【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説

東京弁護士会所属 東子法律事務所 

代表弁護士 足立 東子弁護士(あだち とうこ) 【寄稿・監修】

プロフィール

今後も日本の少子高齢化は進行していくと予測され、現在の団塊ジュニア世代にあたる40代の労働者が定年を迎える頃には、働く人と高齢者の比率がほぼ同じになると試算されています。

それに備え、政府では「定年後再雇用」を企業に義務づけるなどの施策をとっています。定年後再雇用の仕組みを学び、法令違反にならないように、また、助成金活用についても知識を身に付けておきましょう。

定年後再雇用制度とは

政府は、“65歳未満を定年”と定めている事業主を対象に、高齢者が安定した雇用を確保するための施策を進めています。これは高齢者の増加が今後も加速することを背景としています。具体的には、改正高齢者雇用安定法第9条に、『3種類の高齢者雇用確保措置』が定められました。
「当該定年(65歳未満のものに限る)の引き上げ」「継続雇用制度の導入(定年を迎えても、再度雇用される)」「当該定年(65歳未満のものに限る)の廃止」のいずれかを実施することが求められています。

定年後再雇用制度とは

つまり、希望する高齢者等全員を少なくとも65歳までは継続雇用するように企業に義務づけられるようになったのです。

厚生労働省の調査によると、2018年で65歳までの雇用確保措置を導入している企業は99.8%にのぼります。その内訳は以下の通りで、定年を迎えても継続で働くことができる「継続雇用制度」を取り入れている企業が79%を超えていることが分かります。
厚生労働省の調査

それに対し、定年制を廃止した企業は、中小企業で2.9%、大企業に至っては0.5%、トータルで2.6%と、こちらはあまり進んでいないことが分かります。
ほとんどの企業でなんらかの継続雇用制度の導入を行っているものの、定年の引き上げには慎重、かつ、定年そのものの廃止には踏み切れない企業がほとんどということがわかります。

再雇用に関する法律「改正高年齢者雇用安定法」の中身

「高齢者雇用安定法」は、正式には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」と呼ばれます。この法律の骨子は、希望する高齢者等全員を65歳まで継続雇用するように企業に義務づけることです。

65歳までの雇用が義務化された「改正高年齢者雇用安定法」とは

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は1971年に施行され、2013年4月に改正されました。ポイントとして以下の通りです。

・継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
・継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
・義務違反の企業に対する公表規定の導入
・高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針の策定

経過措置により段階的な実施が可能

しかし、これには経過措置が設けられています。厚生年金の支給開始年齢が引き上げられることに伴い、該当者(高齢者)が給与も年金ももらえず無収入になる期間が発生することを防ぐためです。老齢厚生年金は2013年から2025年までにわたり、3年ごとに1歳、支給開始年齢が遅くなります。その年齢に達してから継続雇用制度の対象者基準を利用できるのです。詳しくは、厚生労働省『「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」の概要』資料をご覧ください。

定年後再雇用にあたって注意すべきこと

企業が労働者を定年後再雇用する際に、給与や労働条件など注意すべきことがあります。特に、給与に関するトラブルは多く、裁判にまで持ち込まれた例も多くあります。

定年後再雇用時も、同一労働同一賃金の原則に従う必要がある

労働契約法20条においては、有期労働契約をしている労働者と、期間の定めのない労働契約をしている労働者とであっても、労働内容が同じであれば同じ賃金を支払うのが原則とされています。賃金だけでなく、手当や福利厚生などの労働条件に関しても、不合理な差があってはいけません。この考え方は今後、パートタイムにも適用されます。2020年4月1日施行予定(中小企業は2021年)の「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」では、現在のパートタイム労働者と有期雇用労働者とが同じように扱われます。これに伴い、労働契約法20条が廃止・統合される予定です。

つまり、高齢者が今後、定年後再雇用された場合に、正社員からパートタイムになっても、仕事内容が全く変わらなければ、同一労働同一賃金の原則に従う必要があるかもしれません。

 

就業規則を定めていない企業は早めの対応を

高齢者雇用安定法の改正により、“雇用と年金との接続を確実なものとする”ため、継続雇用制度の対象者を限定する仕組みは廃止されました。そのため、就業規則に定年後再雇用の項目を設ける必要があるのはもちろん、定年時に再雇用しない、定年後再雇用時の業務内容や契約内容は変更になる…などを就業規則に定めている場合は見直す必要があります。改正高齢者雇用安定法では、経過措置により継続雇用の対象者が3年ごとに1歳引き上げられます。その都度、就業規則の改正を行わないといけません。

過去には裁判で違憲判決が下された事例も

定年後再雇用の賃金格差が違憲だと判決された事例があります。その典型例は、神奈川県の運送会社「長澤運輸」で、有期雇用で定年後再雇用された労働者が、定年前と同一労働であるにもかかわらず20%強の賃金を減額されたことで会社を訴えた事件です。この事件では、1審の東京地裁で原告の訴えが全面的に認められました。2審の東京高裁及び最高裁では、無期労働契約の正社員と、定年後再雇用の有期労働契約の嘱託社員とでは賃金体系が異なることから、仕事の内容が変わらなくても、給与や手当の一部、賞与を支給しないのは不合理ではないと判断をしましたが、一方で、「精勤手当」(休日以外の全ての日に出勤した者に支払われる手当)を嘱託社員だけ支払わないのは不合理で違法と判断しています。
今後政府は、同一労働同一賃金の原則を徹底させようとしていますので、不当に差異をつけないことが肝要と言えるでしょう。

契約書の締結方法【項目付】

定年後再雇用の契約を締結する場合は、労使間のトラブルを防止する観点から契約書を作成する必要があります。契約書のひな形には、以下の項目を記載しておくとよいでしょう。

・雇用期間
・契約更新の有無
・就業時間、就業場所
・就業内容
・休日、休憩、所定外労働時間
・有給休暇
・賃金(計算方法、支払い方法、昇給に関する内容など)
・退職に関する事項
・諸手当
・社会保険

定年後再雇用時、給与はどう決めればよいか?

定年後再雇用時には、一般的に給与が下がることが多いです。同一労働同一賃金の原則(記事参照)があるとはいえ、実際には体力の低下などの事情により仕事の効率が下がることは避けられず、給与は下がると考えられています。

上記の長澤運輸事件の判決では、定年再雇用者と正社員で20%強の賃金減額は容認されるという判断が示されましたが、15%以上の給与がカットされると心理的に労働意欲が減退することが考えられますし、役員が定年後再雇用される場合などは、雇用形態によって責任の度合いなどが異なります。定年後再雇用時の給与決定は、これらのことを総合的に判断して決めることが必要です。

定年後再雇用時の雇用形態について

定年後再雇用で、定年前の仕事と全く同じ仕事内容や役職に就くこともありますが、現実的には役員や管理職から一般職に転換されるなど、労働条件や賃金が大きく変わる可能性があります。また、高齢者が定年後再雇用したときに、有期社員の無期転換ルールが適用されないことがあるため注意しましょう(下記参照)。一定の条件のもとでは、いわゆる嘱託や非常勤職員・パート・アルバイトとして継続雇用することもできます。

※ちなみに、親会社を定年退職した者を子会社で採用する継続雇用制度でもよいのかが争われる事例があったため、継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業にまで拡大する仕組みも設けられています。

有期社員の無期転換ルールは適応されない?

無期転換ルールとは、平成24年に改正された労働契約法で定められた、雇用の新しいルールです。これは、有期契約者が5年を超えて反復契約された場合に、無期契約に転換されるルールのことです。通常はこの無期転換ルールが適用されますが、有期雇用特別措置法では下記を条件に、無期転換申込権が発生しない特例があります。

・適切な雇用管理に関する計画があること
・都道府県労働局長の認定を受けた事業主であること
・有期労働者が定年後に継続雇用されること

もともと管理職だった社員をどう再雇用するか?

定年後再雇用される高齢者の多くが、課長や部長などの管理職である場合があります。そうなると、定年後再雇用される前後の賃金が大きく異なる可能性があります。引きつづき管理職として再雇用するのならともかく、一般の事務職や営業職など別の役職・職種に就く場合は、本人や周囲のモチベーションの低下にも気をつけなければなりません。

定年後再雇用時の雇用条件のポイント

定年後再雇用時には、配置転換や有給休暇、残業の有無などの雇用条件などに気にかける必要が生じます。

配置転換は可能?

定年時再雇用における配置転換については、可能かつ現実的であれば就業規則に盛り込むという対応で問題はありません。

有給休暇はどうなる?

定年時再雇用をすると、継続勤務として取り扱われるため、勤務年数を通算して年次有給休暇を付与する必要があります。

時短勤務は可能?

定年時再雇用で、短時間の時短勤務を選択することもあります。嘱託や非常勤職員・パート・アルバイトとして定年後再雇用する場合は、1日あたりの労働時間や労働日数を減らすため、給与もそれに応じて下げることが可能です。改正高齢者雇用安定法では定年後再雇用の義務は課されるものの、勤務形態に関しては定められていません。ただし、著しく不当な労働条件を提示した場合は違法となる可能性があります。

どれぐらい残業を依頼していいのか?

定年後再雇用後、残業をお願いしてもかまいません。その場合にもちろん残業代は必要です。契約した勤務時間が変更となる場合には、当然残業代も変わってきます。残業時間の上限は、「36協定」があれば1日8時間以上、週40時間以上の時間外労働をさせることが可能です。ただし、働き方改革関連法案が施行されると、時間外労働の上限規制が課せられますので、これを超えた残業は違法となります。

 

副業はOK?

副業の禁止に関しては、労働法上の定めはないため就業規則で定める必要があります。定年前に副業禁止だった場合、定年後再雇用で非常勤となった場合などには、副業がOKとなることもあります。近年の「働き方改革」では、副業が容認される傾向になってきているため、今後はより定年後再雇用でも副業が認められる可能性が高まるでしょう。

年金や保険・税金の手続き・対応について ー“同日得喪”とは?ー

定年後再雇用されると、年金や税金の手続きが必要となります。

定年後再雇用の契約する上で、知っておきたい“同日得喪”とは

継続雇用をする際、新たな雇用条件で雇用契約を結び直すことが一般的です。その際、役職や仕事内容に変更があったり、勤務時間が減ったりなど、給与額が下がるケースも考えられます。しかし、給与の大幅な下落があった場合でも、標準報酬月額が改定されるのが4カ月後になり、それまでは高額は厚生年金保険料を支払わなければならない…という状況も出てくるでしょう。
そこで、事業主との雇用関係がいったん中断したものとし、間をあけずに雇用契約を継続し直す「同日得喪(どうじつとくそう)」の手続きを行う必要があります。

社会保険(厚生年金保険・健康保険・介護保険など)

再雇用後の1日もしくは1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所で働く通常の社員と比較して4分の1以上であれば、再雇用後も引き続き社会保険が適用されます。

<提出書類>
●社会保険被保険者資格の喪失届
●社会保険被保険者資格の取得届

なお、その際、下記書類もあわせて添付する必要があります。

●就業規則や退職辞令の写しなど、退職したことがわかる書類(定年規定や退職日が記載)
●継続して再雇用されたことがわかる雇用契約書のコピー・写し(事業主印が必須)
●従前の保険証

税金

税金に関しては、定年後再雇用された後に、多額の住民税が課せられる可能性があります。これは、住民税が昨年の所得、つまり退職前の所得に応じて課せられるためです。

定年時再雇用により受け取れる補助金

定年時再雇用をした事業者が、行政から受け取れる補助金をいくつかご紹介します。

65歳超継続雇用促進コース

65歳を超えても継続雇用する事業者に対し、「65歳超継続雇用促進コース」が適用された場合、助成金が支払われます。支払われる金額は、「対象被保険者数」と「定年等を引き上げる年数」に応じて変化します。
受給する事業者は、雇用保険に加入していることや、定年の引き上げ・廃止などを就業規則または労働協約に定めていることなど、いくつかの条件が課せられます。

高年齢者雇用環境整備支援コース

「高年齢者雇用環境整備支援コース」は、高齢者が働きやすくなるように職場の機械設備・作業方法・作業環境の導入や改善を行った場合、または、高齢者の能力開発・賃金体系や労働体系の見直しや導入、健康診断などを実施した事業者に対して助成金が支払われる制度です。
助成を受けるためには、雇用環境整備計画書を作成・提出しなければなりません。また、認定を受けた後、計画書に書かれた期限内に支給対象措置を講じる必要があります。

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上~定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した場合、「高年齢者無期雇用転換コース」が利用でき、助成金が支払われます。

助成金を受け取るためには、無期雇用転換計画を作成・提出しましょう。認定を受けた後、対象の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させなければなりません。また、同じ労働者に関して「キャリアアップ助成金」の正社員コースと併用することはできません。

【まとめ】

採用難の流れを受け、女性活用、外国人採用などさまざまな取り組みに注目が集まっています。定年後再雇用もその1つ。特に定年を迎えてもイキイキと働くことができる人材が増えている今、より多くの企業での活用が見込まれています。しかしながら、労働者にとって不利な条件で契約を結ぶことはできません。

労働力の確保はもちろんですが、従業員の満足度も重要です。自分の会社では、定年を廃止するのか、引き上げるのか、給与や評価はどうするのか。いま一度就業規則を見直すことが重要ではないでしょうか。

【弁護士監修|法律マニュアル】
01. 試用期間の解雇は可能?本採用を見送る場合の注意点とは
02. 入社直後の無断欠勤!連絡が取れなくなった社員の対処法
03.途中で変更可能?求人票に記載した給与額を下げたい場合
04.試用期間中に残業のお願いは可能?残業代の支払いは?
05.炎上してからでは遅い!採用でSNSを使う際の注意点
06.求人票に最低限必要な項目と記載してはいけない項目
07.採用後に経歴詐称が発覚した場合の対応法。解雇は可能?
08.意図せず法律違反に…。面接で聞いてはいけないこと
09.身元保証とは?採用における意味と意義、企業が活用する方法について
10.根拠のない噂で会社の評判が…。人事が知っておくべき風評被害対策とは
11.【チェックリスト付】選考・入社時に提出させてはいけないNG書類
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13.2018年問題はどう対応すべきか?派遣社員や契約社員への影響は?
14.【弁護士監修】働き方改革関連法案施行でいつ何が変わる?企業が注意すべきことを解説
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(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

【Word版】定年再雇用規程

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