その問題は本当にコロナが原因?マクドナルドに学ぶ危機局面での事業成長とは
ある日危機は突然、すべての会社に、平等に訪れます。あなたの所属する組織や会社は、コロナ禍においてどのような局面を迎えましたか?パーソル総合研究所(東京都千代田区)の日比谷勉氏と、パーソルキャリア(東京都千代田区)執行役員の大浦征也氏による対談が、去る9月29日ウェビナーにて実現しました。両氏が語る「危機局面でも事業成長を成しえるための要因」を紹介していきます。
新型コロナウイルスが中途採用に与えた影響/大浦氏
コロナ禍にある転職市場は新たな局面を迎えています。直近の有効求人数の推移データ(1970年1月~2020年5月)を見てみますと40数年ぶりの求人好況期から大きな変化が生じているのです。現在コロナ禍における有効求人倍率は約1.08%。これは2019年ごろの天井を機に現在の数値まで落ち着いたことが一般的な見方です。一方、正社員だけの有効求人倍率をデータで見てみますと、1.0倍率を切る0.90%。1.0倍を切っていますので厳しい状況とも言えますが、逆に言えば、理屈上は10人に対して9求人が存在している状況です。経済状況は混乱していますが、悲観しすぎるのも良くありません。これらの数値は、リーマンショック(08年)前の数値と比べても高水準となっています。ですから何が本質なのかを見極める必要があるわけですね。
また私たちの人材サービス業界で言いますと、先行投資型である求人広告掲載数は、今年5月の段階で昨対比55.8%というほぼ半分にまで落ち込んでいます。急激に減少しているわけです。紹介事業(エージェント)では約30%減ではあるものの、先行投資型である求人広告には投資できないと躊躇する企業が多いということです。
では求職者の動き方はどうでしょうか。同じように下がっているわけではありません。有効求人数を見てみましょう。リーマンショックが起こった2008年4-9月と10-3月の求人数・求職者数の月間平均を比較すると、有効求人数のみが87.9%に減少しています。当時は急激な経営悪化のためにリストラ策に出る企業が多かったことから、非自発的転職行為、つまり転職をせざるを得ない状況に立たされる人が多かったわけです。そのため求職者が増える状況が続き、どの企業も求人広告を出していれば黙っても人が集まってくる状況になっていました。
ではコロナショックはどうだったのでしょうか。2019年3月と2020年3月の有効求人数を見ますと86.4%減少しています。しかしながら同期間の有効求職者数の比較でみると100.7%とほぼ横ばいです。2019年と同じく求職活動をしている人の数は変わらない。これはおそらく、現在は副業や兼業も含めて転職という活動が日常化してきたことが要因と考えられます。働くことへの多様性がそうさせているのです。一概には言えませんが、少なくともコロナショックで離職せざるを得ない人はリーマンショック時に比べると多くはなかったともいえるのかもしれませんね。しかしながら求人数自体は減っているため、1つの求人に集まってくる応募者数は多いでしょう。ですから恒常的に転職活動をされている方に対して、いかに自社をアプローチできるかが、コロナ禍における転職市場のポイントの1つであると見ています。
さらに求人広告1掲載あたりの応募数を見ますと、緊急事態宣言が発出した4月から4カ月連続で昨年を大きく上回っている現状です。1つの求人広告における求人数は単純計算で倍になっています。ただし求人している企業には応募が集まりやすい一方で、確実なのは転職志望者の志向性の変化は確実に変わってきています。このあたりを見極めなければなりません。
●転職志望者の志向性と概念が変わった
オンラインコミュニケーションの普及により、これまでの「はたらく」の当たり前の概念が大幅に変わってきています。具体的には、通勤の概念、時間の概念、コミュニティーの概念の変化です。特にコミュニティーの概念については、同じ職場で働く仲間という意識すらも変わってきているのかもしれません。ある大手IT企業経営者のお言葉を借りると、「会社組織に属するという概念が変わるというということは、従事する仕事の概念もプロジェクト単位や副業といった多様性を帯びることになる」ということだそうです。
また職業観の変化に際して、転職者の就活軸も変わりました。具体的に言いますと、ITバブル以前は大企業偏重時代。会社の「過去」や歴史、ブランドを見て就職判断をしていた時代です。ITバブル以降は、会社の「未来」や理念を見て就職活動をする人たちが増えました。例えば、ソフトバンクの孫正義さんや楽天の三木谷浩史さん、ファーストリテイリング柳井正さんたちが語るビジョンや未来図です。そしてリーマンショックや東日本大震災のときは、会社の「今」を意識する人が増えました。実際の職場で、誰と、どんな仕事をするのかを見て就職判断をする人が増えていきました。いずれにしてもこれまでの共通項は、会社に自分の人生を当てはめる意識が強かったということです。では現在はどうでしょうか。求職者は、自分の「Will」を考えて、何のために働くのか、それにどんな意味があるのかを考える時代となりました。非常にリアリスティックに、働き方が変わったのではなく、職業観が変わったため、こうした求職者の方に対して企業としてどう向き合っていくかが重要になるかと思います。
●それはコロナ由来か。ニューノーマル時代に必要な力とは
新型コロナウイルスにより経済は大きなダメージを受けているといわれていますが、実は約55%の企業は、「影響がない」あるいは「プラスの影響を受けている」と回答しています。業界別に見ても、休業を余儀なくされた飲食・サービス、アパレルなどの小売り業はマイナスに影響が出ていると多く回答していますが、製造メーカーやIT、関連するアウトソーシング業はプラスの影響が出ていると回答する事例が目立ちます。
ただ比較的影響が少ない業界において「マイナス影響を受けた」と回答した企業は本当にそれがコロナ由来であったかどうかを考える必要があります。意外にもコロナはあくまできっかけのひとつだった、あるいは真の原因はほかにある可能性もないわけではない。その明暗を分ける要因の一つは、訪れる危機そのものではなく、「早期に問題解決ができる経営・人材基盤があるかどうか」だと考えられます。
ですからやらなければならないことはひとつ。事業の継続・存続に向けての戦略立案と実行です。過去の不況期の事例を見ても、不況前と同じ求人数の水準に回復するまでに約3~4年程度かかっていました。しかし対ウイルスとの戦いは、WHOも警鐘を鳴らすように「長期化」「共存」を前提とすべきです。回復まで10年掛かるかもしれません。企業が今後も存続していくためには、早期の課題解決力が問われます。ニューノーマル時代には、長期で戦略を考え、先ほどの有事の際でも課題解決力を早期で実施できる力が必要です。これらを実践できる企業が新しい時代のリーダーとなっていけるでしょう。将来を考えるうえで、どのような組織編成や人事評価をしていくのか、何が必要となってくるのか――。これらのヒントを次項より日比谷さんとともに探っていきます。
コロナ禍の転職市場データについてさらに詳しく知りたい方は、こちらのウェビナーの前半部資料をご確認ください。
危機局面でも事業成長。組織・タレントマネジメントを考える
●リーマンショックを振り返る
日比谷氏:当時日本マクドナルド社は、2004年から2012年にかけて8年連続で増収増益を達成しておりました。リーマンショックは丁度その中期に起こった出来事でした。ただし売上・客数ともに影響がなかったわけではありません。リーマンショック前年の2007年は二ケタ成長をしていましたが、世界的な金融危機に影響される形で、都市近郊エリアなどでは微弱ですが影響を受けていました。ですが結果的に、売上・客数ともに4%前後のプラスで終えることができました。この年は低水準での増収増益だったと記憶しています。ひとつ、現金をいただくビジネスでしたので、キャッシュフローも安定していたことも要因でしたね。実感としては厳しかったですが、ほかの業界と比べるとダメージは極小でした。
大浦氏:一方の人材サービスに身を置く私たちの会社(当時会社名:インテリジェンス)はその影響をもっとも受けていました。当時のインテリジェンスは人材サービスで「社会インフラ」となるとメッセージして、イケイケドンドンで急成長している会社でした。ただし「インフラ」と謳っていたものの、それは生活必需品的なものではなかったということかもしれません。当時転職といえばいわば嗜好品的な扱いであり、生活をより豊かにするためのものという認識が強かった時代とも言えます。大袈裟に言えば、必要不可欠ではないサービスを提供する会社という立ち位置でしょうか。そのため経済的危機の影響をもろに被ったわけです。また2008年までは当社は業界でもそれなりに急成長していましたので、新卒採用で500人を受け入れていました。しかしリーマンショックが起こり多くの新卒社員を出向などに出さざるを得ない経営危機を迎えてしまいました。私は当時管理職の駆け出しでしたので、出向の指示や退職勧奨をするのは本当に辛かったです。できれば思い出したくない過去のひとつです。
日比谷氏:一方、日本マクドナルド社は、有効求人倍率と比例するように非常に応募者が増えていきました。当時はなぜ増えるのかが疑問でした。振り返ってみると2008年は自社で専用の採用サイトを内製化して立ち上げた時期でもありましたが、当時パート・アルバイト領域で全国に16万4000人いた社員にプラス2万人を純増させることができました。同領域は退職と採用を繰り返すため、純増とはなかなかいかないのですが、神かがり的な状況になりましたね。要因は彼らとコミュニケーションをとるポータルサイトの開設です。このサイトを介して従業員やパート・アルバイトとのコミュニケーションをとっていたのです。つまりコミュニケーションプランを緻密に作っていたわけです。これまではコミュニケーションをとる場が限られていたのですが、例えば、苦しい時だからこそ伝えたいメッセージをすぐに伝えられるようになる、そうした場を作ったことにより会社と社員たちの距離がぐっと縮まり、働き続けてくれることにもつながったのです。
大浦氏:当時はご紹介できる求人はどんどん減っていく一方で、人材サービスに登録される方は増えていったわけです。私たちはどんなに大変でも求職者と企業をつないでいくことの喜びを知ってはいましたが、リーマンショック時にはそれが成果としてつながらず、負のスパイラルに陥っていた。企業も非常に苦労されていました。金融はもちろん特に製造業も大きな痛手を被っていたのです。減収減益、採用を増やせない中で雇用調整の相談を受けていたくらいでしたから。この経験から私たちは利益率の高い企業に人をとにかく集めていくようなビジネス戦略から脱却できたように思います。民需だけでなく官需もふやしていく。あるいは国内だけでなくグローバルにポートフォリオを拡げていく必要性など学ぶことは多かったように感じます。そして危機的状況の中で、すぐに切られてしまう人材サービス、企業であってはならない。苦しい時にこそ頼っていただく企業を目指すべきだと気付き、その後の顧客へ提供するサービスの質にこだわる経営スタイルに移行する大きな体験となりました。日比谷さんは当時に感じた教訓などありましたか。
日比谷氏:実は2002年から2003年にかけてマクドナルドは赤字に転落していました。その際、採用を停めてしまっていたのです。あれは会社史におけるベストスリーに入る失敗だったのではないかと思います。その後前述の通り8年連続の増収増益期に入るのですが、その間ありとあらゆる手法を使って採用を強化していきました。人はモノではありません。そう簡単に減ったり増やしたりはできないということを肌で実感しました。そんな中パート・アルバイト領域の増員につながる転機となったある施策を実践したんです。それが中学校の職場体験にマクドナルド店舗も利用していただこうというもの。私は2008年に当時の文部科学省のドアを叩いて、全国の店舗での職場体験する中学生の受け入れを提案したのです。当初はなかなか受け入れ店舗が確保できないなどの問題がありましたが、結果2000店舗での受け入れが可能になりました。いつもはお客さんとして知っているマクドナルドを実際にはたらく側から体験してもらうことによって、マクドナルドという会社や商品サービスに愛着を深めてもらおうというのが狙いです。それが奏功して2万人増につながったわけですが、そこから学んだことは求人をしているから人が集まるのではなく、働きたいと思ったとき、その人の第一想起にマクドナルドが入っていることが重要だったのです。この施策は地域や中学校などと非常に良い連携がとれ、マクドナルドのイメージアップにもつながりました。働きたいと思われる企業になるためのアプローチを確立できたことも大きかったです。
大浦氏:リーマンショック後、未経験大量採用から経験者少数採用へと各企業もシフトしていきました。さらに採用プロセスのKPIの立て方さえも変わっていきました。例えばターゲット設定や、職場や仕事の魅力をどう伝えるのかなどの要素が大事になっていったわけです。それは日比谷さんの事例をお聞きしても明らかで、採用の時間軸を長く設定する企業が増えていったことにほかなりません。長いスパンの中で自社のターゲットとなる求職者にどう認知させていくのか潜在層にも働きかけるわけです。ですからそれを当時マクドナルドと日比谷さんが実践されていたことに驚きます。
●求職潜在層を喚起させ、その人の「Will」に働きかけるには?
大浦氏:自社が求める人材はどのような人物か――。いわゆるペルソナを設計してその人の働き方にフォーカスできるよう訴えていく必要があります。昨年あるキャリアサミットで語られた中で、求職者の志向に興味深いデータがありました。それは若年層の大手企業への依存度などが随分変わったというものです。企業の魅力だけをひたすら発信するなど一方的なコミュニケーションだけでは採用は成功しないため、合同説明会や面接などを排して、自社がもっとも求職者に認知してもらえるように採用制度をカスタムオーダーメイドにする必要があるといった内容です。それは転職に向けたアプローチではないかもしれない。もしかすると副業・兼業で求められるものかもしれない。その人の働き方にフォーカスするということは、日常へいかに会社や組織を浸透させていくかがポイントとなるでしょうね。オンラインコミュニケーションツールなどはそのヒントのひとつかもしれませんね。
日比谷氏:実は赤字となった年は2003年2004年だけでなく、2015年もそうでした。その際、一旦自分たちの採用を棚卸したのです。自社の強みを生かした採用でもっともベストな手法を探っていったわけです。もちろん前回の経験がありますから、不況時でも採用を停めないことは絶対です。では顕在層に訴えかけられるポイントはどこなのかもう一度見つめ直しました。そこであるデータに着目しました。マクドナルドの採用部門でも、産労総合研究所が毎年発表する「新入社員のタイプ」の調査・分析データには目を通します。その年は「出世を望まない」「転勤をしたくない」「安定志向が強い」などの項目が語られていました。つまり採用者のはたらく志向性にまでフォローを入れていなかったのです。マクドナルドで末長く働いてもらう人材を育てるためには、内定者辞退の数値や理由を分析しそこを細かく見ていくことが大事だったのです。
ですから採用担当者を求職者につけて内定から入社、研修ぐらいまで最後までフォローする体制をつくりました。実際に求職者や内定者の声を拾っていくと、「ハンバーガーを食べるのは好きだが働くイメージがもてない」など多くの本音が私たちに届くようになりました。そのため場合によっては採用のために3回も4回も面談する人も出てきました。コミュニケーションを深めることでその人のはたらく意識などを変えていったのです。また当時は8大都市で採用を行っていましたが、「どうやって地元の方を地元のままで働いてもらうか」など全国展開している私たちの課題のひとつでした。そこでローカルでしっかり根ざして活躍したい方もフォローできるよう人事制度を変えていったわけです。
大浦氏:現在でしたらオンラインで選考するなどエリアを跨いだ求人も増えています。応募にかける手続きや敷居は随分下がったのではないかと思います。先のマクドナルドの取り組みを少し補足すると、個人ありきで企業が歩み寄るのとは違うわけです。
例えば、面接官が行う質問内容が毎回どの求職者にも同じで決まっているとか。それでは個人の「will」にはたどり着かないわけです。しっかり個人から引き出し、自社と擦りあわせていく作業をするべきです。マクドナルドのように大規模に求職者をフォローすることはできない企業も多いかとは思いますが、前後の仕組みを少し変えていくだけでもいい。それに当たり前ですが採用だけでは人を見極めきれません。
よく「オンライン面接だけではその人の人となりまでは判断できない」というお声をよく聞きますが、重要なのは新しく入社された社員に対して、必要なサポートを行い、職場や会社に慣れてもらうプロセスを構築することです。面接100点の人を採用することは難しいですが、その後定着できるようにフォローし、最終的に100点の人材にすることは努力で補えると思います。
●時代に合わせた採用オペレーションを実践したいときどう行えば良いですか?
日比谷氏:マクドナルドの強みは全国的に知られているというその認知度です。大人から子供まで知っている企業ということが強みですね。加えて新卒採用した新入社員の役7割は過去にマクドナルドでアルバイトした経験がある方です。その時点で新卒募集にかけては約2万人程度の母集団が形成できるというわけです。ですが全国3000店舗の中で、採用オペレーションを実行していくことは容易なことではありません。統率は難しいのです。能力は入社してから育成できますが、人物像と意欲に関しては採用の現場で頑張ってもらうしかない。
そこで面接ではとにかくアクティブリスニングを心がけるよう徹底させていました。求職者に積極的に話してもらうことが結果良い採用に結びつくというわけです。中には面接での受け答えを完璧に準備してくる方もいらっしゃいます。答え方がいわゆる優等生な方です。しかしそれに負けてしまったら面接官失格です。用意してきた回答に答えさせないことを特に注意してもらっていました。またマクドナルドでもオンボーディングを実施していますが、全国的な認知度とファーストフードというカジュアルなイメージが反って仕事を舐めてかかる人材もまた少なからず存在します。
自分にとって身近なお店になっているとはいえ仕事とはまた別ものです。どれだけ大変か、どれだけ真剣に取り組まなければならないかをギャップがないよう指導することも大事です。入社時に本気を見せる。説明する。そうして入社後ギャップによる離職を防いでいます。もちろん入社する前に自分に合わないと思い辞退していただくのもいい。私たちはそれを「幸せなお別れ」と読んでいました。早い段階で自分の適性や会社のことを分かるのはいい。現実を両者でどれだけ目線合わせできるか大事なのです。
●揺るがない組織のつくるために必要なタレントマネジメントについて
日比谷氏:外資系企業であるマクドナルドでは、早い段階でタレントマネジメントの考え方と取り組みを採り入れていました。ホワイトカラー的に考えると次世代のエースを育てるという意味合いになりますが、実際は「マクドナルドで働くすべての人材に対してマネジメントしていくという考え方で使われていました。当然パート・アルバイト利用意気でもこの概念が浸透していました。その狙いも先々新卒採用で彼らを起用し、そして将来の幹部にしていくためです。ですからアルバイト初日から新卒入社、やがて役員になるまでの長い長い物語を提唱してそれを実践していくことが私たちの考えるタレントマネジメントです。
大浦氏:いま企業が抱えている人事の悩み。例えば人を削減してコストを見直す、社内の人材をどう動かすか、誰がこの仕事に適性があり重役に就かせるかなど、こうした悩みを紐解いていくとタレントマネジメントの概念で解決するかもしれませんね。その人の意欲や志向性を整理しておくだけでも有事の際にも活かせますし、今後の組織運営ために考える材料には十分なり得ます。またタレントマネジメントで、私の意識していることでもありますが、組織を耐震・免震・制振構造で考えるようにしています。
どういう事かと申しますと、耐震構造は太く頑丈な柱・梁で形成されていますが自身による揺れ幅によっては内部がひどく傷つけられてしまいます。これを組織に例えますと、あるカリスマ経営者が率いる組織は一枚岩で強固に見えます。しかしこのワンマン状態では金融危機や対ウイルスなどの災害時にぽきっと折れてしまう可能性もあります。一方制振構造の組織では耐震同様に揺れ幅は大きいですが、しなやかに対応する復元することも可能です。さらに免震構造となると揺れにも強く、かつ倒壊する可能性も少なく抑えられます。つまり災害などに外部要因に対してそのスタンスを都度都度変えるのではなく、免震構造という揺るぎない指標=建物をつくる作業を普段から積み上げていくことが大事だと思っています。要は揺れようが揺れまいが基本的な軸は折れず変わらず、をしっかり作っておくということですね。
日比谷氏:有事だからこそ取り組むではないですよね。マクドナルドはピープルビジネスを創業時から続けていました。どんな時でも人が人に投資し続ける組織です。本質的に言うと、経営目標に向けて統合的に推進すること。都度都度でリアクションをとってしまうと、例え「今年は採用を辞めましょう」となってしまう。人は企業の最大のエンジンであり、その最大部は止めてはならないのです。継続的なアクションを考え、そのための戦略や理念は簡単に変えてはいけないわけです。そう変える企業はうまくいっていないケースが多い。繰り返しになりますが、有事だから組織一丸となって取り組むのではないのです。普段から取り組む姿勢が大事ですよね。
大浦氏:このタイミングだから変えたいもの、変えたくないもの、変えなきゃいけないものを整理する必要がありそうですね。全部をやろうとするとピース(部品や要素)は足りなくなる。では何を新しくやっていくのかを精査していくのが大事だと思います。
日比谷氏:不足しているもの、本来あったものがなくなっているかなどもしっかりと把握しないといけませんね。私はコロナ禍での組織の立て直しを蔵案とから依頼されてアドバイスすることがありますが、その際会社と社員がしっかり意思疎通できているかをポイントとして見ています。言ったつもり、聞いたつもり、知っているつもりなどは、初動の段階で把握していなければアンコミュニケーションの原因となりますからね。
●アフターコロナに向けてどのような採用体制・組織作りを目指すべきか
日比谷氏:事業会社のような組織にいるとなかなか他社動向や世間の動きに関して掴みづらいことが往々にしてありますので、普段からの情報収集を怠らず、タイミングを計らって、ちょっと早めにアクセルを踏むということを心がけると良いと思います。私も当時人材サービスに関わる人たちからマーケットの話を常にレクチャーを受けていましたから。ホップ、ステップ、ジャンプで大きく飛べるように、材料を集めは重要ですね。
大浦氏:少し当社のPRも入ってしまいますが、採用活動などを行っていないときこそ私たちのような人材サービスの会社とつながっておくことが大事でしょう。市況感を踏まえて同業他社と比べてどうアプローチしていくかなどのアドバイスも出来ますし、実務的な導入ツールの相談もできます。加えてマーケットの実状を上層部にレポートするときに使ってもらってもいい。経営陣を説得するための材料集めや資料を作るのは大変ですから。私たちはそのお手伝いができます。不況期になると人事が経営の中心になるケースが少なくないので、ご活用いただきたいと思っています。
日比谷氏:そうです、人事が経営の中心になります。これまで社内の採用のことしかやらなかった人たちが急に経営の現場に出てくるケースもありますからね。経営を説得するためにはいいタイミングなので、いろいろ人材サービスを活用して多くの情報を集めて精査することで答えが見つかるかもしれませんね。
大浦氏:採用手法がどうというより人事主導の組織づくりをいかに形成していくか。この情勢の隙をついて本質を変えてはダメですね。どさくさまぎれで変えるのは容易いですが、大事なのはニューノーマル時代に突入した際に、有事に対しての備えになったり、揺るぎないものになる指標を作り上げるという意識は持っていてほしいと思います。
コロナ禍の転職市場データについてさらに詳しく知りたい方は、こちらのウェビナーの前半部資料をご確認ください。
【取材後記】
タレントマネジメント。新しい概念のように聞こえますが本質はそうではないようです。それは危機的状況においても揺るぎない指標をつくることであり、人を大切にして個々人に合わせたキャリアのストーリーを形成することであります。「コロナ禍だから新しいことを――」ではなく、点検という形で自社を見直すという意識が大切なのかもしれません。不況になると人事に注目が集まるというお話は興味深いものがありました。今回のウェビナーは揺るぎのない組織づくりのヒントが詰まった内容となったのではないでしょうか。
取材・文/鈴政 武尊、編集/鈴政 武尊