【社労士監修】家族手当の支給条件・相場。廃止が進む理由と時代に合う新たな手当とは

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

これまで多くの企業で福利厚生として取り入れられてきた「家族手当」。近年、働き方や家族に関する考え方の多様化に伴って、家族手当の見直しや廃止を検討する企業が増えてきています。

ここではそもそも家族手当とはどのようなものなのかといった基本的な事項から、廃止を検討する企業が増えている理由まで、社会保険労務士による監修の下で事例を交えながら紹介していきます。また、家族手当に代わる新たな制度についても解説します。

家族手当とは?

家族手当とは、家族を扶養している従業員に対して、月例賃金を構成するものの一つとして支給するものです。扶養家族がいる社員の金銭的負担を軽減し、安心して働いてもらうことを目的としています。

家族手当は企業が独自に定めることができる賃金であるため、手当の有無や支給額、条件などは企業によって異なります。家族の中でも、扶養家族のみを対象にした「扶養手当」、配偶者のみを対象にした「配偶者手当」のように、対象に応じて運用している企業もあるようです。

家族手当の支給条件

家族手当はその性格上、支給条件を企業ごとに定めることができます。一般的にどのような条件を定めることが多いのか、具体例と併せて説明していきます。

対象とする家族の範囲を定める

通常家族手当の支給対象とされる家族は、従業員の「配偶者」「子ども」「両親」の全部またはいずれかです。その他にも、所得税法上の「扶養親族」に該当する「6親等内の血族及び3親等内の姻族」「都道府県知事から養育を委託された児童」「市町村長から養護を委託された老人」を対象とする企業もあるようです。

対象とする家族の収入上限を定める

対象とする家族の収入に応じて、支給の有無や金額を定めている企業もあります。収入の上限として「所得税の配偶者控除が受けられる103万円以下」や「社会保険の被扶養者として認められる130万円未満」を基準にしている企業が多いようです。企業によっては、収入に制限を設けていない場合や、従業員本人の収入よりも低ければ支給対象とするケースもあります。

従業員と対象とする家族が同居しているか

「対象となる家族が従業員と同居しているかどうか」を条件としている企業もあります。この場合は、配偶者や扶養親族であっても同居していなければ支給対象にはなりません。

従業員と対象とする家族が同一生計内で生活しているか

「対象となる家族が従業員の同一生計内で生活していること」を条件としている企業も多くあります。この場合、一人暮らしをしている子どもや、別居をしている両親でも、生活費を送る場合は「同一生計内」と判断されます。

対象とする家族に年齢制限を設ける

対象となる家族の年齢を限定している企業もあります。年齢の基準として「子どもは一般的に就職前の満22歳以下」「両親は一般的に定年後の満60歳以上」のように、就業中の年代を除くケースが多いようです。

家族手当の導入割合と平均的な支給額・相場感

家族手当はどれくらいの企業で導入されていて、平均的な支給額はどの程度なのでしょうか。相場を知り、自社と比較することで、家族手当や福利厚生に充てる金額を見直してみましょう。

家族手当の導入割合

人事院が公表している『平成30年職種別民間給与実態調査』によると、家族手当制度を導入している企業の割合は全体で77.9%。従業員数別に見ても7割以上が導入していることから、多くの企業が導入していることがわかります。

家族手当の支給状況

家族手当の支給状況
(参考:人事院『平成30年職種別民間給与実態調査』表12-アより一部抜粋)

家族手当の平均支給額・相場

厚生労働省が実施した『平成27年就労条件総合調査』では、従業員一人当たりの家族手当平均額は17,282円となっています。従業員数別に見ると、企業規模が大きくなるほど支給額も多い傾向にあるようです。

従業員1人あたりの家族手当平均額

従業員1人あたりの家族手当平均額
(参考:厚生労働省『平成27年就労条件総合調査』P5より一部抜粋)

また、東京都労働相談情報センター『平成28年版中小企業の賃金・退職金事情』によると、配偶者への支給相場はおおむね10,000円程度、子どもの相場は概ね5,000円程度ということがわかります。

一律支給 配偶者 第一子 第二子 第三子
調査産業計 11,612円 10,694円 5,432円 5,051円 5,025円
10~49人 11,612円 10,417円 5,526円 5,175円 5,020円
50~99人 10,455円 10,792円 5,148円 4,808円 4,980円
100~299人 15,000円 11,375円 5,604円 5,074円 5,112円

(参考:東京都労働相談情報センター『平成28年版中小企業の賃金・退職金事情』P22 図表2-13より一部抜粋)

こんな状況ではどうなる?

近年では、家族の構成や在り方、暮らし方が多様化していることから、従業員の家族が支給対象になるかどうかの判断に迷うケースもあるようです。ここでは事実婚、別居中、離婚した場合を例にご紹介します。

事実婚の場合

事実婚とは一般的に「婚姻届を提出していないものの、婚姻届を提出して法的に認められた夫婦と同等に扱われる関係」を指します。誰を「従業員の配偶者」とするかは、会社の賃金規程で「配偶者」をどう定義しているかで決まります。配偶者の定義を「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあるものを含む」のようにしている場合、他の支給条件を満たしていれば支給対象となります。

別居中の場合

従業員の家族が必ずしも同居をしているとは限りません。従業員と配偶者、親族が別居中の場合でも、休日は生活を共にしていたり、生活費、学資金、療養費等の送金が行われていたりする場合には「同一生計内で生活をしている」ものとされ、支給対象として取り扱われることが多いようです。ただし企業側が「同居していること」を条件にしている場合は対象外となります。

離婚した場合

多くの企業が「税法上の扶養家族」であることを家族手当の支給条件としています。そのため離婚した場合は、従業員の配偶者は家族手当の受給対象から外れることが一般的です。

子どもに関しては、同居して同一生計内で生活している場合は支給対象となります。一方で別居中の子どもに養育費を支払う場合は、実情を把握することが難しくなるため、支給対象から外れることが多いようです。支給対象になるか否かという許容の範囲は、企業の定めるルール次第だと言えるでしょう。

不正受給が起こるケース。防止策と起きた場合の対応は?

「配偶者の年収制限を超えた」「扶養親族でなくなった」「子どもの年齢が制限を越えた」など、家族手当の支給条件から外れた場合、従業員は速やかに会社へ報告をする義務があります。支給条件を満たしていないにもかかわらず、報告をせずに受給を続けている場合や、虚偽の申告をした場合は不正受給となります。ここでは不正受給の防止策と、不正受給が起こった場合の対応をご紹介します。

事前にできる不正受給の防止策

扶養控除に該当するとして年末調整を受けていても、翌年以降役所より所得オーバーを指摘されることもあります。このことを事前に従業員へ伝えておくことで不正受給防止につながります。また「家族手当の申請内容に変更がないか」、定期的に確認を行いましょう。

不正受給が起こった場合の対応

不正受給の有無のみならず、不正受給の内容、時期、不正受給額などの事実確認を行う必要があります。家族手当の過払いが発覚した場合は「不当利得の返還請求権(民法167条、703条)」を有することになり、企業から従業員へ返還請求を10年までさかのぼって行うことができます。

今廃止する企業が増えている理由

人事院が公表している『平成30年職種別民間給与実態調査』では、77.9%の企業が家族手当を導入している一方、そのうちの14.2%が配偶者に対する家族手当の廃止や見直しを検討しています。

配偶者に対する家族手当の見直し予定の状況

配偶者に対する家族手当の見直し予定の状況

家族手当の見直しの内容

※内訳は、見直す予定または見直すことについて検討中の事業所の従業員数の合計を100とした割合

家族手当の見直しの内容
(参考:人事院『平成30年職種別民間給与実態調査』表12-ウより一部抜粋)

なぜ家族手当の見直しや廃止を検討する企業が増えているのか、その理由を解説します。

理由①:共働き世帯の増加

男性の単独収入のみで生計を維持する世帯が減少し、夫婦が共働きで収入を得るダブルインカム世帯が主流になってきています。女性が結婚や出産後も仕事を続けることで、家族手当の支給条件となる年収を上回り、結果として支給対象となる配偶者が減っていると考えられます。

理由②:配偶者控除の改正による影響

配偶者控除の改正も理由の一つです。配偶者控除とは所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられるもの。近年では年収が扶養の条件を超える女性が増加してきたため、収入に制限を設けて配偶者に家族手当を支給していくことが困難になってきています。

理由③:給与の成果主義

家族手当は仕事の能力や会社の業績に関係なく一定額が支給される制度で、仕事の成果とは直接関係ありません。生活のスタイルが多種多様になっている今、「不公平ではないか」という声が上がるようになってきたことや、従業員の能力や成果に対して給与が決定されるようになってきたことも、理由の一つと考えられています。

不利益変更に注意。家族手当を縮小・廃止する際の流れ

不利益変更とは、従業員に不利益になる形で企業側が一方的に就業規則を変更することです。家族手当の減額や廃止は就業規則の不利益変更に該当するため、従業員全員の合意がない限り原則として認められません。ここでは、家族手当の廃止・減額を行う際の流れについて説明します。

①:代替案を考える

家族手当を見直す場合は「支給対象者の基本給に吸収する」「全社員の基本給等の原資にする」「他の福利厚生制度で代替する」などの対応が基本となります。現在家族手当を受給しており、廃止によって不利益を受ける従業員には、段階的に支給額を減額していくなどの、経過措置を取ることも検討すると良いでしょう。

②:従業員に十分なヒアリングと説明を行う

家族手当の減額や廃止を行う際には、対象となる従業員だけでなく、全ての従業員に納得してもらうための合理的な理由が必要です。これまで家族手当の支給を受けていた従業員からは、生活費への影響を懸念する声も出てくる可能性があります。手当の見直しを行う目的や経過措置、代替案について十分な説明を行いましょう。従業員の意見も丁寧にヒアリングしながら、従業員の理解と納得を得ることが大切です。

③:労働基準監督署に届出を行う

見直し後の規定は、従業員の過半数代表者に変更後の内容を確認してもらい、意見聴取を行いましょう。最後に「就業規則変更届」「従業員の過半数代表者からの意見書」「変更後の就業規則」の3つを準備して管轄の労働基準監督署に届出を行います。

家族手当の縮小・見直し(廃止)を行った企業の事例

家族手当を縮小・廃止した企業では、子どもの教育費や親の介護などに焦点を合わせた制度変更を行うことが多いようです。例として「配偶者への家族手当の減額分を子どもに対する手当の増額に充てる」「数年の経過措置を取った上で、段階的に配偶者を対象から除外・再配分する」などが挙げられます。ここでは、実際に家族手当の縮小・廃止を行った企業がどのように取り組んだのかという事例をご紹介します。

家族手当を縮小した企業例

事例①:K社(製造業、従業者規模10,000人以上)

従業員への育児支援と、手当や制度をより公平で納得性のあるものへ改革をすることを目的とし、配偶者への手当を減額して子どもへの手当を増額した企業の例です。当初は廃止を目指していたようですが、生活への影響を懸念した従業員側の意見に配慮し、減額することで落ち着いたようです。2年間にわたる労使交渉を行い、1年間の経過措置を設けた上で合意に至りました。

事例②:L社(製造業、従業者規模10,000人以上)

この企業では、実力主義・成果主義への転換を目指して人事制度全体の見直しを行った際、属人給の廃止と子育て支援を充実させる観点から、家族手当の縮小を決めました。配偶者に厚く支給していた金額を減額し、配偶者か否かの区別なく扶養家族1人当たり月11,000円を支給することで原資の総額を維持。1年半の交渉を行い、2年間の経過措置を設定した上で合意に至ったようです。
(参考:厚生労働省『配偶者を対象とした手当に関する見直しが実施・検討された事例等』)

家族手当の見直し(廃止)をした企業例

事例③:大王製紙株式会社

大王製紙株式会社は、子育て世代の社員支援を目的に、本年4月より現行の家族手当を見直し、配偶者手当を廃止する一方、子女手当を増額および支給期間を延長した「子女教育手当」を新設することとしました。

(引用:日本経済新聞『大王製紙、家族手当を見直し「子女教育手当」を新設』)

大王製紙株式会社は2017年4月より家族手当の見直しを行い、配偶者への手当を廃止する方針と、子女手当の増額と支給期間を延長した「子女教育手当」の新設を発表しました。

家族手当に代わる新たな手当や制度

共働き世帯の増加などによって家族手当の意義自体が薄まっている中、家族手当を廃止または縮小して新しい手当を取り入れる企業が増えてきています。家族手当に代わる新たな手当や制度、プライベートの充実などを目的とした福利厚生をご紹介します。

子女教育手当

子女教育手当は従業員の子どもに対して支給される手当です。18歳到達年度末(高校卒業)までの被扶養者であることを条件としている企業が多いようです。
(参考:外務省『子女教育手当について』)

基礎能力手当

基礎能力手当は従業員全員を対象とした手当で、従業員の能力や実力を公平に評価するために取り入れられた制度です。「PC・IT能力手当」「対人・態度能力手当」「英語力手当」の3つの種類があるようです。
(参考:厚生労働省『配偶者を対象とした手当に関する見直しが実施・検討された事例等』)

リフレッシュ休暇制度

リフレッシュ休暇とは、忙しい従業員に向けて文字通り“リフレッシュ”してもらうために、企業が導入している休暇制度のことです。有給休暇とは別に取得することができるため、従業員のワークライフバランスやモチベーションの向上、メンタルヘルス対策や離職防止対策など、ポジティブな効果が期待できます。
(参考:『リフレッシュ休暇とは―付与日数や条件は?企業義務なのか?有給休暇との違いについて』)

リカレント教育制度

リカレント教育とは、生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返す教育制度です。働くことを前提に、仕事に活かせる知識を学ぶことを目的としています。年齢制限はなく、全ての従業員が対象となることがポイントです。仕事に直結した知識を身に付け、従業員の能力を伸ばすことで新たなキャリアへの挑戦につながります。業務効率化や生産性の向上、イノベーションの創出など、企業にとっても大きなメリットがあります。リカレント教育を受ける上で「教育訓練給付金」や「人材開発支援助成金」の活用を検討してみることもできるでしょう。
(参考:厚生労働省『教育訓練給付制度』)
(参考:『【社労士監修】人材開発支援助成金とは?受給条件や申請方法を一気に理解』)

【まとめ】

これまで多くの企業が取り入れてきた家族手当は、女性の社会進出や従業員のライフスタイルの多様化などを受け、処遇の公平性、納得性を重視した制度へと見直しを進める動きが広がっています。制度変更を行う際は、従業員の不利益にならないよう、慎重に検討・準備をすることが重要です。家族手当に代わる新たな制度として、従業員個々の能力や成果を評価する制度や仕組みの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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