採用の最終判断は社員に委ねる-忖度ゼロの選考を実現した『輪を描く組織』とは

株式会社フライヤー

代表取締役CEO 大賀 康史

プロフィール

この人を採用して、もし思うように活躍してくれなかったら-。そんな不安を少しでも感じたとき、「でも、光るものがあるから」と思い切って採用できるケースは、決して多くはないでしょう。ただその結果、無難なタイプの人ばかりが入社し、組織にイノベーションが起こらなくなるというジレンマに頭を悩ませるのもまた、人事・採用担当者なのです。

組織の理想的な形の1つとして「輪を描く組織」を提唱し、自身が立ち上げた株式会社フライヤーで独自の組織運営・採用手法を推し進める大賀 康史さん。社長である大賀さんは自ら1次面接を行い、2次面接以降の選考を社員の皆さんに任せていると言います。そうすることで、リスクのない人が残っていく採用ではなく、組織が本当に求めている長所が備わった人に出会う採用ができているそうです。

経営コンサルタント出身の大賀さんが、自身の会社でつくり上げた「輪を描く組織」とは。そして、独特な採用活動の裏には、どのような狙いがあるのでしょうか。

会社の理念を押し付けない。一人一人が自律的に動く組織とは

大賀さんが提唱されている、「輪を描く組織」とは、どのようなものか教えていただけますか?

会社の理念を押し付けない。1人1人が自律的に動く組織とは

大賀氏:前提として、理想的な組織の形は、業種や創業者の想い、ステークホルダーなどの要素によって変化します。弊社フライヤーにとっての理想は、「輪を描く組織」。どのような組織かというと、階層型の指揮命令系統を、あえて持たないことが一例として挙げられます。一人一人がオーナーシップを持って自律的に動きつつ、全体である会社を運営していくというコンセプトです。

それぞれのメンバーは、代表である私も含めて大きな輪の中の一要素。自律的に動く上で必要な情報があれば、その都度メンバー同士で直接コミュニケーションを取って、プロジェクトを進めていく形です。

従来のピラミッド的構造とは、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

大賀氏:エンジニアチームを例に挙げてお話しします。サーバー周りに詳しいのはこの人、アプリやフロントに強いのはこの人、プロジェクトの全容がわかる人はこの人…と、それぞれに特性がありますよね。たとえばアプリを改修したいときは、上司などを介さず、直接アプリの人に相談する。何か決まったルールや順序で物事を動かすのではなくて、ケースバイケースで情報を集め、プロジェクトを進めていきます。コミュニケーションの経路が網の目のように張り巡らされているイメージですね。

コミュニケーションの経路が網の目のように張り巡らされている

(フライヤー社より提供)

もちろん、全社に大きなインパクトを及ぼすような内容であれば、私に直接相談が来ることもあります。ただ、日常の業務についてはみんなが自律的に判断、協力して進めることが理想ですね。

他部門に話をするときに、「いったん上司を通して整理する」ということもなさそうですね。

大賀氏:弊社ではほとんどありません。人を介してしまうと、その分時間がかかりますよね。この人とコミュニケーションを取るのに1週間とか、その上司が意思決定するのにさらに1週間とか、そういうタイムラグがもったいない。一人一人が意思を持って動いているからこそ、交わされる相談も「ここをこういう風に改修したいんです」といった具体的なものになります。そしてもう1つ意識していることが、リアクションのスピード。いわゆる“即レス”が大事だとみんなにも伝えていますし、私自身も、机に向かっているときに来たメッセージならできるだけ1分以内に返信できるよう目指しています。

1分以内…!それはすごい早さですね。しかし、即レスって、現場まで浸透させられるものなのでしょうか。

大賀氏:返信のスピード感って、組織の健康バロメーターの1つだと思うんです。即レスできない裏には、「何と返そうかな」「誰かに相談しようかな」「このチームとは連携しにくいんだよな」など、「いろんな人に配慮しないと返事ができない」という状態、言わば根回しする状態が隠れています。内容によっては、時間をかけることでより良い判断ができるようになるケースもありますが、普段から即レスを心掛けることは、組織をフラットで健全に保つための1つの大事な要素かなと。

上司や他者への調整を挟む頻度を減らして、できるだけ自分の意思で連絡を返す。それが組織のダイナミズムと言いますか、組織がイキイキとしている状態を保つポイントだと思います。

組織がイキイキ

社員がそれぞれに主体性を持ちつつ、会社としては1つのことをなしていく。それには、ビジョン・ミッションの強力な浸透が必要に思えます。

大賀氏:各メンバーが判断したことを、できるだけ尊重しているだけですよ。むしろ私は、「出世と成功が人生の目的」とか、「会社の信条が社員の信条になる」みたいな考え方はあまり好きじゃないんです。成功や幸せって、人によって違うはず。会社にいる間はそれで良いかもしれないけど、実際のところ一人一人の人生にとって仕事は一部分だし、会社に所属している期間も決して短くはありませんが人生の一局面に過ぎない。その会社での成功に全てを費やすという発想や、それによって画一的に人をマネジメントするのは、最適じゃないと思っています。

会社が示す1つの価値観を、個人の私生活にまで浸透させるのも違う。弊社なら「ヒラメキ溢れる世界を作る」というミッションを掲げていて、みんなそれに共感してくれているとは思っています。でも、一人一人の人生の目的と必ずしもイコールではない。もちろん、一部は重なるでしょう。フライヤーで働くことで満たされる部分があるから、一緒にチームとしてやっているわけですけど、それを「あなたはヒラメキ溢れる世界を作りたいんじゃないの?」とプレッシャーを掛けるのはちょっと違うかなと。

会社のビジョン・ミッションが、メンバー個人のそれらと100%一致するわけではない。だからこそ、押し付けるものではないと。

大賀氏:「会社は私の人生です」なんて、無理があると思うんですよ。あくまで自分の人生は自分の人生。だからあまり画一的な、たとえば社訓を無理に刷り込むようなことはしない。会社のビジョン・ミッションももちろん大切だと思っていてもらいたいですが、一人一人の人生を大事にするというのも「輪を描く組織」にとって必要なことだと思います。

社長が1次面接、現場が2次面接以降を担当。“思い切りのいい採用”が実現

輪を描く組織では、どのような基準で採用を決められるのでしょうか?

大賀氏:カルチャーフィットが最優先、次いでポテンシャル。スキルは最後ですね。というのも、一人一人が自律的に動くので、従来のピラミッド型組織などに比べて、一人が会社全体に与えるインパクトが大きいわけです。20人の会社であれば、1人を採用することで、会社のパフォーマンスは5%くらい変わる。10人の会社だったら10%、5人の会社だったら20%。そこまで会社の運命が変わる意思決定、他にないんですよ。ですから輪を描く組織では、誰を採用するかということが極めて重要になってきます。

カルチャーに合わない人を採用してしまうと、その人がしっかり機能しないだけならまだしも、周りにも悪影響を与えてしまうことがある。たとえばある1人のマネージャーを採って、そのマネージャーに付く人が次々辞めてしまうなんてことが、一般的な組織だと時々起こりますよね。10人の組織で3人が機能しなくなったら、戦力は30%減です。採用候補者の方が会社にとってありがたい存在になるかどうかは、カルチャーフィットで明確に分かれます。

社長が一次面接、現場が二次面接以降を担当。“思い切りのいい採用”が実現

次に重要視しているのがポテンシャルです。今の世の中の事業環境で、5年も10年も同じことだけをしている人って、ほとんどいませんよね。加速する世の中の変化に合わせて、業務内容もどんどん変わっている。その最たるものがベンチャー・スタートアップの世界で、極端に言えば一週間後には違う仕事をしているかもしれない。今までと違うプロジェクトに入るとか、違うミッションを担うとか、場合によってはチームや部署が変わるといったことも頻繁に起こりますから、単一のスキルでずっと活躍できる保証はないんです。

そう考えたときに大事なのは、新しいことを始めたときにできるだけ短い期間でその領域の専門家のように振る舞えること。具体的には、すぐに勘所(かんどころ)を理解して、成果が出るようにプロジェクトを導いていく。この能力が高ければすぐ戦力になるので、どんな仕事でも安心して任せられます。だからポテンシャルは重要。もちろん既存のスキルが必要な局面もありますから、3番目にスキルを入れていますが、カルチャーフィットし、ポテンシャルを感じれば選考を進めます。

面接のプロセスで言うと、弊社は私が1次面接をし、2次面接以降はメンバーが担当します。

ということは、社員より先に社長が1次面接をされるんですね。

社員より先に社長が一次面接

大賀氏:はい、先ほどお話ししたカルチャーフィットとポテンシャルを、できるだけ早いタイミングで見極めたいんです。また、会社全体を見ている自分から自社の紹介をすることで、より弊社への理解を深めてもらえるんじゃないかなと。

でも、はじめから狙いがあってこの形を取っていたわけではないんです。採用を始めたころは3人くらいの小さい会社でしたから、自然と面接も自分が行っていただけ。でも、これがすごく良いなと思ったんです。そもそも採用って、非常に大事な意思決定の場面だし、面接を通してさまざまな人の人生やキャリアを知ることは、自分がこれから先どんな人と一緒に仕事をしていくべきかという、“人を見る目”を養う良い訓練になりそうだと思ったのです。つまり、半分は自分のためです。

もう半分、組織に対して良い効果を及ぼしていると思うのは、その後の面接を担当する人に自由度が生まれること。選考を経るにつれて面接官の役職を上げていく形だと、問題を起こさなそうな人が残っていくんですよね。誰からも評判が悪くなさそうな、角のない丸い人。でも、組織には特定の分野に特化した人や、少しとっつきにくいけれど仕事ではすごく活躍する人なども必要です。そういう人を採用するのは時に思い切りが必要ですが、先に私が通していることで安心して判断できるようになります。

全員に好印象を与える必要はない。独自性のある事業、カルチャーを発信

どうしても、駄目なところに注目する選考になりがちですが、「輪を描く組織」の採用では、良い所を見て判断できるんですね。社長は一次面接で、どのようなやりとりを通じてカルチャーフィットやポテンシャルを判断していますか?

大賀氏:その人のキャリアや、これまでどんなことをされてきたかという資料を事前にいただくんですが、「どうしてその学校に進んだのか」「新卒入社の会社はどのように選んだのか」「どういう背景・願いで転職を志しているのか」…そういう人生の節目節目で意識していた価値観を聞くと、その人が本当に大切にしていること、人生で重要視していることがわかってきます。

そして、相手にもできるだけ情報を提供したい。もしうちの会社とフィットしなかったら、そのまま面接の中で「こういう会社に行ったらいいんじゃないか」とか「そういう願いならこっちに行った方がいいんじゃないか」ということまで伝えています。その人にとっての最適な環境がフライヤーではないと思ったら、どんなにスキルやポテンシャルがあっても、無理やり誘うことはしません。

当然、大賀さんがOKでも、現場の方の面接で落ちてしまうこともあるわけですよね?

大賀氏:はい。むしろ「社長が通したから必ず通さなきゃいけない」ということはありません。見ているポイントが違いますから。たとえばエンジニアなら、私が全体的な視野で判断したとしても、現場の人は「求めている領域で伸びるかどうか」を見ます。その視点は正しいと思いますし、そのようなことがエンジニアに限らず全ての領域で起こります。ただ、会社によってベストな採用活動の形は違いますから、弊社のやり方がどの会社にとっても正しい、というわけではありません。

現場の方の面接で落ちてしまう

「会社によってベストな採用活動の形は違う」。この考えがあるからこそ社長が一次面接を行うような、ある種型破りですが本質的な選考ができているのではないかと思います。今後、各企業はどのようにして、自社にとって最適な人材と出会っていけば良いのでしょうか?

大賀氏:弊社は、誰にでも合う組織ではありません。でも、誰かには合う組織だと思っています。全体受けする会社にする必要はないんです。「誰でもいいから優秀な人を採用したい」ではなく、大切なのは、会社にフィットする人が自然に集まるように特徴ある事業・カルチャー・サービスを展開すること。まずは私たち採用する側が独自性のある会社の形をつくって、発信していくべきではないでしょうか。

誰かには合う組織

【取材後記】

フライヤー社における大賀さんは、社長と言えども「絶対的な存在ではない」そうです。自分と異なる意見を尊重し、「意図が伝わっていないな」と思ったときにのみ、もう一度説明するやりとりをし、互いの認識をより近づけていくとのこと。トップダウンでもボトムアップでもない、真にフラットな相互コミュニケーションを大切にしていることが伝わってきました。

企業によって最適な組織の在り方や採用の仕方は違います。個人が仕事に求めることが多様化しているいま、企業側も“右に倣え”ではなく“自社にとっての最適な形”を模索していく必要がありそうです。

(取材・文/檜垣 優香、撮影/黒羽 政士、編集/田中 一成(プレスラボ)・齋藤 裕美子)