「攻めるためにしっかり守る」。divが2度の危機から見つけた、生き残る組織の法則

株式会社div

取締役CFO 石原圭

1987年、神奈川県生まれ。大学時代に公認会計士を志し、2011年に公認会計士試験に合格。2012年より有限責任監査法人トーマツにて上場企業の法定監査や成長企業のIPO支援などに従事し、2016年株式会社divに入社。会計をはじめ管理部門全般を統括し、2018年より現職。

危機を乗り越えたカギは、社員全員と理念・ビジョンを共有できていたこと
コロナの影響も早めに予測。先手を打ち、オンライン化で対応
生き残る組織に必要なのは、理念の共有とスピーディーな意思決定

新型コロナウイルスの影響を受け、多くの企業が事業戦略や採用計画の見直しを余儀なくされました。誰もが予測できなかった事態にうまく対応できた企業とそうでない企業には、どのような違いがあったのでしょうか?

株式会社divは、日本最大級のプログラミングスクール「TECH  CAMP(テックキャンプ)」を運営しています。国内各地にスクールというリアルの場を持つdivもまた危機に直面しましたが、この局面をどう乗り切ったのでしょうか――。同社のCFOとして管理部門を統括する石原圭氏に、オンラインにて取材を行いました。

攻めるために、まずはしっかりと会社を守ることが肝要」。そう語る石原氏が考える、「生き残る組織」とは。

危機を乗り越えたカギは、社員全員と理念・ビジョンを共有できていたこと

――貴社は全国各地にプログラミングスクール「テックキャンプ」を開設し、教育事業を軸とした研修サービスや転職支援などを展開していますが、石原さんの入社当時はどのような企業でしたか?

石原氏:当時は設立から4年ほどたったころで、社員は15名ほどでした。現在は社員数が600名ほどまで増えているので、大きくスケールするフェーズを過ごしてきたことになりますね。

――入社からの3年半で600名への拡大…。組織づくりにおいては「100名の壁(社員が100名を超えると、組織運営にトラブルが起きやすくなる)」という言葉も聞かれますが、貴社は組織が成長していく中で危機に直面しましたか?

石原氏:それがありがたいことに、組織づくりについていえばあまり大きな危機はなかったんです。それはなぜかと考えると、理念とビジョン、それからクレド(行動指針)が社内でしっかりと共有されていたことが大きなポイントだったと思います。

こうしたカルチャーの浸透は多くの企業で意識されていることだと思いますが、divの場合はより徹底しています。たとえば社員は毎日全社員が参加する「朝会」または「昼会」を行っています。およそ30分をかけて、日々を振り返りながら、曜日ごとに5つのクレドに沿った行動や個人の想いを書き出し、メンバーが持ち回りでスピーチを行います。

(divホームページより)

――毎日30分ですか 、かなり徹底されているんですね。

石原氏:それらとは別で月次総会や年次総会もあり、全社員が集まって、divのカルチャーを確認し合う場として活用されています。しかし社員への理念の浸透に最も役立っているのは毎日の朝会・昼会でしょう。

定期的に催される総会でカリスマ性のある社長がメッセージを贈る、というのもモチベーションを上げる働きはありますが、あくまで一時的なもの。それを維持するために、毎日の行動にdivのクレドを落とし込んでいく習慣をつけ、日々積み重ねることがとても重要だと考えています。

これは採用時にも強く意識していて、理念やビジョンへの理解と共感は、絶対に妥協しないと決めています。採用活動をしていると、多少理念への共感が浅くても「この人はとても優秀だな、入社してほしいな」と思うことはあります。でも、そこは妥協せず、理念への共感が薄い人は採用しない。僕たちは理念のもとに集まって、お客さまの人生を変えるために仕事をしているからです。そこがブレてしまうと、組織は弱くなってしまう。

――社員が理念やビジョン、そしてクレドを共有し、自分事にできていることで組織が強くなるんですね。その大切さを実感されたのはどんなときでしたか?

石原氏:2017年の夏に陥った経営危機でしょうか。テックキャンプの事業が好調だったので、さらに大きくしようと出店や採用に注力した時期があるのですが、想定通りに伸びなくて…。

売上が予想を下回る店舗も生まれ赤字が出始め、苦しい時期に突入しました。このときは教室もいくつか閉鎖し、社内にも希望退職を募り、50~60名いたメンバーが30名ほどまで減りました。

――そうした困難な状況で、石原さんはどのような役割を担ったのですか?

石原氏:当時はまだCFOという立場ではありませんでしたが、管理部門統括として資金調達やコストカットを進めていきました。一方で、代表の真子や他の役員が、売上を伸ばす手段を考えることに尽力して…と、役割を分担しました。会社の地盤を固める“守り”の役割と、会社を成長させる“攻め”の役割のようなイメージですね。

 

(写真右:代表取締役 真子就有氏)

――貴社はサービスごとに責任者を配置するのではなく、各部門が全てのサービスを一貫して担当する「機能別組織」のスタイルをとっていますが、これはどのような理由があるのでしょうか。

石原氏:これもちょうど2017年ごろに生まれたスタイルですね。それまではdivもサービス単位で組織形成をしていましたが、先ほどの話の通り人員を大きく減らしたこともあって、リソースが足りない部分が出てきました。

そこで、今あるリソースでどのように会社を動かしていこうかと考え、たどり着いたのが「機能別組織」です。つまりマーケティング部門は全サービスの集客を行い、運営部門は全サービスの運営を担う…というように、サービスの垣根をなくしてひとつの部署が全てのサービスを担当する方法に切り替えました。

――「機能別組織」にしたことで、どんなメリットがありましたか。

石原氏:最も伸びているサービスに人的リソースを集中させるなど、サービス間でリソースを効率よく回せるようになったことは大きいですね。またサービス同士に横串を通したことで、受講生の方に他のサービスの紹介をしやすくなったり、サービス間で連携をとれたりといったメリットが得られました。教養として学ぶライトなスクールを受講した方に、次のステップとしてプロのエンジニア育成のスクールを受けて頂く…という動きもつくれますし、サービス間にシナジーが生まれましたね。

コロナの影響も早めに予測。先手を打ち、オンライン化で対応

――今回の新型コロナウイルスの影響は、どのような所に表れましたか。

石原氏:まずはダイレクトに、教室運営に響きました。緊急事態宣言が発令されて以降は弊社サービスでも教室の営業自粛を行いましたが、リアルの場である教室については、やはり新規の受講申し込みが減少するといった影響がありましたね。緊急事態宣言が解除されてからも事態が長期化することを見込んで、カリキュラムを全てオンラインに切り替え、動画で受講できるようにしました(現在は一部教室を再開)。「まだ教室へ行くのは不安」という声もいただいているので、今後もオンライン受講ができる仕組みづくりは続けていきたいです。

(div提供/丸の内校)

もう一点、社員の働き方への影響がありました。それまでは基本的に全員が出社するスタイルでしたが、コロナの流行とともに全社リモート勤務へ移行して、朝会などもオンラインでできる形へアレンジしました。

また、在宅ワーク支援として、デスクや周辺機器の購入など作業環境を整えるための手当や、「オンライン飲み」をはじめとしたチーム内でのオンラインコミュニケーションにも手当を出しています。

――この状況で手当などのサポートがあると、社員のみなさんの心理的安全につながりそうですね。採用面には、影響はありましたか。

石原氏:ここ最近は毎月数十名規模での採用を行っていましたが、コロナが流行し始めた時点で集客面に影響が出ることが予測できたため、すぐに事業計画と採用計画を見直しました。現在は、必要なポジションに絞って採用を続けています。

――コロナを受けて気づいた点や、今後のアップデートに活かせそうなことはありましたか?

石原氏:社員のリモート業務への移行は非常にスムーズに進められ、大きなトラブルや不満の声が上がることもなかったので、そこは評価できる点ですね。

一方で、数値化できない「リアルの場で集まる価値」を改めて感じる機会になりました。目的を持って集まるオンラインでのやりとりからは、ちょっとした雑談や廊下ですれ違ったときの何げない会話が生まれることがないんですよ。

でも、クリエイティブなアイデアは、こうした偶発的なコミュニケーションから生まれることも少なくないはずです。リアルの場があるからこそ得られるものの価値は大きいものだなと、改めて感じました。

生き残る組織に必要なのは、理念の共有とスピーディーな意思決定

――貴社は2017年の経営危機を乗り越え、そして今回のコロナショックではスピーディーな対応によって影響を最小限にとどめています。改めてお伺いしたいのですが、危機的状況でも生き残る組織とは、どんな組織だと思いますか?

石原氏:理念やビジョンがしっかりと浸透している組織です。たとえば給与や条件面に惹かれて入社したメンバーは、その待遇が得られなくなったときに会社に残る理由がなくなります。でも、理念やビジョンは会社がある限り存在し続ける。「自分が何のためにこの会社に集まり、仕事を通じて何をしたいのか」を、全員がはっきりと意識できている組織は強いと思います。

弊社も2017年に危機を経験しましたが、当時残ってくれたメンバーもその後はほとんど誰も辞めずにここまで来られました。経営危機に直面し、メンバーにとっては不安もあったはずですが「今できる最高のサービスで、お客さまの人生を変えたい」という想いを全員が持っていたからこそ、乗り越えることができたと思っています。

――理念やビジョンの浸透は、一朝一夕で成し遂げられることではありません。それこそ貴社のように、日々の地道な積み重ねが大切です。現状で危機的状況に弱い組織が、まずできることはあるのでしょうか…?

石原氏:すぐできることは、意思決定のスピードを上げることではないかと思います。divでは経営会議を毎朝行っています。経営会議なんて週に1回でいいのでは…と思われるかもしれませんが、そのときに出た議題について「では1週間後に改めて話し合いましょう」では遅いこともある。

毎朝、代表を含めた役員全員が話し、すぐに物事を決定していきます。コロナの影響が見え始めたときにもリモートへの移行や講座のオンライン化、各種手当の整備などはとてもスピーディーに決まりましたし、危機に対して先手を打つことができました。

(div提供/2020年6月、東京都渋谷区にオープンした新オフィス)

もっと長期的な経営を考えるにしても、たとえば不採算店舗を閉めるかどうかの判断は早いほうがいい。人間、シビアな判断をするのはストレスが大きいので「あと1カ月だけ様子を見よう」と決断を先延ばしにしてしまうこともありますが、それがマイナスに作用してしまう場面も少なくないはずです。

――経営陣やリーダーとして、シビアな決断を迫られるのがつらいという気持ちは誰にもありそうです。石原さんはCFOとして、どのように決断をしているのですか?

石原氏:もちろん、大きな改革を決断するには勇気がいりますが、2017年の危機のときには、躊躇せずやれることを全てやりきったから乗り越える事ができました。

そのときに感じたのは「中途半端にやるのはもっとよくない状況を招く」ということ。決断を先延ばしにしたり、バランスをとってうまくやろう…と考えたりしているうちに、状況はどんどん悪化していきます。「ここまできたら決断する」という区切りを決めておくことが、危機に強いスピーディーな意思決定の助けになります

また、いざ「危機が起きた!」となれば意思決定のスピードが問われますが、そうでないときには攻めと守りのメリハリをつけることを大切に考えています。経営が好調なときはどんどん攻めるべし、という考えもありますが、安心して攻めるためにも、守りはとても重要なんです。

チャンス時に思い切って動くために、普段から資金調達を安定的に進めておく。あるいは、組織の成長の先で必要になる部署にあらかじめ人員を集め、仕組みを整えておく。そうした“守り”がしっかりとできているからこそ、思い切りアクセルを踏める組織になれるのだと思います。

取材後記

メンバーが理念のもとに団結し、ビジョンの実現を目指すチームとして機能することで、ピンチを乗り越えられたというdiv。現在在籍している社員だけでなく、採用時から徹底した理念への共感を求めることで、入社後のミスマッチもなくすことができるといいます。

「売上を伸ばす“攻め”の手段を考えるのは代表や他の役員。自分は管理部門として組織の地盤を固める“守り”の役割を果たす。攻めるためにはまずしっかりと守ることが必要です」。CFOとして会社の未来を予測し、divの成長を支えてきた石原さんの言葉が印象に残りました。

取材・文/藤堂 真衣編集/檜垣 優香(プレスラボ)・d’s JOURNAL編集部