レプロエンタテインメント採用責任者が明かす、芸能プロダクションの戦略人事。業界ブラックボックス体質からの脱却、採用成功へどうつなげたのか――
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4年ぶりに採用活動をスタート。採用にテーマを定めることで、求める人物像が明確になりマッチングがしやすくなった
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業界の再編やイメージ低下をどう対処するのか、採用ブランディングで注力したのは人的資本開示と採用活動のオープン化
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自社の採用メッセージを明確に伝えるために、採用メッセージはプロフェッショナルに依頼
「特殊な業界」というイメージが伴う芸能界。芸能人が所属する「芸能プロダクション」に対しても、同様のイメージを抱いている方は多いかもしれない。業界についてさまざまなニュースや話題が飛び交う昨今、芸能プロダクションである株式会社レプロエンタテインメント(会社所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:本間 憲)は4年ぶりに採用活動をスタートさせた。その狙いとは――。
エンタテインメント業界の構造が激変する今、“芸のプロフェッショナル”を擁する芸能プロダクションはどうあるべきか。また、そこで働く従業員はどのような能力が必要とされているのか。同社で人事施策を打ち出す本間 隆平氏に、人事・採用戦略の観点から芸能プロダクションという「企業」と、“異能”を必要とする採用手法、そして働く環境について伺った。
多角的に事業展開する芸能プロダクション「レプロエンタテインメント」
――まず、株式会社レプロエンタテインメントの事業概要について教えてください。
本間 隆平氏(以下、本間氏):レプロエンタテインメントの創業は1991年で、モデルのマネジメントをするモデル事務所としてスタートしました。そして、モデルとして当社で活躍していた方が、テレビバラエティやドラマに出演するようになり、吉川ひなのさん、長谷川京子さんなど、タレントとしても活躍する機会が増えていきました。
その後は、新垣結衣さんをはじめとする多種多様な芸を持つ実演者(注:俳優・演奏家・タレントなど)が続々と所属するようになり、モデル事務所としてのみならず、「芸能事務所」として事業を拡大してきました。
現在は芸能人のマネジメントに加えて、映画やドラマなどのコンテンツを作る映像事業、企業や作品のプロモーションを担うPR代理事業も展開しています。
4年ぶりの定期採用を実施。その背景と求める人材像「作品愛を持った人物」とは
――複数の事業を展開する御社では、どのような採用活動を行っているのでしょうか。
本間氏:現在は、演劇、映画、ドラマといったエンタメ領域に携わる俳優の採用を強化しようと、4年ぶりに定期採用を行っています。応募条件とテーマは「作品愛」。新卒・既卒、学歴、学部、経験、年齢などは不問としています。
――4年ぶりの定期採用に踏み切った背景とは。
本間氏:昨年は当社が主導し、ドラマを数本制作、映画なども手がけました。韓国映画『パラサイト』では、日本語版舞台の企画・プロデュースを担うなど、制作分野の事業が充実してきています。
また、レプロエンタテインメント30周年企画では、「主役オーディション」で俳優に特化したオーディションも実施しています。
このオーディションは、テレビ朝日系列の特撮ドラマ『王様戦隊キングオージャー』の主人公を務めた酒井大成(さかい・たいせい)、NHK連続テレビ小説の『ブギウギ』に出演した黒崎煌代(くろさき・こうだい)のデビューのきっかけとなりました。
制作部門が発展し、所属俳優が充実してきている今こそが、人材に投資して攻めるタイミングだと考え、2025年度の定期採用に至りました。
――定期採用では、応募者のどのような面を重視しますか?
本間氏:最も重視しているのは、作品やエンタメに対する「熱量」です。スキルや経験は比較的目に見えやすいものですが、エンタメへの造詣の深さはなかなか見極めにくいものです。
そうした熱量を見極めるためには、年間を通じて定期的に募集を行う「定期採用型の募集」が当社にとってベストである、と判断しました。
――採用のキャッチコピーに「応募条件は作品愛。」とあります。具体的にどのような人物像でしょうか。
本間氏:特定の対象への関心や愛が深く、良い意味で「オタクっぽさ」のようなものがある人、というイメージです。1つのテーマを突き詰められる人、何かを掘り下げて調べたら、別の何かと共通項を見つけて、さらに掘り下げて、どんどん知識を広げていくような人がいいなと思っています。好きな作品や俳優、監督の話だったら何時間でも話ができる人などはその最たるゆえんです。
そのため、当社の面接では、特定のテーマにおける話の広がりや熱量を重視しています。また採用フローに関しても、いくつかのフェーズで「熱量」や「造詣」などを見極められる機会を作っています。
例えば、採用候補者はまずはエントリー、そしてグループ面接、映画鑑賞レポート、グループでの謎解きゲームなどと続き、最後に当社役員などとの最終面接を経ていただくわけですけども、特に映画鑑賞レポートのフェーズでは、採用候補者たちが1つの作品を同時に鑑賞し、見終わった後、感想を自由に記載、提出していただいており、見極めの要素としています。
こうした各フェーズの中から、採用候補者本人の「作品愛」を見出し、それをビジネスにつなげられる力があるかをしっかりと判断し、当社が求めている人材とマッチングして入社してもらえるよう仕組み化したのです。
――応募状況はいかがでしょうか。
本間氏:200名ほどの応募を見込んでおりましたが、ありがたいことに、500名以上の応募を頂きました。2019年度の実績と比較しても、倍以上の人数です。現時点では、5名の入社決定者が生まれました。
――採用活動の周知については、どのような取り組みをしましたか。
本間氏:一般企業と比較すると採用の動き出しは遅く、2025年の採用に向けて新部署が立ち上がったのが2024年1月。実際に動き出したのは3月でした。
芸能プロダクションは興味を持ってもらいやすいというアドバンテージがあります。このアドバンテージが実際の応募数に直結するわけではありませんが、結果的に今回は多数の応募を頂きました。
母集団形成に関しては、人材紹介サービス各社にご協力いただき、求人メディア、ダイレクト・ソーシングなどのサービスを活用させていただいています。また、パーソルキャリア(会社所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:瀬野尾 裕)にもサポート受けて、「doda ダイレクト」での底支えもしていただきました。
――募集のメッセージに何か訴えるものがあったのではないでしょうか。
本間氏:募集要項(求人ページ)の段階で、「作品愛を持っている人」と明確に打ち出したことで、当社が望む人物像が伝わり、求める人材とマッチしやすかったのかもしれません。
エンタテインメント業界にいると、「プロに依頼してお金を払うこと」の価値を実感することが多いものです。当社のメッセージを明確に伝えるために、プロの方に採用メッセージのお手伝いを依頼したことも良かったと思います。
――人が集まるか、という不安はありましたか?
本間氏:正直に申し上げて、世間には「レプロエンタテインメント」に対してネガティブな印象を持っている方もいると思います。インターネットでは「レプロ」と入力すれば、過去に独立したタレントの名前やネガティブなキーワードが表示されることがあります。
定期採用は4年ぶりですし、世間のリアクションについての不安はありましたが、一方で「ちゃんと知ってくれたら大丈夫」という自信もありました。実際、当社は企業としてさまざまな制度を整えていますし、働き方や実演者との契約に関する考え方も、日々アップデートを続けています。
社会から厳しい目を注がれた経験があるからこそ、社会の一員として恥ずかしくない会社でなければならない、と強く思っています。また、実演者との契約に関しても、業界の中でも最もフェアな内容であると自負しております。
誤解が多い芸プロ、働く環境の「ほんとう」に迫る
――社員の働き方についてはいかがでしょうか。
本間氏:先の採用のお話にもつながりますが、社内環境を改善しなければせっかく人材に集まってもらったとしても長く続きません。そこで採用活動をストップさせていた期間より以前から組織開発と働き方改革にも注力してきました。
例えば、これまでマネージャーとして働く社員が、所属する実演家の現場に同行する場合、「朝まで撮影に立ち会う」ということもありました。しかし、それではいけないということで、環境改善に対する施策を進めてきました。
そこで「マネージャー=身の周りの世話をする付き人」というイメージを刷新し、実演者や作品を世の中に知ってもらうための「プロデューサー」という役割にシフトしたわけです。
ひと昔前まで、マネージャーといえばガッツや体力が重視されていました。しかし当社では、マネージャー業を「戦略を練る重要な役割を担う人材」と定義しています。
具体的には、当社に所属する実演者がスターになるためのプランニングの仕事や、実演者をコーチングしながらゴールを目指して伴走するというような役割です。
この変化を社内外に印象付けるためにも、マネージャーの部署は「プロデュース本部」という名前にしました。また、マネージャー職の「自己成長」と「健康」のバランスを取ることについても、会社の責務として取り組んでいます。
――女性の働きやすさについてはいかがでしょうか。
本間氏:上述の働き方改革の一環で社内制度と環境の整備も2018年ごろより進めてまいりました。現時点では、女性の割合は半数を超えています。また、3つある部署の本部長3人のうち、2人は育児中の女性社員で、1人は産休取得中です。育休取得率および復帰率は100%といった具合です。。
このことからも、レプロは女性が働きやすい会社になったと言えるのではないかと思います。
――キャリア面談は実施していますか?
本間氏:「1on1」の面談を、最低でも3カ月に1回は実施しています。
相手に仕事を押し付けるのではなく、その人の行きたい方向を見極めて引き出し、サポートしていくという点において、社内での「1on1」と芸能マネジメントは似ている部分があるように思います。
キャリアに対する意識が定まっていない社員については、キャリア相談ができる窓口を設けるなどし、人事としてサポートしています。
――社員の評価はどのように行っていますか。
本間氏:当社では成果評価を取り入れています。成果を上げて管理職に昇格する、ということですが、中には管理職になることを望まない人もいます。そうした方も将来のキャリアパスが描けるような人事制度を整えています。
マネージャー職に就いている人は、売上や個々の目標に対する業績評価はもちろん、行動指針のような共通のバリュー評価項目についても加味して評価しています。
実演者を支えるマネジメント環境と、これからの芸プロの存在意義とは
――「レプロエンタテインメント」という企業を、人事面からどのようにしていきたいとお考えですか。
本間氏:過去には離職率が高かった時期もありましたが、今では非常に低くなりました。社員が定着し、長く働いてもらえることはとても喜ばしいことですが、変化や流動性という点では課題にもなり得ます。
環境を変えることで見えてくる景色もあると思いますし、それが成長に寄与することもありますから、人材の流動性、ジョブローテーションは推奨していきたいと考えています。人事の仕事は社員の成長にコミットすること。それを高い水準で担っていきたいですね。
――社員の成長を大切にされているのですね。
本間氏:学ぶことが成長につながると思っています。私ごとですが、昨年、早稲田大学 大学院のMBAを取得しました。外部で学び、いろいろなことを知ることができて、自分自身の変化を感じました。
この経験から、社員研修などの機会に投資をし、社員の成長を促進していきたいと考えています。
――本間さんが参考にしている人事施策はありますか?
本間氏:サイバーエージェントさんの人事施策は参考にしています。当社と比べて業態やカルチャーが異なりますから、同じ施策をそのまま取り入れるわけではありません。しかし、「どうすれば社員のモチベーションを高く維持できるのか」という点は、考え方として大変参考になります。
一般企業の事例にも目を向けながら、社員の成長や能力を引き上げるにはどうすればいいかを常に考えています。
――御社が働き方や学ぶ文化を整えていることがわかりました。一方で、芸能プロダクションに対する世間からのネガティブなイメージについてはどのようにお考えですか。
本間氏:これまで芸能界には、業界固有のルールや村社会的なルールなどがありました。レプロもご多分に漏れず、業界のルールで動いていたことは否めません。それにより当社と関わり合いを持つことを忌避する動きも、全くなかったとは言いません。
現在の芸能界では、これまで黙認されてきたことを是正する動きが加速化しています。芸能プロダクションについても、旧来のステージにとどまっている会社と、社会の変化に順応しようとしている会社に二分されてきています。
レプロエンタテインメントは、改善点に向き合いながら、組織の在り方を変えることを選びました。
組織改革を推進することで、少しずつ当社に向ける“世間のイメージ”も変わっていくでしょうから、採用ブランディングなどにも影響し、やがてさまざまなスキルや経験を持った人材が各業界から集ってきてほしいと思っています。
――所属している芸能人については、どこまでマネジメントをすべきかの線引きが悩ましいと思いますが、その点はいかがでしょうか。
本間氏:芸能人は、何かを代表して人の前に出るという役割が大きい仕事です。人からリスペクトされたり、憧れられたりする存在でいるためには、社会のルールを守り、代表する立場を維持するような存在や価値観を保ってほしいと思います。
一般的な雇用契約ではなく、「プロ」としての契約ですから、彼らのプライベートを律する必要はないかもしれません。しかし、社会のルールから著しく逸脱した場合には、契約違反として契約解除することもあります。そこは「終身契約」が当たり前だった以前とは違う点です。
その中でも、お互いが「契約したい」と思えるような関係性を築くことが日々のコミュニケーションや業務に求められますし、そういう意味で当社が「マネジメント(=管理)」よりも、「プロデュース」という価値観にシフトした背景でもあると言えます。
――昨今は、事務所から独立して個人事業主をされる実演者も増えてきています。芸能プロダクションの今後の役割は?
本間氏:これまでによくある契約内容では、事務所を移籍しにくかったり、辞めにくかったりすることが多かったのですが、昨今は契約を自由化する流れがあります。当社としては、「この事務所に所属したい」と思ってもらえるような環境作りに、今後も力を入れていくつもりです。
実演者の方においては、マネージャーというビジネスパートナーがつくことや、多種多様な活躍の機会が得られること、そして高水準のバックオフィス業務の提供できることが、当社に所属する意義になると考えています。
マネージャーになりたい方においては、実演者を育成したりプロモーションしたりすることや、時にはコンテンツを一緒に作ることなど、その実演家のキャリアを形成するための重要な役割を任せられることとなり、やりがいを感じる瞬間も多いと思います。
もちろん、「このマネージャーと仕事がしたい」と思ってもらうためには、人間的な相性だけでなく、替えの利かない能力を持っている必要があります。たくさんの作品をインプットし、それを元に実演者のプロデュースやコーチングなどのアウトプットにつなげてもらいたいと思います。
――最後に今後のレプロエンタテインメントの展望についてお聞かせください。
本間氏:レプロエンタテインメントは今後もスターを輩出し、良質なコンテンツを生み出し続けていきます。
経営戦略では「バリューチェーン」というキーワードで表していますが、芸能人のマネジメント、作品の制作、プロモーションという3つの事業を結集し、自分たちでエンタテインメントを生み出す、エンタメの総合商社のような企業を目指していきます。
――ありがとうございました。
【取材後記】
昨今、芸能界の暗黙のルールが閉じ込められていた「ブラックボックス」は、外から見えやすい「透明なボックス」にシフトしつつある。過去の慣習から、激務が常態化していた芸能プロダクションや制作現場において、働き方や契約の変化が訪れているという。レプロエンタテインメントはさまざまな取り組みを通じて、働き続けやすい環境が整えられてきた。
SNSを通じて個人が自由に発信できる時代だが、よほどの知名度や実績がなければ、個人でできることは限られている。「芸能プロダクション」に所属することで、「エンタメ愛」にあふれたマネージャーが戦略を練ってバックアップしてくれるシステムは、実演者にとって心強いものだろう。そんな強固な体制の中、新しい時代をどう活動していくのか、同社の活躍に期待したい。
[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、撮影/西村法正、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]
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