20代・30代社員の「残業はしたくない」に隠された本音とは?【コラム】

まんまるキャリア

代表 佐藤 やすよ

プロフィール

労働市場において、「残業削減」や「ワークライフバランス」というキーワードが目立つようになってきた昨今、就職や転職の条件に「残業が少ないこと」を挙げる20代・30代が増えています。

逆に、管理職・マネジメントをしている社員からは「仕事なんだからやらなくては」「若いうちに苦労しておくべきだ」という考えも聞こえ、仕事に対する姿勢の違いが顕著になっているようです。

このコラムをご覧いただいている経営者・管理職や、人事・採用担当者の方は、近年の若手社員に対してどのような印象をお持ちでしょうか。「仕事とプライベートを、きっちり分けたがる」、「仕事を選り好みして、やる気が感じられない」など、距離感のつかみ方に悩む方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、私が若手社員から相談を受けてきた中で感じる、20代・30代社員の「残業はしたくない」に隠された本音をお伝えします。

残業削減がさけばれるようになった背景

1960年代~70年代半ばにかけての高度経済成長期、男性は会社で働き、女性は家庭で家事・育児を担うという構造が主流だったため、男性が会社で長い時間を過ごすことは、「家族を経済的に支える大黒柱として当然」と考える方も多かったのではないでしょうか。

その後、1980年代~90年代にかけて、過労死や長時間労働が問題視され始めました。労働時間が長いことにより、心身の健康を害している実情が明るみになってきたのです。この頃から政府は、「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」を制定するなど、取り組みを開始しました。しかし、今度は見た目上は労働時間を短縮できていても、水面下では働き続けているサービス残業という課題も浮上してきました。

近年では、労働時間管理や残業代の支払いについても是正されるようになりましたが、これらの経緯を経験してきた40代以上の社員と、幼いころから長時間労働に対しあまりよくないイメージを刷り込まれてきた20代・30代社員の間には、働く意識に差が生じているのは事実です。

20代・30代社員が「残業はしたくない」と感じる場面3つ

私が、20代・30代の方から話を聴く中でも、「残業は少ない方がよい」という声は多く聞かれますが、よくよく聞いてみると「なにがなんでも残業したくない」というわけではないことも分かっています。では、具体的にどのような場面で「残業はしたくない」と感じてしまうのか、よくある3つの場面に分けてご紹介します。

1:やりたくない仕事で残業したくない

自身が希望していない、不本意な仕事をアサインされたことに不満を持つ社員がいます。「なぜ自分がこの仕事をやらなくてはならないのか」「雑用なんて私の仕事じゃないのに」「この仕事をしていても面白くない」といった不満です。やりたいことや将来に向けたプランが明確な社員ほど、これらの仕事をするための残業を嫌う傾向にあります。逆にいうと、社員の将来に向けたプランにつながる仕事であれば、ある程度時間を割くことも許容しているようです。

この問題を避けるためには、事業としてやるべきことと、社員の意向が一致しているのが必要条件。近道なのは、会社と同じ方向を向いている人材を採用することです。

とはいえ、経営者・管理職の立場からすると、すべての社員にそれぞれが希望する仕事をアサインすることは、難しいのも事実かと思います。その場合は、社員へ仕事をアサインする際に、「この仕事をすることで、あなたの将来にどんな良いことがあるのか(仕事の意味付け)」の明示を徹底することをおすすめします。

2:居心地が悪い職場環境では残業したくない

20代・30代社員は、一緒に働く人を重視する傾向にあります。仕事とはいえ、良好な人間関係を築き、快適なコミュニケーションができることを望んでいます。特に、先輩社員や上司に対しては、目標にしたい人材かどうか、という視点でみているようです。逆に、威圧的な態度の同僚や上司がいたり、理不尽な対応をされたりすると働く意欲を失ってしまいます。居心地の悪い場所で、長い時間を過ごすことは避けたい、と感じる若手社員は多いようです。

企業という組織では、「上司は選べない」「メンバーの相性まで考えていられない」という事情もあるかもしれません。それでも、社員一人一人が、相手の立場に立ったコミュニケーションを心がけ、精神的に余裕をもって仕事にあたれる環境が整っていることは、職場全体が心地よい雰囲気に包まれることにつながります。

マネジメントにあたる立場の方から積極的に仕事中の雑談を増やすことや、良好な人間関係を築ける人材かどうかを採用時の判断材料にすることも一案です。

3:評価されない仕事で残業したくない

20代・30代の社員の中には、終身雇用制の崩壊を目の前にして、どこでも通用するスキルを習得することを意識している人がいます。仕事を通じて自身の能力を向上できるかどうかを重視していることから、目の前の仕事が社内外でどのような評価を受けるのかを気にしています。究極的には、自身の成長に繋がらない仕事をする時間はムダ、と感じているともいえます。逆にいうと、明確な成果や評価が約束されているのであれば、長時間労働を要する仕事であっても意欲的に取り組む可能性もあります。

経営者・管理職の立場では、社員のどのような行動・成果が評価に繋がるのかを、指針として共有する必要があります。誰しもが同じ方向にむかって行動できるように伝え続けることは、会社の成果にも繋がります。

経営者・管理職の立場に求められる、働く意識変革への対処

このように若手社員の働く意識が変革してきたことについて、経営者・管理職の立場からできる対処にはどのようなものがあるでしょうか。

そもそも残業を前提としない

社員一人一人の能力や役割によって、業務時間内でこなせる仕事量は決まっています。その範囲を大幅に超えた仕事をアサインされただけで、社員のモチベーションは急激に低下してしまいます。適正な量の仕事をアサインし、より効率的にこなした社員を評価すること。そして、業務時間内により多くの成果を上げた社員を評価する構造が確立できれば、20代・30代社員は、意欲的に仕事に取り組むことができます。

社員との信頼関係を構築する

信頼関係を構築するには、とにかく社員の話をじっくり聴いてください。社員がやりたいことは何か?いま何に困っているのか?など、社員が置かれている状況を理解することが、いざというときに頼られる経営者・管理職になるために重要な要素です。企業の規模が大きくなると、社長自ら、社員全員の話を聴くことは難しいかもしれません。最低限、直属の上司とメンバー間だけでも、積極的に取り組んでいただければと思います。

メンバーとの信頼関係が築けていれば、イレギュラーな対応により残業が必要になった局面でも、「必要な残業」として、全力を尽くしてくれるでしょう。

職場の人間関係を良好にする

こちらは、上司とメンバー間というよりは、同じ仕事にかかわる社員同士に注目した対処法です。SNSや動画などのデジタルコミュニケーションが普及した現代において、会社という場所が社員にとって意味のある場所になるためには、社員同士が直接コミュニケーションをとることの価値を考える必要があります。社員のバックグラウンドやプライベートな一面も、自然に話せるような人間関係が理想です。プライバシーへの配慮を求められる時代ですので、なかなか踏み込むのも憚られる気持ちがあるかもしれません。まずは、社員同士のコミュニケーション活性施策を会社として推進していくことから始めてみましょう。

まとめ

若手社員の「残業はしたくない」に隠された本音を、様々な観点からお伝えしてきましたが、いかがでしたか。20代・30代社員は、決して、仕事に対して無気力というわけではなく、自分の働く意義に価値を見出す世代だと感じています。

職場の雰囲気は一朝一夕に変わるものではありません。新たに20代・30代社員と共に会社の文化を作り上げていくつもりで、採用活動や入社後のオンボーディング、長期的なコミュニケーション活性など、粘り強く取り組むことで、業務時間の長短に囚われずに、活き活きと仕事ができる環境を整えられるのではないでしょうか。

編集/d’s JOURNAL編集部