地球科学の専門家が集う「応用地質」。成長担うエキスパート採用の条件と育成システムに迫る

応用地質株式会社

事務本部 人事企画部 グループリーダー
津野 洋美(つの・ひろみ)

プロフィール
応用地質株式会社

事務本部 人事企画部 主任
山澤 遼(やまざわ・りょう)

プロフィール
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  • 知的情報サービス産業領域を拡大させるため採用拡大中。面接で重視するポイントは「円滑なコミュニケーション力」
  • 横断組織から専門技術を学んでいく「専任指導員制度」を整え、人材育成の効果を最大化させた
  • 地質特化「スペシャリスト」、広範地層に対応「ジェネラリスト」。全国の事業所・営業所に配置して活躍人材を増やしていく

地形・地質・気象などの特性により、災害が発生しやすく、世界でもまれに見る脆弱国土の日本では、さまざまな技術が平穏な日常生活を支えている。そのうちの一つが「地質」に関する技術だ。

応用地質株式会社(本社所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:天野 洋文/株式市場:東京証券取引所プライム)は、地質調査を軸とした事業を展開している。専門性の高いサービス・ソリューションを提供する同社の採用活動や育成プログラムについて、人事企画部の話をうかがった。

地質調査のエキスパート集団「応用地質」とは


■旧中期経営計画の事業概要:応用地質HPより(https://www.oyo.co.jp/business-field/)

――応用地質株式会社はどのような会社ですか? 事業の概要をご紹介ください。

津野 洋美氏(以下、津野氏):応用地質株式会社は地質調査を起点とし、「インフラ・メンテナンス」「防災・減災」「環境」「資源エネルギー」などに関わるソリューションを提供してきました。(2024年1月1日からの新中期経営計画ではセグメントを変更)

社会インフラの整備がさかんに行われた高度成長期には、多くの地質調査を請け負いました。その後少しずつサービスの幅が拡大し、環境やエネルギー事業、インフラの維持管理、情報サービスといった事業分野の拡大に加え個々の業務も解析、予測、診断、評価から対策にいたるまで深化しながら、さまざまな業務を担い、災害に強いまちづくりやインフラ維持などに貢献してきました。

現在は、従来の事業に加え、コア技術や蓄積した情報から、付加価値の高いソリューション(解決策)を開発する、「知的情報サービス産業」の領域を拡大させています。

例えば、台風や集中豪雨時に浸水被害状況を可視化し、即時に状況把握することを可能にする「3D仮想都市浸水シミュレーションモデル」を開発しています。また、地盤の内部構造を3次元で可視化する「地盤3次元化技術」などは、応用地質だけが持つオンリーワンの技術ですね。


地質調査のプロ集団「応用地質」の採用・技術伝承の手法に迫る

――専門性の高い事業を展開している応用地質では、どのように採用計画を立てていますか。

山澤 遼氏(以下、山澤氏):津野が申した通り、当社は社会インフラの維持や、防災・減災といった社会課題に深く関わる事業を担っております。

当社の社会的な役割と各現場のトップからヒアリングした意見を踏まえ、全社的なバランスを取りながら、採用の計画に落とし込んでいます。

――やはり、地質、土木の学問的な知識や経験は必須ですか。

山澤氏:ビジネスの特性上、専門的な学部を卒業した社員の割合が高いのですが、文系出身の社員も活躍しています。およそ40人の新入社員のうち、理系学部出身が8割、文系学部出身の社員が2割といった感じです。

――文系出身の方も活躍されているんですね。

山澤氏:当社の業務では、専門的な情報をかみ砕き、情報の受け手の立場に立ってわかりやすく伝えなければならない場面が数多くあります。

必ずしもお客さまがその道に精通しているとも限りません。そのような場面で、文系社員の言語化能力が役立つ場面が多くあります。

――採用の現場では、どんな点を重点的に評価していますか。

山澤氏:専門的なことを一言一句、間違えずに答えることよりも、面接官の質問意図をくみ取り、相手の立場に立った答え方ができるか、円滑にコミュニケーションを取ることができるか、変化に柔軟に対応できるかどうか、という点を面接では特に重視しています。

これは面接に携わる全員の目線を合わせるために、候補者評価に関しては、現場とも相談しつつ毎回すり合わせています。

――「変化」というのは、具体的にはどのようなことでしょうか。

山澤氏:ひと言でいうならば、あらゆるシーンにおける変化です。「人と地球の未来にベストアンサーを」が当社の経営ビジョンですが、顧客、組織、業界、社会の「ベストアンサー」は、常に変わり続けています。

過去には地質調査だけで事業が成り立っていた時期もありましたが、今後、地質だけで事業を継続することは到底できません。

例えば、「地質×土木」、あるいは「地質×資源・エネルギー」など、複数のことを掛け合わせて、付加価値のあるソリューションを提供していかなければ、お客さまの望む「ベストアンサー」を導き出すことができなくなっていくでしょう。

専門外の領域を深めていかなければならないときに、「それは自分の専門ではない」と突っぱねてしまっては、立ち行かなくなっていくと思います。だからこそ、変化への対応力を重要視しています。

――人材獲得のためにどんな取り組みを行っていますか。

山澤氏:新卒採用では、求人メディアや大学の求人受付などで募集をしています。当社の社員が複数の大学で非常勤講師を務めているため、授業で当社のことを知り、応募してくれるパターンもあります。ここは他社とは違う、当社独自の採用ブランディング活動ですね。

これまでに培ってきた関連知識が活かせる場所として、シームレスに当社を第一想起してもらうための認知活動の一つです。

ただし、地質や土木の学部は限られているので、現役社員の出身大学や、教授とのつながりで応募してくる学生もいます。

また、当社の社員による学会での発表を聞いたことで、応募してくれる候補者もいます。社員の研究活動がリクルート活動に寄与している側面もあると思いますね。

――中途採用についてはいかがでしょうか。

津野氏:先述の大学や学会といったネットワークから、リファラル採用でキャリア人材の獲得につながることもあります。

しかし毎年一定数の中途採用の社員がいますが、数は多くありません。経営層は今後、多様性を生み出すために中途採用に力を入れていくという方針を示しています。

また当社が「知的情報サービス産業」の領域を拡大するにあたって、これまで当社の環境にはいなかった人材に対しても注目していくこととなるでしょう。特にそうした方々は異業種・異職種に在籍されていると思いますので、当社が身を置く業界以外にもアプローチを広げていく必要性は感じています。

手法に関してはさまざまありますが、パーソルキャリアをはじめとした人材サービス会社を活用しつつも、昨今隆盛しているダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)サービスの活用、あるいは転職希望者の職務適性を診断するといったようなサービスを活用し、そこから流入された方などにアプローチするなどして、当社にマッチする方を粘り強く探している状況です。

その際は、「こんな(経験・スキルなど)をお持ちのあなたへ――」といった具合に、1to1のメッセージ性があり、かつ温かみのあるアプローチを心掛け、一人ひとり丁寧な採用を実践しています。

専任指導員制度による人材育成。「社会人の心得」を重視する理由(ワケ)

――採用後の育成システムについて、ご紹介ください。

津野氏:当社では「専任指導員」が新入社員に付き、働き方、顧客対応の仕方、時間管理、専門分野の基礎知識など、社会人の基本を教えます。

専任指導員を務めるのは、同じ部署・グループの先輩社員です。この専任指導員と配属部門の責任者、そして新入社員が一つのチームとなり、一人ひとりに合わせた教育指導計画書に基づいて、計画的に人材を育成する取り組みをしています。

――応用地質で培われた専門技術の伝承は、どのように行われているのでしょうか。

津野氏:当社の事業のベースとなる地質や防災、環境、土木設計、情報といったコア技術は、全社共有の財産です。

事業部の垣根を越えて継承・発展させていくために、事業部を横断した「専門分野チーム」という組織をつくり、その活動の中で若手社員に技術を伝承しています。

専門分野チームは10チームあり、日々各チームが技術の研鑽に努めています。事業部の垣根を越えて、協業しながら課題に取り組むこともあります。

例えば、トンネルの定期点検で問題が見つかったと仮定します。まずは「設計チーム」が原因を究明する中で、周囲の地層に原因があれば「地質チーム」と協業し、地滑り危険マップの情報を照合しますし、問題が周囲の森林植生に起因していれば、「環境チーム」と協業して調査をします。

同じ現場をそれぞれのチームが別の指標から検査し、互いを補完し合うようなケースもあります。新入社員はいずれかのチームに所属し、専門分野チームから技術的な視点や知識を身につけていきます

――事業部内で社会人としての心得を学び、横断組織から専門技術を学んでいくのはユニークな取り組みですね。他にも何か注力している育成の取り組みはありますか。

山澤氏:今年から始まる新しい中期経営計画では、人材育成と健康経営にさらに力を注ぎます。次世代の経営者育成教育については外部の力も借りながら本腰を入れていく方針です。


人材育成の平準化により提供できるソリューションの差をなくしていく

――これまでのお話で、人材育成を大切にしておられる印象を受けましたが、何か課題はありましたか?

津野氏:2019年より前は、地域に拠点をおく「支社制」戦略だったため、地域によって売り物や技術にばらつきがあったのが課題でした。そこで、2019年以降、日本国内どの拠点でも、同水準のソリューション(解決策)をお客さまに提供する「事業部制」戦略にシフトするという構造改革を行いました。

従来の体制では、同じ部署の新入社員と専任指導員が毎日顔を合わせて、わからないことがあればすぐに相談できる環境にありましたが、新体制になって(別々の現場に出張に行くといったような)物理的な距離が生じた上に、コロナ禍に見舞われました。

山澤氏:当社には育成を大切にするカルチャーはありましたが、明文化されていないことが多くありました。コロナ禍で対面の研修機会が減ったことをきっかけに、研修内容や質のばらつきをなくすため、人員研修の体系化を進めることにしたのです。

――「Z世代」(1990年代半ば~)の若手社員も増えていると思います。一様にくくることは難しいと思いますが、若手社員の傾向や御社の課題を教えてください。

山澤氏:若手社員は自分のキャリアプランを明確にしており、入社前の時点で働き方や勤務地など、ある程度希望を固めている人が多い印象です。会社組織として経営判断を落とし込むことに、ハードルの高さを感じることもあります。

当社は全国各地に事業所・営業所を構えていますが、転勤を好まない社員が多い点は一つの課題です。各拠点で人間関係を構築しつつ、さまざまな業務を1人でひと通り経験してきた人と、数十人のうちの1人として大きな案件に関わっていた人とでは、成長のペースが異なります。できれば、いろいろな場所でたくさんの経験を積んでほしいと思っています。

津野氏:私は技術者出身ですが、四国と北海道では地質がまったく違います。地質にも、特定の地質に特化した「スペシャリスト」と、広範な地層に対応できる「ジェネラリスト」があり、その個性をうまく活かしていくか、配置していくかが課題です。

もちろん地質分野に限りません。社員みなさんが得意を活かし、貢献できるような人事の仕組みづくりが課題です。

人的資本の開示、女性技術者比率の向上が成長のカギ――?

――今後、人事企画部として注力したいテーマはありますか?

山澤氏:当社は男性の割合が多いのですが、直近5年の新卒採用を見てみると女性が3割を超え、女性比率が上がっています。今後は女性管理職の比率も上げていきたいと思います。

2023年度からは、人的資本の情報開示がスタートしています。数字ありきではなく、社内でどのような制度や取り組みが必要なのかを考えていかなければなりません。

――海外進出の展望などはいかがでしょうか?

山澤氏:海外で個別の案件に対応することはありますが、ボリュームはあまり大きくありません。しかし、災害大国の日本が経験したことを、今後、他の国が経験するかもしれず、その場合には当社のノウハウが役立つケースも想定されます。

当社の技術を海外に、海外の技術を国内に、という橋渡しができる人材が必要になっていくかもしれません。

――最後に、人事企画部という立場から、応用地質の今後のビジョンについてお聞かせください。

山澤氏:応用地質には、地質にまつわる膨大なデータと知見の蓄積があります。今後、地下の都市開発・交通網の整備などが行われるときに、計画に関わる業者の中には、当社が保有する地質情報を必要とする業者もあるでしょう。

現在、コア技術とデジタルを融合させて、ビジネスの高付加価値化を進めています。そのため、人材採用ミッションの一つとして「DX人材の育成・採用」が挙げられます。

DXやAIを専門分野とする人材採用に本腰を入れていくことになりますが、他企業でもDX人材を必要としていますから、本格的な採用戦略が必要だと認識しています。

もちろんこうした領域を広げていくためには、人的資本経営をしっかりと行い、女性管理職の比率も上げていくことで新たな視点も生まれてくるでしょう。「これをやれば会社は成長する」といった最適解はないと思いますが、それぞれの取り組みをコツコツとやることで成長していくと信じています。

人事企画部としては、経営戦略をベースに、さまざまな成長の要因を考慮して、人材戦略を進めていけたらと考えています。

津野氏:応用地質ではDX推進を積極的に進め、デジタルやAI、人の知見を掛け合わせ、災害の多い日本でさまざまな社会課題と向き合っています。

デジタルの恩恵は目覚ましく、例えばトンネルを掘っているその最中にも、時々刻々と変化していく地質の状況をリアルタイムに分析できます。万が一、該当地域の方々に危険がある場合でも、正確に情報を伝えることができるようになっています。これまで認識できなかった地質リスクを把握できるようになったことも、大きな変化です。

このように、デジタルが重要な役割を果たす一方、問いを立て、仮説を組み立てて、検証するという「人の力」も必要不可欠です。社員には、今持っている個性を大切にし、創造力を発揮し続けてほしいと思っています。

【取材後記】
「技術」という豊かな無形資産を有する応用地質では、部署を横断し、異なる専門性を持った社員が協業して技術を伝承しているという。一方、部署内の専任指導員が、きめ細やかなケアも担う。日本に暮らす人々の安全を陰で支える技術が、今日も同社の中で探求されている。専門性の高い技術やスキルを持った人材の採用は難度が高い。しかしながら、求めている人物像や要件を明確にすること、そして成長できる環境を整えることで、採用候補者から振り向いてもらえる会社になるのかもしれない。

[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、北川和子、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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