【弁護士監修】2018年問題はどう対応すべきか?派遣社員や契約社員への影響は?

弁護士法人レセラ四ツ谷法律事務所 第一東京弁護士会所属

中島 英樹(なかじま ひでき)弁護士【監修・寄稿】

プロフィール

労働契約法の改正により、2013年4月1日以降に有期労働契約を締結・更新した場合、2018年4月1日以降、労働者は使用者に対して無期転換を申し入れることが可能となりました。また、労働者派遣法の改正により、2018年10月1日より、派遣社員は同一の部署で働けるのが3年までとなりました。
これらにより契約社員や派遣社員など非正規で働く人を取り巻く環境が大きく変わります。本記事では「2018年問題」の内容をかみ砕いて詳しく解説するとともに、対象となる雇用形態や対応方法、さらにはNG対応例などを弁護士監修のもと詳しく解説していきます。

有期労働契約の在り方が変わる「2018年問題」とは?

2018年問題とは、政府が正規雇用を増やし格差を是正するために打ち出した、労働契約法・労働者派遣法の2つの法改正施策によって発生する雇用問題のことを指します。例えば、このことによって、人件費などコスト増大を余儀なくされる企業が雇い止めを行うなど、かえって労働者に負担のある結果になるのではないかという疑念や懸念が予想されています。
具体的には、どのような点が変更になったのでしょうか?ポイントを絞って、順に確認していきましょう。

労働契約法、労働者派遣法の何がどう変更となったのか?

変更点①労働契約法改正により、有期労働契約を締結・更新してから5年で無期雇用への転換申入れが可能に

2012年に改正された労働契約法で、2013年4月1日以降に有期労働契約を締結、もしくは更新した場合、2018年4月1日から、労働者は無期雇用への転換を申し入れることができるようになり、企業はこれを受け入れる必要がでてきました。企業側はこの転換を断ることはできません。

これにより労働者は雇用の安定が図れるようになったものの、企業はコスト負担の増大が懸念されることとなります。また、この申し出により企業は次回も更新をすることへの受け入れと次回は無期の労働契約を締結(正社員とは別)することに同意することとなり、仮にこの規定に反した場合、約束を破ったことに関する責任を金銭で支払うなどの義務が発生する可能性がでてきます。(民事上の債務不履行責任を負う)

変更点②労働者派遣法により、同じ派遣社員を同一の部署へ派遣できる期間は3年が限度に

2015年に改正された派遣法では、2018年10月1日より、同じ派遣社員が同一の部署へ派遣できる期間は3年が限度となります。(ただし、派遣会社に直接、無期雇用されている場合や60歳以上の場合は適用がない場合など、いくつか例外があります)これにより、企業としては必要な部署に必要な人材を留めておくことが難しくなる恐れがあり、新規雇用のリスクと教育コストの増大が懸念されます。なお、同一の部署であるか否かは、原則、派遣先と派遣元の判断によりますが、実際の業務の内容や指揮命令系統など、複合的な事実から判断されることになり、仮にこれに反した場合は、派遣法違反となるため、派遣元及び派遣先の事業主が是正に関する文書指導や会社名を開示されるなどの行政処分を受けるケースがありえます。

変更点③同一の派遣先の事業所において、派遣受入可能な期間は、原則3年に

同一の派遣先の事業所で、派遣の受け入れができる期間は、原則3年が限度となります。なお、派遣先が3年以上受け入れたい場合は、派遣先の過半数労働組合等からの意見を聞く必要があります。派遣先が延長手続きをしていない場合、2015年9月30日以降の派遣契約を対象として、2018年9月30日から派遣を受け入れられなくなるので注意が必要です。

企業はどんな対応が必要?まずは何からやるべき?「2018年問題」対応の3ステップ

企業はどんな対応が必要?まずは何からやるべき?「2018年問題」対応の3ステップ
企業がとるべき対応方法には、どのようなものがあるのでしょうか?まずは、やるべきことを分解して、検討していきましょう。

ステップ① 対応が必要な有期労働契約者の人数や契約更新時期を把握

まずは、社内の全体像を把握することが大切です。例えば、対象となる人の人数や更新回数、また、どのくらいの期間、どのような業務を担当しているのかを、人単位で整理する必要があります。人ごとにどのような対応が必要で、どのような順で対応すべきか、全ての情報を、まずは机上のせ見える化したうえで、対策を考えることが必要となります。

ステップ② 無期転換時のルールを検討

次に、無期転換時のルールを制定しましょう。無期転換は単純に期間を無期に変更すればいいというわけではありません。これまで、有期契約をされていた方の多くは、契約の更新時に昇給や福利厚生の適用を検討されていたと思います。これを無期の契約にした場合、どのようにしていくのか?といった、具体的なルールを検討していく必要があります。また、労働条件を不利なものにすることは、原則として認められませんので、注意が必要です。(期間以外は、元の契約を維持することが原則になります)
なお、多くの方が勘違いしやすいポイントですが、“期間を無期にする=正社員になる”ではありません。正社員と同様の待遇まで必要とするものではありませんので、あらかじめ理解が必要です。

ステップ③ 労働条件や就業規則等無期転換後のルールを検討

ルールを決めるところまできたら、あと一歩です。ステップ2において検討したルールを就業規則として、制定していきましょう。この際、特に注意をすべきポイントは、①労働者にとって不利益な変更になっていないか? ②だれが読んでもわかる内容になっており、誤解を生まない内容になっているか? ③法律上、記載しなければならないことを漏れなくダブりなく記載されているか?の3つです。この点については、社内弁護士など専門家にチェックをしてもらうとよいでしょう。

対応が必要な雇用形態、必要ではない雇用形態

では、どのような雇用形態だと対応が必要なのでしょうか。
有期契約労働者が対象になりますので、一般的な名称でいえば、「契約社員」、「パートタイマー」、「アルバイト」、「派遣社員」、「嘱託社員」などがこれにあたります。名称にかかわらず有期雇用であれば、対応が必要となります。一方、正社員などの期間の定めのない雇用形態の場合、対応不要になります。また、個人事業主との業務委託契約などは雇用契約ではありませんので、対応の必要はありません。

雇い止めや派遣切り…。こんな対応はNG

対応NG

雇い止めで違法と判断されるケース

無期転換ルールを適用させないことを目的として、使用者が期限直前に更新回数の上限を就業規則に新たに設けるようなケースでは、違法と判断される可能性が高いと言えるでしょう。裁判上、雇い止めが違法と判断されるのは、以下いずれかに該当する場合とされています。(労働契約法第19条「雇止めの法理」)

①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
②労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの

クーリングによる抜け道を使ってトラブルになったケース

「クーリング」という仕組みがあります。これは、退職など、労働契約のない無契約の期間(空白期間)が一定以上ある場合、無期転換申込権を発生させないというものです(労働契約法18条2項)。しかし、これを悪用するというケースが発生しています。例としては、有期契約終了後、業務請負契約などを締結し、その後にさらに有期契約を締結することで、クーリングの対象とするような行為です。しかし、就業実態が変わらないまま、このような行為をすることは、法を潜脱する行為であり、クーリングの対象とは認められません。(施行通達27項イ)

各社の対応状況

2015 年12月の独立行政法人 労働政策研究・研修機構のプレスリリースによれば、 改正労契法への対応でフルタイム有期雇用企業の2/3が「無期契約にしていく」と回答しているようです。また、多くの企業が、「長期勤続・定着 が期待できる」(72.0%)と回答をしていることからも、ポジティブな反応が多いようにも見受けられます。
しかし一方で、正社員との有期労働者間の労働条件を、どうバランスさせるのか?また、急な業務の増減について、どのように対応すべきかは、当面課題が残りそうです。この点は、アウトソース先の活用など別途の検討が必要と言えるでしょう。

【まとめ】

実は、2018年は節目の年といえそうです。こちらでご紹介した雇用に関する2018年問題以外にも、大学進学者が減少に転じると予測される「大学の2018年問題」、これまで不足しているとされていたオフィスビルが供給過剰で余り始めると予測されている不動産の2018年問題、介護報酬・診療報酬の同時改定に関する2018年問題など、様々なことが起きています。
中でも、多くの人事・経営者が注目を集める“雇用の2018年問題”。労働者にとっても、企業にとってもよい変化の機会とし、双方が満足できる仕組みをつくっていくことが重要です。まだ、対応できていないという企業も散見されますが、早急に対応する必要があるといえるでしょう。

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