SDGsに取り組み業績を伸ばすメンバーズ。なぜ企業は社会課題解決に向き合うべきなのか

株式会社メンバーズ

執行役員 原 裕(はら ゆたか)

プロフィール

IT技術を駆使したデジタルマーケティングでビジネスを拡大し、企業のCSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)支援に注力している株式会社メンバーズ。同社は経営指針として「社会への貢献、社員の幸せ、会社の発展」を同時に実現することを目指しています。そのために何よりも大事なのは、社会課題解決に貢献すること。長年にわたり、社会課題解決の事業化を主導されてきたメンバーズの執行役員・原裕氏(以下、原氏)にお話を伺いました。

原裕

東日本大震災を機に社会課題と向き合う会社を目指す

御社は企業のCSV支援に注力されていますが、何かきっかけがあったのでしょうか。

原氏:弊社は1995年に創業した当初、深夜残業が当たり前な社風でした。しかし、2011年の東日本大震災によって、普段の暮らしが一瞬にして崩れてしまうことを経験し、デジタルマーケティング企業としてお客さまのビジネスを拡大するだけではなく「社会課題を解決する」ことを会社のミッションとし、弊社で働くデジタルクリエーターがいかにハッピーになれるか、事業と社員に対する考え方を転換しました

ミッションを設けたことによって生まれた取り組みがあれば教えてください。

原氏:震災直後、仙台にサテライトオフィスをつくりました。これは被災地に「雇用」を生むという復興支援でもありましたが、同時に、地方でIT関連事業の雇用を生むことの意義を感じる機会にもなりました。

日本は東京一極集中型なので、最適な人材は首都圏にいるとよく思われます。しかし仙台オフィスを開所してみて、地方にもスキルやモチベーションの高い人材はたくさんいることがわかりました。あとは弊社のデジタル領域の強みを生かし、地方と首都圏を結ぶリモートワークの環境を整備すれば、地方に住みつつも大いに活躍できる機会を提供できると考えたのです。地方のデジタルクリエーターにとっては、上京せずともキャリアアップの選択肢ができたことで、公私ともに充実した生活が送れるようになります。これはSDGsを実現するための地方創生ともつながるでしょう

その後も2015年に北九州、2018年に神戸、翌年には札幌・福岡と地方拠点を開設し、地方に雇用を創出し、事業活動を通じて地域活性化などの「社会課題を解決する」取り組みを広げています。

「社会課題を解決する」というのは具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

原氏:たとえば、みずほ銀行がインターネットバンキングの顧客に対して、セキュリティツールの利用を促進するプロジェクトを進めていました。インターネットバンキングによる不正送金は、テロ組織の活動資金となり、世界の地域紛争を激化させることにつながる可能性があるのです。最終的には人命にかかわることですから、とても重要な社会課題の一つと言えます

では、どのようにしてお客さまに訴求するのか。Web施策(Webサイト・メルマガ・LINE)において「お客さまのワンタイムパスワード※申し込みにより、不正送金防止だけでなく紛争やテロ解決に貢献できる」というメッセージを訴求したのです。

お客さまの口座が不正送金の被害に遭うことで、お客さまだけでなく、社会的にどのような影響を及ぼすのか(社会的影響力の可視化)を考えてもらい、ワンタイムパスワードの申込数が一定数に到達することで、NPOに一定の金額が寄付できるという顧客参加型の取り組みを実施しました。結果、メルマガ経由の申込数は従来型訴求の約28倍、前年に実施した第一弾プロジェクトの約2倍に増加し、「不正送金被害ゼロプロジェクト」のマーケティング効果を実証することができました。

※ワンタイムパスワード:第三者によるパスワード悪用などのリスクを軽減する1回限りで無効となる使い捨てのパスワード。

東日本大震災を機に社会課題と向き合う会社を目指す

会社のミッションを見直すことで、求める人材も大きく変わったと思うのですが、その点、いかがでしょうか。

原氏:弊社が求めるのは、「社会課題を解決する」ということに共感してくれる人材です。企業が社会的な役割を果たす上で、まずは自分が仕事を通じて「社会課題を解決している」というやりがいを持てること。これが重要なのではないでしょうか。なぜなら、「やらされている」と感じながら、あるいはただ給料のために働くよりも、社会課題を意識しながら「自分の働きによって困っている人を助けることができる」という思いで働いているほうが、明らかに楽しく生き生きと仕事ができるからです。

実際に「社会課題を解決する」ということに共感してくれる人材を採用するようになってから、真面目に社会の安心・安全について意欲的に検討してくれる人材が集まるようになりました。その結果、離職率は下がり、管理職の女性比率も上がり、業績も大きく伸びました

働く環境についてはいかがでしょうか。新型コロナによって、世の中では「働き方改革」が急務と叫ばれています。

原氏:働き方改革の中でも、特にリモートワーク化が注目されていますが、弊社は、東日本大震災後から、都内大手企業の仕事を地方拠点からリモートで行える体制を構築してきました。自宅からのテレワークなどは、社員の出産や子育てといったライフイベントに合わせ、働ける環境を構築できます。今回の新型コロナウイルスに伴う外出自粛要請によって、多くの企業がテレワークを強いられました。「場所にとらわれずに働く」ことを経験した人たちによって、場所にとらわれない働き方を選ぶ流れが加速するのではないでしょうか。

教えるのではなく、社員が自ら学べる組織をつくる

組織開発や、社員教育についてはどのようにお考えでしょうか。

原氏:組織としては「多様性」が何より大事ですね。多様性とは「幅広く性質の異なる群が存在すること」という意味ですが、イノベーティブなアイデアは多様な考え方から出るものです。社会課題をビジネスとして解決し、よりよい世の中を創造するという共通価値があれば、性別、年齢、国籍、働く場所などさまざまであっても、方向性がずれることはありません。また、社員の多様な個性を生かすことが、これからの社会で差別化できる強みになります

そして、学び考え合う「自主性」も重要だと思います。弊社の内定者は、インターンシップとして現場で実務を経験しながら、自主的に会社の雰囲気を他の内定者へ発信する企画に参加してもらっています。入社前に現場で対話をしながら実務を体験してもらうことで、自然と自主的に学びながら、仕事に取り組めるようになります。

弊社は、みんな社会課題を解決したいという目的で入社してきているので、明確な目的意識を持った人たちです。そして、一生ともに社会課題の解決に向けて働きましょう、という共通意識を持っています。同僚というよりも同志という感覚ですね。それが「自主的な学び」によって、プロ意識の高い人材へと育っていくと思います。外部講師を招いた講座も多数行っていますが、あくまでも教えるのではなく、社員自らが重要だと思うことについて学ぶ機会を提供することが大切です。

学んだことをアウトプットすることも大切でしょう。たとえば、弊社が運営する「CCDLab.」というWebメディアでは、企画の一部として、新入社員が新しく学んだことを記事として作成し、バトン形式で他の新入社員につないでいく企画があります。記事の寄稿という形で、自分が学んだことをアウトプットする機会を提供すると同時に、記事作成のため自主的な学びを促すことも兼ねているのです。

教えるのではなく、社員が自ら学べる組織をつくる

対面できない今だからこそ、デジタルによって顧客とのエンゲージを高める

デジタルマーケティングのプロとして、コロナショックにおけるこれからのWeb運営ではどのようなことが求められるのでしょうか。

原氏:新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、日本中で外出自粛となりました。小売りや飲食などのリアル店舗では、顧客の来店頻度が大幅に減り、それら以外の企業でも、従来の営業活動が制限されました。

今回のように、顧客とリアルに接触できない状況では、メールやSNS、WEB接客などのデジタルツールを活用して、顧客の個別対応を一層促進すべきです。ポイントは、顧客とのエンゲージメントを高めること。これによりWebサイトやECサイトを活用した販売チャネルが活性化されます。

ただし、リアル店舗をなくしてすべてECサイトに切り替えることが正しいとは思っていません。ECサイトを活用した販売チャネルを各企業が活性化した場合、リアル店舗の価値は今まで以上に貴重な体験を提供できる場となります。大事なことは、デジタルツールを表面的に導入することではなく、デジタルツールを使って顧客とのエンゲージメントを高めること、つまり顧客とのつながりを強化することなのです。

実際に御社ではどのようにして、顧客とのつながりを強化されているのでしょうか。

原氏:弊社では、デジタルマーケティングの支援専任チームを「EMC(エンゲージメント・マーケティング・センター)」と呼び、5つのEMCメソッドを活用しながら、企業と顧客(お客さま・ファン)とのエンゲージメントを高め、ビジネス成果を創出しています。

5つのEMCメソッドとは、それぞれ下記になります。

A:顧客視点に基づいた戦略立案
B:高速化と成果向上を実現するPDCA
C:高品質・生産性向上を実現する品質改善
D:企業側との一体運営を可能にするチームビルディング
E:高度なセキュリティと遠隔での円滑なコミュニケーションを可能にするファシリティ

リアルで対面できないからこそ、デジタルツールを用いて顧客とのつながりを強化する01※メンバーズ提供/エンゲージメント・マーケティング・センターを支えるメソッド

企業はEMCによって、デジタルマーケティングの専門人材を自社のチームとして活用することができるようになるので、総合的な支援を受けられるというメリットがあります。さらに、今後は社会課題にどのように企業として向き合うか。SDGsなどの取り組みなどが重要視され、その取り組み自体を顧客に知ってもらうためのマーケティングコミュニケーション活動が重要になります

マーケティングコミュニケーションで注意すべきことはありますか。

原氏:今回の新型コロナウイルスのような社会課題が勃発したときは、繊細なコミュニケーションが要求されます。一方的な販促を行えば信用を失いますし、ブランド価値を下げることにつながる恐れがあります。大事なことは顧客が置かれている状況を正しく把握し、「何が顧客のためになるだろうか?」と顧客の立場になってよく考えて、どのような表現で発信すればよいのかを、平時以上に検討し、慎重に行わなければなりません

最後に、日本が抱える社会課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

原氏:日本は世界的に見ても、未解決の社会課題を数多く抱えている国だと思います。たとえば少子高齢化を例にとっても、2030 年には東京郊外にゴーストタウンが出てくる可能性があり、2040年には地方自治体の半数がなくなるなど、東京一極集中といった他の課題とも複雑に絡み合っています。これらの社会課題を解決するには、デジタル技術への深い理解を持つ「デジタルクリエーター」の力が必要なのです

しかし現状は、コンサルタントやプランナーの価値のほうが高いと思われていて、デジタルクリエーターの重要性と必要性が、まだまだ世の中に認知されていません。弊社が2020年に発表したVISION2030(2030年の目指す姿)では、現在2,000人弱の社員を1万人にする計画です。中途採用も新卒採用も積極的に行い、日本中のデジタルクリエーターの力で、社会課題解決へ貢献し、持続可能社会への変革をリードしていきたいですね。

対面できない今だからこそ、デジタルによって顧客とのエンゲージを高める

取材後記

メンバーズは、社会課題を解決することを全社の共通価値としています。この共通価値を社員一人一人が日々意識することで、やりがいや自己実現といったものを得ることにつながり、結果として業績を大きく伸ばしているのです。これこそが、今、世界中の企業が問われている「持続可能な経済活動と企業利益を両立させる」ことではないでしょうか。

取材・文/磯山友幸 EJS、編集/d’s JOURNAL編集部