エンゲージメントの理論と事例、実践的アプローチのポイントとは【セミナーレポート】

法政大学大学院政策創造研究科

教授・研究科長 石山 恒貴(いしやま のぶたか)

プロフィール
三井住友銀行

人事部 人材戦略グループ
樋口 知比呂(ひぐち ともひろ)

プロフィール

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、リモート勤務やeラーニングなど、働き方が急速に変化しています。一方で、オンライン化の進展により、従業員のエンゲージメントの低下に課題を感じる企業も増えている傾向です。エンゲージメントとは一般的に、「自発的な貢献意欲」を表しますが、最近では「個人と企業が一体となり、ともに成長する関係」という観点へと広がっており、企業の生産性や業績のほか、定着率とも深い関わりがあることがわかっています。

そこで今回、法政大学大学院 石山恒貴教授より、エンゲージメントの概念や今注目されている背景、エンゲージメントが企業にもたらす効果などを学術的な面からご講演いただきました。

そして、事業会社人事および人事コンサルタントとして、さまざまな企業の変革に携わってきた三井住友銀行 人事部 樋口知比呂氏より、具体的な取り組み事例や実践的なアプローチ手法を解説いただきました。

エンゲージメントの理論と事例/石山先生

社会の変化が、新型コロナの影響でさらに加速

本日は、最初に社会の変化について触れた後に、エンゲージメントとは何か、そしてエンゲージメントを高めるポイントとは何かについてお話ししていきたいと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大前後で、社会的なコミュニケーションの断絶が起こったという考えがあるかもしれません。しかし私はどちらかというと、デジタルテクノロジーの進化や地球の環境変化など、もともとあった変化がさらに加速している状態なのではないかと思います。

さらに日本国内では、少子高齢化が進む中で、労働力人口において45歳以上の比率が50%を超えています。この傾向は今後もさらに加速することから、45歳以上の人材がいかに活躍するかという点が大事だといえるでしょう。

エンゲージメントの理論と事例/石山先生01※当日の映写資料より

従業員エンゲージメントと、ワーク・エンゲージメント

このような環境変化がある中では、エンゲージメントがより重要になります。

エンゲージメントが注目され始めたのは、2017年、日経新聞が米ギャラップ社のエンゲージメント調査結果を取り上げたことからです。その調査結果では、「熱意あふれる社員」の割合が、米国32%に対して、日本はわずか6%。実に、日本のエンゲージメントは世界139カ国中132位でした

エンゲージメントは、もともとボストン大学のウィリアム・カーンが着想したもので、人間が特定の役割に没入するなど、熱中して行動する状態のことです。そこから従業員エンゲージメントという概念が生まれました。これは会社や組織へ愛着を持つという職務満足や組織コミットメントに類似した概念として、近年注目されるワードとなりました。

一方で、「ワーク・エンゲージメント」という概念もあります。これは会社というよりは、仕事そのものに没頭している状態を示します。先ほど紹介したギャラップ社の調査は、どちらかというと従業員エンゲージメントに対するものでしたが、別の調査ではワーク・エンゲージメントに対する国際的な調査も行っています。それによると、欧米では平均得点が4点前後に対して、日本人は2.8~2.9点前後と低い結果が出ています。

エンゲージメント向上のポイント「キャリア自律」

ギャラップ社の分析によれば、日本のエンゲージメントが特に低い理由は、部下に口答えさせないコマンド&コントロール型の体制や、部下の個々の強みを考えず行動に対するフィードバックも行わない上司マネジメントの問題だとされています。こうしたことから、エンゲージメントを高める1つのポイントは、個人の強みを最大限に活かすマネジメントへ切り替えていくことだと、私は考えます。

今、さまざまな企業でキャリア自律が重要だといわれています。キャリア自律とは、自分の価値観や強みを認識して、環境変化に適応しながら主体的にキャリア開発に取り組むことです。そこで大事になってくるのが、自分の価値観をいかにして認識するか。マーク・L・サビカスというキャリアの学者は、好きな雑誌や番組、本、映画、憧れる人を考えながらキャリアカウンセラーと相談すると自分の価値観がわかると言っています。会社の中でも、いかに個人の価値観や強みと、業務を結びつけて考えられるかが、エンゲージメント向上のための重要なポイントです。

仕事を意味づける、ジョブ・クラフティング

エンゲージメントの理論と事例/石山先生02※当日の映写資料より

このように自分の価値観を知り、自分を律して働くことを、「自走する」と私たちは言っています。パーソル総研と共同で実施したミドル・シニア向けの調査では、どのような状態でも活躍できる人に共通する5つの特性を発見しました。まずやってみる(Proactive)、仕事を意味づける(Explore)、年下とうまくやる(Diversity)、居場所をつくる(Associate)、学びを活かす(Learn)、これらを自走する力(PEDAL)と称しています

その中でも私たちが特に重視しているのが、「仕事を意味づける」ことです。個人が自分の価値観に応じて、新しく職務を再定義・再創造する、最近ではジョブ・クラフティングという言葉で注目されています。有名なのは、ディズニーランドのカストーディアルという、パークの清掃を行う仕事です。この職種はもともと不人気だったのですが、あるときチームで話し合って、「私たちの仕事は、単なる清掃ではなく、パーク全体の管理を行い、ゲストのハピネスを追求すること」だと、仕事の再定義を行いました。すると、キャストたちがどんどん創造的に仕事を行うようになったそうです。従来の「職務設計」では、会社からトップダウンで決められるものでした。しかしこの事例のように、個人が自分で仕事を意味づけて、会社とすり合わせていくことで、よりモチベーションを向上させていくのです。

パタゴニア社、カゴメ社の事例

社員が自律して、その中でいかに働き、仕事を意味づけていくのか。具体的な企業事例を挙げると、パタゴニアの『社員をサーフィンに行かせよう』という仕組みは理想的だと思います。サーファーは、サーフィンに行く予定を事前に立てず、いい波が来たらサーフィンに行くものです。そこで、パタゴニアでは午前中にいい波が来たらサーフィンに行けるという、フレックスタイム制度を導入しています。これにより、「階段を一段飛ばしで駆け上がってしまうほど、ワクワクしながら出社できる」、まさにエンゲージメントが高い状態をつくることができます。そしてこれは、社員を信頼しているからこそ、運用できる仕組みです。

同様に、社員を信頼して「社員は自律的にキャリアを決めることができる」というメッセージを発信しているのが、カゴメです。自分の価値観に応じた多様な働き方ができ、自分のキャリアを自分で決めることができる「生き方改革」を推進し、フレックスタイム制度やテレワーク勤務制度だけではなく、自分で勤務地を選択できる地域カードなどを導入しています。そして、個人のキャリア開発推進を支援するHRビジネスパートナーという専任の役割を設けています。

好奇心を持続させる環境を、いかにつくるか

江戸時代の佐藤一斎という儒学者の言葉に、「少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」というものがあります。これは、生涯にわたって学び続けて、自己実現をすることが大事だということです。また、パブロ・ピカソは「すべての子どもはアーティストである。問題は、大人になってからもどうやってアーティストのままでいるか、ということだ」という言葉を残しています。

私はこの「アーティスト」を「学習者」に置き換えてもよいと思います。なぜ子どもは学習をするかというと、とにかく面白いから、つまり好奇心があるからでしょう。ところが大人になって好奇心が衰え、経験だけを重視するようになると、学ばなくなってしまいます。好奇心をいかに持続させて学び続け、成長を継続できるか。それを可能にする企業風土があれば、エンゲージメントは高まっていくのではないでしょうか。

エンゲージメント向上のための事例とアプローチを紹介/三井住友銀行 樋口氏

エンゲージメントは、人事の革命児

私は、通信会社、コンサルティングファーム、銀行などさまざまな業界を経験しながら、25年間人事領域に携わってきました。現在は三井住友銀行で、人材育成などを担当しています。

エンゲージメントについて、私は人事業界における革命児だと捉えています。だと捉えています。これまで人事の中で「人員数」や「人件費」は数字で計測ができ、他社比較・部門比較・経年比較が可能な経営指標でした。エンゲージメントも、同じような性質を持っており、これからは人員数や人件費と同様に、経営計画に組み込まれるメジャーな指標に成長すると期待しています。また、データに基づく科学的人事戦略とも相性が良く、その観点からも着目しています。

従業員エンゲージメントを高めるために、その要因であるEXに着目

エンゲージメント向上のための事例とアプローチを紹介/三井住友銀行 樋口氏01※当日の映写資料より

続いて、エンゲージメント向上のための具体的な事例を紹介していきます。その前に、エンプロイー・エクスペリエンス(EX)という概念を紹介しましょう。EXは、従業員が社内で経験する戦略、方針、施策、業務、人間関係など、さまざまな要素を幅広く含んでいます。従業員エンゲージメントが結果だとすると、EXはその結果を導く要因といえます。

企業の事例紹介をすると、みなさま一様に事例そのものに飛びつきがちです。しかし私が申し上げたいのは、各社で施策を企画実行するにあたっては、各社それぞれの事業戦略や、人事戦略、カルチャーなども十分勘案しながら、自社にとっての適合を図っていく必要があるということです。

従業員エンゲージメントを高めるために、その要因であるEXに着目

エンゲージメントに取り組む背景

当行では、過去10年以上にわたって、1年に1回「職場アンケート」を実施してきました。そのスコアが、近年低下気味であることが一つの大きな課題でした。また、銀行を取り巻く環境の変化や、総合職の退職率の増加、そして新卒採用ランキングの低下などの事象が重なり、会社も人事も変わらなければならないという強い危機感を抱いていました。

具体的な施策

次に、具体的なエンゲージメント施策について紹介します。まず、エンゲージメントに真剣に取り組むに際して、エンゲージメントチームを立ち上げました。これは、人事部の中で企画、採用、部門担当人事、グローバル人事など、クロスファンクショナルに若手を集めて編成したチームです。そこで何のためにエンゲージメントをやるのかといったコンセプチュアルなことを考えていきつつ、他社事例なども研究しながら、当行に適合するよう具体的な施策に落とし込んでいきました。

具体的な施策は、従業員エンゲージメントにひもづく項目「理念戦略」「組織風土」「環境」と、ワーク・エンゲージメントにひもづく項目「職務」「自己成長」「健康」「支援」「人間関係」「承認」に分類して整理しています

エンゲージメント向上のための事例とアプローチを紹介/三井住友銀行 樋口氏02※当日の映写スライドより

特に大きな柱は、「組織風土」「環境」「職務」「自己成長」「承認」など多岐にわたる人事制度改定です。Fair、Challenge、Chanceをコンセプトに、抜本的な改定を行いました。また、ドレスコードフリーや、イノベーションを生むための環境づくりも象徴的です。「自己成長」の項目では、生涯キャリアの充実を図るキャリアデザインサポートプログラム、「人間関係」では1on1ミーティングなど、多様な施策を実施しています。

そして、エンゲージメントの測定方法も変更しました。これまで年に1回「職場アンケート」を実施していましたが、今後は月に1回のパルスサーベイ(※意識調査の手法のひとつ)で、エンゲージメントのタイムリーな可視化を行います。パルスサーベイでは、5分間程度で回答できるアンケートを実施し、その結果を毎月見て改善サイクルを回していきます。

取り組みの成果

これらの施策はまだ取り掛かって間もないのですが、職場アンケートのスコアが数ポイント好転しました。その理由は3つ、人事制度改定働き方改革、そしてお客さま本位の営業スタイルだと考えています。まだ道半ばではありますが、今後は中期経営計画の柱として、継続的に取り組みます。

エンゲージメント向上に必要なGRIT

ここで疑問なのが、多くの企業がエンゲージメントの重要性を認識しているにもかかわらず、なぜ高まらないのかということです。まず、手法としては、平凡な会社でも優れた会社でも、大差ありません。違いが出るのは、経営のコミットメントと、社内での取り組みの徹底です。つまり、「GRIT(やり抜く力)」こそが、エンゲージメント向上に必要だといえるでしょう。

エンゲージメント向上の実践的なアプローチ

分析の視点

まず分析の視点として、「鳥の目」「虫の目」「魚の目」ということを聞いたことがあると思います。これをエンゲージメントの視点で活用すると、「鳥の目」は、全体俯瞰やカテゴリー別。しかし経営会議に報告する全社の切り口だけで見ていくと本当の意味での判断を見誤ることがあります。部門別・部署別・年齢別など、「虫の目」でさまざまな切り口から分析していくことが大切です。さらに「魚の目」で、経年比較を見ていくことで変化に気がつきます。

分析の深掘り

分析の深掘りというところでは、「聴く」「聞く」「効く」という、3つの「きく」力が重要です。エンゲージメント向上施策に当てはめると、「聴く」は傾聴力。スモールグループディスカッションで、匿名性を担保しながら従業員の意見を聴き出していきます。次の「聞く」は質問力。所属長からの質問の投げ返しで深掘りをしていきます。このときの目的は前進するためであり、後ろ向きの質問はしません。そして、「効く」は、効果力。効果が出てくるかどうかというところでは、やはり有言実行が大事です。実際にアクションを起こし、変化を実感して初めて「効く」といえるでしょう。

アクションのオーナーシップ

先ほど石山先生から「自走力(PEDAL)」のお話しがありましたが、私は「エンゲージメントの自転車モデル」と独自に名づけています。役割は3つあって、「ハンドル舵切り」は経営者や人事部、「ギアシフト・ブレーキコントロール」は所属長、ペダルをこいで車輪を動かしていくのが従業員、という役割分担です。エンゲージメント向上に当てはめて考えても、それぞれがオーナーシップをしっかりと持つことで自転車が目的地に向かって走っていくことが可能になります

まず経営者のコミットメントが何よりも大事です。特に「リーダーリップ」「戦略・方向性」といったカテゴリーをはじめ、全社的なオーナーシップを持つことが必要です。人事部は、「報酬・福利厚生」「成長の機会」といった、人事の担当責任分野でしっかりとオーナーシップを持つことが求められます。また、所属長のアクションの支援という重要な役割もあります。

所属長は、チームの改善にオーナーシップを持ち、PDCAを高速回転させていかねばなりません。これまで当行では、職場アンケートの結果が所属長までタイムリーに伝わっておらず、なかなか改善につながっていませんでした。今後、パルスサーベイでタイムリーに結果を見ることができるようにしていきます。

そして従業員も、自身が所属している会社ですから、言いっぱなしではいけませんし、自分ごとだと捉えてエンゲージメント向上に取り組んでいくことが必要です。当行でも、アンバサダーという形で、各部店から管理職と従業員をアサインして、他部署の事例交換などを行いながら、全体でエンゲージメント向上をやり抜こうとしています。

まずは、小さな成功事例をつくることから

人事は日ごろよりよく考えて、会社のため、従業員のために頑張っていらっしゃると思います。 エンゲージメントの施策も、これまであれこれと試したことでしょう。 それについては、ぜひ継続して、小さな成功例をつくってください。 成功例ができれば、必ず周囲は味方についてくれます。

※当日の映写スライドより

質疑応答とディスカッション

テレワークが普及し、対面でのコミュニケーションの機会が減少する中で、どのようにエンゲージメントを高めていくべきでしょうか。

樋口氏:少し前までは、コロナ禍で企業の業績が打撃を受ける中、もはやエンゲージメントどころではないのでは、という危惧が世の中にありました。しかし今は、リモートワークや時差出勤などで目の前に部下がいなくても、働きやすい環境を整えて部下を信頼することで、むしろエンゲージメントを高めていき生産性を回復、向上していくべきという機運が高まっていると感じています。

そこで必要なのが、業務の基本にもう一度立ち返ることです。1on1をやったり、パルスサーベイの結果を見て改善をしたりと、上司と部下の間の関係性を改めて見直し、コミュニケーションをしっかりと行うことがとても大事です。

石山先生:コロナ禍という難しい状況だからこそ、パルスサーベイや1on1など、本来どのようにやっていくのか、基本に立ち返って見直すことは非常によいことだと思います。従業員がどのような経験をしていて、その経験が従業員にどんな影響を与えるのかを考えることこそ、まさに樋口さんがおっしゃっていたエンプロイー・エクスペリエンスを良くすることにつながりますし、エンゲージメントを高めるためのコツだと思います。

エンゲージメント施策を進める上で、どのようにトップや従業員を巻き込んだのでしょうか。

樋口氏:エンゲージメントは、なかなか理解し難いコンセプトです。実際にこれは「従業員を甘やかすことではないか」という意見も出てきました。そうではなく、生産性を高めるためであり、会社のためのものであると丁寧に議論を重ねて、会社の成長にとって不可欠なものとして意識づけていきました。そうして最終的には、人事中期経営計画の柱の一つに入ったのです。エンゲージメントを通して何を成し遂げたいのかは、会社によって異なると思いますので、自社にとって何がベストで、何から始めていくのか、経営方針などと照らし合わせながら進めていくとよいでしょう。

1on1などの施策も、まだ始めたばかりで現場からの質問も多く寄せられています。これについては成功事例をお互いにシェアすることで、マネジメントを含めて理解浸透を図っております。

石山先生:組織風土や、仕事への社員の熱意というのは、目に見えにくいものです。そのため、「社員を甘やかすことになる」「経営には関係ない」という話になりがちです。しかし、経営陣が理解してくれないからといって、人事部だけで始めようとしてもうまくいきません。そこは、樋口さんがおっしゃるように、企業の生産性向上や利益に結びつく重要なものであるということを、経営陣に理解してもらうプロセスが大事です。

また、人事がマーケッターとして、「うちの会社はこの分野で新しいことをしている」と、外部に対して売り込んでいくことも一つの手です。先進的な取り組みをしていると外部から認知されることで、株主やアナリストから評価されるということもあります。良いことのためには、あの手この手でやっていく必要があるでしょう。

パルスサーベイのスコアは、回答者が恣意(しい)的にコントロールできるのではないかと思うのですが、信頼性はどの程度あるのでしょうか。また結果をどのように施策に落とし込むべきでしょうか。

樋口氏:確かに、個人が恣意的に高くつけたり低くつけたり絶対値をコントロールできる面はあります。しかしながら、本人のスコアの前月・前々月、といった経年経過は記録されているため、その変化、つまり相対的な差の値を見ていくことはできるものです。また、銀行のように異動の多い組織では、年に1度のサーベイでは人が入れ替わりすぎているという問題がありました。毎月行うパルスサーベイでは、基本的に同じメンバーで変化を追うことができるため、変化の値の信頼性は高いといえるでしょう。次に、施策に落とし込む方法ですが、確かにこれは難しいです。だからこそ、人事が現場に入り込んでいって、スモールグループで議論をし、フォローして支援することが大切です。

石山先生:従業員エンゲージメントを測定する「Q12」や、ワーク・エンゲージメント測定の「ユトレヒト尺度」といった手法は、長年研究をされているため、項目自体の信頼性は高いと思います。また、統計上一度だけ計測するクロスセクショナルデータと、時系列で見るパネルデータというのは、圧倒的に後者の信頼性が高いといわれています。我々研究者は時系列でデータを取ることがなかなか難しいため、一度きりの調査で分析することも多くなってしまうのですが、パルスサーベイは毎月データ取得が可能です。この信頼性は非常に高いし、時系列の変化を測定できます。

その結果をどう活かしていくのかという質問に対して、さまざまな手法があると思いますが、一番大切なことは、変化を見て「これはなぜなのか」と、自分たちで対話をすることでしょう。だからこそ、なるべくオープンブックマネジメントで、データの実情を個人名は特定できないようにした上で開示していくことが必要です。

取材後記

欧米諸国と比較して、エンゲージメントが低い日本企業。この現状を打破すべくエンゲージメントを向上させるには、マネジメントの方法について「個人の強み」を最大限に活かすものへと変革する必要があります。従業員のキャリア自律を支援し、信頼して任せることで、持続的な成長ができる環境をつくる。それこそが、エンゲージメント向上へとつながるのでしょう。

また、具体的な施策を進める上では、人事だけが走るのではなく、経営・現場マネージャー・従業員を巻き込んでいくことが大切です。まずは、経営の強力なコミットメントを引き出すことが、成否を左右します。そして、施策の運用にあたっては現場マネジメントに丸投げすることなく、人事が伴走してサポートし、やり抜くことが必要です。

取材・文/佐藤 瑞恵、編集/d’s JOURNAL編集部