静かな退職とは?基本的な捉え方と対処法を解説

d’s JOURNAL編集部

静かな退職とは、企業に所属しながら最低限の業務をこなし、あたかも退職したかのような精神的な余裕を持って働くことをいいます。仕事とプライベートを明確に区分けし、仕事に対してやりがいなどを求めない働き方という特徴があります。

企業や業務に対して目立った不満があるわけではなく、冷静に仕事と向き合い、家庭やプライベートとして過ごす時間を重視する傾向を表す言葉です。この記事では、静かな退職の基本的な捉え方や対処法を解説します。

静かな退職とは


静かな退職についてきちんと理解するためには、まず言葉の意味を把握しておくことが大切です。静かな退職を取り巻く現状も含めて解説します。

静かな退職の意味

静かな退職(Quiet Quitting)とは、企業に所属しながら与えられた最低限の業務だけをこなし、あたかも退職したかのような精神的な余裕を持って働くことを意味しています。米国を中心に注目を集めている考え方であり、仕事とプライベートを明確に分けている点に特徴があります。

無理をして働くことはせず、仕事に対してやりがいなどを求めず、仕事は仕事として割り切って働くという考え方です。静かな退職という言葉はネガティブなイメージを思い浮かべてしまいがちですが、仕事に対する不満を表す言葉ではなく、あくまで冷静な視点で仕事を捉えているといった意味合いが強いでしょう。

近年においては、家庭やプライベートとして過ごす時間のほうを優先する人が増えており、徐々に共感を得ている考え方だといえます。

静かな退職の現状

静かな退職に関する調査として、米国の調査会社であるギャラップ社が公表した「2023 State of the Global Workplace」という2022年から2023年にかけて行われた調査の報告書があります。160カ国以上の従業員(15歳以上)12万2,416人に対して行われた調査によれば、世界の労働者の約59%が静かな退職の状態にあると指摘しています。

同調査では12項目の質問への回答をもとに、仕事に対する関与を「打ち込んでいる」「打ち込んでいない」「積極的に関与していない」の3つに分類して調査が行われました。このうち、「打ち込んでいない」に分類された人が、静かな退職の状態であると判断されています。

また、仕事への打ち込み度が低い人ほど、職場におけるストレスを感じていることがわかっています。回答者の約44%が「前日の仕事の影響で、1日の大半でストレスを感じている」と回答している点も押さえておく必要があるでしょう。

(参照:『2023 State of the Global Workplace』 )

静かな退職が発生する原因


静かな退職が発生してしまうのは、いくつかの原因が存在します。おもな原因としては、以下の点が挙げられるでしょう。

・働き方の多様化による影響
・働くことに対する価値観の変化
・従業員エンゲージメントの低下

それぞれの原因について解説します。

働き方の多様化による影響

コロナ禍の影響などもあり、近年では企業や職種によってテレワークを積極的に導入しているところが増えています。出勤しなくても、自宅で仕事が行える環境が整いつつあり、一方で私生活の見直しが行われるきっかけになったといえるでしょう。

また、社会の変化や競合他社との競争から、大企業であっても従来のような安定性は保証されない部分があり、長期的な視点でキャリアプランが描きにくくなっていることも、静かな退職が増加している原因だと考えられています。

働くことに対する価値観の変化

日本においてはバブル経済崩壊後の終身雇用制度の縮小やワークライフバランスの定着など、働き方や仕事に対する価値観が大きく変化しています。プライベートを過ごす時間や、結婚・出産・育児といったライフステージに関わる時間をより充実させたいという考えを持つ人が増えているといえるでしょう。

企業規模にこだわらず、ワークライフバランスをしっかりと実現できる企業であるかといった点も重視される傾向が見られます。

従業員エンゲージメントの低下

静かな退職が発生する原因として、従業員エンゲージメントの低下が関係しています。特に待遇や人事評価などに関する不満は、従業員エンゲージメントを下げるきっかけとなるでしょう。

「頑張っても報われない」という気持ちが強くなると、だんだんと最低限の仕事だけをこなす状態に近づいていくと考えられます。

(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』 )

静かな退職が起こりやすい企業の特徴


静かな退職が発生する企業には、一定の傾向が見られます。どのような傾向があるのかを解説します。

業務指示が不明確

日本企業は海外企業と比較すると、業務の範囲や業務指示が不明確な部分があります。海外企業の多くは従業員の業務範囲や責任について明らかにする部分がありますが、日本企業は業務の線引きがあいまいであり、仕事のできる従業員ほど多くの業務を任されてしまい、不公平感が生じることも珍しくありません。

また、業務指示が不明確なところがあるためミスが発生しやすく、残業時間が多くなるといった傾向も見られるでしょう。そのため、仕事を頑張り過ぎず、無難にこなしておこうという風潮が蔓延しやすくなります。

インセンティブが十分でない

人事評価の基準が不明確だと、努力に対するインセンティブが十分でないと感じてしまうところがあります。頑張った分だけ、しっかりと報酬を受け取れるのであれば、従業員のモチベーションも高まるでしょう。

しかし、人事評価の基準があいまいでインセンティブが少なければ、仕事に対するやりがいが次第に失われてしまいます。また、客観的な評価がなされず、上司による主観的な評価だけだと従業員の不信感が生じやすくなるでしょう。

評価に反映されない

大きな成果を上げても適正に評価されなければ、従業員の意欲は低下していきます。年功序列による評価制度を採用している企業であれば、成果の有無に関わらず勤続年数が少ない従業員はどうしても評価が低くなります。

また、成果を上げた従業員に対して、周囲から嫉妬を受けるようなケースもあり、ますますモチベーションが低下する原因になるでしょう。なお、静かな退職の兆候として、以下のような点が挙げられます。

・最低限の業務しか取り組まず、新たなことに挑戦しない。
・ミーティングなどで、ほとんど発言が見られない。
・コミュニケーションを取ることに消極的な傾向が見られる。
・他のメンバーの業務量が、以前よりも明らかに多くなっている。
・離職者がだんだんと増えてきている。

上記の点が社内で見られた場合には、早急に対応を行う必要があります。

静かな退職が企業に与える影響


静かな退職の現象が発生しているにもかかわらず、有効な対策を打たないままでいると、企業にとって中長期的な悪影響が発生する恐れがあります。おもな悪影響としては、次の点が挙げられます。

・職場環境の悪化
・生産性の低下
・人材の流出

それぞれの影響について、さらに詳しく解説します。

職場環境の悪化

静かな退職を決め込んで最低限の業務しか取り組まない従業員 がいると、職場全体のモチベーションが低下する原因になってしまいます。また、その人の分の業務を他のメンバーが負担しなければならないため、不満が溜まりやすい状況が生じるでしょう。

チームとしての生産性にも悪い影響を及ぼす恐れがあるので、そのままの状態を放置するのは避けなければなりません。加えて、社内コミュニケーションにも悪影響が出てしまい、ストレスを感じる従業員が増えてしまう恐れもあります。

生産性の低下

静かな退職は企業側から見れば、個々の従業員の生産性が低下している状態であり、同じような従業員が増えれば企業業績そのものにも影響が出る恐れがあります。静かな退職は一見すると業務を普通に取り組んでいるように見えるため、発見が遅れてしまうこともあるでしょう。

最低限の業務しか行わない従業員がいれば、日常的に行われるミーティングやコミュニケーションなどにも影響が出てきます。新しいことに挑戦していこうという気持ちは弱くなり、職場としても活気を失っていく懸念があります。

人材の流出

多くの業界で人手不足が課題となっているなか、人材の流出は企業にとって大きなダメージとなる場合があります。静かな退職の状態に陥っている従業員が離職するだけでなく、優れた人材も流出する恐れがあるので注意が必要です。

仕事のできる従業員ほど、静かな退職を選んだ人の分も仕事を任せられる傾向があり、元々意欲のある従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。いったん人材の流出が起こってしまうと、歯止めが利かなくなる場合があるので早急に対策を立てる必要があります。

(参考:『人材流出はなぜ起こる?5つの原因と防止策・企業事例を解説』 )

静かな退職を解消するためのポイント


静かな退職は中長期的な視点で見れば前述の通り、職場環境の悪化や生産性の低下、人材の流出といった諸問題を発生させる原因となるでしょう。これらの問題を解消するためには、状況に応じた対策を講じていく必要があります。

静かな退職へのおもな対策として、以下の点が挙げられます。

・従業員の声としっかり向き合う
・人事評価制度の見直しを図る
・キャリアパスに幅を持たせる
・成果に見合ったインセンティブを与える

それぞれの対策について、ポイントを解説します。

従業員の声としっかり向き合う

今は静かな退職の状態にある従業員であっても、最初からそのような状態ではなかったはずです。入社時は意欲を持って業務にあたっていたものの、労働環境や人事評価制度に対する不満を感じ、インセンティブが十分でないことから、次第に意欲を失っていった可能性があります。

まずは、該当する従業員の話にしっかりと耳を傾けることから始めてみましょう。1on1ミーティングの場などを通じて、現在の会社のあり方や業務に対する考えなどを尋ねてみると、課題が見つかることがあります。

また、モチベーションが低下している従業員だけでなく、他のチームメンバーや上司にも話を聞く機会を設けることが大切です。個々の従業員だけの問題ではなく、チーム全体で問題を解消していく必要があるでしょう。

人事評価制度の見直しを図る

待遇面での不満を抱えている場合もあるので、競合他社や業界全体の平均からして人事評価制度に問題がないかを見直してみましょう。適正な評価が行われていないと感じる従業員が多くなれば、静かな退職へとつながる恐れがあるので注意が必要です。

また、業務に関する目標や求められる能力などを人事評価の項目にあらかじめ組み込んでおくことも大切です。進捗状況や目標達成率などから、客観的な評価を下せるようになり、従業員のモチベーションを高めやすくなるでしょう。

さらに、従業員数が多い企業の場合は、人事管理システムの導入を検討してみることも必要です。直属の上司だけの主観的な評価ではないことが従業員にも伝われば、モチベーションの低下を抑えられるはずです。

(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』 )

キャリアパスに幅を持たせる

目標やゴールを定めずに、業務に励むよう促したとしても、かえってモチベーションを低下させることにつながるでしょう。業務に対して意欲的に取り組んでもらうには、さまざまなキャリアパスを用意しておくことが大切です。

職種ごとの働き方やキャリアパスのロールモデルを提示すれば、従業員は将来のキャリアプランを持ちやすくなります。また、1on1ミーティングなどを通じて、定期的に従業員と一緒にキャリアパスを考えていくことも重要だといえます。

成果に見合ったインセンティブを与える

静かな退職への即効性のある対策として、成果に見合ったインセンティブを与えることが挙げられます。正当に評価されていることを従業員が実感できるように、成果に対応した報酬テーブルを作成してみるとよいでしょう。

きちんとインセンティブを受け取れるようになれば、不満を抱えている従業員に前向きな変化が見られるはずです。また、他の従業員にとっても、今後の目標設定に役立つでしょう。

報酬テーブルは一度決めて終わりというものではないため、状況に応じて定期的に見直しを図っていくことが大切です。

まとめ

静かな退職とは、企業に在籍しながら最低限の業務しか取り組まない従業員の状態を指す言葉です。まるで退職したかのような精神的な余裕を持って働く状態であり、仕事に対するやりがいなどを求めないところに特徴があります。

最低限の業務をこなしているため、一見問題がないようにも見えますが、そのままの状態で放置してしまうと中長期的に企業にとって悪影響を及ぼす恐れがあるでしょう。また、他の従業員のモチベーションを低下させてしまう原因にもなるため、できるだけ速やかに対応していく必要があります。

逆にいえば、静かな退職といった現象が見られない職場環境であれば、誰にとっても働きやすい環境であるともいえるでしょう。組織の生産性を高めるうえでも、人事評価制度や報酬体系などに問題がないかをチェックすることが大切です。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)