出社とテレワークの混在する「まだらテレワーク」期。雑談ドリブンの組織をどうマネジメントするか

株式会社パーソル総合研究所

シンクタンク本部上席主任研究員 小林 祐児(こばやし ゆうじ)

ノーポリシーのなし崩し出社が始まっている
テレワーカーの不安感は「まだらテレワーク」の時に最も高まる
「雑談」ドリブンの日本の職場は、テレワークに向かない
テレワーク環境でも「雑談」をどうにかして「うまくやる」第1の道
第2の道、「雑談」が必要ない組織・体制を目指す

5月下旬の緊急事態宣言解除後はテレワークに移行していた働き方に、また少し変化が生じてきています。感染拡大の第2波・第3波への懸念と、職場クラスターのリスクが拭えない中、出社する人とテレワークをする人が混在する「まだらテレワーク」が主流になりつつあります。この状態の組織をいかにマネジメントしていくべきか、パーソル総合研究所の上席主任研究員を務める小林祐児氏に、「雑談」というコミュニケーションの在り方を軸に、企業・人事が目指すべき方向性と具体策を示していただきました。

※本記事は2020年7月2日に開催したオンラインセミナー「マクロ/ミクロ環境からみる日本企業の今後と企業・人事がいま取り組むべきこと」の講演内容をもとに再構成したものです。文末に当日の動画や資料へのリンクがあります。

ノーポリシーのなし崩し出社が始まっている

パーソル総合研究所は、3〜6月初頭にかけて3回にわたり「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(調査結果:第1・2回第3回)」を実施しました。この調査は全国約2万人を対象とした大規模な調査で、コロナ禍のテレワーク導入の実態を詳細に明らかにしました。

この調査によると、3〜4月はテレワーク実施率が13.2%から27.9%へと、2.1倍に伸びました。しかしそこから、緊急事態宣言が全国で解除された5月末〜6月初頭にかけて、2.2ポイント減とわずかながら、テレワーク実施率が減少に転じています。

また、企業方針を見ても、緊急事態宣言解除後は「テレワークが推奨されている」「テレワークが命じられている」人の割合は減りました。そしてもう1つ重要なことは、6割弱の人が、テレワークについて企業から「特に案内がない」という事実です。つまり、日本で今起こっているのは「ノーポリシー」の「なし崩し出社」ということです。

ノーポリシーのなし崩し出社が始まっている
※当日の資料より抜粋

テレワーカーの不安感は「まだらテレワーク」の時に最も高まる

今後の見通しとして、感染拡大しない限りは「なし崩し出社」が増え、テレワークは業種・職種による二極化が進むでしょう。ただ、感染リスクが完全に消えるわけではないため、不要な出社は避けたいという思いもあります。

そこで、企業・人事にとって次の中心的な課題は、「まだらテレワーク」期の組織マネジメントをどうしていくかということになります。

6月以降、一部は出社し、一部はテレワークという「まだらテレワーク」期を迎えています。この「まだら」な状況が、「一斉在宅」期とは異なる課題を私たちに突きつけつつあります

「まだらテレワーク」の状態になると、どのような問題が起きるでしょうか。

例えばオンラインで会議をすると、自分は在宅なのに他の人たちは皆出社している。すると、一人だけテレワークをしている人は「一斉在宅」期とは違った心理状態になります。社会学の言葉では「相対剥奪」と呼ばれる現象ですが、要するに、「まだらテレワーク」期のほうが「一斉在宅」期よりも、テレワーカー側の評価不安や孤独感が増大するのです。

これは、パーソル総合研究所が行った「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」の結果にも表れています。テレワーカーの不安感を比べたところ、職場のテレワーカー比率が2〜3割程度の時に、最も不安感が高くなっているのです。

テレワーカーの不安感は「まだらテレワーク」の時に最も高まる
※当日の資料より抜粋

これが、テレワーカー比率1割程度だと、不安感はそれほど高くありません。これは、育児や介護など特別な事情でテレワークをしており、「他の人と自分は違っていても仕方ない」という心理から、不安感が高まらずにいるのでしょう。逆に、テレワーク比率が「4〜5割」、「6〜10割」と高くなっていくと、大多数が同じ条件になるので、やはり不安感は下がっていきます。

テレワーカー比率は現在、全国平均で30%弱ですが、ちょうどこの2〜3割程度という最も不安感が高まる状態にあるのです。

ここで、テレワーカーが抱える不安感とはどのようものなのかを、再び調査結果から見てみると、4月に多かった「相手の気持ちがわかりにくく不安」「相談しにくいと思われていないか不安」といった、業務にまつわる不安感は減っていることが見て取れます。これは、テレワークへの慣れによるものが大きいでしょう。

一方、現在は「上司から公平・公正に評価してもらえるか不安」「成長できるような仕事を割り振ってもらえるか不安」「将来の昇進や昇格に影響が出ないか不安」「社内異動の希望が通りにくくならないか不安」といった、評価やアサイン、キャリアへの影響への不安が増大しています。

「雑談」ドリブンの日本の職場は、テレワークに向かない

コロナ禍の数カ月、HRM分野で最も聞かれたバズワードは「雑談」です。インフォーマルなコミュニケーションの重要性や、テレワーク環境でいかに雑談をするか、それに代わる方法は何かといった話題が、いたるところで取り沙汰されました。

なぜ日本の職場は、こんなにも「雑談」を必要とするのでしょうか。

1つは雇用の在り方に関連します。日本では職務範囲が不明確なため、雑談やインフォーマルなコミュニケーションによって、職務範囲の調整をしているのです。2つ目は、経営戦略上の特性として「現場主義」が重んじられていることが挙げられます。プロセス・イノベーションで利益を上げてきた製造業を中心に、日本の経営者は「現場」「ボトムアップ」が大好きなのです。3つ目は社会学的な観点で、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が「社縁」に過度に依存していることが挙げられます。

「雑談」ドリブンの日本の職場はテレワークに向かない01
※当日の資料より抜粋

職務範囲があいまいで、同じ時空間を共有する日本の職場では、インフォーマルなコミュニケーションで業務を遂行することが常態化します。その帰結として、属人的な「暗黙知」と、現場での「調整」、いつも一緒にいるという「安心」をベースに仕事が進みます。このような日本の職場に、半ば強制的にテレワークを導入したがために「暗黙知」の伝達不全が起こり、「調整」が硬直化し、「安心」が崩壊しました。

そのような中で、雑談をどうにか増やそうということを皆が考えたからこそ、「雑談」がバズワード化したのでしょう。ただ、テレワーク環境で雑談を増やすことは、突き詰めて考えるほど難しいのが現実です。

平時にどういう場面で雑談をしているかを思い起こしてみると、まず「計画的」なものとして朝会・夕会や1対1の面談、ミーティング、懇親会の場などがあります。「偶発的」なものとしては、「今日ちょっと飲みに行こうか」とその場で決まる飲み会や、廊下・給湯室・喫煙所などで会った時、会議前後にすれ違うタイミングなどが考えられます。テレワークになると、後者の「偶発的」な雑談の機会は、ほとんど起こり得ません

「雑談」ドリブンの日本の職場はテレワークに向かない02
※当日の資料より抜粋

ではどうするか。選択肢として2つの道があると考えます。

第1の道は、「うまくやる」。テレワーク環境での雑談は難しいけれど、それでもどうにかして雑談をしようとする道。第2の道は、雑談を「不要にする」。インフォーマルなコミュニケーションに依存しない体制に変えていく道です。

テレワーク環境でも「雑談」をどうにかして「うまくやる」第1の道

現状では、ほとんどの企業が第1の道を選んでいるように見えます。これは、意識的に選択したというよりも、空いた穴を反射的に埋めようとした動きでしょう。しかし、穴を埋めるために、やりとりをただ「増やす」だけではなかなか上手くいきません。必要なのは、やりとりを「見せる」という発想です。

なぜかというと、テレワークで失われるのは、共有される情報量だけでなく、「皆が同じものを見ている」という認知の部分が大きいからです。オフィスの中なら、あるやり取りを見た時に、だいたいの同僚も同じやり取りを見ているはずだと認識できますが、テレワークではそのメタ認知が完全に失われます。

テレワーク環境下において、メールや面談のような情報をやり取りする人同士だけが内容を見ている「手紙」型のコミュニケーションだけを行っても、上記の認知は補填できません。チャットや社内SNSなどのような「回覧」型のコミュニケーションを意識的に行っていくことが重要です。やり取りしている人同士だけでなく、周りの人もそれを「見ようと思えば見られる」状態と、「その状態にあることを皆が認識している」状態をつくり出すことが必要です。

テレワーク環境でも「雑談」をどうにかして「うまくやる」第1の道
※当日の資料より抜粋

あるいは、官僚的な組織において「お触書」型のコミュニケーションがよく見られます。上層部で決めたことを「お触書」の立て札を立てるように、イントラネットやメールで掲示・伝達する方法です。皆がオフィスにいれば「お触書」を見て、隣の人と「これどう思う?」といった雑談で咀嚼することができるのですが、テレワーク環境ではそれができにくい。このことも不安感を高める要因になります。

第1の「うまくやる」道を選ぶ場合は、なし崩し出社を避けるため、まず「面」の告知、企業・組織としての全体方針や今後の計画を伝えることが重要です。加えて、皆が同じものを見ている「場」、どうでもいい話がどこからか聞こえてくるような「場」を、ITツールなどを活用してつくり出す必要があるでしょう。また、それだけでは従来のようにはいかないので、クローズドなコミュニケーションを個別に取る「点」のケアが必要になるでしょう。社員に働き掛けるマネージャーには、観察力が求められます。

第2の道、「雑談」が必要ない組織・体制を目指す

とは言え、第1の道は結構なコストがかかる話でもあります。そこで、「雑談」の必要性を下げる道についても触れておきましょう。

テレワークに「向く」組織とはどのような組織でしょうか。「形式知」「計画」「信頼」がキーワードになります。ほとんどの業務は、遂行する上でのルールや手順が決まっていて、計画的にジョブがアサインされ、会ったことがあるとか同じ空間にいるとかではなく、信頼で仕事が進む。このような組織では、「雑談」の必要性は下がります。従って、第2の道を選んだ場合、やることは「言語化」「計画化」「固定化」です。

第2の道、「雑談」が必要ない組織・体制を目指す
※当日の資料より抜粋

スキル・知識は、属人化した暗黙知を言語化して形式知へ。さらに、デジタル化、マニュアル化を図ります。

個人の業務目標管理については、都度調整するあいまいな状態から離れ、個別目標の明確化とグリップ、相互依存性の低減、個人目標と組織目標の一致を目指します

また、雇用と職務の紐付けを強め、固定化する。これまで多くの日本企業は、状況に応じてさまざまな仕事をする多能工的ホワイトカラーに頼ってきた側面があります。そうではなく、ジョブ・ディスクリプションを整備し、誰を何の職務のために雇用するのかを明確にしていくのです。これらの取り組みによって、インフォーマルなコミュニケーションの必要性は下げられます。その究極の形は「ジョブ」型雇用であり、その方向へ舵を切った企業もあります。

第1の道と第2の道、どちらが正解ということはありません。一体感を重視して第1の道を選んだ企業はありますし、ビジョンへの共感を重視するITベンチャーが、「原則出社」という意思決定をした企業もあります。また、内部労働市場を重視し、長期にわたって人を育てる意思のある企業も、第1の道を選ぶほうがうまくいくのではないかと考えます。

逆に、スペシャリスト集団志向、ジョブ型志向、または外部労働市場を重視する企業は、「雑談」をいかにうまくやるかという考え方を捨て、第2の道を選んでもよいと思います。

重要なことは、「なし崩し」ではなく戦略的に選択すること。「まだらテレワーク」期は非常に負荷のかかる状況で、何もかもうまくやるのは簡単ではないはずです。だからこそ、企業として、または部門として、コミュニケーションの在り方を戦略的に考えて意思決定をしていただきたいと思います。

取材後記

テレワーク導入への気運は、過去に何度か訪れながらもなかなか普及しませんでしたが、今回は否応無しに多くの企業がテレワークに移行しました。今回の動きがなければ、「雑談」がこれほど私たちの職場や仕事にとって、重要な営みであることに気づけなかったかもしれません。ウイルス感染防止と経済活動の両立を図るための「まだらテレワーク」期は、長期にわたると目されています。本記事では、雑談をどうにかしてうまくやる第1の道と、雑談を必要としない組織を目指す第2の道が示されましたが、どちらを選ぶにしても早期に自社の方針を明確に決める必要があると感じました。

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取材・文/畑邊康浩、編集/d’s JOURNAL編集部