面白法人カヤック流、活躍できる人材採用のメソッド公開【セミナーレポート】
「ほしい人材が集まらない」「採用した人材が活躍できない」。そうした課題解決に多くの企業が苦心する中、ユニークな採用手法で話題を集めているのが株式会社カヤックです。“面白法人”として、社員一人ひとりが仕事を「面白がる」ことを企業発展の原動力としている同社。その採用においては、母集団の形成から内定承諾にいたるすべてのフェーズにおいて、学術的な知見に裏打ちされた緻密な戦略を用いています。今回は、カヤックにおける人材要件や採用プロセスについて、同社の採用責任者・佐藤謙太さんにお話しいただきました。
「どんな人がほしいのか」という定義こそが採用の軸となる
カヤックは、グループ会社を含めて全体で400人規模の社員を有していて、その9割がクリエーターとして活躍している企業です。事業としては、キャンペーンやWebサイト、デバイスなどオリジナリティあるコンテンツの制作などを行うクライアントワーク事業、ゲーム制作を行うソーシャルゲーム事業、ゲームに特化したユーザー向けSNS「Lobi」を運営するゲームコミュニティ事業のほか、eSports事業からウェディング事業まで、とにかくいろいろやっています(笑)。“面白法人”というキャッチコピーには、「1.まずは、自分たちが面白がろう」「2.つぎに、周囲からも面白い人と言われよう。」「3.そして、誰かの人生を面白くしよう。」という3段階の思いが込められており、人事としてもまずは1番目にあるように「面白がって働く」人材を増やすことが、最も大切な仕事だと考えています。
「採用」という言葉を因数分解して優先順位をつける
では次に、カヤックの採用についてお話します。そもそも「採用」という言葉については、当たり前のように使われているものの、会社によって微妙に意味や捉え方が異なる抽象度の高い言葉だと思っています。僕は、こうした抽象度の高い言葉を因数分解するということを意識的に行っているのですが、今回はこの「採用」という言葉をカヤックなりに因数分解してみることにしました。その結果、
1.どんな人がほしいのかを定義する
2.集める
3.見極める
4.これは! という人を動機形成する
という4つの要素に分解できるという答えに至りました。この4つの要素の中では、「集める方法」や「見極めの方法」に注目が集まりがちだと思います。しかしカヤックでは、1番目の「どんな人が欲しいのか」という人材要件定義をもっとも重視しています。さまざまな面白採用キャンペーンを実施している企業としては意外に思われるかもしれませんが、必要な人材の定義をきちんとしているからこそ、面白採用キャンペーンを採用成果に繋げられていると言えます。やっていることはふざけているように見えても(笑)、2番目から4番目のプロセスは明確な人材要件の定義があってこそ行えるものだというのがカヤックの考えなんです。
「入社後、活躍する人材」を、因数分解する
では、カヤックにおける「どんな人材がほしいのか」という人材要件の定義はどんな内容になるか。非常にシンプルですが、「入社後、活躍する人材」。以上です(笑)。エンジニアを募集する際にも、ミッションやスキルといった要素よりも、「活躍できるかどうか」を重視しています。この「活躍する」という言葉の意味は、企業によって定義がさまざまですし、一般的にはスキルの高さと関係すると考えられがちです。しかしカヤックでは「活躍する=スキルが高い」という考え方はしません。
活躍=いかに「組織社会化」するかという考え方
社外人事の神谷俊さんと採用に関する議論を重ねる中で、「活躍する=組織社会化する」ということだという考えに至りました。組織社会化とは、新しく組織に加わったメンバーが組織に適応し、馴染んでいくプロセスを意味しています。組織社会化に関する文献がいくつかある中の一つに、組織に適応するまでに必要な10項目が書かれていたのですが、その項目を「スキルマッチ」に関するものと「カルチャーマッチ」に関するものに大きく大別できそうだなと思い分類してみたところ、1/3が「スキルマッチ」に関するもの、2/3が「カルチャーマッチ」に関するものでした。活躍できるかどうかにおいて、カルチャーにマッチかどうかの方が比重が高く、そのため、カヤックでは採用において、自社のカルチャーにマッチする人かどうかということを重要視するようになっています。
評価こそがカルチャーを理解する指標となる
「カルチャーにマッチする人材」とはどういう人材か。そのことを考える際には、まず自社のカルチャーを理解する必要がありますが、この「カルチャー」を論理的に理解するのは難しいことです。しかし、カルチャーを理解する方法を1つ思いつきまして、それが自社の「評価制度」を理解するというものでした。これは、カヤックのCEOである柳澤大輔が口癖のように語っている「評価が文化をつくる」という言葉から導き出されたもの。つまり、評価の仕方によって組織に集まる人材が決まり、その人材によって組織の文化が決まるという考えです。評価制度を理解すれば、企業のカルチャーを理解することにつながるということです。
評価を気にせず面白がれる人材が活躍するカヤック
カヤックには、大前提として「面白がって働く人を評価する」という評価に対する考え方があり、「運による評価」「社員同士での相互評価」「プロデューサーによる評価」という3つの評価軸によって構成されています。特徴的なのは、サイコロ給という制度がある「運による評価」です。これは、社員に毎月末サイコロを振ってもらい、基本給にサイコロの目の数のパーセント(1~6パーセント)をかけたものを賞与として支払う、まさに運によるインセンティブ制度です。この制度には、「人が人を評価するなんていい加減なもの。そこに一喜一憂しすぎないように」という思いが込められています。こうした評価の考え方に共感できる人材こそが活躍できる。それが僕らの考えなんです。
カヤック流面接で見極めること、そして候補者に提供する価値の訴求
ここまでカヤックのカルチャーと、そこにマッチするのが活躍できる人材だというお話をしてきました。では次に、そういった人材を採用するために必要なことをお話ししたいと思います。
まず「集める」という意味の母集団形成については、人材要件がきちんとできていればスカウトや人材紹介サービス、採用イベントやキャンペーンなど、自社ができることをやればいいのではないかと思います。非常に雑な言い方ですが(笑)。重要なのは、「見極め」のために候補者のインサイトをいかに捉えるかということだと思います。
can、will、gapからスキルマッチだけではなくカルチャーマッチも判断
転職は、現状でできること(can)となりたい姿(will)があって、そしてその差(gap)を現職で埋められないと感じる出来事があったタイミングで決断されることが多いように思えます。
ですので、面接では、
1.いまどんな仕事をしているか(can)
2.転職を考えたきっかけは(gap)
3.転職の結果、どうなりたいのか(will)
ということを確認すれば、見極めに必要な情報は引き出せるのではないかと思っています。何を見極めるかについては、まず1つあるのはスキルマッチについてです。エンジニア採用に際しては、現場のエンジニアに同席してもらいながら面接でcanを聞くことで確認できるはず。そして、見極めにおいて最も重要なカルチャーマッチについてですが、これは転職のきっかけとなったgapの内容で判断できると考えています。つまり、gapの内容から活躍を阻害している要因を紐解き、候補者が現職でネガティブと捉えている要因が自社の特徴と類似していないか、求めている要因が自社の文化と異なっていないかを見極める。それによって、自社のカルチャーにマッチするか否かが判断できると、僕は考えています。
でも、すべてがマッチする人材は稀なので、マッチしない部分があるからと不合格とするのではなく、採用する場合の懸念点として、採用や受け入れに関わるメンバーが把握し、その情報を入社後のコミュニケーションや立ち上がり支援に役立てることが大事だと思っています。
面接で重要なのは候補者に対する動機づけ
ここで一度立ち止まって考えていただきたいのが、「この人材はばっちり!」と思った候補者から、反対に断られてしまうケースについてです。これまでお話してきた「見極め」の項目は、あくまで採用する企業側の都合ですが、もちろん候補者にも都合があります。一番重要なのは、候補者をいかに動機づけするかということ。カルチャーに合う人材がいても、候補者にはそれぞれwillがあり、転職の目的があるはずです。「給与を上げる」という目的もあれば「もっと成長できる環境に移る」という目的を持つ方もいるでしょう。だからこそ、それぞれの目的に対して自社がどのように応えるか、企業が候補者に対して提供できる価値=EVP(Employee Value Proposition)を伝えることが重要になります。カヤックでは面接でEVPを訴求する時間を多くしながら、候補者を動機づけしていくことを心掛けています。
【まとめ】
ユニークな採用活動の中で印象に残ったのは、「採用バッティングする競合A社に、カヤックの求人を理解してもらって、互いにあうだろう人材を紹介しあう」という佐藤さんのアイデア。それを実行したというエピソードでした。こうした一種突飛なアイデアを実行できるのも、社員一人ひとりが仕事を「自分ごと化」し、上長の顔色を窺うことなく行動できる、そしてそのことで仕事を面白くすることができるカルチャーがあってこそ。しかし、この考え方は、他企業でも取り入れることはできるのではないでしょうか。自らを面白法人と銘打つカヤックならではのカルチャーが、採用活動を行う人事領域にも浸透しているということを強く感じさせる講演でした。
(文/株式会社ワールド・コラボ・ジャパン、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)