エルダー制度とは?メンター制度との違いやメリット・デメリットを解説

d’s JOURNAL編集部

従業員の育成を効果的に実践するためには、組織としての制度やルールをきちんと確立することが大切です。特に入社して間もない新入社員は、業務を遂行するために覚えてもらうことが多く、この時期の教育機会が成長の度合いを大きく左右します。

この記事では、新入社員の育成に用いられる代表的な手法の一つとして、「エルダー制度」について解説します。エルダー制度の内容やメリット・デメリット、効果的な導入のポイントなどをまとめて見ていきましょう。

エルダー制度とは


まずは、エルダー制度とは具体的にどのような方法を指すのか、その他の制度との違いも含めて見ていきましょう。

エルダー制度の概要

「エルダー制度」とは、新入社員に対して行われるOJT(On the Job Training)の一種です。エルダーには先輩や年長者という意味があり、その名の通り、新入社員の先輩にあたる人物が指導にあたるという制度です。

直属の上司ではなく、比較的に立場や年齢の近い先輩従業員が教育を担当するため、親近感や信頼関係が生まれやすくなるのがメリットとされています。また、OJTの一種なので、実際の業務遂行を通じて実践的な教育を行うのも特徴です。

そのため、新入社員の早期育成を目的として行われることが多いです。

エルダー制度が注目されている理由

近年の人材育成において、エルダー制度が重視されている大きな理由の一つは、若手従業員の早期離職率の高さです。一般的に離職率は年齢が若いほど、また入社してからの日が浅いほど高くなる傾向にあり、新卒者の3年以内離職率はここ30年近くにわたって30%以上を記録しています。

さらに、現代は労働人口の減少による採用活動の難化が続いており、従来よりも新たに人材を確保するのが難しくなっています。こうした状況の変化にともない、入社した人材を大切に育てて離職を防ぐ仕組みを整えることが、企業としての競争優位性を高めるためのテーマとなっているのです。

先輩従業員と信頼関係を構築できるエルダー制度は、新入社員の孤立や不安を解消し、離職を防ぐのに有効な手段となり得ます。エルダー制度が重要視される背景には、このような経営環境の変化が大きく関係しているといえるでしょう。

メンター制度やブラザー・シスター制度との違い

新入社員と一対一の関係を築くという点では、エルダー制度のほかにもメンター制度やブラザー・シスター制度があります。メンター制度とは、上司以外の先輩従業員が新入社員の業務やメンタル面の悩みを聞き、相談に応じる制度のことです。

メンター制度はメンタル面のサポートがメインになるため、人間関係のしがらみなどを気にせずに相談ができるように、「他部署の先輩従業員」がサポート役に選ばれることが多いのが特徴です。一方、エルダー制度では業務の直接的な指導も目的としているため、同じ部署で同じ仕事をする先輩従業員がサポートをします。

また、ブラザー・シスター制度とは、同じ部署で年齢の近い先輩従業員が業務指導や人間関係のアドバイスなどをする制度のことです。基本的にはエルダー制度とほとんど同じような意味を持つ制度であり、企業によってはこちらの名称が用いられることもあります。

メンター制度やブラザー・シスター制度については、以下の記事でも詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説 』)

(参考:『ブラザー・シスター制度は早期離職防止に効果アリ?OJT・メンター制度との違いとは 』)

エルダー制度を導入することで期待できる効果


エルダー制度を導入することで、組織にはどのような効果がもたらされるのでしょうか。ここでは、4つのメリットについて解説します。

新入社員の早期離職を減らせる

もっとも重要なメリットは、新入社員の早期離職を予防することにあります。早期離職の要因にはさまざまなものがありますが、「人間関係の悩み」や「組織内での孤立」は主要な原因の一つです。

エルダー制度の導入により、相談しやすい先輩従業員との信頼関係が構築されれば、無用なストレスを感じることなく業務に専念しやすくなるでしょう。特に入社して間もない時期は、環境の変化がなにかと精神的負担につながりやすいため、エルダー制度で不安感や孤独感を解消する効果も大きいといえます。

離職率や離職のおもな原因については、以下の記事で詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『新卒の離職率はどのくらい?離職の主な理由と人材定着のためにできることを解説 』)

新入社員が業務や職場に適応しやすくなる

エルダー制度では、同じ部門の先輩従業員が、実際の業務を通してさまざまなサポートも行います。座学での研修を組み合わせることで、エルダー制度の機会が実践の場となるため、よりスムーズに業務でのスキルを習得できるのも重要なメリットです。

指導役のマネジメントスキルの向上が期待できる

エルダー制度は、新入社員だけでなく先輩従業員の育成という視点においても効果をもたらします。指導を行うエルダー側には、新入社員への実務の指導や進捗管理、タスク管理、メンタルケアといったさまざまな技量が求められます。

そのため、制度の実践を通して自然にマネジメントスキルが培われていくのがメリットです。エルダーの役割を通じて得られたスキルや経験は、将来的に管理職としての立場に就いたときに直接役立ちます。

また、先輩従業員も年齢から見れば若手にあたるため、エルダーを務めることで、自身の新たな適性に気がつく場合もあるでしょう。それまで誰かの部下や後輩であった従業員も、先輩としての振る舞いを見せるなかで、ビジネスにおける視野が大きく広がるはずです。

社内のコミュニケーションが活発化する

エルダー制度には、社内のコミュニケーションを活性化させるという側面もあります。先輩従業員との間で一対一の信頼関係を築くことで、組織や会社に対しても積極的な考えを持てるようになり、新入社員が自ら周囲とコミュニケーションを図れるようになるのです。

また、エルダー同士も他のエルダーと教育上の悩みを相談しあったり、効率のよい指導方法を共有したりしながら、自然とコミュニケーションを図るようになるケースが多いです。他部署のエルダーと意見交換ができる仕組みをつくれば、部署間でのコミュニケーションも活性化するため、社内全体の人間関係の向上も期待できるでしょう。

エルダー制度を導入するための5ステップ


エルダー制度を効果的に活用するためには、丁寧に下準備を行いながら導入を進めることが大切です。ここでは、エルダー制度を導入するために必要な手順を5つに分けて見ていきましょう。

早期離職の原因を調査する

エルダー制度のおもな目的は、従業員の早期離職を防ぐことにあります。そのため、まずは早期離職に至ったケースをしっかりと分析し、原因を特定する必要があります。

たとえば、早期離職を引き起こす原因が待遇や給与にある場合は、エルダー制度を導入しても期待するような効果は得られにくいです。直接的な要因となっている待遇や給与の問題を改善しなければ、早期離職を回避することはできないでしょう。

エルダー制度を導入する場合も、教育のための費用がかかってしまうことには変わりがないため、その分の費用を給与の向上や待遇の改善に回すのが先決です。このように、そもそもエルダー制度が効果を発揮するかどうかは状況によって異なるため、早期離職の原因が人間関係なのか、待遇面なのか、会社の方針なのかを丁寧に調査することが大切です。

その際は、よりリアルな声を聞くためにも、現場の従業員へのヒアリングやアンケートを行うとよいでしょう。

(参考:『早期離職が起こる理由とは|離職率の傾向や対策・改善事例を解説 』)

エルダー制度を導入する目的を明確にする

データの分析や従業員へのヒアリングで得られた結果は、エルダー制度の実施計画にそのまま活かすことができます。調査によって明らかになった現場の課題を踏まえて、エルダー制度を導入する目的を定めましょう。

目的が明確化されていれば、従業員からの理解を得やすくなり、制度の導入や運用をスムーズに行えます。

実施計画を立案する

続いて、具体的な実施計画を立案します。実施する教育内容や期間などの基本的な内容とともに、各新入社員の望ましい目標やトラブルが起きたときの相談窓口なども細かく決めていきましょう。

また、「面談は就業時間内に行う」「面談内容などの守秘義務を徹底する」といった運用にあたってのルールも明確化することが大切です。

適切な人材をエルダーに選ぶ

エルダー制度を効果的に運用するためには、エルダーの選定が重要なポイントとなります。エルダーの適性は、通常の業務遂行能力とは異なる側面もあるため、人柄やコミュニケーションのスタイルなども含めて総合的に判断しましょう。

基本的には、「周囲との信頼関係を構築できている」「気軽に相談に応じられる」「人当たりがよく不必要なプレッシャーを与えない」といった点を意識して選ぶのがポイントです。

実施後の効果測定を行う

エルダーを選定したら、新入社員の入社に合わせて実際に制度の運用をスタートします。初めて制度を導入する場合は、エルダー側も不慣れなため、相談できる体制や機会を企業側から設けることが大切です。

また、実施後はアンケートや面談を通じて、制度の効果を測定することも重要です。よかった点や改善すべき点を丁寧に洗い出し、次回の施策に活用することで、組織としての育成能力の向上が期待できます。

エルダー制度を上手に行うためのポイント


エルダー制度は、企業側の意識やサポート体制が成功を左右するといっても過言ではありません。ここでは、効果的に運用するための基本的なポイントを2つに分けて解説します。

全社的な取り組みとして実施する

エルダー制度を導入する際は、全社的な体制で取り組むことが大切です。なぜなら、新入社員の教育にあたってエルダーの負担が大きくなることを想定すると、周囲のサポートが重要になるためです。

少なくとも一緒に業務に取り組む同僚や関係者、上司にはきちんと理解を得なければなりません。また、新入社員の教育は、ときとしてチーム全体や部門全体の協力が必要になる場面もあります。

そのため、全社的に新入社員を育てるという意識を持つことが成功のカギとなります。

エルダーの教育を行う

エルダー制度を取り入れる場合、新入社員への指導がしっかりと行われるかどうかは、エルダー側の力量に左右される面が大きいといえます。新人教育は普段の業務とは異なるスキルが求められるため、誰でも準備なしで担えるというわけではありません。

そのため、事前にエルダーを対象とした研修を行い、後輩との関わり方やマネジメントスキルなどを身につけてもらうことが大切です。

エルダー制度の注意点


エルダー制度には、「エルダーの負荷が大きくなる」「実施の仕方によっては逆効果になってしまう」といったデメリットもあります。ここでは、デメリットを避けるためにおさえておきたい注意点を確認しておきましょう。

エルダーをサポートする体制を整える

エルダー制度はエルダー側の負担が大きくなるため、周りからのサポートが行いやすい環境を整えることが大切です。エルダーに任せきりにするのではなく、状況に応じて業務を分担したり、事務的な業務を分散させたりすることも必要となるでしょう。

また、エルダーが孤立してしまわないためにも、エルダー同士の交流会や相談会を設けるのも一つの方法です。新入社員との関わり方に悩みを抱えていても、同じ立場のエルダーと話し合うことで、精神的な負荷が軽減されるケースは少なくありません。

新入社員とエルダーの相性を考慮する

エルダー制度の効果は、新入社員とエルダーの相性によっても変わってきます。基本的には二人三脚で業務を進めていくこととなるため、あまりにも相性が悪ければ、双方にとってマイナスになってしまいます。

相性の良し悪しについては、性格診断ツールなども活用しながら、できるだけ丁寧に見極めることが大切です。そのうえで、実際に運用するなかで相性に恵まれないと判断される場合は、柔軟に変更できるような仕組みを整えておくとよいでしょう。

まとめ

人材不足が続く現代のビジネス環境では、新入社員の教育と定着率の向上が大きな課題となります。1人の新入社員に1人の先輩が就き、丁寧にサポートするエルダー制度は、早期離職を防ぐ有効な施策といえるでしょう。

新入社員にとっては、信頼できる近しい先輩が密接に関わってくれることで、安心して業務に向き合えるようになります。業務のつまずきや人間関係の悩みが発生しても、すぐに相談できる体制が整えられるのは大きなメリットです。

ただし、エルダー制度を実施するためには、全社的な理解と協力が必要不可欠であり、教育を担当するエルダーの研修も行う必要があります。まずは自社の現状を見直し、エルダー制度を導入すべきかどうかを慎重に検討してみましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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