「給料が倍になるよりうれしい」経営が導入に踏み切った、エンジニアの週休3日制とは

株式会社ネクストビート

執行役員 CHRO/CHO 澄川 恵美子(すみかわ・えみこ)

2011年株式会社ディー・エヌ・エーへ新卒入社。新規事業開発や新卒採用、アプリマーケティングを担当した後、2015年同社を退職。2016年株式会社ネクストビートへCHROとして入社。2018年よりCHROに加え、CHOとして健康経営も管轄。東京大学大学院医学系研究科卒。

株式会社ネクストビート

執行役員 CIO/VPoE 三井 陽一(みつい・よういち)

1997年テニススクールのコーチとして社会人キャリアをスタート。ITエンジニアに転身後、スタートアップ2社においてテックリード/CTOとしてさまざまなプロダクト開発に従事。その後は株式会社ラック、株式会社FIXERを経て、2020年3月にCIO兼VPoEとしてネクストビートに入社。CISSP, CCSP, CISA, CISM, PMP, 知的財産アナリスト。東京大学理学部卒。

営業カルチャーが強過ぎると、エンジニアは魅力を感じられない?
新たな学びのための時間は、どれだけお金があっても買えない
全社一律ではなく、職種別に最もパフォーマンスを発揮できる制度を
短期的に業務時間が減少しても、長期的なリターンは大きい

エンジニアの採用を進め、高いモチベーションを保って活躍してもらうためには何が必要なのでしょうか。そのヒントとなる取り組みを進めているのが株式会社ネクストビートです。専門職向けの人材紹介サービスや業務支援システム、メディア事業などを幅広く展開する同社では、2020年4月から「マネージャー相当以上のエンジニアを対象とした週休3日制」を導入しました。

注目したいのはその背景です。同社の人事制度設計を束ねる澄川恵美子氏(執行役員 CHRO/CHO)は、「プロダクトドリブンかつエンジニアにとって魅力的な会社を目指している」と話します。また、エンジニアチームの組織開発を手がける三井陽一氏(執行役員 CIO/VPoE)からは「一定の年収があるエンジニアは、お金より時間を重視する」という言葉も。

お二人へのインタビューを通じて、エンジニアに選ばれるテックカンパニーの条件を考えます。

(※記事中の写真はネクストビート提供)

営業カルチャーが強過ぎると、エンジニアは魅力を感じられない?

 

――貴社は「ライフイベント」「インバウンド」「地方創生」の3領域で次々と新規事業をリリースしています。この状況でなぜ、エンジニアの稼働日数が減ってしまう週休3日制を導入されたのでしょうか。

澄川氏:弊社はビジネスドリブンな事業の比率が高く、実際に、営業職や、営業組織の中で働くことになじみのあるメンバーは比率として高かったと思います。そうした体制で、人材紹介サービスを基幹事業として強みを築いてきました。

しかし、私たちは人材紹介サービスの会社になりたいのではありません。「人口減少社会において必要とされるインターネット事業を創造し、ニッポンを元気にする。」というミッションを掲げ、この実現に向けて、自社開発を中心にさまざまなサービスをつくっています。今後さらに一人一人のエンジニアに力を発揮してもらう必要がありますし、エンジニア採用はますます重要になっていくでしょう。エンジニアにとって魅力的な職場をつくることで、より優秀なエンジニアにジョインしてもらい、長く活躍してもらう。そのための手段の一つが週休3日制の導入です。

――採用力を高めるためには、そもそも「エンジニアが魅力を感じる職場であること」が重要だということですね。営業カルチャーが強い企業では、組織変革がなされないまま、採用活動の強化に取り組んでいる事例も少なくないかもしれません。

澄川氏:営業カルチャーがダメだというわけではないのですが、バランスは大切だと思います。特にベンチャーや中小企業では、営業カルチャーに寄っていたり、エンジニアカルチャーに寄っていたりと、極端なケースもあるのではないでしょうか。

三井氏:私はベンチャーを何社か経験してきていますが、バランスという意味ではネクストビートは面白い会社だと感じています。弊社のエンジニアは、事業方針を理解して自ら関与していこうとする人が多いですね。営業との人数比率に違いがあっても、営業側もエンジニア側もフラットな関係で互いにアプローチし合っています。これは職種間のコミュニケーションが活発で距離が近く、営業側にもエンジニアの仕事への理解があるからこそだと考えます。

――職種間の壁が元々なかったのですね。その中で「テックカンパニーになっていく」という経営メッセージは、かなり先を見据えたアプローチだったということですか?

三井氏:昨今は「○○テック」とカテゴライズされる事業が増えてきています。テクノロジーによって産業構造のゲームチェンジが起きている状況です。弊社も、現在の事業領域で優位な状況にあったとしても、そのままでは成長し続けられません。プロダクト自体を強みとしていけるよう、営業とエンジニアのカルチャーを活かし合える組織づくりを進めていきたいですね。

新たな学びのための時間は、どれだけお金があっても買えない

 

――手段としての週休3日制がなぜプロダクトドリブンな組織づくりにつながるのか、もう少し詳しく伺えればと思います。制度導入の目的としては「増えた時間を自己学習や副業に充てて成長してもらう」ことが挙げられていますね。

三井氏:経営視点では、エンジニアに外の世界を見てもらう意味は大きいと考えています。社内でもフルスタックエンジニアとして幅広い技術を学んでもらっていますが、エンジニアであれば、仕事で使っている技術以外にも興味を持つのは当然のことです。平日の一日を丸々使えるとなれば、好きなことを勉強して過ごしたり、副業で新しい技術を実践する場に参加できたりする。これはエンジニアの知的好奇心を満たすために重要なことであり、そこで得た学びを持ち帰ってもらうことは、ネクストビートのプロダクト開発にも大きなプラスとなります。

エンジニア視点でも、そうした時間があることは重要です。社内でしか価値を発揮できないエンジニアであってはなりません。エンジニアは世の中に価値を与えられる存在であることが重要です。実際に、外部コミュニティーやオープンソースのプロジェクトにコミットするなど、社内だけでなく社外での貢献も視野に入れるエンジニアは多いです。そうすることで自分自身の存在感を高めていけるし、業界での貢献度合いも高めていけるわけです。

――それで制度の対象を「マネージャー相当以上のエンジニア」としているのですね。

三井氏:はい。一定レベル以上のエンジニアは広く世の中に貢献してほしいという思いもあります。

澄川氏:人事・採用担当者の視点では、「そうした人材こそ喉から手が出るほどほしい」というのが本音です。しかし「自社だけにコミットしてください」というやり方では限界があるかもしれません。ネクストビートでもたくさんのことを学べるけれど、さらに学びの機会を自由に増やしてもらえるように導入したのが週休3日制です。同様の考えから、副業についてはエンジニアだけでなく全社員に許可しています。

三井氏:トッププレーヤーは、変化の激しい技術を最前線でキャッチアップしなければなりません。それゆえに、ハイレベルなプレーヤーほど新たな学びが必要になります。そのための時間はどれだけお金があっても買えません。だから、一定の年収があるエンジニアはお金より時間を重視するようになっていくのではないかと考えています。

全社一律ではなく、職種別に最もパフォーマンスを発揮できる制度を

 

――週休3日制のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。

澄川氏:当初のアイデアはエンジニアチームから上がってきました。現場のエンジニアと技術顧問からの発案です。その案を見たCTOや、エンジニアらハイキャリアメンバーへの刺さり具合はすさまじかったですね。「給料が倍になるよりうれしい」という人もいました。

そこから「土日に加えて毎週月曜を休日とする」「該当ポジションの人であればもれなく対象とする」「週休3日になっても給与や待遇面での変化はなし」といった制度の骨子をまとめて、2週間ほどで正式に決定となりました。本件以外でも、重要な意思決定がこのスピード感で決まることは、弊社では珍しいことではありません。

――かなりスピーディーな意思決定ですが、社内から反対意見はなかったのでしょうか。対象外となるレイヤーの人や、他部署の反応も気になるところです。

澄川氏:反対意見はありませんでした。「いいなぁ」という声はありましたが(笑)。対象外のレイヤーや部署のメンバーからも、私のところへは反対の声は届いていません。

三井氏:エンジニアについてはマネージャーの段階になれば得られる待遇なので、目標としてとらえているメンバーもいますね。そもそもエンジニアは、営業と同じ土俵・制度では組織運営できません。「全社一律ではなく、職種別に最もパフォーマンスを発揮できる制度を取り入れる」という考え方を共有しています。

――制度を開始した4月はコロナ禍の真っただ中で、混乱もあったのではないでしょうか。導入にあたって工夫した点があれば教えてください。

三井氏:週休3日制の導入に向けた準備は3月までに進めており、新型コロナウイルスによる大きな影響はありませんでした。むしろ重要だったのは「マネージャーがいない月曜日に、いかにしてチーム運営するか」といった基本的な部分ですね。

マネージャー不在となる月曜日に向けて、メンバーは前週の金曜日のうちに翌週のタスクやテーマを洗い出し、認識合わせをしています。結果的に月曜日はメンバーが自走しています。また、メンバーにとっては、マネージャーがいない前提で仕事を調整する月曜日は「アウトプットに集中しやすい日」となっているのかもしれませんね。自身の仕事に没頭できる貴重な時間となっているようです。

短期的に業務時間が減少しても、長期的なリターンは大きい

――週休3日制の対象となった方々は、新たな時間をどのように活用されているのでしょうか。

三井氏:対象メンバーに聞いた内容の一部を紹介させてください。

・「最新の動向を知るため、本を読んだりネット上に公開されている文献を見たりといったインプットの時間に充てている。インプットが一通り終われば自身で新たなシステムをつくってみたい」

・「エンジニアリングマネジメントやアジャイル開発、エンジニアのキャリアについて、書籍やイベントの登壇資料などを通じて勉強している」

・「コンピュータサイエンスを学ぶため通信制大学に入学し、6科目を履修。早ければ6カ月後の単位取得を目指している」

・「自己学習の一環でプログラミング言語『Scala』の初学者向けコンテンツを制作中。業務内外で思いついた実装を自己学習によって検証し、学習の成果はネクストビートのプロダクトへも還元できている」

・「ネクストビートで身につけたプロダクトの長期運用に関するノウハウを活かし、知り合いのスタートアップ企業で副業を始める予定」

このように、それぞれの知的好奇心を自由に発揮して、新たな学びや副業につなげてくれているようです。今後も定期的にヒアリングしていきたいと考えています。

――テックカンパニーとしての進化に向けて、週休3日制以外で運用されている制度や施策があれば、可能な範囲でお聞かせください。

三井氏:エンジニア組織全体においては、業務時間内に正式な勉強時間を設けています。毎週金曜日の夕方2時間に業務時間を使って勉強する「夕学講座(せきがくこうざ)」という制度です。

澄川氏:夕学講座制度も週休3日制も考え方は同じで、エンジニアの新たなインプットや学びのために「時間をつくる」ための取り組みです。短期的には業務時間が減少しますが、ここでの学びがエンジニアの生産性向上につながるのであれば、長期的なリターンは大きいと思っています。実際にメンバーからは好評で、新しいアイデアも次々と出てきているので、今後も取り入れられるものはどんどん実装していきたいと考えています。

取材後記

導入段階では「給料が倍になるよりうれしい」という反応もあったネクストビートの週休3日制。社外での学びや副業に制限を設けず、自由なインプットの在り方を認めることで、対象となる方々にとっての月曜日の価値が大きく変わっていることがわかりました。

エンジニアが仕事に求めるものを「時間>お金」だと理解し、制度化によって真正面から応える。こうした施策の導入がテックカンパニーを目指す組織にとって重要となっていくのは間違いないでしょう。同時にそれは、エンジニアに限らず、企業で働く全ての人にとっても大きな価値となるように感じました。“社内外を横断し、自身のキャリアを深めるための「時間」を手に入れたい――”。そんなニーズを持つ人は少なくないはずです。

取材・文/多田慎介、編集/野村英之(プレスラボ)・d’s JOURNAL編集部