいことにチャレンジしてもらえるようにすることが大切」と語る濱中氏。失敗をいとわずチャレンジする同社の姿勢は、各社の採用戦略にとって大いに刺激となることでしょう。

(文/下良 果林、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)