【弁護士監修】2020年最新版・高年齢者雇用安定法、いつまでに何を対応すべき?

ダーウィン法律事務所 東京弁護士会所属

弁護士 岡本 裕明(おかもと ひろあき)【監修】

プロフィール

高齢者の雇用確保を主な目的として制定された、「高年齢者雇用安定法」。少子高齢化の急速な進行を受け、2012年に法改正が行われました。この改正の目的は、高齢者が年金の受給開始年齢まで働き続けられるようにすること。これを受けて、企業は高齢者雇用制度の見直しを迫られています。

今回は、高年齢者雇用安定法の内容や企業に求められる3つの対応、2020年に国会に提出された改正案の内容などをわかりやすくご紹介します。

2012年に改正された現行の「高年齢者雇用安定法」とは?

「高年齢者雇用安定法」とは、「高齢者の雇用の確保」「再就職の促進などによる高齢者の職業の安定や福祉の増進」「経済・社会発展への寄与」を目的に、1971年に制定された法律のこと。正式には、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」と呼ばれています。2012年には、「高齢者が年金の受給開始年齢まで本人の意欲・能力に応じて働き続けられるようにすること」を目的に、法改正が行われました。

2012年法改正のポイント

「高年齢者雇用安定法」の2012年法改正のポイントは、以下の4点です。

改正内容 補足
①:継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止 継続雇用制度の対象となる高齢者について、事業主が労使協定で定めた基準により限定できる仕組みを廃止し、希望者全員を制度の対象化
②:継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大 継続雇用制度の対象となる高齢者を雇用する企業の範囲を、グループ企業まで拡大する仕組みの制定
③:義務違反の企業に対する公表規定の導入 高年齢者雇用確保措置義務に関する、勧告に従わなかった企業名を公表する規定の新設
④:高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針の策定 事業主が対応すべき、高年齢者雇用確保措置の実施・運用に関する指針の根拠の制定

現行の「高年齢者雇用安定法」の対象となる企業

「高齢者雇用安定法」には、対象となる事業主を限定する条文は記載されていません。そのため、全ての企業が「高齢者雇用安定法」の対象となります。対応が必要となるのは、現在(2020年3月現在)「定年を65歳未満にしている」企業。定年を65歳未満に定めている場合、「当分の間60歳以上の労働者が生じない企業であっても」対応しておく必要があるとされています。
※船員や坑内業務は別途の規定がありますので、ご注意ください。
(参考:厚生労働省『高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)』)

現行の「高年齢者雇用安定法」において企業に求められる対応

現行の「高年齢者雇用安定法」第9条では、「定年を65歳未満」としている企業が取るべき措置について、以下のように定めています。

高年齢者雇用安定法第9条

定年(65歳未満のものに限る)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(「高年齢者雇用確保措置」)のいずれかを講じなければならない。

1.当該定年の引上げ(「定年の引上げ」
2.継続雇用制度(雇用している高年齢者が希望する際、当該高年齢者を定年後も引き続いて雇用する制度)の導入(「継続雇用制度の導入」
3.当該定年の定めの廃止(「定年の廃止」

企業に求められるのは、「①定年の引上げ」「②継続雇用制度の導入」「③定年の廃止」のいずれか1つの対応です。
なお、厚生労働省の調査によると、高齢者雇用確保措置を行っている企業の8割弱が、「継続雇用制度の導入」という措置を選択しているようです。
(参考:厚生労働省『高年齢者の雇用状況』)

高年齢者の雇用状況
(参考:厚生労働省『令和元年「高齢者の雇用状況」集計結果』 P4(3)雇用確保措置の内訳より)
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』)

対応方法①:定年の引上げ

「定年の引上げ」とは、「60歳から65歳へ」といったように定年となる年齢を引き延ばすこと。定年を65歳未満にしている企業に対し、「高年齢者雇用確保措置」の1つとして「65歳までの定年の引上げ」をすることが求められています。定年の引上げをする際の対応の流れや注意点などをご紹介します。

対応の流れ

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が発表している「65歳超雇用推進マニュアル」によると、定年延長に向けた対応は「①現状把握~基本方針決定段階」「②制度検討・設計、具体的検討・決定段階」「③実施段階」「④見直し・修正段階」という4つの段階にわけられます。各段階でやるべきことについて、表にまとめました。

段階 具体的な対応
①:現状把握~基本方針決定段階 ●情報収集(「法律・制度」「国などの支援策」「企業事例」など)
●自社の現状把握(定年年齢や継続雇用の要件などの「制度面」、高齢社員を戦力化し、仕組みをつくる企業風土や働きやすい職場環境などの「ソフト面」、人材の需給バランスや社員の年齢構成など)
●トップ・経営層の理解と関与による、高齢者雇用の目的と、あるべき姿の明確化
●社員の意見の吸い上げや、社員全体への周知による、推進体制の整備
●基本方針の決定
②:制度検討・設計、具体的検討・決定段階 ●定年制度や引上げ方についての検討・設計(「何歳まで引上げるか」「段階的に引上げるかどうか」「給与はどうするか」など)
●「仕事」「役割」「役職」の検討・決定(業務内容や高齢社員の人数などをもとに検討)
●評価方法の検討・設計
●適切な賃金水準の確保(働き方に見合った賃金を支払えるように、給与制度・退職金制度を検討)
●詳細の検討・決定(「人事担当者による現場の意見の吸い上げ」や「現場で働く管理職の理解」が必要)
③:実施段階 ●高齢社員への役割の明示(「職務内容」や「役職」などに変化がある場合は、丁寧に説明する)
●高齢社員への「評価」「面談」の実施
●高齢社員に対する「意識啓発」・「教育訓練」の実施(自身の今後のキャリアについて考えてもらう機会を設ける)
●マネジメント層に対する研修(「どのように年上の高齢社員を管理していくとよいのか」を伝える)
●社員全体に対する意識啓発
●健康管理支援(「定期健診」や「がん検診」「インフルエンザ予防接種」など)
●職場環境などの整備(作業環境や労働時間などに配慮する)
④:見直し・修正段階 ●社員の意見を基に、制度の見直しや修正を行う

(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』)

給与の決め方

定年の引上げに伴い、給与をどのように決定するかは企業の任意です。もともと設定していた定年に達した後で仕事内容や役職、勤務時間などに変化があるかどうかを確認した上で、給与制度の見直しを検討します。「これまでと同じ給与制度を維持する」「従来の定年以降は別の業務内容・給与制度を適用する」「全従業員を対象に、成果重視の給与制度に変更する」といった方法の中から、自社に最も合ったものを選ぶとよいでしょう。
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』)

就業規則の変更

退職に関する項目は、就業規則の絶対的必要記載事項に該当します。そのため、定年の引上げをする場合には、就業規則を変更する必要があります。なお、労使協定についても就業規則と同様に、定年年齢に関する事項を修正します。就業規則を変更したら、労働基準監督署に届け出ましょう。

就業規則の変更例(定年65歳とする場合)

(定年等)
第●●条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』p48)

注意点

定年を引上げる際には、「高齢者への賃金をいくらに設定するのか」「追加で必要となる人件費をどのように捻出するのか」といった賃金に関する問題や、「世代交代が進まない」といった組織の年齢構成のバランスに関する問題、それらに関連した社員のモチベーション低下などが起こりやすいとされています。また、「昔より体力がなくなった」「持病を抱えている」といったように健康に不安を抱える高齢社員がいる可能性もあります。さまざまな角度から慎重に諸制度の検討・見直しを行い、高齢者のみならず、全ての社員にとって働きやすい職場を目指すのが望ましいでしょう。
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』)

対応方法②:継続雇用制度の導入

「継続雇用制度」とは、既に雇用している高齢社員が希望すれば、定年後も引き続き雇用できるようにする制度のこと。継続雇用制度には、定年年齢になってもそのままの雇用条件で働き続けてもらう「勤務延長制度」と、定年年齢になった時点で一度退職してもらい、その後新たな雇用条件でまた働いてもらう「再雇用制度」の2種類があります。「定年退職後に、嘱託社員として再雇用する」というように、再雇用制度を利用した継続雇用制度の導入が一般的なようです。対応の流れや注意点などをご紹介します。
(参考:『【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説』『【弁護士監修】嘱託社員を雇うには?給与や注意点など知っておきたい雇用のポイント』)

対応の流れ

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が発表している「65歳超雇用推進マニュアル」によると、継続雇用制度の導入に向けた対応は、定年の引上げと同様に、「①現状把握~基本方針決定段階」「②制度検討・設計、具体的検討・決定段階」「③実施段階」「④見直し・修正段階」という4つの段階に分けられます。各段階での具体的な対応も、基本的には定年の引上げのときと変わりません。「上限年齢・対象」や「仕事内容」「役職・役割」「労働時間・勤務日数」「評価」「賃金」を特に重点的に検討し、自社に合った制度を構築するとよいでしょう。

給与の決め方

継続雇用制度の場合も、定年の引上げと同様に、給与については企業が任意で決めることができます。定年退職後に嘱託社員として再雇用する際には、労働条件を伴うことが多いため、定年前よりも給与が下がるのが一般的なようです。しかし継続雇用により雇用形態が変更になった場合でも、労働条件に変更がなければ「同一労働同一賃金の原則」に基づき、定年前と同額の賃金を支払う必要があるため、注意が必要です。
(参考:『【弁護士監修】嘱託社員を雇うには?給与や注意点など知っておきたい雇用のポイント』『【弁護士監修】同一労働同一賃金で、企業はいつどのような対応が必要?』)

就業規則の変更

継続雇用制度を導入する場合も、就業規則の変更が必要になります。変更後の就業規則は、労働基準監督署に届け出ましょう。

就業規則の変更例(定年を60歳とし、その後は希望者のみ65歳まで継続雇する場合)

定年等)
第●●条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2.前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由または退職事由に該当しない労働者については、満65歳まで継続雇用する。

(参考:厚生労働省『モデル就業規則』p65)

注意点

継続雇用制度を導入する際にも、定年を引上げるときと同様に、賃金に関する問題や組織の年齢構成のバランスに関する問題、社員のモチベーション低下問題、健康問題などが起こりやすいとされています。定年を引上げる場合と同じく、さまざまな角度から慎重に諸制度の検討・見直しを行いましょう。
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』『【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説』)

対応方法③:定年の廃止

「定年の廃止」とは、定年自体を廃止すること。定年を65歳未満にしている企業を対象としています。厚生労働省が令和元年11月に発表した「高年齢者の雇用状況」では、実施している企業はわずか2.7%にとどまっています。対応の流れや就業規則の変更についてご紹介します。

対応の流れ

まずは、就業規則などを確認した上で、定年の廃止が妥当かどうかを検討します。定年を廃止することが決まったら、人事制度や給与制度を見直しましょう。その後、就業規則を変更してください。

就業規則の変更

定年を廃止する場合には、就業規則から「定年に関する記述」を全て削除します。「定年を前提とした項目」があった場合には、そちらについても削除や見直しを行いましょう。就業規則とは別に、給与規定などを設けている場合、そちらにも「定年を前提とした項目」が記載されている可能性があるため、全ての規定を確認する必要があります。就業規則の変更が終わったら、労働基準監督署に届け出を行いましょう。

注意点

見直し・修正が比較的行いやすい「定年の引上げ」や「継続雇用制度の導入」とは異なり、定年そのものを無くしてしまう「定年の廃止」は、一度対応してしまうとそう簡単に見直すことができません。「本当に定年の廃止をする必要があるのか」を慎重に検討しましょう。
また定年を廃止によって、社員自身が「何歳まで働き続けるか」を慎重に決めることが必要になってきます。新入社員のころから「自身のキャリア形成について考える」機会を提供するとよいでしょう。
(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』p25)

現行の「高年齢者雇用安定法」の経過措置について

「高齢者雇用確保措置」の1つである「継続雇用制度の導入」には、年齢により対象者を限定できる「経過措置」があります。対象となるのは、2013年3月31日の「高年齢者雇用安定法」の改正より前に、労使協定により「継続雇用制度の対象者を限定する基準」を定めていた企業に限られます。経過措置の対象年齢は3年ごとに1歳ずつ引上げられていて、2020年現在の対象者は「63歳以上の従業員」となっています。なお、2025年3月31日にはこの経過措置自体が終了する予定のため、2025年4月1日からは実質的に全企業に対し「65歳までの雇用確保」が義務付けられることになります。経過措置の対象となる年齢について、表にまとめました。
(参考:『【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説』『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』)

継続雇用制度の経過措置

対象者
2013年4月1日~2016年3月31日 61歳以上の従業員
2016年4月1日~2019年3月31日 62歳以上の従業員
2019年4月1日~2022年3月31日 63歳以上の従業員
2022年4月1日~2025年3月31日 64歳以上の従業員
2025年4月1日 経過措置の撤廃⇒実質的に65歳定年に

(参考:厚生労働省『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」の概要【平成24年8月29日成立】』)
(参考:厚生労働省 東京労働局ハローワーク『高年齢者雇用安定法ガイドブック~高年齢者の雇用の安定のために~』)

現行の「高年齢者雇用安定法」に違反した場合はどうなる?

もし、3つの「高年齢者雇用確保措置」のいずれの対応も行うことができず、「高年齢者雇用安定法」に違反することになった場合、高年齢者雇用安定法第10条に基づき、企業名が公表されてしまう可能性があります。

高年齢者雇用安定法第10条

1.厚生労働大臣は、第9条(「高年齢者雇用確保措置」)に違反している事業主に対し、必要な指導及び助言をすることができる。
2.厚生労働大臣は、前項の規定による指導又は助言をした場合において、その事業主がなお第9条の規定に違反していると認めるときは、当該事業主に対し、高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告することができる。
3.厚生労働大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

まずは「指導」および「助言」が行われ、それでも状況が改善しない場合には「勧告」がなされ、最終的には「社名の公表」という処分が行われるようです。社名が公表されると、「企業に対するイメージが悪化する」「業績に影響が出る」といったリスクが想定されます。社名の公表に至る前に、高齢者の雇用確保措置を確実に行いましょう。

高齢者を雇用するに当たって活用できる助成金

高齢者を雇用する際に、活用したいのが「65歳超雇用推進助成金」です。この助成金は高齢者が年齢に関係なく働くことができる「生涯現役社会」の実現を目指して創設されたもので、所定の要件を満たした場合に受給することができます。65歳超雇用推進助成金には「①65歳超継続雇用促進コース」「②高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「③高年齢者無期雇用転換コース」の3コースがあります。各コースについて簡単にご紹介します。

65歳超継続雇用促進コース

「65歳超継続雇用促進コース」とは、「65歳以上への定年引上げ」「定年の定めの廃止」「希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入」とのいずれかを実施した企業に対して、助成金を支払うコースのこと。支給額は、「行った措置の種類」「定年を何歳まで引上げたか」「引上げ幅(+何歳分か)」「60歳以上の被保険者数」によって、決められています。5万円~160万円と支給額には幅があります。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」とは、高齢者が働きやすくなるよう、「賃金・人事処遇制度」や「短時間勤務制度や隔日勤務制度」「研修」などを導入または改善したり、「法定外の健康管理制度」を導入したりした場合などに、措置にかかった費用の一部が支払われるコースのこと。支給額は「中小企業事業主かどうか」「生産性要件を満たしているかどうか」によって異なります。実際にかかった経費の45~75%が支給されます。

高年齢者無期雇用転換コース

「高年齢者無期雇用転換コース」とは、「50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者」を「無期雇用に転換」した企業に対して、助成金を支払うコースのこと。支給額は、「中小企業事業主かどうか」「生産性要件を満たしているか」によって決められています。対象となった労働者1人当たり38万円~60万円が支給されます。

具体的な支給額や申請時に必要な資料など、各コースの詳細については、厚生労働省のHPやこちらの記事をご確認ください。

2020年2月に国会に提出された改正案の内容とは?

2020年2月4日、政府は「70歳までの就業機会の確保」などを企業の努力義務とする「雇用保険法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、令和2年常会(第201回国会)に法案を提出しました。「雇用保険法」の他、「高年齢者雇用安定法」も改正の対象となっています。国会で承認されれば、2021年4月に「高年齢者雇用安定法」の改正案が施行される見込みです。現行の「高年齢者雇用安定法」との違いについてご紹介します。

現行の「高年齢者雇用安定法」と「改正案」の違い

「高年齢者雇用安定法」の改正案では、これまでの3つの「高年齢者雇用確保措置」に代わり、4つの「高年齢者就業確保措置」が企業に課されます。現行の法律と改正案の違いを表にまとめました。

現行 改正案
措置の名称 高年齢者雇用確保措置 高年齢者就業確保措置
対象となる年齢 65歳まで 70歳まで
企業の義務かどうか 義務 65歳まで:義務
65歳~70歳まで:努力義務
対応方法 ①:定年の引上げ
②:継続雇用制度の導入
③:定年の廃止
のいずれか
①:定年の引上げ
②:継続雇用制度の導入
③:定年の廃止
④:労使で同意した上での雇用以外の措置(「継続的に業務委託契約する制度」や「社会貢献活動に継続的に従事できる制度」)
のいずれか

(参考:厚生労働省『雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要』)

これまでの「65歳まで」から「70歳まで」へと対象年齢が拡大されるため、「70歳定年」が現実的なものとなってくる見通しです。また、これまでの3つの対応に加えて、新たに「労使で同意した上での雇用以外の措置」も選択することができるようになります。具体的には、「フリーランスや起業した際、業務委託契約を結んで報酬を支払う」といったことが想定されているようです。

2020年の改正案が成立した場合の企業への影響

2020年2月に国会に提出した「高年齢者雇用安定法」が成立した場合、企業へのさまざまな影響が考えられます。良い影響としては、「優秀な高齢社員に、長期にわたり活躍してもらえる」「高齢社員の培ってきたノウハウを、これまでよりも時間をかけて、次の世代に伝承しやすくなる」といったことが挙げられます。一方で、「賃金の捻出方法」や「モチベーション低下」「高齢社員の健康への配慮」といった既に表面化している問題が、さらに深刻なものになることも想定されます。「企業としてどのような対応を取るのか」「給与制度や人事制度などを、どのように変更するのか」などをさまざまな角度から検討し、2021年4月に迫った「高年齢者雇用安定法」の改正に備えましょう

まとめ

少子高齢化が進む中、労働力不足は今後より深刻な社会問題となるでしょう。「高齢者雇用安定法」が企業に求めている「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の廃止」という3つの対応は、そうした課題を解決するための手段でもあります。「高年齢者雇用安定法」は早ければ、2021年4月に改正される見込みです。間近に迫った法改正に備え、企業としてどのような対応をするのかを慎重かつ早急に検討しましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

2023年9月~2024年12月までに対応するべき労務関連実務チェックリスト

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