年間採用計画の達成の陰に、”スーパーリクルーター”あり。名古屋エリア最大手のタクシーグループが実践する採用戦略と活躍人材の育成体制を追ってみた

愛知つばめ交通株式会社

常務取締役 山口 直毅(やまぐち・なおき)

愛知つばめ交通株式会社

業務部 次長 安井 次人(やすい・なみと)

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  • 2024年問題などで揺れる旅客・運送業界において名古屋エリアでトップシェア。キャリア採用だけでも若年層中心に年間30名以上採用
  • 料金設定が他社より割高、しかしリピート率はトップクラス。秘訣は元客室乗務員が指導するオンボーディング・育成体制による接客クオリティの向上
  • 面接実施日は月の3分の1。コンタクトを取っていただいた転職希望者には、日本全国津々浦々の現住所までリクルーターが赴き体面面接を行う

コロナ禍、2024年問題など、運送業界を取り巻く状況は激動している。そのような環境の中、愛知県を中心に13社のタクシー会社の他、8社の関連会社を展開するタクシーグループの1社である愛知つばめ交通株式会社(つばめタクシーグループ本社所在地:愛知県名古屋市瑞穂区/代表取締役:山口貴史)は、年々上昇する市場ニーズをしっかりと捉え、東海エリアでトップシェアを獲得している。

さらに採用活動にも注力しており、キャリア採用者だけでも年間30名前後入社させるという実績を持ち、こちらでも十分な成果を出している。愛知つばめ交通はなぜ事業の成長と採用両方で成功しているのか。常務取締役の山口 直毅氏、業務部次長で採用担当の安井 次人氏の2人にお話しを伺った。

そこには転職希望者(求職者)を徹底してフォローし入社まで導く、「スーパーリクルーター」の存在があった。


配車アプリの普及により市場拡大する、名古屋エリアトップシェアのタクシーグループ

――まずは愛知つばめ交通について、会社や事業の概要について教えてください。

山口 直毅氏(以下、山口氏):つばめタクシーグループは、1952年に創業したタクシー会社、つばめ自動車が原点になります。その後、事業を順調に拡大にしていく中で、同業者やバス、トラック事業などを手がける会社を仲間として加えていき、現在は13社のタクシー会社の他、8社の関連会社を展開しています。約2600名の従業員が働く、つばめタクシーグループとして成長してきました。

当社、愛知つばめ交通はまさにグループに加わった一社となります。グループ全体としては名古屋エリアのタクシー会社として売上高は約20億円ならびに、車両の保有台数は約1500台。どちらにおいても、トップシェアを誇ります。

また昨今はタクシー事業以外にも、引っ越し事業、介護事業、燃料販売やガソリンスタンドなど、事業の多角化も進めています。

――コロナ禍、2024年問題など旅客・運送業界の環境が激動する中で、トップシェアを獲得し続ける理由や秘けつはどのあたりだとお考えですか。

山口氏:大前提として、タクシー市場の拡大があります。名古屋エリアは関東・東京エリアなどとは異なり、インバウンド特需のようなものはありません。その大半はビジネス用途が多く、さらにコロナ禍で外出や遊びを控えていた方々が、最近は街に出るようになったことも要因です。だから、自然とタクシーを使おうと、そのようなお客さまが増えているように思います。

さらにスマートフォンの普及に伴い、配車アプリなどの浸透も進みました。関連アプリを利用することで簡単・便利にタクシーを呼べるようになったことも大きいと思います。実際、当社でもアプリの利用者は70%以上に上ります。

このように市場が伸びている状況において、つばめグループのタクシー台数は名古屋エリアでトップであるため、すぐにお客さまのもとに駆けつけることができます。

加えて、接客サービスの質の高さという点においても、お客さまから選ばれると感じています。実は、アプリ利用で当社を迎車すると、他社よりも料金が少し高いんです。それでも、お客さまは当社を選んでくださり、かつリピートしていただけている。これは当社の提供する接客サービスの高さも関連していると言わざるを得ないでしょう。

JALの元客室乗務員が指導する、オンボーディング・育成体制が充実

――料金が他社より高いのにシェアを伸ばし続けているとは驚きました。高く評価されている接客サービスは、どのようにドライバーに身に付けてもらっているのでしょう。

山口氏:当社では運送業界や同業種から転職してくれる方もいますが、最近は全国各地からドライバー未経験の、若い方々が入社してくれるケースが増えています。そのため初期研修を充実させています。

具体的には、二種免許を取得してもらった後、グループで運営しているつばめ研修センターで、まずは18日間みっちりと基礎研修を行います。その後の配属先でも、研修は22日間続きます。同業他社の研修状況と比べても、かなり研修期間が長いと自負しています。

そもそもお客さまにとっては、ドライバーが新人かどうかは関係ないですからね。つばめ交通に乗れば上質な接客サービスを受けることができる。そのご期待を裏切らないような接客レベルに達してから、しっかりと現場に送り出す。

このような基本方針の元、研修を徹底しています。さらにはより上質な接客サービスにブラッシュアップするために、役員クラスのメンバーも含め、定期的に研修を継続しています

研修以外の取り組みも行っています。商用車両などに設置したドライブレコーダーにより、運転も含めた日々の接客サービスの状況を専門の調査会社に依頼してモニタリングするとともに、30名ほどいる覆面調査員が実際にタクシーに乗車し、定期的に接客の状況をチェックする体制を敷いています。いわばクオリティ維持のためのチェック機能を備えたということです。

――タクシードライバーの接客サービスとは、具体的にどのような振る舞いや言動を意識されているのですか?

安井 次人氏(以下、安井氏):一言で説明するのはなかなか難しいですが、「また つばめ交通を利用したい」と思っていただけるような“おもてなし”を意識しています。例えば、お客さまが疲れていそうだと感じたら、声のトーンを明るめにしたり、元気が出るようなお声がけをしたり――。

場合によってはもっと踏み込んで、目的地に着くまでの間、お客さまのお話し相手となって、時には相談にも乗るといった具合でしょうか。そして目的地に到着した後は、「どうぞ気をつけて行ってらっしゃいませ」と丁寧にお見送りする。

これはドライバーではなく、コールを受ける営業社員によく言っていることですが、声を聞いただけで発言している人の笑顔が浮かぶような「笑声(えごえ)」と呼ばれる明るいトーンの声で対応しましょうと繰り返し啓蒙しています。ドライバーにも営業メンバーにも、このような指導や育成を徹底しているのです。

――接客サービスを評価する、アセスメントのようなものはあるのですか?

山口氏:はい、あります。例えば、あいさつを正しく言えているかどうか、それと身だしなみ、清潔さなどいくつか項目があり、先の覆面調査員などが、それぞれの項目を5段階で評価。そこに、いま紹介したようなプラスアルファとして、おもてなしの内容を加えています。

評価の点数が低い人も当然いますから、そのような人には改めて研修を受けてもらいます。そしてその際は、元JALの客室乗務員の指導によるサービス研修を受けてもらうといった流れになります。


年間採用計画を達成する陰の功労者、つばめのスーパーリクルーターの活動とは

――シェアが拡大しているとのことで、新しい人材も必要かと思います。具体的に利用している採用チャネルも含めた、採用戦略についてお聞かせください。

安井氏:採用チャネルは、100%Webメディアになります。例えば、パーソルキャリアの転職メディアdodaなどといった大手の広告媒体ももちろんですが、自社のWebサイトでも専用の採用ページを設けるなどして、注力しています。

直近の年間採用計画では、キャリア採用者だけで35~50名程度と目標を設定しており、実際それに近い採用を実現できています。

特にパーソルキャリアにはお世話になっています。採用決定につなげるため少なくとも2日に1回、もしくは応募が入るたびに連絡をいただき、フォローしていただいています。

また、求人メディアの制作部門の方とともにdoda経由で入社された方へ複数回インタビューも実施してもらいました。その情報を基に求人メディアのブラッシュアップとリニューアルを繰り返すことで、求めるは人材に刺さる訴求の精度を高めていっています。

さらに訴求の際には、アットホームな雰囲気や若いドライバーが活躍している様子などを、全面に出すように心掛けています。実際、そのような環境を魅力に感じ、入社を希望する人が少なくないからです。

もう一つ、若くしてタクシードライバーを希望される方の中には、タクシードライバーという仕事ではなく、稼げるから、という点で選ばれる方も少なくありません。例えば、「4年間しっかりと稼いで自分のお店を持ちたい」といったような具体的な夢を持つ方も入社しています。そのような層に刺さるように高収入を得られることタクシードライバーが夢への近道であること、なども訴求することが多いですね。

さらにはフレキシブルに働くことができる環境であることも訴求しています。実際、そのような環境に魅力を感じて入社してきた現役のボクサーもいますからね。

――その他、採用に関して意識していることや心掛けていることはありますか?

安井氏:これはもう採用戦略の半分以上を占める重要なことになりますが、コンタクトを取ってくださった方には、とにかく早く会うこと、こちらから求職者の元に出向くことを徹底しています。

当社にコンタクトを取っている求職者は、地場も含め他社のドライバー求人にもコンタクトを取っている場合がほとんどです。そのような同業他社と接触する前に、まずは最初に面接することが重要だと考えているからです。

このような考えですから、曜日も時間帯も関係ありません。とにかく早く、私は“鮮度”との言葉で表現するのですが、せっかく当社に興味を持ってくださった求職者とのご縁、気持ちが冷めないうちに、すぐに会う――。実際、求職者の大半は現職で仕事をされているので、仕事が終わった夜7時や8時に会うケースも多いですね。

山口氏:端から見ていても、安井さんは本当にフットワークが軽いと思います(笑)。「今から会えますか?」といった調子で、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地に出かけていきますからね。そして訪れる場所も近隣の商業施設などではなく、なるべく家の近くまでアプローチしています。

安井氏:今年はそれほどでもありませんが、それでも月の3分の1は面接で日本各地を訪れています。他社より先にコンタクトを取りたいとの気持ちもありますが、まずは当社に興味を持ってくれたお礼を直接会って伝えたい。このような気持ちも大きいですね。

――お礼、ですか?

安井氏:はい。いろいろ業種がある中でタクシー業界を選んでくださったこと。お住まいの地域はもちろん、より大きな東京や大阪といった都市部があるにもかかわらず、名古屋のタクシー会社、その中でも当社を選んでくださったことに対して、感謝の気持ちを述べたいからです。

――実際に求職者とお会いして、お礼や感謝以外にはどのような話をされているのでしょう。

安井氏:すぐに採用したい方が大半ですから、私が話すというよりも入社後の環境などについての質問や不安に感じていることを聞き、答えることが多いですね。例えば、名古屋という場所はどんなところなのか物価治安住んでいる人の属性タクシーを利用するお客さまの層や特性などです。

しかし半分は衣食住の話で、移られてきた際の住まいの話も出ることが多いです。私は普段から不動産会社とも密に連絡を取り合っていますから、入社後のお住まいとしてどのような物件を望んでいるのかも伺います。それもユニットバスやウォシュレットといった好み、さらにはペット可の物件かどうかまで求職者からの要望を聞いた上で、正直にお答えしています。

――ペットも一緒に連れていって構わないと?

安井氏:はい、ペットはそもそも家族ですし、最近は実際にペットと一緒に名古屋に来られる方も増えています。このようにいろいろと相談に乗っているうちに、気づくと3時間ほど話し込んでいた、そのようなケースも少なくありません(笑)。

もちろん、このような情報はWebサイトにも掲載していますし、今後は実際の年収モデルなども公開するつもりです。とにかく採用に関しては出せる情報はすべて出すといった意気込みで臨んでいます。


採用担当者が引き続き入社者のメンターとして寄り添う体制を構築

――採用後、離職率を下げるために取り組まれていることがあれば教えてください。

山口氏:以前と比べると、タクシードライバーが高収入を得るようになるには、配車アプリの利用拡大などにより、それほど難しいことではなくなってきました。しかしそれでもかなりの時間を要したり苦労を伴ったりする方もいらっしゃいます。そこで入社後においては、特に安井さんがメンターとなり各種サポートを徹底しています。

安井氏:私の仕事は採用までではなく、そこから先も含めてだと考えています。中には人生をかけて当社に転職してくる方もいらっしゃるので、こちらとしてもその気持ちに全力で応えたいとも考えています。

具体的にはこちらも先の面接の内容と近いですが、24時間365日悩みや相談したいことがあったらいつでも連絡するようにと伝えています。

また、連絡しやすい、意見が言いやすいような環境や対応も心掛けています。そしてこのようなフォローは私だけでなく、会社全体の意向でもあります。このような雰囲気や気持ちが従業員に伝わるように意識しています。

――最後に今後検討している採用戦略についてお聞かせください。

山口氏:採用の専門サイトをリニューアルしようと考えています。現在は、「給与が稼げる」「全国各地の仲間が活躍している」など、そのような内容をアピールしているのですが、実際は「Webに載っている情報など信用できない」という声も聞かれています。

ですから人的資本開示という意味合いも含め、より転職希望者に納得してもらえるようなサイトを目指しているといった具合です。

また、女性活躍推進の一環として、例えば、女性管理職の割合も増やしたいとの想いもあります。現在でも女性専用のトイレや休憩室を設けていますので、こちらもそのような情報をサイトで伝えたりしています。

もちろん当社にはトランスジェンダーの従業員も活躍していますので、今後は外国籍の方を含めた多様な人材もより積極的に採用していきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。

【取材後記】

働き方改革法案によりドライバーの労働時間に上限が課される「2024年問題」。当然のことながらタクシー業界もその流れに沿うように激動の時代に突入している。そのような中で市場シェアを拡大し、さらには人材採用により会社全体も成長しているという、愛知つばめ交通を取材させてもらった。採用成功の裏には、全国どこへでも出張面接に赴くスーパーリクルーター安井氏の功績と活躍が決して外せない。どんなにシステマチックに体制を組もうとしても、最後に成功するのはそこにかける想いや情熱、行動量なのかもしれない。そんな名古屋エリアを中心に活躍する愛知つばめ交通。今後の躍進にも注目していきたい。

[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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