警察日常コメディー『ハコヅメ』に学ぶ、組織での多様な人材の受け入れ・活躍方法

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方」(集英社)を共著した、代表・山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

個性的なスキルを人材配置で活かしきる
上司と責任を共有するための「報告・連絡・相談」=「ホウ・レン・ソウ」を徹底
多様な人材を理解してもらうためには背景からの「愚直」な説明を

多様性が認められる社会づくりについて理解が進む今、さまざまな背景や事情を持つ人がともに働ける組織づくりも急務となっています。それまで男性が多かった組織に女性が加わるなど構成員が変わっていく過渡期には、既存のメンバーと新しく加わった人との間で軋轢が生まれることも少なくありません。そうした場合、組織はどのように変わっていくべきなのでしょうか。

架空の町にある岡島県警町山警察署の交番(=ハコ)に勤務する警察官らの内情を描いた、泰三子先生の警察日常マンガ『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』(以下、『ハコヅメ』/講談社)から、個性的な人材の強みの活かし方や悩みを共有できる場所づくりなど、組織形成のヒントをご紹介します。

個性的なスキルを人材配置で活かしきる

安定した公務員を目指して試験を受けまくったものの、結局、警察官になる試験しか合格しなかった川合麻依。警察学校の成績は良くなかったが、とにかく取り調べのスキルが高い源誠二。『ハコヅメ』に登場するキャラクターは、とても個性豊かです。もちろん、あらゆる面で警察官に向いている川井の先輩である藤聖子や、マンガによく出てくるような強面の警察官も登場しますが、多くのキャラクターは「組織が求める警察官」としてはどこか資質が欠けているように描かれ、同じ警察官でもさまざまなタイプがいると教えてくれます。

彼らはミスやうかつな発言で上司から叱責され、それが読者の笑いを誘います。しかし、その彼らの個性が現場でうまく噛み合うとき、事件は解決に向かうのです。

「組織が求める理想的な警察官」としての資質は欠けていても、個性がかみ合うと心強い味方となるキャラクターの一人が、黒田カナです。彼女は交番勤務時代、ニセ警察官が巡回連絡に来たと通報されたこともあるぐらい、警察官に見えない容姿をしています。しかし、逆にその容姿を活かし、尾行や潜入で事件を解決に導き、上司から高評価を得ています。黒田を含め、作中でそれぞれのキャラクターは自分の個性や得手不得手、できることやできないことをお互いに共有しながら、役割をうまく分担し、事件を解決に導きます。

事件解決のための頑張り方もそれぞれです。走り込みや格闘術など警察官になるための訓練を真正面から全力で取り組み、力を付けていく人もいれば、情報収集能力を通じて、うまく裏道を見つけて乗り切る人もいます。しかし、どんな人も警察組織に入るための試験という一定の基準をクリアすれば、治安維持という職務に貢献できるのです。

これは警察組織という事情もあります。法を執行する組織としての規律や倫理は重要(作中でも捜査の過程で交通事故を起こすと厳しく叱責されるシーンが描かれます)ですが、一方で加害者・被害者を含めて事件を起こす人、巻き込まれる人はさまざまな背景や事情を抱えています。事件の把握から解決まで、それぞれの段階で適切に対応するには、警察組織側もいろいろな背景や考え、能力を持つ人が必要になります。暴力事件であれば、体格の良い警察官が真正面から対応することが向いているでしょうし、一方で麻薬の密売の取締や捜査には一見普通の人のように見え、情報収集やコミュニケーションに長けた人が求められます。被害者への対応も老若男女、どのような警察官がいいのか犯罪の中身でも変わってきます。

さまざまなタイプに対応するために、組織には多様な人材が必要になるという点では、ビジネス組織も『ハコヅメ』で描かれる警察署と変わりません。これまで想定していなかった問題や課題に取り組める能力を持つ人たちを集め、彼らが活躍できる場をつくることが求められています。

上司と責任を共有するための「報告・連絡・相談」=「ホウ・レン・ソウ」を徹底

個性的な人材が集まる岡島県警町山警察署で、なぜ集団として一致団結し、治安維持という仕事に向かえるのか。それは「報告・連絡・相談」=「ホウ・レン・ソウ」を組織全体として徹底しているからです。

新任の配属に伴い、上司が川井に「警察官にとって一番大切なのは何だと(新任に)教えるか」と問います。川井は「警察官の誇りと使命感」と回答しますが、上司の答えは「報告・連絡・相談」でした。特に組織内の経験が浅い警察官たちには、自己防衛策として「報告・連絡・相談」を通じ、上司に責任を転嫁するようにと伝えます。

話の中では、この「報告・連絡・相談」の行き違いがギャグとして扱われていますが、実際の組織で「報告・連絡・相談」が重要であることは間違いありません。それは部下が自分の状況を上司に報告することを通じて、『ハコヅメ』で描かれたように、仕事を監督する上司と責任を共有するためでもあります。

組織に所属して仕事をする以上、どんな失敗も、外部からは上司を含むチーム、ひいては組織全体の問題として見られます。上司は上司である以上、「知らなかった」では許されないわけです。特に、警察の事件捜査のように状況が刻一刻と変わり、解決まで時間勝負という環境では必須。これは環境の変化が速い現代のビジネスにも当てはまります。

そして、この「報告・連絡・相談」で重要なのは、「上司がいかに部下から『報告・連絡・相談』を受けやすい環境をつくれるか」にあります。川井の先輩である藤は、川井に対し、折に触れて「何か疑問があればいつでも何でも聞くように」と声を掛けています。川井や藤の上司も強面ながら、「報告・連絡・相談」に来た彼らをむげに扱うような態度は決して見せません。スムーズな「報告・連絡・相談」は、上司の姿勢や、言いやすい環境づくりに大きく左右されるといっても過言でありません。

多様な人材を理解してもらうためには背景からの「愚直」な説明を

『ハコヅメ』の面白さの一つは、依然として男性中心の社会として描かれる『ハコヅメ』の警察組織の中で奮闘する、女性警察官らの姿にあります。『ハコヅメ』の単行本の既刊の描写を見る限り、『ハコヅメ』内の警察組織の勤務体制や訓練方法は体力と時間が十分にある男性向けに設計され、女性警察官らが適応しようとしているように感じます。
『ハコヅメ』の中の警察組織のように、それまで積極的に受け入れてこなかった属性を受け入れていくときには組織全体を調整していくことが求められます。

例えば、組織の制度や仕組みが変わったとしても、全体に浸透させるには時間が掛かります。そうなった場合、現場でなんとかするしかありません。『ハコヅメ』でも女性警察官らが警察学校の同期のつながりや女子会を経て知り合い、機動隊の厳しい訓練中の生理への対応など現場の知恵を共有しながら乗り切る姿が赤裸々に描かれています。

『ハコヅメ』の中で、男性中心で設計されている警察組織に受け入れられていくのは「女性警察官」ですが、現実に組織のメンバーの多様化が進む過程で壁にぶつかりやすいのは女性だけではありません。それまで女性が多かった組織では男性が悩みを抱えることもありますし、外国籍の人々や子育て・介護などの事情を抱えた人たちかもしれません。女性だけに限らず、『ハコヅメ』で描かれる「女子会」のように同じような悩みや困難を抱える人たちが、問題や課題、そしてその解決策を共有できる場所があることが、多様性のある人材が働きやすい、ひいては活躍できる組織づくりの鍵になります。
『ハコヅメ』の中ではこのような現場の個人的な対応を超えて、組織全体で取り組もうという動きも描かれます。

中心となるのは横井という女性警察官。警察学校の教官から捜査一課係長を経て、生活安全課の係長に就任します。その横井が生活安全課に集めたのは、子育てやけがなど個人的な事情を抱えた警察官たちです。彼らは勤務時間や体力の面で健康な男性中心の警察組織の中で「ハンデ」と受け止められてしまう要素を抱えていると示唆されます。横井はこれらのメンバーに対し、「自分の状況を説明する努力」を求め、代わりに彼女を含めて、周りの人が「理解する努力」を約束しました。

こうした説明と理解の努力は、悩みやハンデを抱えたことのない人にとっては、抱えている人の苦労も悩みがわからないからです。それまで組織を動かしてきた多数派になりやすい方が、新しく入ってきた人たちの問題や悩みを把握し、解決していくことは理想です。しかし、そうした過程で生まれる解決策は、実際には当事者の意思を無視していたり的外れであったりすることがあります。多数派にはむしろ前述の当事者たちが悩みを共有する場所を確保すると同時に、そこから生じる問題を当事者以外が無視をしない態度こそが求められます。

横井のすごさは、この生活安全課を機能させるために経験豊富な巡査部長の立浦を加えたことです。立浦は、部下に対するパワーハラスメントの処分として横井らの所属する町山署に赴任させられたと自分の待遇に不満を抱えています。しかし、過去にパワハラを受けた側の横井は、それでも立浦を必要としていることが伺えます。

立浦は、横井から自身がなぜ必要かを説明され、「パワハラの罰としての異動」という考え方から脱しました。また、それだけではなく、横井を含めた後輩の成長を認めることで目の前の自分とは違う事情を抱えたメンバーを受け入れ、彼らと働こうと考えているように感じさせます。

もちろん横井のような進め方が、警察組織で主流になるかどうかは『ハコヅメ』では描かれていません。しかし、横井自身が指摘するように「(これまであまり関わっていなかった)女性が治安維持に関わる」という新しい時代において、何ができるかを模索した結果と考えられます。

現実社会で実際に組織を変えていくのであれば、横井のアプローチは参考になります。本来であれば横井のようなアプローチを組織全体(『ハコヅメ』の場合であれば町山警察署全体など)で進めていくべきなのでしょう。1つの組織の中で同じような悩みを抱える人を1か所に集めることは自助的な活動につながる一方、組織内のほかのメンバーから問題や課題を見えなくしてしまうことにもつながりかねないからです。
しかし、新しいアプローチにはつねに反対者がいることを考えると、組織全体の目的を進めながら新しいアプローチによる見直しを同時に進めるのは難しいといえます。とすると、「どういう課題があり、それを解決するにはどうすればいいのか」を抽出するための場所として横井のように小さなグループからはじめ、長期的な組織全体の取り組みにつなげていくという過程が、組織見直しの成功の確率を少しでも上げることになりそうです。

【まとめ】

『ハコヅメ』の基本的なストーリーは、体育会系な考え方が強い警察に、組織の求める資質やルールに当てはまらない個性的なタイプの人が登場することで繰り広げられるコメディーです。体育会系の組織に多い理不尽さを登場人物らが吹き飛ばすなど、現実では難しいと思える誇張された行動に読者は思わず笑ってしまいます。そうして笑いながら物語を読み進めていく中で、均一な人材(『ハコヅメ』の場合は男性)で構成された組織の抱える矛盾、それらを脱し多様な人材が存在する組織を目指すためのヒントが見えてきます。「自分の組織ならどうなるか」と想像しながら、読んでみてはいかがでしょうか。

文/bookish、企画・監修/山内康裕