パタハラとは?事例から見る実態と、企業における予防対応方法
d’s JOURNAL編集部
パタハラとは?具体的な定義と起こる原因・対策を解説
従業員が快適に働ける職場環境をつくるためには、事業主や管理者がハラスメントに対する理解を深め、社内で発生しないような措置を講じることも大切です。「パタハラ」とは、育休の取得申請などをめぐって発生するハラスメントであり、近年急速に認知が広がっている言葉でもあります。
この記事ではパタハラの意味や起こる原因、企業の責任について解説します。また、パタハラを予防する方法や、発生してしまったときの対処法もあわせて見ていきましょう。
パタハラとは
出産や育児に関する女性へのハラスメントである「マタハラ」は、女性の社会進出にともなって広く浸透するようになった言葉です。さらに近年では、育児と仕事の両立をする男性へのハラスメントである「パタハラ」という言葉も使われるようになっています。
ここではまず、パタハラの概要や現代社会で注目されている理由について見ていきましょう。
パタハラの概要
パタハラは正式名称を「パタニティハラスメント」といい、父性を意味する「パタニティ」と不当な嫌がらせを意味する「ハラスメント」を組み合わせた言葉です。男性従業員が育休や時短勤務を希望した際に、職場で受けるさまざまな不利益の総称をパタハラと呼んでいます。
具体的には、次のようなケースがパタハラに該当するとされています。
パタハラの具体例
・男性従業員が育休の取得を申請したにもかかわらず認めない
・育休明けの男性従業員に対してわざと仕事を与えない
・男性従業員に対し、育休の申請を原因として降格や減給などの不利益な処分を行う
・「同僚や上司に迷惑がかかっている」などと発言し、育休の取得を諦めさせる
・育休や時短勤務の男性従業員に対して嫌味を言う
パタハラが注目される理由
パタハラが注目される時代背景には、子育てに対する社会的な価値観の変化が挙げられます。かつての日本では「男性が外で働き、女性が家を守り子どもを育てる」といった性別による役割分担が主流であり、どちらかといえば、男性は仕事に全力投球するのが一般的とされてきました。
しかし、現代では女性の社会進出が推進され、「男女ともに仕事をし、協力して子育てをする」という考え方が当たり前になりつつあります。「令和5年版厚生労働白書」によれば、共働きの子育て世帯は2000(平成12)年ごろを境に急増しており、2022(令和4)年では「共働き世帯が1,262万世帯」であるのに対し、「男性雇用者と無業の妻からなる世帯は539万世帯」と大きな開きがあります。
年次推移を見ると、1980(昭和55)年ごろは現在と正反対に「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」が共働き世帯の2倍近くありました。しかし、1990(平成2)年ごろには両者の差がなくなると、2000年前後からは両者の割合が逆転しており、現在では統計の70%以上が共働き世帯となっています。
共働きがメジャーなスタイルになったことで、男性の育児参加に注目が集まり、それに合わせてパタハラという概念も広まっていったといえるでしょう。
(参照:『令和5年版 厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-』図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移 )
マタハラとの違い
「マタハラ」はマタニティハラスメントのことであり、妊娠・出産・育児に関するハラスメント行為のことを指します。パタハラとの違いは、対象が男性か女性かといった点のみであり、内容についてそれほど大きな差はありません。
なお、妊娠や出産に関する性的な言動を通じた嫌がらせは、マタハラではなくセクハラとして区別するのが一般的です。
パタハラが起こりやすい原因
社内におけるパタハラの発生を防ぐためには、どのような経緯で起こってしまうのか、そのメカニズムを把握しておくことが大切です。ここでは、パタハラを生み出す原因を3つに分けてご紹介します。
アンコンシャスバイアスによるもの
パタハラにつながる代表的な原因として、「アンコンシャスバイアス」が挙げられます。アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに起こる偏ったものの見方のことです。
例えば、性別に関するアンコンシャスバイアスは、「親の転勤で引っ越す」と聞くと、無意識のうちに父親の転勤であると思い込んでしまうといった具合です。男女に関するアンコンシャスバイアスは、女性活躍が推進される現代では、特に女性に不利益を与えるものとして注目されてきました。
一方で、「男性は外で働き、女性は家庭を守るもの」という固定観念は、育児との両立を考える男性従業員にも影響を与えるようになっています。職場におけるアンコンシャスバイアスへの理解が浅ければ、「男なのに育休が必要なのか」「家で奥さんが見てくれないのか」といったパタハラに該当する発言を受けてしまう可能性もあるでしょう。
(参考:『アンコンシャスバイアスとは?組織への悪影響について具体例を用いて解説! 』)
育休制度などへの理解不足
男性の育休制度については、2022(令和4)年に施行された改正育児・介護休業法によって大きく変化した面があります。比較的に新しい制度であることから、社内において、そもそも男性の育休に関する周知などが十分に行われていないというケースも少なくありません。
育休の相談を受けた上司や管理職者に正しい知識がなければ、適切な対応が行えず、知らず知らずのうちにパタハラをしてしまうおそれもあるでしょう。
フォロー体制の未整備
社内におけるフォロー体制の未整備もパタハラを生み出す原因となります。すでに人手不足や長時間労働が慢性化している場合、育休を申請すればどこかにしわ寄せがいってしまうため、なかなか相談できないというケースも考えられます。
既存の従業員が欠ければ、ギリギリの人員で不足した労働力を補わなければならないため、ストレスから周囲がパタハラに該当するような発言をしてしまう可能性もあるでしょう。
パタハラは法律によって禁止されている
社内にパタハラが発生すれば、人間関係や労働意欲が悪化してしまうだけでなく、企業に法的な責任が生じる可能性もあります。例えば、育児・介護休業法第10条では、育休の取得申請をした従業員に対する事業主の「不利益な取り扱い」が禁止されています。
不利益な取り扱いの例
・解雇
・降格
・雇用形態の強制的な変更
・減給
・不利益な人事評価
・不当な配置転換
・出社禁止、自宅待機の強制
また、育児・介護休業法第25条では、事業主と労働者のそれぞれに「パタハラやマタハラを防止するための責務」が課されています。
育児休業等に関するハラスメントの防止措置
事業主の責務
・育児休業等に関するハラスメントの内容や原因、背景、ハラスメントを行ってはならない旨などの周知を徹底する
・ハラスメントが行われた場合は厳正に対処する旨の方針を明らかにする
・相談に対応するための必要な体制を構築する
・ハラスメントが起こった場合は迅速かつ適切に対応する
・社内におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消する
労働者の責務
・育児休業等に関するハラスメント問題への関心と理解を深め、ほかの労働者に対する言動に注意を払う
・事業主の構ずる措置に協力する
このように、事業主はパタハラが起こらないように必要な体制を整備し、従業員へ周知徹底していく責務を負っています。防止措置については特に罰則規定はないものの、行政指導の対象となったり、悪質な場合は会社名公表などの処分が下ったりする可能性もあるので注意が必要です。
男性の育休の取得状況
厚生労働省の「令和4年度 雇用均等基本調査」によれば、2020(令和2)年10月から2021(令和3)年9月末にかけての1年間で、育休を取得した男性従業員がいた事業所の割合は、配偶者が出産した男性従業員を雇用する事業所全体の24.2%であったと示されています。つまり、4社に1社程度の割合で、男性の育休取得が実施されているという計算です。
この数値は、前年度の18.9%と比較すれば改善傾向にあると判断できますが、女性の育休取得と比べると大幅に遅れています。また、従業員個人で見ても、配偶者が出産した男性のうち、育休を取得した者の割合は17.13%となっており、それほど高い数値ではありません。
データを見ると、男性の育休に対する考え方は変わりつつあるものの、現状としてはまだあまり取得が進んでいないという実情が把握できます。
(参照:厚生労働省『令和4年度 雇用均等基本調査 事業所調査 結果概要 』)
パタハラを防止するための取り組み
パタハラを防止するためには、原因に合わせて適切な対処法を検討する必要があります。企業として行うべき取り組みとして、4つの施策をご紹介します。
育休制度を整える
パタハラを防止するためには、社内の育休制度を整え、スムーズに取得できるような体制を構築するのが基本です。これまで男性従業員が育休を取得するという文化がなかった企業では、そもそも育児にともなう男性の休業が想定されていないというケースも多いです。
十分な社内制度が整備されていなければ、男性従業員の育休に対する周囲の理解が不足し、パタハラが起こりやすくなる可能性があります。そのため、パタハラを防止するには男性育休の社内制度化を進め、会社や組織としての方針を明らかにするのが近道です。
取り組みを進めるうえでは、単に制度を立ち上げるだけでなく、具体的な条件や期間などを定める必要があります。育休の取得条件や取得可能な期間などを就業規則に明記したうえで、全社に周知徹底し、「男性従業員でも問題なく育休がとれる」という文化をきちんと浸透させましょう。
啓蒙活動を行う
前述のように、パタハラは上司や周囲の認識不足によるアンコンシャスバイアスによって引き起こされるケースも多いです。時代の変化に追いつけず、従来の認識をなかなか改められない従業員が多ければ、結果としてパタハラが起きてしまう可能性は高まります。
こうした事態を防ぐためには、出産・育児に対する会社の姿勢やあり方、ハラスメントのリスクなどについて、しっかりと周知させることが大切です。例えば、厚生労働省が運営するポータルサイト『あかるい職場応援団 』で公表されているハラスメント対策研修動画などを活用し、従業員がきちんと学べる機会を提供するのも一つの方法といえます。
また、経営者のスタンスとして、男性の育休取得や育児参加を推奨するメッセージを社内外へ発信するのも効果的です。さらに、実際に育休を取得した従業員の声も紹介すれば、安心して育休取得を検討できる社風を構築できるでしょう。
相談窓口を設置する
育児・介護休業法では、マタハラ・パタハラの防止措置として、相談できる体制の構築が事業主の責務として挙げられています。厚生労働省の委託事業として行われた「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、育児にかかわる制度を利用しようとした男性従業員のうち、実に24.1%がパタハラを受けたという回答結果が示されています。
さらに、パタハラ防止に向けた対策が十分に行われていない企業では、「本当は育休を取得したいものの言えずに我慢する」「パタハラ行為を受けているにもかかわらず、誰にも相談できない」といった男性従業員がいる可能性もあるでしょう。こうした状況を防ぐためには、社内に相談窓口を設けるのが有効です。
相談窓口が第三者的な機関として機能していれば、従業員は直属の上司や周囲のメンバーの目を気にすることなく、安心して育休の相談が行えます。また、実際にパタハラを受けている場合も、窓口が介入することで解決の糸口を見つけやすくなります。
(参照:『令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書 (概要版)』)
労働環境を改善する
「長時間労働や残業が横行している」「有給休暇さえ取得が進んでいない」という状況では、男女を問わず育休の取得を難しく感じてしまいます。パタハラを防止するためには、労務環境の改善に着手し、育休を取得しやすい環境づくりをすることも重要です。
具体例としては、「業務効率化を図って社員の負担を軽減する」「管理職者が率先して育休を取得する」といったものが挙げられます。また、社内における価値観を変革するうえでは、「仕事と育児を両立している従業員を社内で表彰する」といった取り組みも効果的です。
パタハラが発生した場合の対応策
万が一社内でパタハラが発生したときには、被害の拡大を防ぐためにも、速やかに対応する必要があります。ここでは、パタハラが起こった場合の対処法をご紹介します。
事実関係を確認する
パタハラの報告を受けた場合には、まず事実関係を正確に確認する必要があります。ハラスメントには、個人の感情などデリケートな要素も多分に含まれるため、どうしても情報に偏りが生じてしまうおそれがあります。
正しい処置を行うためにも、当事者をはじめ周囲からも情報収集を行い、詳しい事実関係を把握することに努めましょう。
被害を受けた従業員のケアを行う
パタハラの事実を確認できたら、実際に被害を受けた従業員のケアを行う必要があります。「育休の取得を拒否された場合には、希望通りに育休を取得してもらう」「不当な処分を受けた場合はその処分を取り消す」など、まずは制度上の不利益を解消することが大切です。
そのうえで、ハラスメントによって精神的な苦痛を味わっていた場合は、相談窓口や社内の産業医などの協力を得て、心理的な支援も同時に行いましょう。
パタハラを行った従業員への対応
ハラスメントの処置では、実際にハラスメント行為をした従業員への対応も重要となります。再び同様の被害を生み出さないためにも、ハラスメントの事実を踏まえて適切な指導を行い、正しい理解を促進することが大切です。
また、行為の重大性によっては、就業規則に則って処分を行ったり、配置転換をしたりしなければならない場合もあります。この場合は、むやみに例外を設けず、定められた規則に沿って的確に判断する必要があります。
再発防止策に取り組む
再びパタハラを発生させないためには、その原因を解明して、再発防止策の実施に取り組むことも大切です。どのような経緯でパタハラが起こってしまったのか、従業員の日ごろの言動やそのとき精神状態、抱えていた業務量などにも目を向けて、総合的に原因を究明していきましょう。
社内で起きた事例はデータとしてきちんと記録し、原因を明らかにしたら、改めて社内に周知することも大切です。特に育休の申請を相談されることが多い管理職者などには、ハラスメントに対する正しい知識を身につけてもらうためにも、丁寧に事例の共有を行いましょう。
まとめ
社会的には男性の育休取得が推進される一方で、個々の企業ではなかなか理解が進まず、対応に遅れてしまうといったケースも多いのが現状です。しかし、その状態を放置すれば、パタハラによって大きなトラブルに発展するリスクもあります。
まずはパタハラが起こる原因を正しく理解し、どのように社内の制度や文化を変えていくべきなのかを検討することが大切です。啓蒙活動の実施や相談窓口の設置などを行い、ハラスメントが起こらないような仕組みを整えましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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