嘱託社員とは?契約社員との違い、労働条件や雇用時のポイントを解説

合同会社ことりうみ

中澤 泉 弁護士

プロフィール

嘱託(しょくたく)とは、特定の業務を担ってもらうために、人材と有期雇用契約を結ぶ際に用いられる呼称の一つです。近年では、嘱託で雇った定年退職後の人材、つまり嘱託社員が活躍する企業が増えつつあるため、「自社でも雇用したい」という人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、嘱託社員とほかの雇用形態との違いや、雇用する前に把握しておきたいポイントなどを解説します。

嘱託社員の雇用を検討する際は、制度や雇用形態の違いを理解するだけでなく、役割や処遇、契約条件をあらかじめ整理しておくことが重要です。定年後再雇用や専門人材の活用に向けて、労働条件を明確にしたい場合は、以下の「労働条件通知書サンプル」を資料ダウンロードしてご活用ください。

嘱託社員とは

嘱託社員とは、有期雇用契約を前提としてはたらく社員のことを指します。法律上の明確な定義はなく、実態に応じて雇用契約・請負契約・委任契約のいずれかの形態をとります。

一般的には「定年退職後に再雇用した社員」を指すことが多く、なお、労働基準法上の「労働者」に該当するかどうかは、契約の名称にかかわらず、使用者の指揮監督下ではたらいているか、報酬が労務の対価として支払われているかといった「使用従属性」の実態によって判断されます。

有期雇用契約の基本や、無期雇用との違いを確認したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『有期雇用契約とは?無期雇用との違いや法律で定められたルールを解説』)

委嘱との違い

嘱託と似た言葉として、「委嘱(いしょく)」が挙げられます。両者の主な違いは以下のとおりです。

【嘱託と委嘱の違い】

項目 嘱託 委嘱
一般的な位置づけ 有期の雇用契約に基づく就労が多い 民法に基づく請負・準委任契約が多い
業務内容 企業内の特定の業務、雇用契約に基づく労働など 主に法律・医療・芸術など専門性の高い業務
指揮命令 使用者からの業務指示を受けることが多い 受託者が独立して業務を行うことが多い
対価 給与(賃金)が多い 報酬が多い

委嘱は、顧問弁護士への相談や外部専門家への講演依頼など、高度な専門知識を提供してもらう場面で用いられることが一般的です。受託者は独立した立場で業務にあたるケースが多い点が、嘱託とは異なります。

ただし、「委嘱」という名称であっても、実態として使用者からの具体的な業務指示や時間・場所の拘束がある場合は、労働基準法上の労働者とみなされる可能性があります。契約の名称だけで判断せず、実際の就労状況を確認することが重要です。

嘱託社員が活躍する主なケース

ここでは、企業がどのような場面で嘱託社員を雇用するのかをご紹介します。

【嘱託社員が活躍する主なケース】
●定年後の再雇用で嘱託社員として雇用するケース
●専門性や経験を活かして有期雇用するケース

定年後の再雇用で嘱託社員として雇用するケース

定年を迎えた人材を引き続き雇う場合、企業はその人材を嘱託社員として雇用することがあります。定年に達した社員は一度退職することになるため、その後も自社ではたらいてもらうには、新たに有期雇用契約を結ばなければなりません。

その際は、賃金や社会保険の適用範囲などを定め直す必要があります。

専門性や経験を活かして有期雇用するケース

短期的なプロジェクトや専門性の高い業務を依頼するために、嘱託社員を雇う企業も存在します。専門的なスキルを持つ、経験豊富な人材を嘱託社員として雇うことで、業務の効率化が期待できます。

定年後再雇用制度とは

定年退職した人材を再雇用する際は、「定年後再雇用制度」に基づいて新たに雇用契約を結ぶ必要があります。

定年後再雇用制度とは、定年退職した従業員が継続勤務の意思を示した場合に、再び雇用契約を結べる制度です。この制度が適用される人材は「制度の利用を希望する全ての従業員」であり、自社だけでなくグループ会社での雇用も可能です。

定年後の雇用継続に関する制度全体を整理したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『継続雇用制度とは?対象者や経過措置・法改正などをわかりやすく解説』)

高年齢者雇用安定法とは

定年後再雇用制度は、「高年齢者雇用安定法」で定められた高年齢者雇用確保措置の一つです。高年齢者雇用安定法とは、高年齢者の雇用機会を守るための法律です。

企業はこの法律に基づき65歳未満の定年を定めている場合、以下のうちいずれかの措置を講じなければなりません。

【高年齢者雇用確保措置の種類】
●定年を65歳まで引き上げる
●65歳までの継続雇用制度(定年後再雇用制度または勤務延長制度)を導入する
●定年制を廃止する

(参照:厚生労働省『高年齢者雇用安定法の概要』)

上記の措置を講じていない企業は、厚生労働大臣からの指導や勧告、企業名の公表などの対象となるため注意が必要です。また、2021年の法改正により、65歳から70歳までの就業機会を確保する措置を講じることが事業主の努力義務として追加されています。

高年齢雇用継続給付金とは

高年齢雇用継続給付金とは、以下の要件を満たす60歳以上65歳未満の従業員に支給される給付金のことです。

【高年齢雇用継続給付金の受給要件】
●雇用保険の被保険者期間が通算して5年以上ある
●60歳以降の賃金(みなし賃金)が、60歳時点のものと比較して75%未満になっている

定年退職後に嘱託社員としてはたらくにあたって、多くの方が頭を悩まされる問題が「収入の減少」です。再雇用後は管理職から外されたり、勤務日数や業務内容を見直されたりするケースが一般的であるため、定年前と同額の賃金をもらうことは現実的ではありません。

高年齢雇用継続給付金は、こうした事情により収入が下がった従業員の、経済的負担を和らげるために必要というわけです。

なお、高年齢雇用継続給付金の申請は、原則として事業主がハローワークに対して行います。詳細な申請方法は、厚生労働省のホームページで確認してください。

(参照:厚生労働省『高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について』)

嘱託社員とほかの雇用形態との違い

雇用形態ごとの違い

続いて、嘱託社員と「正社員」「契約社員」「パート・アルバイト」との違いをそれぞれ解説します。

【本項で紹介する内容】
●嘱託社員と正社員との違い
●嘱託社員と契約社員との違い
●嘱託社員とパート・アルバイトとの違い

嘱託社員と正社員との違い

嘱託社員と正社員の最も大きな違いは、契約期間の制限の有無です。嘱託社員が有期雇用であることに対して、正社員は無期雇用で業務にあたります。

また、嘱託社員は業務内容が限定的であることが多く、正社員よりも心身的な負担や責任が軽減されるよう設計されるケースが多いとされています。そのため、正社員と比べると収入が低いことが一般的です。

ただし、嘱託社員を含む有期雇用労働者と正社員との待遇差については、パート・有期法により「不合理な待遇差の禁止」が定められています。

基本給・賞与・手当・福利厚生などの待遇ごとに、職務の内容や配置の変更範囲などに照らして不合理な相違を設けることは認められません。

嘱託社員と契約社員との違い

嘱託社員と契約社員との間に明確な法的定義上の違いはなく、いずれも有期雇用労働者としてパート・有期法の適用を受けます。企業によっては、入社経緯や役割に応じて名称を使い分けていることがあります。

嘱託社員は、主に定年後に再雇用した従業員に対する呼称として知られています。一方で定年後の再雇用以外の場面で有期雇用契約を結んだ従業員は、契約社員と呼ばれることが多いようです。

嘱託社員とパート・アルバイトとの違い

嘱託社員とパート・アルバイトとの主な相違点としては、業務内容の違いが挙げられます。

嘱託社員は定年後に再雇用された社員を指すケースが多く、正社員時代に培った経験やスキルを活かしてはたらくことが期待されます。そのため、パート・アルバイトよりも責任の重い業務を任されたり、フルタイムではたらいたりすることも珍しくありません。

一方、パート・アルバイトは、あらかじめ範囲を定めた定型的な業務を担うことが多く、基本的には時給制での短時間勤務となるため、ほかの雇用形態と比べて賃金が低い傾向にあります。

ただし、名称にかかわらず、正社員と同一の職務内容や配置変更範囲を持つ場合には、同一の待遇が求められる点に注意が必要です。

嘱託社員の労働条件

本項では、嘱託社員を雇う際に定める、主な労働条件について解説します。

【嘱託社員の労働条件】
●賞与
●退職金
●社会保険や労働保険の適用範囲
・健康保険・厚生年金保険
・雇用保険
・労災保険
●有給休暇

賞与

嘱託社員に賞与を支給するかどうかは、基本的には企業の判断に委ねられています。

ただし支給の有無は、必ず「同一労働同一賃金」の原則にのっとって決めてください。同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差をなくすための制度です。

賞与の支給可否は、賃金総額ではなく賞与という「個々の待遇ごと」に、その性質・目的に照らして判断されます。正社員と業務内容や責任の範囲が変わらないにもかかわらず、賞与を支給しない、または支給額を大幅に減らすと、行政指導や訴訟の対象となる恐れがあります。

待遇差を巡るトラブルを未然に防ぐためにも、賞与の判断基準は明確にした上で、嘱託社員に対して具体的に説明できるよう準備しておきましょう。

退職金

定年退職した人材を嘱託社員として雇う場合は、労働条件に退職金の支払いを含めないことが一般的です。なぜなら、当該社員は定年退職した時点で退職金を受け取っているケースが多いためです。

ただし、退職金の支給に関しても同一労働同一賃金の原則が適用されるため、正社員と待遇差を付けるのであれば、嘱託社員に対して正当な理由を説明する必要があります。

社会保険や労働保険の適用範囲

勤務時間や雇用見込みなどの一定の要件を満たしている嘱託社員には、社会保険や労働保険への加入が義務付けられています。具体的には、以下の3つの保険に加入しなければなりません。

1.健康保険・厚生年金保険
2.雇用保険
3.労災保険

健康保険・厚生年金保険

所定労働時間や労働日数が正社員の4分の3以上である嘱託社員には、原則として健康保険・厚生年金保険への加入義務が生じます。また4分の3に満たなくとも、以下の要件を全て満たしている場合は健康保険・厚生年金保険に加入する必要があります。

【健康保険・厚生年金保険の加入要件】
●所属する企業の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上である
●1週間の所定労働時間が20時間以上である
●1カ月の賃金が8.8万円以上である
●雇用期間が2カ月を超える見込みである
●学生ではない

なお従業員数の要件は、2035年10月までに撤廃される見込みです。

(参照:厚生労働省『被用者保険の適用拡大について』)

雇用保険

雇用保険への加入が義務付けられる要件は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、なおかつ31日以上の雇用見込みがあることです。65歳以上の嘱託社員も例外ではなく、「高年齢被保険者」として雇用保険に加入しなければなりません。

(参照:厚生労働省『雇用保険の適用拡大等について』)

労災保険

勤務時間や勤務日数、雇用形態などに関係なく、全ての労働者には労災保険への加入が義務付けられています。保険料率は企業によって異なり、保険料は企業が全額負担します。

有給休暇

嘱託社員は、正社員と同様に有給休暇の取得が可能です。具体的には、雇入れの日から6カ月以上継続勤務しており、全労働日の8割以上出勤した場合に有給休暇が与えられます。

なお、有給休暇を含む休暇制度についても不合理な待遇差を設けることは禁止されており、正社員と同等の扱いが求められます。

休暇の日数は、勤続年数や所定労働時間・所定労働日数によって変動します。詳しくは厚生労働省のホームページを確認してください。

(参照:厚生労働省『年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています』)

嘱託社員を雇用するメリット

定年退職した人材を嘱託社員として雇用することで、企業はさまざまなメリットを得られます。以下で主なメリットを確認していきましょう。

【嘱託社員を雇用するメリット】
●経験や専門性を持つ人材を即戦力として活用できる
●人件費を抑えられる
●高年齢者雇用義務への対応につながる
●労働条件を柔軟に設定できる
●社内ノウハウや人脈を継承しやすい

経験や専門性を持つ人材を即戦力として活用できる

嘱託社員を雇用する大きなメリットは、即戦力としての活躍が見込めることです。

多くの嘱託社員は、自社での業務経験や専門知識が豊富であり、業務フローや社内の人間関係なども把握しています。そのため、再雇用後は即戦力として活躍してもらえる可能性が高いといえます。

「教育にかかる費用を抑えたい」「自社での活躍が見込める人材を採用したい」という人事・採用担当者は、嘱託社員の雇用を検討すると良いでしょう。

人件費を抑えられる

同等のスキルを持つ正社員を雇用する場合と比べて人件費を抑えられることも、嘱託社員を雇うメリットの一つです。

定年まで勤め上げた正社員は一定のスキルや経験を持っているため、給与水準が高い傾向にあります。そうした社員を嘱託社員として雇えば、職務内容や責任の範囲に応じて給与を再設定しつつ、当人が定年までに培ったスキルを提供してもらえます。

このように、教育にかかる費用や人件費などを抑えられる嘱託は、費用対効果の面で企業によっては有効な選択肢となる場合があります。

高年齢者雇用義務への対応につながる

嘱託社員を雇用することは、法的リスクの回避にもつながります。企業には、就労を希望している労働者を65歳まで雇用するために、高年齢者雇用確保措置を講じることが義務付けられています。

加えて、70歳までの就労機会の確保も努力義務となっているので、法的リスクを避けるには高年齢者の雇用に関する対策が不可欠です。

定年退職後の人材を嘱託社員として雇えば、高年齢者雇用義務を果たしつつ、健全な労務管理体制を整備できます。

(参照:厚生労働省『高年齢者の雇用』)

労働条件を柔軟に設定できる

嘱託社員の労働条件は「週4日勤務」「1日6時間の短時間勤務」など、正社員のものと比べて柔軟に設定できます。

そのため企業側は、繁忙期に合わせて出勤日を調整する、または特定の業務に特化した契約を結ぶといった方法で、効率良く事業を営めます。

社内ノウハウや人脈を継承しやすい

嘱託社員を雇用するメリットとしては、当人が培ってきた業務のノウハウや顧客との信頼関係などを、社内の人材に継承できることも挙げられます。

嘱託社員に若手社員の指導役やメンターを任せれば、企業全体の組織力が底上げされるため、事業運営を円滑に進められるようになるでしょう。

嘱託社員を雇用するデメリット

嘱託社員の雇用には多くのメリットがある一方で、事前に把握しておきたいデメリットもいくつか存在します。

ここでは、代表的なデメリットを紹介します。

【嘱託社員を雇用するデメリット】
●モチベーション低下のリスクがある
●契約期間に制限がある
●役割や処遇の設計が難しい

モチベーション低下のリスクがある

嘱託社員のモチベーションの低下につながる可能性がある点は、嘱託契約を結ぶデメリットといえます。

嘱託社員の賃金は、正社員としてはたらいていたときと比べると低く設定されることが一般的です。当人が処遇のギャップに納得しなければ、業務へのモチベーションが下がってしまうでしょう。

また嘱託契約を結んだ場合は、かつての部下が上司になることも考えられます。こうした立場の逆転も、嘱託社員のプライドを傷付け、モチベーションの低下を招く要因となり得ます。

契約期間に制限がある

契約期間に関する制限があることも、嘱託社員を雇うデメリットの一つです。嘱託社員との契約は一般的に有期雇用契約となるため、通常は1年ごとに契約更新が必要となり、その都度、面談や契約書の取り交わしといった事務手続きの手間が生じます。

また、契約更新を繰り返し、通算の契約期間が5年を超えると、労働者の申し込みにより期間の定めのない契約(無期転換ルール)へ移行する権利が発生します。将来的な人員計画を見据えて雇用期間を検討している場合でも、不用意な更新を繰り返すことで法的な制約が生じ、雇用の柔軟性が損なわれる可能性がある点に注意が必要です。

なお、あらかじめ労働局の認定を受けることで、定年後に継続雇用された労働者については無期転換の申込権を発生させない特例が設けられています。採用計画を立てる際は、こうした制度の活用も含めて検討しておきましょう。

嘱託社員を雇った結果、かえって業務を圧迫することがないよう、採用計画を綿密に立てておきましょう。

役割や処遇の設計が難しい

嘱託社員を雇うデメリットの一つとして、役割や処遇の設計に時間がかかることも押さえておきたいところです。

嘱託社員を雇う際は、与える役割や労働条件などを細かく設定する必要があります。その際、賃金総額だけでなく、基本給・各種手当といった賃金項目ごとにその性質や目的を踏まえた検討が求められます。

例えば、通勤手当や精勤手当など実費弁償的・皆勤奨励的な性質を持つ手当は、職務内容が正社員と同じであれば嘱託社員にも支給しないことが不合理と判断される場合があります。

また、正社員時代とのギャップが大きいと、モチベーションや帰属意識の低下につながる恐れがあるだけでなく、不合理な待遇差として法的に争われるリスクも生じます。

なお、短時間・有期雇用労働法に基づき、嘱託社員から求められた場合、正社員との待遇差の内容や理由を説明する義務があります。「なぜこのような役割や処遇を設定したのか」を客観的・具体的に説明できる体制を整えた上で、契約を進めるようにしましょう。

嘱託社員のモチベーションを下げないポイント

デメリットの項で「モチベーション低下のリスクがある」とお伝えしましたが、以下の2つのポイントを押さえておけば、嘱託社員のモチベーションを維持できる可能性があります。

【嘱託社員のモチベーションを下げないポイント】
1.人材育成に携わってもらう
2.スキルや経験が活かせるポジションに配置する

人材育成に携わってもらう

嘱託社員のモチベーションを維持するには、若手社員の指導役や相談役などを任せて、人材育成に関わってもらうことが効果的です。若手社員への研修や1on1などを通じて「自分の知識や経験が組織に役立っている」という実感を与えることで、モチベーションの向上につながります。

さらに、人材育成を進めれば企業全体の組織力が底上げされるため、事業運営にも良い影響をもたらすでしょう。

スキルや経験が活かせるポジションに配置する

嘱託社員には、自身のスキルや経験を活かせる業務を割り振ることが大切です。正社員時代に培ったスキルや経験を業務で発揮できれば、成功体験が積み重なり、モチベーションを保ちやすくなるはずです。

嘱託社員に業務を割り振る際は、目標を持ってはたらいてもらえるよう、期待する役割や成果などを明確に伝えましょう。その上で、業務に対する姿勢や功績への感謝を述べることも欠かせません。

嘱託社員を雇用する場合の注意点

ここでは、嘱託社員を雇う際の注意点をお伝えします。

【嘱託社員を雇用する場合の注意点】
●無期転換ルールが適用される可能性がある
●雇止め法理を遵守する必要がある
●同一労働同一賃金の原則に抵触しないようにする
●就業規則の見直しを行う

無期転換ルールが適用される可能性がある

一定の期間を超えて就業している嘱託社員には、「無期転換ルール」が適用される場合があります。無期転換ルールとは、以下の要件を全て満たす有期雇用契約の労働者が、無期雇用契約に転換できる制度です。

【無期転換ルールの適用条件】
●有期雇用契約を結んでいた期間が通算で5年を超えている
●同一の使用者との間で1回以上有期雇用契約を更新している
●ルールの適用を希望するタイミングで同一の使用者と契約している

上記に該当する嘱託社員から無期転換の申し出があった場合、企業は改めて無期雇用契約を結ばなければなりません。

無期雇用契約への切り替えには、人件費の固定化や人員調整の難化といったデメリットが伴うため、嘱託社員と5年以上契約を続ける可能性がある場合は十分に注意してください。

ただし、定年後に引き続いて雇用される嘱託社員については、事業主があらかじめ「適切な雇用管理に関する計画(第二種計画)」を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることで、無期転換申込権を発生させない特例が設けられています。嘱託社員を継続的に活用する予定がある場合は、この特例の活用を検討しましょう。

なお、この特例は定年後に引き続いて雇用される人が対象であり、他社を定年退職した後に新規採用された有期契約労働者などには適用されない点に注意してください。

(参照:厚生労働省『無期転換ルールハンドブック』)

無期転換ルールや労働契約法の基本を確認したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『【よくわかる】労働契約法の何条に注意すればいい?条文を使ってしっかり解説/弁護士監修』)

雇止め法理を遵守する必要がある

嘱託社員の雇止めを行う、つまり契約の更新を拒否する場合は、雇止め法理にのっとって手続きを進める必要があります。

雇止め法理とは、労働契約法第19条に基づき、以下の要件に当てはまる雇止めを無効とする制度です。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
(引用:e-Gov法令検索『労働契約法 第19条』)

特に、高年齢者雇用安定法が65歳までの雇用確保措置を義務付けていることから、65歳に達するまでの継続雇用については労働者の雇用継続への期待が肯定されやすく、年齢のみを理由とした雇止めは合理的理由を否定される可能性が高いです。

正当な理由のない雇止めは違法な解雇と見なされ、損害賠償請求や行政指導などにつながる恐れがあるため注意が必要です。

同一労働同一賃金の原則に抵触しないようにする

嘱託社員の労働条件を定める際は、同一労働同一賃金の原則を遵守する必要があります。正社員との待遇差については、基本給・賞与・各種手当といった個々の待遇ごとに、その性質や目的に照らして不合理な相違を設けることが禁止されています。

例えば、精勤手当や通勤手当など職務内容が同じであれば支給すべき手当を不支給とすることは、不合理と判断されるリスクがあります。定年後再雇用であることは待遇差の判断において考慮される事情の一つですが、それのみで待遇差が正当化されるわけではありません。

また、パート・有期法に基づき、嘱託社員から求めがあった場合には正社員との待遇差の内容とその理由を具体的に説明する義務があります。抽象的な説明では足りないため、職務内容や責任の程度の違いを明確に示せる体制を整えておきましょう。

(参考:『【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説』)

就業規則の見直しを行う

就業規則に定年後の再雇用制度についての記載がなければ、嘱託社員を迎え入れる前に追記する必要があります。その際、契約更新の可否を判断する基準(心身の健康状態、勤務態度、能力等)をあらかじめ明確に定めておくことが、後の雇止めトラブルを防止する観点からも重要です。

労働基準監督署に規則の改定を申請した上で、全従業員に変更点を周知しましょう。また、無期転換ルールの特例を適用する場合は、労働者に対して「定年後に引き続いて雇用されている期間は無期転換申込権が発生しない」旨を書面で明示する必要があります。

その後も嘱託社員を継続的に採用する見込みがある場合は、ルールの明確化や社内の認識の統一といった観点から、嘱託社員専用の就業規則を作成しておくことをお勧めします。

就業規則の作成・変更手順を確認したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『【無料テンプレート付】就業規則とは?記載事項と作成・変更の届け出の手順を解説』)

定年後再雇用制度の契約に必要な項目と結び方

定年退職した人材を嘱託社員として再雇用する際は、労働条件を巡るトラブルを回避できるよう、次の項目を含む労働条件通知書や雇用契約書を交付しましょう。

なお、定年後再雇用の場合も新たな契約締結となるため、通常の雇い入れと同様に書面による明示が法律上義務付けられています。

【労働条件通知書や雇用契約書に記載する項目】
●雇用形態
●雇用期間
●契約更新の有無
●就業時間
●就業場所
●就業内容
●休日、休憩時間、所定外労働時間
●有給休暇
●賃金(計算方法、支払い方法、昇給に関する内容など)
●退職に関する事項
●諸手当
●社会保険

嘱託社員の労働条件通知書では、雇用期間や契約更新の有無、就業時間、賃金、社会保険など、明示すべき項目が多岐にわたります。自社の条件に合わせて修正しながら使えるWord版サンプルを用意していますので、書類作成のたたき台として以下から資料ダウンロードしてご活用ください。

退職金は規程に基づいて取り扱われる

定年を迎える労働者が再雇用を希望して定年後も継続してはたらくことになった場合でも、いったんは定年退職扱いとなり、就業規則や退職金規程に基づいて退職金が支払われることが一般的です。

嘱託社員として再雇用した労働者が退職する際の退職金については、企業によって取り扱いが異なりますが、退職金制度を設けない、もしくは正社員と異なる算定基準や支給額とするケースが多く見られます。

ただし、退職金についても同一労働同一賃金の原則が適用されるため、待遇差を設ける場合は職務内容や配置の変更範囲など、個別の事情に照らした合理的な理由を説明できるよう整理しておく必要があります。

定年後再雇用制度で雇用をすると、助成金が受け取れる

企業が定年後再雇用制度を利用して一定の条件を満たした場合、国から「65歳超雇用推進助成金」を受け取れます。

この助成金には、「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「高年齢者無期雇用転換コース」の3つがあります。

支給される条件 支給金額 届け出方法
65歳超継続 雇用促進コース ・定年の引き上げ(65歳以上まで)
・定年の廃止
・希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度(再雇用)の導入
※1事業主につき1回限り
「60歳以上の被保険者」の人数と、何歳までの「引き上げ・継続雇用」をしたかによって決まる 実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から15日(15日が行政機関の休日 (土曜日、日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日に当たる場合は翌開庁日))まで に「支給申請書」に必要書類を添えて提出
高年齢者評価制度等 雇用管理改善コース ・高年齢者の人事評価制度の導入/改善
・高年齢者の希望に合わせた「短時間勤務制度」などの導入/改善
・高年齢者のための研修制度の導入/改善
・法定外の健康管理制度の導入 ※1年以内
制度の整備などにかかった経費に、所定の助成率を乗じた金額が支給される 事前に「雇用管理整備計画書」を提出して認定を受ける
高年齢者無期雇用 転換コース ・50歳以上かつ定年前の有期契約労働者を無期雇用に転換した場合 対象1人につき、
・中小企業は40万円
・中小企業以外は30万円
・計画開始の3カ月目の日までに「無期雇用転換計画書」を提出して認定を受ける
・対象者に対して、転換後6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2カ月以内に「支給申請書」に必要書類を添えて提出

(参照:厚生労働省『令和6年度65歳超雇用推進助成金のご案内』)

定年後再雇用で嘱託社員として雇用する場合は、5年ルールの適用外に

改正労働契約法では、「有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換する」という「5年ルール」があります。嘱託社員は契約社員の一種であるため、基本的には5年ルールが適用されます。

しかし、定年後再雇用の高年齢者については、「適切な雇用管理に関する計画を作成していること」「都道府県労働局長の認定を受けた事業主であること」という2つの条件を満たしていれば、特例として5年ルールの適用外にできます。

なお、特例を適用するためには、本社・本店を管轄する都道府県労働局に認定申請をする必要があります。特例を適用する場合は、労働者に対して「定年後に引き続いて雇用されている期間は無期転換申込権が発生しない」旨を書面で明示することも必要です。

定年後再雇用の契約締結で押さえたいポイント

定年後再雇用した嘱託社員と契約を結ぶ際のポイントは、以下です。

【定年後再雇用の契約締結で押さえたいポイント】
●雇用契約期間の明記
●法律で決められた記載事項の網羅
●就業規則に記載された労働条件との比較
●正社員の労働条件との比較

雇用契約期間の明記

定年後再雇用の嘱託社員は、一般に期間の定めのある有期労働契約を締結します。実務上は契約期間を「原則1年」とし、満65歳を上限として更新する運用が多く見られます。

契約書には契約期間の始期と終期を明確に記載するとともに、更新の有無や更新を判断する基準(業務量、勤務成績、健康状態等)もあわせて明記しておきましょう。

法律で決められた記載事項の網羅

定年後再雇用は一度定年退職した後に新たな労働契約を締結する手続きであるため、通常の雇い入れと同様に、労働基準法に基づく書面による労働条件の明示が義務付けられています。記載漏れがないよう注意しましょう。

なお、記載事項は「絶対的明示事項」と「定めがある場合の明示事項」に分かれます。前者には契約期間、更新基準、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休憩・休日・休暇、賃金の決定・支払方法、退職に関する事項が含まれます。後者には退職手当、賞与、昇給に関する事項などが該当します。

就業規則に記載された労働条件との比較

就業規則は、自社の全労働者に対する労働条件の最低ラインを示したものです。個別の雇用契約で定める労働条件が就業規則の基準を下回る場合、その部分は無効となり就業規則の基準が適用されます。契約書の内容が就業規則と矛盾していないか、必ず確認しましょう。

また、嘱託社員を継続的に雇用する場合は、「定年後再雇用規程」や「嘱託就業規程」などを別途整備しておくことが実務上推奨されます。

正社員の労働条件との比較

正社員と比較した際、嘱託社員の労働条件が不合理なものになっていないかどうか注意する必要があります。「同一労働同一賃金」の原則のもと、パート・有期法に基づき、待遇差の合理性は職務の内容・配置の変更範囲・その他の事情を考慮して個別の待遇ごとに判断されます。

定年後再雇用であることはその他の事情として考慮されますが、それのみで全ての待遇差が正当化されるわけではありません。

特に諸手当については、その性質と目的に照らした判断が求められます。通勤手当や精勤手当(皆勤手当)など、契約期間の有無によって必要性が変わらない手当や、出勤を奨励する趣旨の手当は、職務内容が正社員と同一であれば原則として嘱託社員にも支給する必要があります。

また、嘱託社員から求めがあった場合は、正社員との待遇差の内容とその理由を具体的に説明する義務があります。

嘱託社員に関するよくある質問

最後に、嘱託社員に関する疑問にお答えします。

【嘱託社員に関するよくある質問】
●嘱託社員の残業や有給休暇はどうなりますか?
●嘱託社員は何歳まで雇用できますか?
●嘱託社員の社会保険や年金はどうなりますか?
●嘱託社員は解雇できますか?
●嘱託社員の管理職への任命は可能ですか?
●嘱託社員の異動や出向は可能ですか?
●嘱託社員に試用期間を設けても大丈夫ですか?

Q1:嘱託社員の残業や有給休暇はどうなりますか?

時間外労働や休日労働についての取り決めである「36協定」を結べば、嘱託社員にも残業を依頼できます。

有給休暇については、入社後6カ月以上が経過している嘱託社員に対して、週の所定労働日数に応じた休暇を付与する必要があります。その際は、正社員時代から通算した勤続年数に基づいて、付与する日数を計算しましょう。

(参照:厚生労働省『36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針』)

36協定の基本や時間外労働の上限を確認したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』)

Q2:嘱託社員は何歳まで雇用できますか?

「何歳まで」という上限は法律上定められておらず、嘱託社員が70歳になるまで雇用を続けている企業も少なくありません。

実際に、2025年に厚生労働省が行った調査では、全体の34.8%の企業が70歳までの就業確保措置を実施していることがわかりました。

(参照:厚生労働省『令和7年「高年齢者雇用状況等報告」』)

Q3:嘱託社員の社会保険や年金はどうなりますか?

勤務時間や雇用見込みなどの一定の条件を満たしている嘱託社員は、社会保険に加入する必要があります。

また原則として、70歳の誕生日の前日までは厚生年金保険に加入しなければなりません。なお、再雇用後に労働時間や勤務日数が減少し、社会保険の適用要件を満たさなくなった場合には、健康保険および厚生年金保険のいずれも適用対象外となります。

(参照:厚生労働省『社会保険の加入対象の拡大について』)

Q4:嘱託社員は解雇できますか?

正当な理由があれば、嘱託社員を解雇できます。具体的には、「悪質なハラスメントを行っている」「無断欠勤を繰り返している」といった状況であれば、解雇できる可能性があります。

Q5:嘱託社員の管理職への任命は可能ですか?

企業側と本人の合意があれば、嘱託社員を管理職に任命できます。管理職を任せる場合は、身体的・心理的負担を考慮した上で、正当な賃金を必ず与えてください。

Q6:嘱託社員の異動や出向は可能ですか?

就業規則にのっとっていれば、嘱託社員に対して異動・出向を命じられます。異動・出向の可能性がある場合は、その旨を契約書に記載しておきましょう。

Q7:嘱託社員に試用期間を設けても大丈夫ですか?

試用期間を設けて嘱託社員を雇っても、法律上は問題ありません。ただし、定年後再雇用としての嘱託社員の場合は、自社で長年はたらいていた実績があるため、試用期間は設けないことが一般的です。

【嘱託社員用】労働条件通知書のテンプレートを無料ダウンロード

嘱託社員を雇用する際は、労働条件通知書を交付する必要があります。その際は、労働基準法によって定められている必須記載項目を明示しつつ、詳細な条件を決めていかなければならないため、相応の手間がかかるでしょう。

「労働条件通知書を作成する手間を少しでも省きたい…」という人事・採用担当者は、以下のテンプレートをぜひ活用してください。黄色のマーカーが引かれている部分を自社の内容に置き換えるだけで、法令を遵守した労働条件通知書を作成できます。

まとめ

近年、日本では、定年退職した労働者を嘱託社員として再雇用する企業が増えつつあります。

嘱託社員を雇う際は、労働者の身体的・心理的負担を考慮した上で、業務内容や給与、勤務時間、契約期間といった労働条件を決める必要があります。業務経験の豊富な嘱託社員に活躍してもらうことで、人材不足の解消や社内ノウハウの継承にもつながるでしょう。

制度や注意点を理解したあとは、実際の労働条件を具体的な書面に落とし込むことが重要です。自社の条件にあわせて修正できるWord版の労働条件通知書サンプルは、以下から資料ダウンロードできます。

また、嘱託社員の雇用を検討する際は、個別の労働条件だけでなく、定年延長や退職金、給与、役職定年などを含めた人事制度全体の見直しも重要です。定年延長時代の人事制度については、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』)

(制作協力/株式会社eclore、編集/doda人事ジャーナル編集部)

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