【社労士監修】休日出勤手当の正しい計算方法と法律違反にならない運用方法

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

休日出勤手当とは、休日に出勤したり、業務を行ったりすることに対して支払われる賃金のことです。しかし、実は「休日」といっても「法定休日」と「法定外休日」があり、それぞれ扱いが異なります。これらを正しく理解して運用しなければ、気づかぬうちに法律違反になってしまう可能性もあります。そこで今回は、休日出勤手当が支払われる際の定義や正しい計算方法、労働基準法違反とならないために押さえておくべき運用ルールを解説します。

休日出勤とは?

休日出勤とは、「労働契約で休みと決められた日に仕事をすること」です。「休日」といっても実は2種類あります。「法定休日」と「法定外休日」です。労働基準法では、休日出勤とは法定休日に出勤して労働したことと定めています。

「法定休日」と「法定外休日」との違い

「法定休日」と「法定外休日」との違い

では「法定休日」と「法定外休日」はどのように違うのでしょうか?労働基準法では、“原則1週に1回、もしくは4週で4回、従業員に対して休日を付与しなければならない”と定めています。その条件に該当する休日が法定休日(法が定めた休日)です。特に何曜日を休日にしなければならないという決まりはありませんので、会社ごとに最適な曜日を法定休日として設定できます。

そして法定休日以外、つまり労働基準法では定められていないが、会社が独自に定めた休日のことを「法定外休日」といいます。たとえば、土日休みの会社で日曜日が法定休日だとすれば、土曜日は法定外休日です。なお、就業規則で法定休日を定めていない場合には、週の始めが日曜日のため、土曜日が法定休日となります。

会社が休日出勤を要請するには、協定の締結と届出が必要

従業員に休日出勤してもらうためには、書面による労使協定の締結が必要です。労働基準法第36条に規定されていることから、「36(サブロク)協定」とも言われています。36協定は使用者と労働者の代表との間で締結します。
(参照:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』)

就業規則に休日出勤手当に関する事項を記載

休日出勤手当をどのように算出するのか、就業規則に記載しておきましょう。きちんと明記しておくことで不要なトラブルを回避でき、従業員が安心して働ける環境づくりにつながります。

就業規則記載例

第●条 休日出勤手当
1. 所定休日に勤務することを命ぜられた従業員がその勤務に服した場合には、次の休日出勤手当を支給する。
基準賃金 × 所定休日に労働した時間数 × 1.25

2. 法定休日に勤務することを命ぜられた従業員がその勤務に服した場合には、次の休日出勤手当を支給する。
基準賃金 × 上程休日に労働した時間数 × 1.35

届出を提出して終わりではない!従業員への周知を忘れずに

企業と従業員の代表との間で36協定を締結したり、就業規則に規定したりするだけでは不十分です。従業員への周知が必要になります。オフィスの掲示板や作業場の見やすい場所に締結した内容についての掲示したり、従業員に就業規則を書面化し配布したりすることで、周知を図りましょう。36協定を結ばずに従業員に休日出勤してもらうことはもちろん違反ですが、労働基準監督署に提出した36協定を従業員へ周知しなかった場合も労働基準法第106条違反となり、30万円以下の罰金が科せられます。就業規則はいつでもすぐに確認できるように保管しておきましょう。

休日出勤手当を支払うべき2つのケース

では、具体的にどのようなケースにおいて、休日出勤手当を支払う必要があるのか見ていきましょう。

ケース①:法定休日に出勤

従業員が法定休日に出勤した場合には、休日出勤手当の支払いが必要になります。会社が曜日を法定休日と定めている場合には、日曜日に出勤した際に休日出勤手当が支給されます。

ケース②:法定休日に出勤し代休を取得

法定休日に出勤した従業員が、後に代休を取得した場合でも休日出勤手当は発生します。代休とは、休日出勤した特定の労働日を後から休日に変更して休みを取得することです。休日出勤したことには変わりませんので、代休を取ってもらったからといって相殺はされずません。

代休とは

代休とは

休日出勤手当が発生しない4つのケース

次に休日出勤手当が発生しないのはどのような場合か、具体的なケースを確認しましょう。

ケース①:法定外休日に出勤

たとえば、土日が休みの会社で日曜日が法定休日だった場合、土曜日は法定外休日に当たります。そのため、土曜日に出勤したとしても休日出勤手当は付きません。土曜日に出勤したことで週40時間を超えての残業となった場合に、残業手当が支給されます。休日出勤の認識にずれがあると、トラブルの原因にもなりますので、会社のルールをしっかりと周知しておくことが必要です。

ケース②:管理職の休日出勤

管理職には休日出勤手当は支給されません。残業手当と同じ扱いです。ただし、管理職といっても単に役職が付いているだけの場合には、他の従業員と同じく休日出勤手当が発生します。その基準は、労働基準法上の「管理監督者」に該当しているかどうかです。管理監督者とは、次の3つの項目を満たす必要があります。

①経営者と一体的な立場で仕事をしている
②出社や退社など勤務時間について厳格な制限を受けず、自由な裁量がある
③賃金面などで地位にふさわしい待遇がなされている

管理職の肩書だけ与え、実態が伴っていないにもかかわらず休日出勤手当を支払わないことは違法となります。

ケース③:振替休日の適用対象

振替休日の適用対象

振替休日とは、企業が事前に休日を労働日とし、別の労働日を休日にすることです。もともと休日ではあったものの、前もって労働日としているため、休日出勤とはならず休日出勤手当もつきません。代休とは異なりますので注意しましょう。また、休日を変更するためには、あらかじめ就業規則などで振替休日の制度や適用条件を定めておく必要があります。

ケース④:基本給の中に休日出勤手当が含まれている

休日出勤手当の賃金を基本給に含んで支給しているケースもあります。労働雇用契約書に休日出勤を想定した割増賃金を含む表記がある場合は、すでに給与に休日出勤手当の金額が含まれているため、別途休日出勤手当は支払われません。ただし、割増賃金として表記された額以上の休日出勤が発生した場合には、超過分の休日出勤手当を支払う必要があります。

休日出勤手当の計算方法とは?

では次に、実際に休日出勤手当を計算してみましょう。

STEP①:基礎時給を計算する

休日出勤手当を計算する前に、まずは1時間当たりの賃金を算出しましょう。1時間あたりの賃金のことを「基礎時給」と言います。給与形態が時給制であれば、そのまま時給を基礎時給に当てはめます。月給制の場合は、1時間当たりの賃金を次の計算式から算出します。

月給÷1年間における1か月平均所定労働時間

1年間における1カ月の平均所定労働時間は、1年365日から年間の所定休日日数を引いた1年間の所定労働日数を計算し、次の計算式に当てはめて算出しましょう。

(1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間)÷12

計算方法

なお、月給には次の手当は含めません。

● 家族手当・子女教育手当
● 通勤手当
● 別居手当・単身赴任手当
● 住宅手当
● 結婚手当、出産手当など臨時の手当
● 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ただし、月給に含めずに計算するのは、上記手当を「扶養人数や家賃額、実際の交通費の金額に応じて支給している場合」です。一律で固定額を支給している場合には、月給に含めて計算をします。ただし、家族手当や通勤手当、住宅手当など一律で固定額を支給している場合には、月給に含めて計算をします。また、扶養人数や家賃額、実際の交通費の金額に応じて支給している場合にも、月給には含めずに計算をします。

STEP②:割増率をかける

STEP①で算出した基礎時給に休日出勤の割増率を掛けることで、休日出勤した場合の時給が計算できます。

基礎時給×割増率

法定休日に出勤し深夜まで及ばなかった場合の割増率は35%以上に設定するよう定められています。基礎時給が2,000円であれば、2,000円×1.35=2,700円となり、2,700円が休日出勤時の時給です。

STEP③:出勤した日数・時間数をかける

STEP②で休日出勤したときの1時間当たりの時給が算出できましたので、実際に休日出勤した日数や時間数を掛けることで、休日出勤手当の合計金額を出します。

休日出勤1時間当たりの時給×休日出勤の合計時間

出勤した日数・時間数をかける

休日出勤手当に関する2つの疑問と対応方法

パートやアルバイト、派遣社員の場合は?

労働基準法は全ての労働者に適用されますので、フルタイム勤務の正社員だけでなくパートタイマーやアルバイト、派遣社員などいかなる雇用形態でも休日出勤手当は支払われます。割増率も35%以上と、変わりありません。

ただし、派遣社員に休日出勤をさせる場合には注意が必要です。派遣元が36協定を締結して、労働基準監督署に36協定届を提出していなければ、会社が派遣社員に対して休日出勤をお願いすることはできません。休日出勤の可能性があるのであれば、派遣契約時に36協定を結んでいるかどうか、また締結している場合には、休日労働の上限などを必ず確認しておきましょう。

年俸制、裁量労働制、フレックスタイム制の場合は?

また近年、働き方の多様化を受けて、年俸制や裁量労働制、フレックスタイム制などを採用している企業も増えています。これらのケースでは休日出勤手当はどのように取り扱われるのでしょうか?

年俸制の場合

年俸制の場合、年俸に休日出勤手当を含んでいるかどうかが判断基準となります。年俸の内訳として『基本給▲▲▲円、残業300時間/年間分▲▲▲円』と、一定時間分の残業手当を年俸に含んで支給するケースがあります。この場合、あくまで残業を想定した年俸であり、休日割増を想定してはいないため、別途支給が必要となります。『基本給▲▲▲円、残業300時間/年間分▲▲▲円、休日出勤▲▲時間/年間分▲▲▲円』と記載があれば、休日出勤分も年俸に含んでいることになりますので、この場合は別途休日出勤手当の支給は不要です。

裁量労働制の場合

次に裁量労働制の場合についてですが、裁量労働制は基本的に平日の労働日について、みなし労働とする制度です。休日出勤や深夜残業を想定した制度ではないため、休日出勤をお願いする場合には別途休日出勤手当の支給が必要となります。

フレックスタイム制の場合

またフレックスタイム制についても考え方は同じです。フレックスタイム制とは、そもそも平日の出退勤時間を個人の裁量により調整できる制度です。休日の労働については想定していないため、休日出勤をお願いする場合には、別途休日出勤手当の支給が必要となります。

このように、休日出勤手当の金額が基本給に含まれているのであれば、設定されている金額を超えない限り、休日出勤手当は付きません。フレックスタイム制や裁量労働制も同様です。みなし労働時間は労働日に対して判断されるものですので、休日出勤したらその分の休日出勤手当が支払われます。

休日出勤を従業員が行う際に、気を付けなければならないこと

平日の労働日だけで仕事が終わらず、やむを得ず従業員が休日出勤する場合もあるでしょう。その際に重要なのは「休日出勤を行う旨を上司が把握しておくこと」「休日出勤時の業務内容を明確にしておくこと」の2点です。「従業員が勝手に出勤したので、休日出勤手当は支給しません」ということはあり得ませんので、きちんと把握・理解し、管理することが大事になります。

休日出勤手当の請求があった場合の対応方法

従業員から休日出勤手当の請求があった場合には、まず該当の休日が休日出勤手当の支払い対象であるかどうか確認しなければなりません。確認した結果、法定外休日など休日出勤手当の支払い対象外の日であれば、休日出勤手当は不要となります。もし支払いに漏れがあったり、額に不足があったりした場合には、速やかに未払いとなっている割増賃金を支給しましょう。

休日出勤手当の未払いは、従業員の会社に対する不信感にもつながりかねないため、未払いのない状態に労務管理を整えていきましょう。

【まとめ】

平日だけで業務が終わらないときや繁忙期などには、どうしても従業員に休日出勤をお願いしなければならない場合があるかと思います。しかし、その休日出勤を取り巻く法律や計算方法はとても複雑です。ぜひ休日の定義を正しく理解し、就業規則に定めて周知しましょう。そうすることで、透明性のある運用が可能となり、いざという時に休日出勤をお願いしやすくなります。ぜひ制度を正しく理解し、きちんと運用していきましょう。

(制作協力/コピー&マーケティング株式会社、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

就業規則フォーマット一式(意見書、就業規則届、就業規則変更届)

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