マミートラックとは?発生してしまう原因・問題点と対応策を解説

d’s JOURNAL編集部

多様な働き方の実現が求められる現代社会にあって、ワーキングマザーが働きやすい企業は、さまざまな面で競争優位性を確立しやすいといえるでしょう。しかし、単に育児をする女性の就業を奨励するだけでは、必ずしも働きやすいと感じてもらえるわけではありません。

ワーキングマザーの復職にあたり、特に注意したいのが「マミートラック」という現象です。この記事では、マミートラックの概要や発生する原因や予防するための対策について解説します。

マミートラックとは


「マミートラック」とは、英語の「マミー(母)」と「トラック(競技用のトラック)」からなる造語であり、育児をしながら働く女性従業員に起こりやすい課題の総称です。ここでは、マミートラックの概要について見ていきましょう。

マミートラックの概要

マミートラックとは、育児をしながら働く女性従業員が、自分の意思とは関係なく出世コースから外れてしまう状態を指します。表面的には仕事と育児の両立ができるものの、昇進や昇格からは縁遠いキャリアコースに乗り、男性と比べて不利な状況に陥ってしまうというのがおもなパターンです。

日本国内でも政府の主導によって、大企業を中心に女性が活躍しやすい環境づくりが奨励されてきました。しかし、子育てと仕事の両立に関する正しい認識が隅々まで浸透しているとはいえず、結果としてマミートラックが発生してしまうケースは少なくありません。

マ ミートラックという言葉の由来

マミートラックという言葉が誕生したのは1988年のアメリカです。当時のNPOカタリスト初代代表のフェリス・シュワルツが、女性の働き方を「キャリア優先型」と「キャリアと家庭の両立型」に分け、後者を望む従業員に対して育児休業などの制度を整備するよう提案したことがきっかけとなっています。

そして、後者のルートをジャーナリストがマミートラックと名付けたことが名称の由来です。このように、もともとはキャリアと家庭の両立を望むワーキングマザーに対して、企業が特別な支援策を行うというポジティブな意味合いで用いられていました。

ところが、現代では「ワーキングマザー専用のトラックに入ると、出世コースに戻ることはできない」というネガティブな側面を持つようになってしまっています。

マミートラックが発生する原因


基本的に、マミートラックは意識的な差別や嫌がらせなどによって起こるものではありません。ほとんどの場合、無意識的な文化背景や不十分な理解が原因となって引き起こされます。

ここでは、マミートラックが起こってしまうおもな原因について見ていきましょう。

企業側の思い込みが成長の機会を奪う

マミートラックの主要な原因の一つに、企業側の極端な思い込みがあげられます。たとえば、「子育てから復帰したばかりだから仕事量を減らしたほうがよい」「残業が難しいから管理職は任せられない」といった固定観念により、ワーキングマザーがキャリアを積めない状態をつくってしまうというケースは代表的なパターンです。

企業の風土や文化として、暗黙のうちにこうした判断基準が浸透していると、特に明文化されていなくてもマミートラックを発生させてしまう可能性があります。そのため、経営層や管理職層が問題の所在に気づけず、手を打てていないというケースも少なくありません。

こうした無意識による偏見や思い込みは「アンコンシャスバイアス」と呼ばれており、企業経営や組織運営にマイナスの影響をもたらすものとされています。アンコンシャスバイアスについては、以下の記事で詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『アンコンシャスバイアスとは?組織への悪影響について具体例を用いて解説! 』)

上司とのコミュニケーションが不足している

上司と従業員のコミュニケーションが不十分である場合も、マミートラックが生じるリスクが高くなります。仮に企業側の価値観に、マミートラックにつながるような思い込みがあったとしても、上司と対象の従業員とのコミュニケーションが円滑に行われていれば、本人の意に反した待遇は避けられます。

しかし、十分な信頼関係が築かれていなければ、女性従業員はなかなか本音を伝えられません。特に、会社側がよかれと思って業務負担を軽減したり、負荷が大きなポジションへの昇進を避けたりしている場合、従業員側からはなかなか反対意見が伝えられなくなってしまうものです。

マミートラックを防ぐには、日頃からコミュニケーションを丁寧に図り、確かな信頼関係を築くことも重要となります。

マミートラックが引き起こす弊害


マミートラックが発生すると、対象の従業員はもちろん、企業側にもさまざまな弊害がもたらされます。ここでは、マミートラックが引き起こす悪影響について3つの側面から見ていきましょう。

キャリア形成に支障が出る

マミートラックに入れられてしまった従業員は、なかなか重要な業務を任せてもらえないため、本来の能力を発揮することが難しくなります。ステップアップのための経験を積めないため、いつまで経っても同じステージから抜け出すことができず、出世や成功へのチャンスが失われていきます。

また、マミートラックから抜け出すために転職を志す場合であっても、前向きな経験を積めていないことが大きな足かせとなってしまうでしょう。そもそも、子育てをしながらの転職活動は何かと負担が大きく、気軽に行えるものではありません。

そのため、今勤めている企業に不満を感じていたとしても、なかなか表に出すことができず、マミートラックの悪循環にはまってしまうのです。このように、一度マミートラックが生じると、従業員のキャリア形成を大きく阻害する原因となってしまいます。

従業員のモチベーションが低下する

マミートラックは、対象の従業員のモチベーションや貢献意欲を低下させてしまう恐れもあります。そもそもマミートラックが生じるのは、「子育てをしている」という一つの側面のみで仕事の役割を判断されてしまうのが大きな原因です。

そのため、本人からすれば、自身の能力やスキル、意思は軽視されていると感じられてしまうでしょう。その結果、会社から正当な評価がされていないと感じ、信頼できなくなったり、モチベーションが保てなくなってしまったりするのです。

また、簡単にこなせるような業務しか任されなければ、仕事そのものへのやりがいや手ごたえを感じることもできません。自身のやりたい業務ができなくなり、キャリアの目標も見失ってしまうため、モチベーションはますます低下してしまうでしょう。

従業員のモチベーション管理については、以下の記事で詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法 』)

早期退職につながる

マミートラックは早期離職を引き起こす原因にもなります。その企業で育児とキャリア形成の両立が難しいというイメージが生まれると、特に若手の女性従業員は将来性に疑問を感じてしまい、長く働き続けたいと感じられなくなるでしょう。

また、そもそも女性が働きにくいと感じる職場では、新たに入った女性従業員も定着しづらく、結果的に社内における男女比が偏ってしまいます。そうなれば、優秀な女性従業員も離れてしまい、会社全体の組織力や業績の悪化にもつながるのです。

従業員の早期離職が頻発すると、残りの従業員にも悪影響を及ぼし、組織全体のモチベーションやパフォーマンスが低下してしまいます。新たに人材を採用したり育成したりする費用もかかるため、企業としての損失は大きなものになるでしょう。

以下の記事では、早期離職が起こる原因や必要な対策について解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『早期離職が起こる理由とは|離職率の傾向や対策・改善事例を解説 』)

マミートラックを引き起こさないための対応策


マミートラックを発生させないためには、個人の努力や意識の変革に頼るのではなく、組織全体の仕組みから見直すことが大切です。なぜなら、ワーキングマザーの働きやすさを向上させるためには、上司や周囲の従業員の理解が必要不可欠となるためです。

そのため、会社全体の方針として、マミートラックの防止につながるような取り組みを行っていかなければなりません。ここでは、マミートラックを発生させないための対応策について見ていきましょう。

職場全体の理解度を高めていく

まずは、マミートラックの原因や弊害について、社内全体できちんと認識させていくことが大切です。育児をしている女性従業員の立場や悩みは、実際に経験しているわけでなければ、正しく理解することはできません。

たとえば、時短勤務などの制度を導入しても、周囲の理解や適切な仕組みの整備がなければ肩身の狭い思いをしてしまう可能性があります。「周囲に迷惑をかけているのではないか」と感じ、結局のところは制度を活用できないままになってしまうケースも少なくありません。

そのため、これらの制度を導入するのであれば、社内全体でマミートラックを防止することを明示することが大切です。研修を行ったり、意見交換を行ったりしながら、スムーズな意思疎通を図りましょう。

柔軟な働き方ができる仕組みを整える

育児と仕事の両立を目指したいという従業員が活躍できるように、業務に関わる環境整備を進めることも大切です。代表的な施策としては、時短勤務やフレックスタイム制といった業務時間の調整があげられます。

時短勤務とは、フルタイムで働けない従業員の勤務時間を短縮する制度のことです。育児・介護休業法では、「3歳未満の子どもを養育する従業員」が希望する場合、事業主は短時間勤務制度を設けなければならないと定められています。

具体的には、「1日の所定労働時間を原則6時間」とする措置を含まなければならないとされており、ワーキングマザーの働きやすさを向上させる重要なルールとされています。また、フレックスタイム制とは、一定のルールに沿って自由に勤務時間を設定できる制度のことです。

1日の勤務時間を柔軟に変更できるため、子どもの急病などによる欠勤に対応しやすく、ワーキングマザーが安心して働きやすくなる仕組みとされています。

リモートワークを推進する

育児との両立を実現してもらうという点では、リモートワークの実現も有効な施策となります。リモートワークを導入すれば、通勤時間の負担がなくなるため、育児にも時間を割きやすくなります。

また、自宅にいながらでも勤務できるため、子どもの面倒を見ながら業務を進めることも可能です。ただし、リモートワークには「従業員同士のコミュニケーションが図りにくい」「業務量によっては長時間労働になりやすい」「セキュリティが脆弱になりやすい」といった注意点もあります。

行き当たりばったりで導入するのではなく、しっかりと下準備をして、トラブルにつながらないように対策しておきましょう。

育休制度などを見直す

育休制度は、1歳未満の子育てをしている従業員が利用できる制度であり、法律によって定められています。原則として、1歳未満の子を養育するすべての男女従業員が対象とされますが、労使協定がある場合にはその限りではありません。

まずは本人の意向をしっかりと確認したうえで、必要な期間やその間のサポート体制などを丁寧に検討しましょう。そのうえで、育休制度を利用する際は、周囲の従業員の負担にならないような仕組みづくりを行うことも大切です。

特に少人数制の組織の場合は、1人でも人員が欠けると周囲への影響も大きくなるため、事前にトラブルが起こらないような根回しをする必要があります。場合によっては、負担の集中が予測されるメンバーやポジションについて、臨時の手当などを支給するのも一つの方法です。

また、育休を取得する本人に対しても、復帰に向けた支援プログラムを用意すると、キャリアの継続をイメージしやすくなります。特に現代は、新たなITツール、システムの導入により、1年で業務のスタイルがガラリと変わってしまうこともめずらしくありません。

こうした変化に戸惑わせないためにも、社内に生じた変化は事前に共有しておき、スムーズに復帰できるように配慮することが大切です。

定期的に面談を行う

マミートラックを防ぐためには、従業員本人の気持ちや現状を丁寧に把握することも大切です。「子育てで仕事どころではないだろう」「キャリアよりも家庭を選んだのだろう」といった思い込みがマミートラックにつながるため、定期的に1on1ミーティングを実施し、本音が聞けるような場をつくるとよいでしょう。

また、1on1の担当者を女性の管理職に任せるなど、運営体制そのものにも工夫が必要です。

人事評価制度を実状に合わせたものに変える

人事評価制度は、従業員のキャリア形成に大きな影響をもたらす要素です。マミートラックを防ぐためには、子育ての有無がキャリアの形成に影響を与えないように、評価制度の仕組みを見直すことも重要となります。

たとえば、成果に紐づけられたキャリアアップ制度を設ければ、勤務時間や勤務環境に左右されず、正当に実力を評価できます。成果で評価するという仕組みが確立されれば、男性従業員に不公平感を覚えさせるリスクも少なくなるため、組織全体の活性化につながるでしょう。

まとめ

マミートラックは、意識的か無意識的かにかかわらず、子育てをしている女性従業員から活躍の機会を奪ってしまうという会社組織特有の問題です。マミートラックが解消されれば、女性従業員の活躍によって組織力が強化されるとともに、働きやすい企業として従業員全体の満足度向上も期待できるでしょう。

マミートラックの対策方法にはさまざまなものがありますが、何よりもまず、従業員本人の意向や本音を丁寧にくみ取れる信頼関係がすべての施策の土台となります。定期的な1on1の実施などに力を入れ、日頃から何でも言い合える風通しのよい組織づくりを心がけましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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