「メンバーのやりたい仕事」と「組織としての業務アサイン」のジレンマ【コラム】

まんまるキャリア

代表 佐藤 やすよ

大学卒業後、IT企業へ入社。現場でシステム開発に関わる傍ら、エンジニアとして新入社員研修講師を担当したことがきっかけで、育成の分野に興味を持ち人事職へ社内転職。延べ300名の新入社員を、入社直後からOJTまでサポート。 2度の産休育休や時短勤務を経て、自身のワークライフバランスに悩んだ結果、2019年2月からは、週2フリーランス×週3派遣社員というパラレルワークを開始。"無理"というカドのない【まんまる】な暮らしができる人を増やしたい、 という思いを胸に、個人に寄り添った支援を心がけています。国家資格キャリアコンサルタント。

メンバーのやりたい仕事に、「無理」はご法度
若手社員のやりたい仕事は、周りの影響を受けている
信頼関係を築ければ、メンバーはモチベーションを維持しながら業務に取り組む
メンバーの「やりたい仕事」に向き合う
まとめ

私は企業の人事部門にいたため、若手社員が退職していくのを何度も見てきました。退職理由によく挙がるのが、希望する配属先にならなかったことや異動希望を出したけど受け入れられなかったこと。若手社員が「やりたい仕事」を明確に持っていることは、能動的なキャリアを形成していく上で重要な姿勢です。しかし、組織の一員として従事している以上、全員が全員、希望する業務に就けるかというと、そう簡単なことではありませんよね。

上司としてメンバーの業務をアサインする立場にある皆さんは、このジレンマに悩まされたとき、どのように対処していますか?「やりたい仕事」にこだわっているメンバーにもモチベーションを維持してもらうために不可欠なのが、上司も含めたチーム内の信頼関係を築くことです。今回のコラムでは、私が普段キャリアコンサルタントとして、クライアントからキャリア相談を受けているときの関わり方をヒントに、メンバーと信頼関係を築くコミュニケーションのポイントをお伝えします。

メンバーのやりたい仕事に、「無理」はご法度

メンバーが「私は○○の仕事がやりたいです!」と、自分の部署にはない業務を希望してきたとき、上司はどう返答すればよいのでしょうか。この場面で絶対に発してはいけないのが、「うちの部署の仕事じゃないから無理だな」、「ちょっと難しいと思う」といった、当人の希望を真っ向から否定する言葉や態度です。「無理」を伝えた瞬間に、メンバーのモチベーションは限りなくゼロにまで下がってしまうことでしょう。こうなると、もう心のシャッターが完全に下りている状態で、再び心を開いてもらうことは難しいです。

事実として、メンバーのやりたい仕事を叶えるのが難しいとしても、その事実は一旦横に置いておいて、「希望を聞かせてくれてありがとう」というスタンスで対応することが、その先に繋がるコミュニケーションの第一歩です。

若手社員のやりたい仕事は、周りの影響を受けている

そもそも、メンバーがその仕事を「やりたい」と思うようになったのには、どのようなきっかけがあったと思いますか?人間は、自分の視野に入っていない情報や知らない知識について思考することはできません。つまり、本人の「やりたい」感情は、それまでに関わってきた人・読んだ文献・インターネット上の情報などによって生み出されているに違いないのです。逆にいうと、周囲からインプットされる情報や経験を通じて、「やりたい仕事」は比較的簡単に変化していくということを知っておいてください。

では、「やりたい仕事」につながるのは、どんな情報や経験でしょうか。「ここにいるとなんだか心地よいな」「やっているとワクワクする」「この人といると安心できる」「この人のようになりたい」といったポジティブな雰囲気を感じると、人はそこを目指したいと思うようになります。そう感じさせる環境があることで、自然とそれが「やりたいこと」になっていくのです。

信頼関係を築ければ、メンバーはモチベーションを維持しながら業務に取り組む

職場内でポジティブな雰囲気を作り上げるために必要なのが、心地よい環境や信頼し合える人間関係を築いていくことです。そのためには、とにかく対話を重ねること。そして対話の中で、相手を否定せずにありのままを受け入れることが重要です。信頼されようと思ったらまずは、自分から相手を信頼することから始めます。この原理は、心理学の分野で「返報性の法則」と呼ばれるものです。

具体的に、上司としてメンバーとの信頼関係を築くために必要な関わりは、「まず気持ちを受け止めること」と「じっくりと話に耳を傾けること」です。この2つの姿勢が上司にあると、メンバーは前向きな気持ちで過ごすことができ、ひいては「この人と一緒に働いていられるなら、この仕事でもよいかも」と思い始める可能性も広がります。これは、私自身がやりたい仕事よりも誰と働きたいかを優先してきたことで、その時々に最善のキャリアを選択してきたと思えていることからも証明できます。

メンバーの「やりたい仕事」に向き合う

今回のテーマである、メンバーのやりたい仕事の訴えに対して、業務アサインとの折り合いをどのようにつけるか、考えてみましょう。私がキャリアコンサルタントとして考える関わり方の一例は、「どうすればそれが実現出来るか一緒に考えよう!」です。ここで大切なのは、“一緒に”の部分。今すぐに実現することは難しくても、実現する力があると信じて伴走してくれる上司がいることは、メンバーにとって心強いものです。まずは信頼関係を構築することから始め、時間をかけて業務アサインへの納得感を作っていきます。

1.「やりたい仕事」について詳しく聞く

 まずは、メンバーがその仕事をやりたい理由を詳しく掘り下げてみましょう。

「どうしてそれをやりたいの?」
「それをやりたいと思ったきっかけは?」

メンバーの気持ちに興味を持って質問を繰り返していくと、本人の中にあるやりたい仕事の「軸」が見えてきます。「軸」が分かっていれば、上司は少しでも共通する部分がある業務をアサインできないか考えることができます。「やりたい仕事」そのものをアサインすることに比べれば、対応する難易度は下がりますよね。

2.実現にあたっての障害を一緒に考える

次に、「やりたい仕事」の実現を阻んでいるものは何か?を考えていきます。ここで考えたいのは、「実現に向けて乗り越えるべき課題」を設定することです。

「社内外のどんな人から力を借りたら、実現に近づくかな?」
「その仕事って、どういったスキルがあると任せてもらえそう?」

すぐにでもできるアクションを探しましょう。周囲に働きかけたり、スキルを身に付けるための自己研鑽をしたりといった小さなアクションでも、前に進んでいる実感ができ、目の前のアサインされた業務への不満度が下がっていきます。

3. 上司として感じていることをフィードバックする

信頼関係は、一朝一夕に築けるものではありません。何度も繰り返しじっくりとメンバーの話を聴きます。腹を割って話してもらえるようになったと感じられたら、信頼関係を築けている証拠です。そこまで来たら、上司として感じていることをフィードバックしてもよいでしょう。

「あなたには今の業務で○○の役割を期待している」
「先日のあの資料、とても評判が良かったよ」

これらは、信頼関係が構築できる前に伝えても、組織としての業務アサインのために言いくるめられていると感じられてしまう可能性のある内容です。しかし、信頼できる上司から言われると、自己肯定感の向上につながり、モチベーションや生産性にも良い影響を与えます。

まとめ

メンバーとコミュニケーションを続けながら組織としての業務に従事してもらっているうちに、もしかすると当初思い描いていた「やりたい仕事」とは違う道が見えてくるかもしれません。その場合はそれでよいのです。将来の予測が困難になってきたVUCA時代(※)、キャリアプランは変わるのが当然。変化を恐れず柔軟に対応していく人材が求められていくと予想されます。メンバーが「やりたい仕事」に囚われすぎないためにも、メンバーのキャリアを一緒に考えることは、上司の重要な役割の一つなのではないでしょうか。メンバーとの関わり方に悩む場合は、キャリア支援の専門家であるキャリアコンサルタントが発信している情報を参考にしたり、直接相談したりすることも有効でしょう。

※VUCA時代とは…
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。現代は、社会や経済情勢が予測困難な時代であるという意味を持ちます。