オンライン環境にも左右されない、「自走力」のある人材を採用・育成する方法とは
リモートワーク下の人材採用・育成について、たくさんの企業がベストプラクティスを探しています。本記事では、どんな環境にも左右されない、「自走」する人材の採用・育成についてのノウハウをお届けするために、コスメブランド「肌ナチュール」など、D2C(Direct to Consumer)×サブスクリプション事業を手掛ける株式会社Waqooの人事責任者・高谷淑恵氏にお話を伺いました。
人事領域において、新卒・キャリア両方の採用をはじめ、制度設計、労務、総務業務など幅広く管轄している同氏ならではのお話に注目です。
「自走力」が高い社員が多い理由
――Waqooのビジョンや理念、カルチャーに込められた意味を教えてください。
高谷氏:まずは、弊社のビジョンである「世界史の教科書に載るような偉大な事を成す」について説明しますね。途方もなく壮大なビジョンです(笑)。普通だったら、このようなビジョンを掲げるには勇気が必要ですよね。しかし代表の井上は、このビジョンを少年のようなキラキラとした瞳で、雄弁に語ります。このビジョンは、Waqooの根幹であり、全ての活動がこれを基軸に行われます。
弊社のカルチャーは社名にもあるように「ワクワク」を大切にすることです。みなさんは、どんなときにワクワクしますか?弊社では、ワクワクを「新しい自分に出会い続ける生き方(≒成長し続ける)」と定義しています。今日できなかったことを、明日はできるようにする。このような「限界突破の連続」が、成長の本質だと捉えています。
Philosophy(理念)
社員全員が自分の生きる意味を理解し
世界で一番ワクワクしている社員が
世界で一番ワクワクする商品サービスを世の中に提供し
利害関係者全員を幸福にしたいと
心の底から真剣に想い・考え・行動し続ける
集団を目指します
ビジョンはいわば「ゴールテープ」です。そこに辿り着くためには、正しい方向を示す「指針」が必要ですよね。その役割を担うのが「理念」です。弊社の理念の特徴は、主語が「I(自分)」で始まるところです。社員一人一人に「自分の生きる意味」について本気で考え抜くことを求めており、これによって社員は「目指すべき場所」と「そこに到達する方法」を認識します。そしてそれらを行動に移して「コト」で体現してもらいます。
――ビジョンを掲げることは、実務上どのようなメリットがありますか?
高谷氏:ビジョンがあることによって、社員の「目的意識」が高くなります。私自身の話ですが、目標を設定するときに「その目標って、高過ぎません?」と言ったことが何回もあります(笑)。でも、Waqooのビジョンが自分たちよりも遙かに高い所にあるのだから、少しの努力で達成できることを目標にしていたら、決してそのビジョンを達成することはできませんよね。ビジョンがあることによって、社員一人一人が高い視座を持って「コト」に向き合うことができるんです。それは売上や利益などの数値に直結すると考えています。
――リモートワークに移行したことで、これまでのビジョンやカルチャーに沿った組織の在り方は変化していますか?
高谷氏:ほぼ影響は受けていません。その理由の一つとして考えられることは、弊社社員の「自走力」が高いことです。なぜ、社員の「自走力」が高いのかを掘り下げると、Waqooでは「どうして(Why)?」と問われる機会が多く、自分の頭で考える癖が自然に身に付くからですね。従って、リモートワークに移行してからも、質の高いアウトプットを出し続けることができています。
もちろん社員の「自走力」に頼り切るのではなく、それを支えるためにコミュニケーションにおける工夫もしています。これに関しては、後ほど詳しく述べますね。
――選考もオンラインに移行されていると伺いました。オンライン面接に難しさを感じることはありますか?
高谷氏:結論から言うと、難しさはあります。オンライン面接では、対面と比べて応募者の力量を「7割」ほどしか見極められないと思います。理想を語るだけなら、誰でも練習すればできちゃいますからね。だからこそ、弊社の採用では「言行の一致」を大切にしています。
採用候補者の本質を見抜くために必要な「言行の一致」
応募者の「言行の一致」を見極めるために、選考フローに「アウトプットの機会」を多く取り入れるようにしています。たとえば、今年のサマーインターンシップの選考フローは6回もあり、その中に「グループディスカッション」と「JOB選考(1-day)」を、含んでいます。
また、「オンラインインターンシップ合宿(3日間)」では、コンテンツを3カ月以上かけて準備しました。結果としては、とても上手くいったと考えています。
――選考にアウトプットの機会を設けることで、「自走力」が備わっている人材を採用できるという意味でしょうか?
高谷氏:はい、社員は数多くの選考フローをくぐり抜けているので、「自走力」が備わった状態で入社しています。リモートワークになっても、質の高いアウトプットを出し続けられるのは、社員一人一人が自分のやるべきことを理解して自走できているからだと思っています。
オンラインで「没入感」を出すために必要な2つのこと
――「基本、オール挙手制」や「全社員に、採用権」をはじめ、さまざまなユニークな取り組みをされていますよね。その一方で「これは上手くいかなかった」という取り組みはありますか?
高谷氏:Waqooの「自由」「挑戦」「アットホームだけれど成果主義」といった特徴、「癖」みたいなものを全面的に出さずに、一般的にベンチャーが魅力的と思われる「挑戦と安心」を打ち出したことがあります。すると、「ベンチャーに興味はあるけれど、不安定な仕事は嫌だ」という人からのエントリーが増えました。結果として、選考の過程で「Waqooでやっていける自信がない」と言って、ほとんどの応募者がいなくなってしまいました。つまり、Waqooに入社する「覚悟」を持ってもらうことができなかったんです。良く見せようとした結果、見事にコケましたね(笑)。
この経験から学んだことは「一般的に良いと言われていることより、人によって好き嫌いが分かれることを、あえて主張する」ことの大切さです。たとえば「基本、オール挙手制」は、人によっては「いや、別に手を挙げたくないし」となるじゃないですか(笑)。でもWaqooの「癖」の強さ、「エッジ」を全面に押し出す方が、弊社が求める人の心に届くんですよね。
このような方針に変えたのが3年ほど前です。それ以来、新卒・キャリア採用ともに少しずつ口コミによる紹介が増えて、確かな手応えを感じています。実際に、今年のサマーインターシップのエントリー数は、前年比「4.5倍」になりました。また、採用サイトを、半年以上かけて今年8月にリニューアル。D2Cのトレンドも追い風になっています。これからWaqooにどのような人材が応募してきてくれるのか、非常に楽しみにしています。
オンラインコミュニケーションに必要なのは「没入感」
――成功を収めたオンライン開催のサマーインターンシップでは、どのような工夫をされたのでしょうか?
高谷氏:どうやって「没入感」を演出するかに尽きます。オフラインだと物理的に非日常の体験をさせることができますが、オンラインでは一歩離れたら自分の部屋ですからね(笑)。「没入感」を演出するために重要なことは、「参加者の本気度を上げるための工夫」「参加者による意志決定の機会の創出」の2つです。
1つ目の「参加者の本気度を上げるための工夫」では、3つのことを意識しました。まずは、選考フローで「信頼関係」を築き上げることです。次に、本番に向けた「事前準備」をしてもらうこと。最後に、リアルさを感じさせる「雰囲気づくり」です。具体的には、直筆のメッセージやチームTシャツをつくって、参加者に郵送しました。
2つ目の「参加者による意志決定の機会の創出」では、彼らの投票に基づいてチームをつくり、リーダー以外の役割も自分たちで決めてもらいました。その際のポイントは、彼らの意志を尊重して、きちんと評価していることを実感してもらうことですね。ただ、こちらの事情としては、オペレーションが煩雑になり、すごく大変でした…。次回はもっと効率化を図ることが課題です。
――オンライン研修や、選考のヒントにもなりますね。「没入感」の演出は、大変参考になります。
社員の「自走力」をオンラインでもしっかり支える目標設定の方法
――Waqooの目標設定は具体的にどのようなプロセスで行われていますか?
高谷氏:最初にすることは「あるべき姿」を明確にすることです。具体的には「会社のビジョン→事業部のビジョン→チームのビジョン→個人のビジョン」という流れで、それぞれにおいて一貫性と整合性を保てるように、話し合って決めます。なお、弊社は「四半期評価」を採用していて、3カ月に一度「定量目標」と「定性目標」を定めています。
自分の頭で考える機会をどれだけ提供できるか
――「四半期評価」を導入した背景を教えていただけますか?
高谷氏:弊社の事業スピードが早いため、半期での評価だと「半年前」と「半年後」で状況が大きく異なり、それに伴って目標も変化してしまうんです。目標が変化すると、それを達成できなかったときに「だって目標変わったじゃないですか」と、言い訳ができてしまう。そのため、四半期評価を導入しました。その結果、社員が自分の目標について考える機会が増えて、「自走力」を鍛えることにもつながっていると感じています。
――リモートワークにおいて、コミュニケーションを円滑にするために、工夫していることはありますか?
高谷氏:社員の「自走力」をより高めるために、コミュニケーションの量と質を向上させるよう試行錯誤しています。基本的には、オンラインでも社員同士が顔を合わせる機会を多く設ける方針です。たとえば、チーム毎にコンテンツ内容は任せていますが「朝会と夕会(日次)」を新しく導入しました。また、社員総会(月次)はオンラインでも継続して、各事業の進捗を社員に共有しています。その場で、オンライン表彰式も行っています。また、最近では「元気です会?」という取り組みを始めました(笑)。
――面白い名前ですね(笑)。「元気です会?」では何をするんですか?
高谷氏:社員によるLT(※)をはじめZoomのブレークアウトセッションを活用して、レクリエーションやワークショップなどを行っています。コミュニケーションの「密」をリモートワークでも実現するために始まった企画です。Waqooのビジョンを達成するために、これからも「ワクワク」するような取り組みを、どんどん実現していきたいと考えています。
(※)ライトニングトーク、短いプレゼンテーションのこと
取材後記
Waqooのコーポレートサイトを訪れると、さまざまな「カタカナ英語」を見つけることができます。たとえば、ミッションやプリンシプル、アイデンティティなどです。私は「カタカナ英語」にアレルギーを持つ人たちがいることも知っていますが、その賛否は、果たして本質的なものかとよく思います。大事なことは「形式」ではなく「中身」ではないでしょうか。
高谷氏は、インタビューで「Waqooは本質を大事にする会社だ」とおっしゃっていました。Waqooの「人によって好き嫌いが分かれることを、あえて主張する」という姿勢の取り組みは、奇をてらっているように映るかもしれません。しかし、高谷氏とお話を伺って、それらの背景にある「哲学」はとても洗練されていると思いました。
コロナ禍では、あらゆることが「不確か」です。このような状況を乗り越えるには、本質を見極めてから行動に移すことが求められます。まさに「自走力」です。暗闇を走り抜いた先に何があるのか?「ワクワク」しながら楽しみましょう。
取材・文/師田賢人、撮影/安井信介、編集/野村英之(プレスラボ)・d’s JOURNAL編集部